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27話 エピローグ

 勝利の功労者には勲章もなければ賞賛もなかった。

 ただ、いくばくかの報奨金が支払われた。


 誰も彼女たちの――正確には『彼』の――活躍を称えることができないのだ。

 だって、『彼』はつねにアナスタシアのそばにいる。

 語ったが最後、全身の体液を噴き出して気絶する。


『それでも称えるべきだ』と思った者もいたようだが、そういった連中がそろって全身の液体を漏らしながら沈んでいく様子を見せたので、もはや『フルフル討伐』の顛末(てんまつ)について語る者は消え――


 そして、いくらかの日が経てば、フルフル討伐という大きな戦よりも新しく、注目すべきトピックスがいくらでも発生する。

 人々は記憶をしてはいるものの、かの魔族(デーモン)退治をわざわざ口にのぼらせようとすることもなくなった。


 ただ、王都には新しい人が常に流入する。


 事情を知らない者がアナスタシアたちの容姿や、そばを舞う、仔竜にしか見えない白竜の希少価値にひかれ、純粋な興味、あるいは打算で彼女たちに近寄り――

 新たに竜王から『命令』を受けることは、きっと、あるのだろう。





 フルフル退治の功績でいくらかの報奨金を手にした追放されし者たち(キックばっかーズ)ではあったが、その金も一生暮らしていけるほどではない。


 彼女たちはスライム退治に代わる新しい稼ぎ口を見つけなければならない。

 ただし、異国人のハヅキをふくむパーティーが異常な量の『スライムの核の欠片』を換金することについて、あまりうるさくは言われなくなった。


 なんらかの配慮が『上』であったようなのだが、それは一介(いっかい)の冒険者にすぎない追放されし者たち(キックばっかーズ)の関知するところではない。


 どのみち――

 もっと効率のいい稼ぎ口は見つけたいので、三人は今日も新たなる獲物を求める。


 ザ・ハンド。

 それは『人の前腕』という不気味な姿をしたモンスターだ。

 正体は『命をもった泥』であり、暗く土の軟らかい地域ならばどこでも発生しうる。

 常に集団で行動し、冒険者の足首などをつかんでダンジョンなどの奥地に引きずり込む行動をとる。


 連中の体を形成する泥には様々な効果があり、上流階級の中では美容品として、魔導士などにはゴーレムの材料として人気が高い。

 また、『〇〇という場所のザ・ハンドを~』のような産地指定の依頼が出ていることも多く、そういった依頼の場合、買い取り相場の数倍の値段が成功報酬として設定されていることもある。


 攻撃方法は『つかんで』『ころばせて』『ひきずりこむ』あるいは『たたく』という単純なものであり、攻撃の最初に必ず『足首をつかんでくる』ことから、発見が遅れても対処しやすいという利点がある。


 有効とされる対処法は『打撃』、あるいは『風属性魔法』だ。

 乾燥に弱いので使いようによっては火も有効かもしれないが、棲息(せいそく)場所がだいたい湿度の高い地域なので、乾燥するまで火をたき続けるのはあまり現実的ではない。

 特に打撃でたたきつぶされてかたちを失うと、再生はしないので、ハンマーなどによる殴打が有効とされている。



「わたくしの盾撃(シールドバッシュ)の出番ですわね。泥という泥を狩り尽くしてさしあげましょう!」

「連中は土の中からいきなり生えるらしい。ニンジャソードしかない私は戦力では役に立てそうもないが、偵察で力を発揮しよう」

「魔法ですね! まかせてください! 風も使えますよ!」


 追放されし者たち(キックばっかーズ)は暗い洞窟の中を進んでいく……

 いきなり『ザ・ハンド』たちが地面からあらわれた!


「あっ!?」

 コレンの足首がつかまれた!


「おっと!」

 ハヅキは『つかむ』攻撃を回避した!


「わわっ!?」

 アナの足首がつかまれた。


 コレンの盾撃(シールドバッシュ)

 足首のザ・ハンドはたたきつぶされた!


 ハヅキがニンジャソードで応戦する!

 しかし、ザ・ハンドにはあまり効果がなかった……


 アナが転ばされた!

「あうちっ!?」

 ザ・ハンドはアナをどこかへ引きずっていく……


「アナさん!?」

「す、すまない! 発見が遅れた!」

「コレン、ハヅキ、た、助けてくださぁーい!」


 二人はアナのあとを追う!

 二人の足もとにザ・ハンドがあらわれた。


「あっ」

「あっ」


 体勢が悪い!

 二人は転ばされた!


 ザ・ハンドがわらわらと集まってくる!

 三人の全身を無数の手がつかみ、ひっぱり、まさぐった!


 三人は抵抗する!

 しかし、手足をおさえられてしまって、動けない!


 三人は洞窟の奧へとひきずられていく……

 追放されし者たち(キックばっかーズ)は全滅した……



「……きゅいー」



 取り残されたエルマーは一声鳴いて、三人のあとを追った。


 その顔は『まだまだ見守る必要がありそうだ』とでも言いたげな、嬉しそうな、でも困ったような顔だった。

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