19話 新しい金策手段を求めて
グレイウルフ。
灰色の毛並みを持つ四足歩行の獣で、群れで行動する。
大きなものになると人をひと呑みできるほどの巨大さになるが、小さいグレイウルフはさほど強いモンスターではない。
その硬く美しい毛皮は、鎧、防寒具などとして需要が高い。
また、効率的な採集の手段もないので、素材供給は冒険者頼みになり、割のいい獲物と言える。
耐久力、攻撃力はさほどでもないが、素早い動きとモンスターとは思えぬ高度な連携があり、群れを相手した場合、攻略難易度は跳ね上がる。
群れからはぐれた個体を探し、素早く狩ることが推奨されている。
もし一瞬でしとめきれずに時間を与えてしまえば、連中は『遠吠え』で仲間を呼ぶだろう。
「群れからはぐれた個体を見つけたな」
「わたしが魔法で!」
「わたくしがみなさんを守りますわ!」
「では、突撃ぃ!」
「「おー!」」
グレイウルフの遠吠え。
仲間がよってきた。
「なぜだ!?」
「大声を出したからでしょうか?」
「それしかありませんわ!」
三人は群れにとりかこまれた。
追放されし者たちは全滅した……
◆
『巨怪の胎』。
その名前で呼ばれるダンジョンは、『大きな生き物の体内』だと言われている。
内部に入ればたしかにあたりの壁や天井は薄いピンク色で、耳には『どくんどくん』という鼓動のような音が響き続け、わずかに温かいその場所は、たしかに生き物の胎を思わせる。
複雑に壁で仕切られた迷宮状のこの場所では、『巨怪結石』と呼ばれる良質な石がとれる。
この緑とも青ともつかぬ色で輝く不可思議で魅惑的な石の用途は『宝飾品』であり、少ない量で多くの儲けを出せるのが特徴だ。
そして迷宮状ではあり、石のある場所までの道のりは長いものの、とっくに地図が完成しているので、迷うことはないだろう。
ただしこの『生きた迷宮』とも呼ばれる場所では、あらゆる罠が冒険者を襲う。
罠には七つのパターンがあるので対応は可能だが、刻一刻と『罠の場所が動く』ので、この迷宮に挑む者は、地図を見て、注意深く罠に気をつけながら、長い道のりを歩む根気が求められるだろう。
「想像以上に不気味な場所だな……」
「……なんだか、気温が生ぬるいっていうか……」
「あら、お二人ともこういうのは苦手ですの? わたくしにお任せなさい。悪環境で慎重に注意深く進むというのは、聖騎士が得意とするところです。まして今のわたくしは鎧という重りがない……見事、お二人を先導してみせますわ! ……あらっ?」
「……」
「……」
「あの、ちょっと、床に足が、貼り付いて、取れなっ……! ね、『粘着床』のトラップみたいでして。おほほほほ……えいっ! このっ! えいっ!」
「……」
「……」
「あの、お二人とも、無視なさらないで? あ、今外し、今外しますから! えいっ! あれ? あれっ? あっ――」
コレンは転んだ。
全身がベトベトする床にくっついた。
「……」
「……」
「あの、ちょっと失態……あの、えっと、髪と服が床にはりついて、動けない……ふんぬううう! あ、ダメ。脱げる。服脱げる。髪抜ける。お二人とも? お二人とも? ちょっと手を貸してくださらない? ハヅキさん? アナさん? あれっ、ちょっとお二人とも? なにか目つきが……あ、あれ? 混乱? 混乱してますの? 毒霧の罠? いつ? あの、無言でせまらないで、ちょっと助け、あっ、ダメっ、そんな乱暴に、あの、押さえ込まないで、あ、あ、あの、あの! 誰か! 誰かあああ!?」
追放されし者たちは全滅した……
◆
ローパー。
円筒形の体が特徴のモンスターである。
大きな丸い口のまわりには大量の触手がびっしりと生えており、それを手のように使う。
ぶよぶよした分厚い皮につつまれた体は打撃の衝撃を分散してしまい、殴打および斬撃に対しとても強い耐性を持っている。
その皮こそがローパーを狩る意味だ。
丈夫で柔らかで弾性がある皮は、靴などをはじめとして、様々な服飾品、鍛冶道具、その他工業製品などに広く利用されている。
ただし『毒沼に棲む』ことから安定的な採取が難しく、国家による採集もできていないので、需要に供給がおいついておらず、価値が高い。
ローパー皮の用いられた靴などは、歩きやすく、足が疲れにくく、『安いものではないが冒険者を長く続けるなら早めに買っておいたほうがいい』と言われている。
その皮は打撃、斬撃の他にも雷撃や水に強い耐性を持つが、刺突や火炎、極低温などには弱い。
皮の確保を目的とするならば、極低温で動きがにぶったあとで、刺突で穴を空けつつとどめをさし、そこから引き裂くように皮を剥いでいくことが推奨される。
毒などは吐かないが、周囲が毒沼であることと、ヒゲ状触手による多角的で素早い打撃攻撃には充分な注意が必要だろう。
幸いにも間合いは短いので、弓矢か氷雪系魔法があれば難しい相手ではない。
危なくなれば火炎で焼き払うことを考えてもいいだろうが、燃え、溶けた皮は価値が下がるので、売却を考えるならば避けるべきだろう。
「……二人とも毒沼からたちのぼる毒に気を付けろよ。私が『ニンジャソード』で突き刺してとどめを刺す」
「はい。わたしが魔法でローパーの動きをにぶらせます」
「わたくしがお二人を守りますわ」
「……なんだろう、この会話……なぜか成功できる気がしない」
「失敗続きでしたけど、今度こそは!」
「そうですわ。神の加護によりわたくしたちは無事なのですもの。なんどだってあきらめず挑戦していきましょう。己の臆病や怠惰に言い訳をする者に、神は力を貸してはくださいませんのよ」
「……そうだな! 弱気になっていたようだ。すまない。今度こそ行くぞ。――生活のために!」
「「生活のために!」」
ローパーとの戦闘が始まった!
コレンが盾でローパーの触手を払う!
アナが魔法を詠唱し、凍り付くような息吹を杖から放った!
ハヅキは様子をうかがっている。
コレンの盾がローパーの触手にはらい落とされる!
「あ」
アナの杖がローパーの触手にからめとられる!
「ああっ!」
劣勢をさとったハヅキは特攻した!
しかしローパーの触手につかまってしまった!
「ああっと!?」
コレンがハヅキを助けるために走り出す!
触手につかまってしまった!
アナがつかまったコレンを助けようと手を伸ばす!
触手につかまってしまった!
あとはずっとローパーのターンだ!
追放されし者たちは全滅した……
◆
ベビークラーケン。
追放されし者たちは全滅した……