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11話 こらんじーぬ・もら……もんた……もんもにょもにょべーぬ

 ギルドボード前でずっと怒鳴り合っていると迷惑なので、場所を変える。

 すっかり追放されし者たち(キックばっかーズ)所定の位置と化した、ギルド食堂の端っこである。


 古びてあちこち剥がれ、ささくれ立っている丸テーブルを囲んで、三人は向かい合う。

 聖騎士(暫定)の少女は、身長がちょうどハヅキとアナのあいだぐらいだった。

 それでも、アナから見てさほど大きく見えないのは、全体的に細いからだろう。



「申し遅れましたけれど、わたくしはコレンディーヌ・モンタランベーヌ。職業(クラス)は聖騎士ですわ」



 胸を反らし、陶酔するような自己紹介だった。

 ハヅキは神妙な顔をしてうなずき、



「こらんじーぬ・もら……もんた……もんもにょもにょべーぬ」

「コレンディーヌ! モンタランベーヌ!」

「……すまない、私は見ての通り異境の出でな。君たちの名前はちょっと発音しにくいんだ。略称とかはないかな?」

「ええええ……? あなた、初対面で略称を求めるとか、図々しくなくて……?」

「ん、そうなのか……アナはちょっと会話してすぐ名前を略していいと言ってくれたから、このへんはそういうのにおおらかな文化圏なのかと……それにほら、冒険を一緒にする時に、名前をかんで(・・・)注意喚起などが遅れると面倒だろう?」

「……一理ありますわね。では、どういう呼び名ならば言いやすいので?」

「アナスタシアを縮めて『アナ』だから、君は『コレ』だな」

「コレ!?」

「文字数は同じだろう?」

「『コレ』ってなんか……なんか……! せ、せめて『コレン』とか……」

「では『コレン』と」



 コレンはせきばらいをして、



「……それで、わたくしは聖騎士なのですけれど? あなたたち、前衛がほしいのではなくて? そう募集用羊皮紙(シート)にありましたわよね?」

「そうですね」アナがうなずく。

「では、採用ということでよろしくて?」

「そうですね」

「お給金はどのぐらいですの?」

「おきゅうきん?」

「……団に所属すれば、給料が発生するのでは?」

「……あの……冒険者は出来高制です……」

「……なん……ですって……!?」

「わたしたちは仲間なので、その、別にわたしが雇い主で、あなたが雇われというわけじゃないんですよ……みんな平等で、一緒にクエスト行って、一緒に稼いで……そういうのが冒険者なんですよ」

「……騎士団とはだいぶ勝手が違うようですわね」

「やっぱり騎士団の方なんですか?」

「…………まあ、その、そういう時代もありましたわ」



 コレンは遠い目をした。


 騎士団。


 冒険者と違って、国が雇っている戦闘集団だ。

 主な任務はモンスターの大規模発生への対応――

 そして訓練により形成された高いチームワークでの強敵への対処だ。


 平時は訓練しているだけでお金がもらえるようで、その安定した収入形態に憧れた前衛系冒険者が騎士のテストを受けることも多い。

 ただし、身元がはっきりしない冒険者が騎士になるのはよっぽどの実力が必要となるので、実際に騎士になれた冒険者は多くない。


 騎士になるには『誰でも受けられる、ただしめったに合格者が出ないテストに合格する』か、『貴族しか入れない訓練校を卒業する』かになる。

 コレンは見た感じ――



「コレンは貴族なんですね」

「まあ、その、冒険者はあまり互いの事情に深く干渉しないものと聞きましたわ。お給金が出ないのは想定外でしたけれど、わたくしが一人で活動するよりも、あなたたちとチームを組んだ方が効率はいいでしょう。お世話になりますわ。よろしくて?」

「はい! あ、それで、あなたはなにができるんですか? わたし、聖騎士は出陣式を遠目に見たぐらいで、よく知らなくて……」

「聖騎士はまず、体を張って後列の仲間を守るのが仕事ですわ。そして、治癒系の魔法を使って、仲間や自分を癒す……」

「おー! すごい! 前衛と治癒職がどっちもいなかったんですよ!」

「……あなたたちの団は、他にどんな職業(クラス)がいますの?」

「魔導士のわたしと、ニンジャの彼女だけです」

「……二人だけ?」

「二人だけ」

「実績は?」

「スライム狩りの数なら他のどのパーティーにも負けません」



 最近の主な収入源である。


 スライムの核の欠片は安値で買いたたかれるものだが、それでも数が集まれば貧乏暮らしができる程度の収入にはなるのだ。

 ただ、他の冒険者はスライムスレイヤーとか呼ばれる前に、もっと高いレベルの獲物を狙うのが普通なので、スライムだけで生活している者は他にいない。


 普通に考えて一日百匹も千匹もスライムばっかり狩ってたら、人生の意味を見失う。

 だから多少危険でも、もっと短時間で効率よく稼げる獲物を狙うようになるのだ。



「ハヅキはなんと! ちまたでは『スライムスレイヤー』として評判なんですよ!」

「へぇ……スライム専門なんですのね。騎士団の任務ではまず目標になることはない雑魚とばかり思っておりましたが、なんにでも専門家はいるものですのね」



「不名誉な名さ」とハヅキが妙にニヒルな表情で述べた。

 実際にだいぶ不名誉なので嘘は言っていない。



「しかしスライムのごとき小物退治では、わたくしの盾も役に立ちませんわね……もっと、わたくしにふさわしい強敵相手の任務はありませんの?」

「笑い死ぬぞ」ハヅキが言う。

「強敵の相手をして笑い死ぬ!? どういうことですの!?」

「君はスライムの本当の強さをまだ知らない」

「……す、スライムごときとあなどっていましたが、奥が深いんですのね……」

「逆に、君が挑みたいものなどはないのか? 欲しい落とし物(ドロップ)があったり、採集品があったり、狩りたいモンスターがいたり……」

「そう言われましても…………あ、そうですわ。復讐したい相手がおりますの」



 復讐?

 アナとハヅキは同時に首をかしげた。


 コレンは神妙な顔でうなずき、



「わたくしを、冒険者に落とした――あるモンスターに、復讐をしたいんですのよ」

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