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22話 キックばっかーズ、成り上がりの時

 魔族(デーモン)


 世界には地域ごと、属性(・・)ごとに『人より上位の存在』がいると言われている。


 このあたりの地域では『太古、魔族と人が争い、人は竜に助けられ、魔族を打ち払った』という伝承が多く残っている。

 そのため、竜と魔族はともに『上位者』でありながら、『魔族は悪属性、竜は善属性』という風潮があった。


 これら上位者は、基本的に、もうほとんど人の世界にかかわらない。


 特に竜はもはや絶滅を疑われているほどで、たまに小さな竜――その愛らしい姿から『フェアリードラゴン』と称される――が人里に降りて来ることがあるぐらいで、お伽噺に登場するような大きな竜は、ここ数百年、誰も見ていないとされている。


 対して魔族は、数年に一度ほどのペースで目撃される。

 現れては、眷属を生み出し、人に対し明確な敵対行動をとるのだ。


 そしてこれら上位の存在は、基本的に、人よりもはるかに強い。


 専用の装備を持ち、専用の訓練を積んだ大規模軍隊がいなければ、たった一体きりの魔族さえ討伐できない。


 眷属になど頼るまでもなく――

 魔族はたった一体でも、大軍であたらねばならぬほど、強い存在なのだ。





「――というわけで、今回の魔族は雷を操ることが確認されておる。対策として、ローパーの皮を張った盾を持った聖騎士を最前列に並べ、雷撃を防ぎつつ進軍。包囲をせばめ、充分に距離を詰めてから聖別(せいべつ)した武器を持った『魔族殺し(デーモンスレイヤー)』部隊を投入し、これにとどめを刺す。質問のある者、おるかのう?」



 ひときわ大きな天幕の中では、魔族との戦いに備えて最終的な作戦が発表されていた。

 集まったのはいかめしい顔をした大人たちで、みな、綺麗な装備と数々の勲章を身につけた、権力、実力ともにぬきんでたお歴々だった。


 どうやらこの討伐軍を率いる将軍だったらしい白いおヒゲの老騎士は、八角形の卓を囲むメンバーを見回し、最後に、



追放されし者たち(キックばっかーズ)の諸君ら、質問は?」

「あの、なんでわたしたちはここにいるんですか……?」



 あまりの場違い感に、すごく居心地が悪い。


 アナ、ハヅキ、コレン以外みんなおじさんなのに、その中に、三人だけ若い女の子がいるのだ。

 しかも若い女の子の内訳は『銀髪の魔導士(ウィザード)(ペット付き)』『異国のニンジャ(スライムスレイヤー)』『鎧も槍も売り払った下着と盾だけの聖騎士』なのである。


 こんな、『うかつな発言をしたらすぐさま牢屋直行』みたいな緊張感のある場にいていい子らではない。

 さっきから三人は『権力』と『おじさん』に恐怖して、卓の一部で椅子をくっつけて身を寄せ合うようにしている。


 老騎士はヒゲをなでて笑う。

 質問されたのが嬉しいのか、若い女の子との会話が嬉しいのか。



謙遜(けんそん)を。貴君らの活躍、我らの耳にもとどろいている。眷属(けんぞく)どもを一瞬に殲滅せしめたその大魔術、きたる魔族討伐に活かさなければ、ワシは『耄碌(もうろく)した』とのそしりをまぬがれん」



 使う言葉が難しいので、ハヅキがまごつく。

 コレンが「ようするに我々は神に愛されているのですごいと言われているのです」と翻訳した。



「あのぉ~」アナがこわごわ口を開く。「でもですね、わたし、そのぉ~……みなさんがおっしゃるような、大魔法、使った記憶がなくて……」

「冒険者は秘密主義が多いと聞く。なあに、深くはたずねんよ。少なくとも、この討伐戦が終わるまではのう。ヘソを曲げられても困る」

「いえっ、そのぉ……秘密とかじゃなくて、本当に……」

「それにじゃ。貴君らを作戦に組み込むが、貴君ら頼みで作戦を立て直したわけではないぞい」

「……あ、そうなんですね」

「それはそうじゃ。ただ、失敗の許されぬ戦なのだから、勝ち筋は多い方がいい。まして、事前の計画をまげずに使える勝ち筋ならば、いくらあってもいい。そこいくと、貴君らは『降ってわいた勝ち筋』だ。……魔族相手は予定外の連続で、だからこそ精鋭の『魔族殺し(デーモンスレイヤー)』を投入するが……ダメだった時に、第二、第三の『詰みの手』は確保しておきたいのじゃ。わかるかな? 貴君らは、『いくつかある決定打のうち一つ』なのじゃよ」

「は、はい」

「うむ、けっこう」



 老騎士はニッコニッコしている。

 アナと一つ言葉を交わすたびに、シワが一つ消え、顔がテカテカしていくようだ。


 その笑顔のおかげで、多少安心したのか……

 コレンが立ち上がり、平べったすぎる胸をはる。



「将軍、おまかせください! わたくし、元は騎士団に所属しておりましたのよ! 我らの活躍で魔族から人類を守ってごらんにいれますわ!」

「ほう、『元』騎士団? どのような理由で騎士団を辞し、冒険者になろうと思ったのかね?」

「……」



 それはそうなる。

 元騎士団とか言ったら、騎士団を辞めた事情を問われるのは想像にかたくなはずなのだが、コレンはまったく考えてなかったようで、口ごもって目を泳がせ始めた。


 ハヅキが手をのばし、コレンの長い金髪ツインテールを引っぱって座らせる。

 そしてマスクに隠したままの口を開いた。



「我ら三名、一言では語りにくい事情を抱えた者です。どうぞ、お察しください」

「貴君は異国の者のようじゃな。……なるほど、たしかに一言では語りにくい事情を抱えていそうだ。……であればこちらも配慮しよう」

「痛み入ります」

「うむ。貴君らの活躍に期待する」



 そういう話になってしまった。

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