1話 冒険者アナスタシアは仲間を求めている
アナスタシアという少女には悩みがあって、なぜかパーティーが長続きしない。
誰とどんなパーティーを組んでも、翌日には解散という流れになってしまうのだ。
「ふえーん……また追放された……」
優しそうな男性三人組のパーティーに入れてもらったのに……
昨日、一緒に薬草採取に出た時には『仲良くやっていけそう』というたしかな確信があった。
でも、なぜか今日になって、慌てた様子で「ごめんなさい、許してください!」と言われたのだ。
許してほしいのはこちらの方だった。
なにか気に障ることをしたならきちんと謝るし、改めたいのに、説明さえしてもらえない。
だから今日もアナスタシアは仲間を求めてギルドボードの前に立つ。
自分で貼った仲間募集用の羊皮紙を確認する。
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名前:アナスタシア
職業:魔導士
自己紹介
田舎から出てきたばかりです!
冒険者としては駆け出しなので、薬草採取、ゴブリン退治などご一緒させてください!
あまり男性に慣れていないので、女性のいるパーティーに誘っていただければと思います!
魔導士としては攻撃をメインにそれなりの働きができるかと思います!
火力職の不足しているパーティー、遠距離職のいないパーティーに貢献しますので、よろしくお願いします!
長いお付き合いを希望します!
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ギルド受付のお姉さんに言われた通りに書いたものだ。
自己紹介のテンションが高すぎてちょっと恥ずかしい。
自己紹介文には、たぶん、問題がないのだろう。
能力にだって問題はない――はずだ。測定してもらった魔力量、呪文威力は新人冒険者内の平均以上だと言われた。
能力も自己紹介文も問題がない。
だから、パーティーへのお誘いはそれなりに来る。
ただ――
続かないだけだ。
「……わたし、性格悪いのかな……」
ギルドボードの前で落ちこんでしまう。
すると、「キュイキュイ」という、かわいらしい泣き声があがった。
アナスタシアの肩にとまった仔竜だ。
手のひらに乗ってしまうほど小さな翼竜で、真っ白く綺麗なウロコが特徴的だった。
黄金の瞳には、縦に裂け目のような瞳孔があった。
彼――あるいは彼女――は、アナスタシアを励ますように、その翼腕でアナスタシアの首筋を『ぽんぽん』と叩いた。
「ありがとう、エルマー。励ましてくれて……あなたとわたしの生活のためにがんばるからね」
エルマーはキュイキュイ鳴きながらアナスタシアの周囲を飛び回る。
人前に滅多に姿をあらわさないとされる『竜種』は、見た者に幸運をもたらすと言われている。
その中でも特に『素晴らしきもの』とされる白竜が飛ぶ姿は、まさしく幸福の先触れのようだった。
実際に、幸福はおとずれる。
「アナスタシアちゃんって、君?」
男性の声がして、アナスタシアは視線を上げた。
見上げた先にいたのは金髪の優しげな青年だ。
碧い瞳と真っ白い歯がなんとも素敵な、背の高い、細身の男性。
職業は剣士だろう。
革製の軽装鎧と、軽そうな二本の剣を身につけていた。
「あ、は、はい! わたし、アナスタシアですけどっ!?」
いきなり顔のいいお兄さんに話しかけられ、アナスタシアの声は裏返った。
お兄さんはさわやかな笑みを浮かべて、アナスタシアに壁ドンする。
「ああ、よかった。実はさ、俺たちは前衛二人のパーティーなんだけど、ちょうど後衛を探してたんだ」
「そ、そうなんですね!」
「うん。それで……男二人なんだけどさ、もし君がよければ、俺らと一緒に、冒険してくれないかな?」
「は、はい!」
「よし、決まり!」
お兄さんはニコリと笑う。
そして、片手を差し出した。
「俺は剣士のフレッド。よろしくね、アナスタシアちゃん」
緊張とイケメンの圧力で承諾してしまってから、アナスタシアは『性急に決めすぎたかな』と反省する。
いつもこうだった。
人と話し慣れていないせいで、話しかけられると緊張して、自分でもなにを言っているかわからなくなってしまう時がある。
でも、なんだかもう仲間になる流れになってしまっているし、ここで断るのも申し訳ない。
「よ、よろしくお願いします……」
おずおずと、手を差し出す。
強く、固く、フレッドはアナスタシアの手を握った。