3話 新たなる仲間はニンジャ
アナスタシアは翌日、一件の酒場がつぶれたらしいという話を聞いた。
なんでも、その酒場は、酒場ぐるみでひどいことをしており――
しかもその酒場には、昨日、アナスタシアを誘ってくれた優しいお兄さんもいたらしく、彼らも逮捕されたようだった。
幸いにも、アナスタシアは目覚めたらいつも使っている宿屋にいて、被害には遭わなかったようだが――
人は見かけによらない。
さわやか系のイケメンお兄さんだからといって、安心してはいけないのだ。
「……都会って、恐いなあ」
今日もアナスタシアは仲間を求めてギルドボードの前に立つ。
パーティーメンバーが逮捕されたせいで、アナスタシアはまたぼっちだから。
それにしても。
パーティーを組んだ人が逮捕されたり、行方不明になったりということが、よくある。
「……はあ。わたし、呪われてるのかな……やっぱり……」
半竜人が正体を隠して人里で暮らすのは難しいのかな――
小さな小さな声でそんなことをつぶやいたアナスタシアを、「きゅいきゅい」というかわいらしい声がなぐさめる。
白竜のエルマーだ。
リスのように小さな彼――彼女?――は、アナスタシアを励ますように、彼女の周囲を飛び回る。
「……うん、そうよねエルマー。パパの反対を押し切って人里に来たんだもの。種族を理由にくじけたりなんかしない。わたし、一生懸命、がんばる!」
だから今日もギルドボードにパーティー募集の羊皮紙を貼り付ける。
前向きなアナスタシアもさすがにこりたので、次に男性だけのパーティーに誘われた時は、辞退しようと思っていた。
だから――
「あなたが、パーティー募集をしている魔導士か?」
背後からかけられた女性の声に、アナスタシアは振り返った。
そこにいたのは、真っ黒い、不思議な衣装を身にまとった、大人びた女性だ。
衣装から浮き出たメリハリのあるボディライン。
真っ黒い髪と、同じぐらい黒い瞳。
口元をマスクで覆ったその人は――
「私は、ハヅキ。『ニンジャ』という……まあ、この国で言う、罠師の亜種みたいなものだが……できたら、私と一緒に仕事に来てほしいのだけれど……」
遠慮がちにつぶやいた。
背が高く、グラマラスな体型の大人の女性だ。
クールにしてミステリアスなその容貌の格好よさに、アナスタシアは強く興味を惹かれた。
もともと、アナスタシアは好奇心の強い方だ。
でなければ、人里に――母と同じ『人』という種に興味を抱いて、竜たちのたくさんいた『禁足地』を飛び出したりはしない。
「あ、は、はい! わたしでよければ!」
緊張と好奇心から、アナスタシアはまた慌てて承諾してしまう。
口元をマスクで隠した『ニンジャ』は、静かな笑みを黒い瞳にたたえた。
「そ、そうか! よかった。呪術や陰陽術は詳しいつもりだが、魔導というものがよくわからなくてな……それに詳しい人が仲間になってくれるのは、心強い限りだ」
「い、いえ、わたしもまだ駆け出しっていうか……」
「羊皮紙には『長い付き合いを希望』とあった。できればこちらは、そうしたいと思っている。どうかよろしく頼む」
「は、はい!」
アナスタシアは手を差し出す。
ニンジャのハヅキは「握手か。そうだったな」と言って、アナスタシアの手を握った。
アナスタシアは思う。
――故郷のお父さんへ。
都会は色々と恐いところですが――
――わたしはまだまだ、がんばってみようと思います。
……新しい仲間と一緒に。