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10話 応募する者から募集する者へ

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パーティーメンバー募集!!


追放されし者たち(キックばっかーズ)は新しいメンバーを募集しています!

明るく楽しくアットホームで、女性でも活躍しやすいパーティーです!

『よく追放(キック)される』『田舎から出てきたばかりで冒険者のことがよくわからない』などのみなさま、興味があれば是非参加してください!

参加表明は魔導士(ウィザード)のアナスタシアか、ニンジャのハヅキまで!

仔竜が目印です!


※前衛職大歓迎! すぐに活躍できます!

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「うーん……受付のお姉さんに言われた通り書いたけど、なにかうさんくさい……」



 ギルドボードに貼り出したパーティーメンバー募集要項を見て、アナは首をかしげる。

 彼女の肩では真っ白い仔竜のエルマーも、同意するように「きゅい」と鳴いた。


 うまく言葉にできないが、なにか、邪悪なものがにじみ出ている感じがするのだ。

『明るい』とか『楽しい』とかのポジティブな言葉が並んではいるものの、業務実態についてなに一つ触れていないあたり、特にまずい感じがする。


 彼女の隣で、背の高い黒髪の女性――ハヅキが苦笑する。



「なに、『なるべく女性がいい』ということは読み取れるし、ベテランより初心者の方がいい、という希望も見てとれる。うさんくささはまあ、実際に話してみて解消していこう」



『スライムスレイヤー』の名を冠するニンジャの言葉だった。

 隣に立つアナも『参加したパーティーが逮捕者とか行方不明者が出まくってすぐ解散する』ということで『パーティークラッシャー』などと陰で呼ばれている。


 うさんくさい二人だ。



「そもそもアナ、パーティー名はなんとかならなかったのか? 追放されし者たち(キックばっかーズ)はさすがに……」

「でも、ほかにわたしたちの共通点ないですよね……」

「まあ……」



 追放(キック)ばっかされてるから、キックばっかーズ。

 他の共通点は探すのが難しい。


 アナは銀髪で背の低い少女だ。

 ハヅキ以外に隠してはいるが『禁足地(きんそくち)』出身の半竜人(ドラゴハーフ)である。


 ハヅキは黒髪でスタイルのよい少女だ。

 ここよりはるか東の国から海を渡っておとずれた異邦人で、本来は高貴なる家に仕える役目を負っているが……

 諸事情あって、異境で冒険者をやっている。


 髪の色も正反対、目の色も正反対、身長も正反対、出身も全然違う。

 共通点と言えば胸の大きさぐらいなものであるが、そんなものをパーティー名にはしたくない。


 だが。

 もしも二人が胸部のサイズをパーティー名に採用していたとしたら――

 すぐさま、名前を改めることになっただろう。


 なぜならば――



「あなたたち、追放されし者たち(キックばっかーズ)ですわね?」



 ギルドボードを見ていた二人の背後から、高飛車な声がかけられる。


 二人が同時に振り返れば、そこには一人の少女がいた。


 金髪をツインテールにしたその少女は、(あご)を上げ、胸を反らして二人を見下すような姿勢をとっていた。


 職業は聖騎士(パラディン)だろうと思われた。

 なぜならば、金髪の少女は背中に盾を背負っているのだ。

 冒険者というのは基本的に減らせる荷物は減らしたい職業なので、盾など持っているのは聖騎士以外にはまずいない。


 彼女の衣服は体にぴったり貼り付くようなレオタードだが、これは、仕事(クエスト)に行く時には上から鎧を着るための、鎧用下着(レオタード)だろう。

 聖騎士という連中はとにかく重装備で、ガシャガシャと鎧を鳴らして歩くし、遅いし、すぐ休みたがるので、冒険者界隈では『避けた方が無難』と言われる厄介者なのである。


 そもそも、だいたいの聖騎士は百人以上の兵を抱える騎士団に所属しているのだが――

 たまに、騎士団から追放(キック)された聖騎士が、冒険者ギルドに流れてくることがある。


 彼女はきっとそういう手合いだろう。

 妙に冒険者を見下したような高飛車さが、いかにも『元騎士団所属』という感じだ。


 その少女を見て、アナとハヅキはひそやかにささやき合う。



「……女性ですかね?」

「女性だろう」



 二人が判断に迷ったのには、理由があった。


 長い金髪をツインテールにまとめている――これは女性っぽい。

 声の甲高さ、顔立ちの綺麗さ、これも、女性っぽい。


 ただ、体が。

 ぴったり貼り付く鎧用下着(レオタード)姿で、胸を反らした姿勢だというのに――

 胸が、なかった。


 なにも二人が『胸が小さければ女性ではない』などという暴論を抱いているわけではない。

 胸の大きさと女性らしさは無関係だし、この世で一番胸が大きいのは太った男性で間違いがないとわかっている。


 だが――

 それにしたって、たいらすぎる。

 反らしているのに、平坦すぎる。


 ここまでの平原があり得るのか?

 普通、十歳や十一歳ぐらいにもなれば、体というのは望むと望まざるとにかかわらず性差が出てきてしまう。人類である以上、それは避けられないことだ。

 だというのに、彼女の平坦ぶりは少年と言われても納得してしまいそうなほどで、平たく言えば、人類種の運命を超越したたいら(・・・)さなのだ。



「女性ですわよ!」



 少女はひそひそ話が聞こえていたらしく、怒鳴った。



「なんですのあなたたちは!? 無礼じゃなくて!?」

「す、すみません」アナが謝罪する。「えっと……パーティー参加希望ですか?」

「そうでしたけれど、気が変わりそうなところですわ!」

「え、そうなんですか……? じゃあ、気持ちの整理がついたらもう一回声をかけてくださいね」

「引き留めてくださらない!?」

「でも、イヤイヤ参加されても……」

「参加したいので引き留めてくださいません!?」

「え、参加したいなら引き留めなくても、どうぞいらっしゃいませって感じですけど……」



 アナが困惑している。

 ハヅキが耳打ちした。



「アナ、人にはプライドというものがあるんだ。彼女にとって『引き留められること』が、プライドを守るための必要事項なのだろう」

「なるほど……つまり彼女に合わせて、引き留めてみるべきなんですね?」

「聞こえているんですけれど!?」



 金髪の少女が怒鳴る。

 初めてのパーティーメンバー参加者受付はこのようにグダグダした。

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