物理
前話
商人コージー加入
「死ぬ気でがんばりますが、勇者一行もそれは同じだと思います。追いつく目算は立つのでしょうか」
話していくうちにコージーの長所・短所はわかってきた。
長所は復讐動機からくる精神力と商人特有のそろばん勘定気質だ。
アイテム鑑定魔法を使えるため、価値や呪い有無が確認できるようになるのも大きい。
売買で偽物やごみを摑まされる心配が不要になるのは、行動の幅も広がるというものだ。
短所は雑魚モンスター以外との戦闘経験がないこと、メルバラン大陸外についてあまり知識がないことか。
だが戦闘経験はこれから鍛えればまったく問題はない。
今後しばらくはあれこれと説明が必要になってきそうだが、どのみちカンターやロウガイもすべてを察してくれるわけでもない。それに察してくれたところで、打ち合わせなしで悪事を一緒に進めるのも失敗の種になりかねない。
つまりはまったく問題がない人材ということだ。
「今後の強化や旅の進行はかなり見通しが明るい。まずレオの魔王討伐までに戦闘力で追いつける目算から話そう」
聞き耳も心配なく、逆に馬車の走る音がうるさい。久々に大声で会話をすることになった。
「そもそもパーティは個々の長所を活かす編成であるべきだ。しかし連中の編成は逆に長所を潰すし、平常時の狩り効率は最低最悪と言っていい」
モンスターは本能的に魔力が集まる魔法後衛職を狙うこと。
魔法使いは火力は高いが、同時に盾役も必要とする面倒の多い職でもあること。
魔法職二人に対して盾役が不在なことを順番に説明していくと、カンターから異論が入った。
「たしかにやりあったときのアニキの守りは堅かったけどよ。伝説の武闘家の子孫が代わりなんだろ?」
「盾役が後衛を守るというのは、盾で攻撃を受けて位置関係を維持することだ。回避する武闘家にはそれはできない」
「むしろ回避して遊撃に回るため、乱戦を呼び込む職でございますな」
ロウガイが御者をしながら補足し、二人とも納得している。
モンスターの横や背後に回り込むユーリ、先頭のレオ、その後ろにマリアとクレアが隠れる構図をしっかりイメージできたようだ。
「つっても勇者は盾を持ってるよな」
「地味な役回りを嫌う性格だが、状況的にやる以外ないな。だが筋力に乏しいレオには難しいし、まして二人を十分に守れはしないだろう」
「勇者は最強・万能だと聞いていますが、そうでもないんでしょうか」
「伝承の勇者は剣魔両道だが、レオは才能がかなり魔法に偏っている。専用魔法が勇者最強の理由である以上、悪いことではない。だがあいつは盾役としては非力すぎる」
勇者は唯一、雷魔法のライトニングが使える。子供の勇者ごっこで連呼される必殺技の代名詞で、回避と緩和の手段が存在しない極悪性能は有名だ。
「ライトニングは消耗も大きく多用はできませんからな。そういう点では万能というよりは器用貧乏でございましょう」
聞いていたコージーが、なぜか急に険しい顔になった。
勇者最強ではないのかと、自分で振っておいて不機嫌になるのもおかしなものだ。
「でもおっさんを見てると、守らなきゃとは思えねえがな」
「むしろモンスターと間違えて殴られそうですな。だが拙僧は鍛え方が違いますぞ」
ロウガイが自虐と自慢をねじ込んでくる。
おもしろいもので、一途な信仰心がある者は魔法の習得や魔力量に優れる後方支援型の僧侶になる傾向が強い。
逆に直情的・即物的なロウガイは魔力量に乏しい反面、前衛職のようなガチ殴りが持ち味だ。
「マリアは完全に後方支援型だ。魔力量も多く攻撃・補助・回復魔法ばかり使う」
「なるほど。守られたい二人と守れない二人ということですね」
「一体のボスと長時間戦うなら、あいつらの編成は強い。補助魔法が揃い、安定した回復手段があるからな。だが大半の戦闘は日々の進行のほうだ」
急に攻撃に晒され不満を言うクレアとマリア、向いてない盾役を強いられて実力発揮ができなくなるユーリとレオが簡単に想像できる。
回復の手数も増え、ますます戦闘時間が長期化していくことだろう。
「逆にこちらは最高の構成になった」
「は?」
「戦士、盗賊、僧侶、商人がですか?」
カンターとコージーが驚きと不信の声を上げた。
ロウガイとは戦闘に関する持論などもよくぶつけあっていたため、まったく驚きはしていない。
「これも順番に話そう。俺はそもそも盾を持った訓練をしたことがない。ロウガイがマリアに換わって、それから無理やり持たされただけだ」
「まじかよ」
さっき俺の盾の腕を褒めたカンターは見る目なしもいいところだ。
「槌・棍・金属鎧なんかも無理だ。実力が出せるのは革鎧と、両手持ちの剣か短槍だな」
「前半どれも戦士の代名詞のような装備かと思いますが……」
これについては俺が特殊なだけだろう。
同行者選抜会で『俺は剣士だ』と受付に伝え、痛々しそうな目線を向けられたことを思い出す。
「盾役を否定はしないが、できれば盾士とか衛士といった具合に呼称が違えばいいんだがな。俺からすれば戦士は戦う者で、戦うということは敵を殺すことだ。なら攻撃に主眼を置いた装備が当然だろう」
「たしかに眠りの森のアニキはやばかったな。ばんばん一撃で首飛ばしてたし」
「なるほど。守る後衛がいなくて、自分の実力が一番出しやすいスタイルでいけるという意味で、『最高の構成』なんですね?」
察したふうのコージーだが、これでは答えの半分でしかない。
「それもあるが、それを抜きにしても最高の編成だ」
「わっかんねぇなぁ」
「基本の話だ。戦闘になったら攻撃対象を合わせてなるべく早く数を減らす。危険にならないうちは回復をせず、殲滅後に回復する」
「基本ですね」
「ところが勇者パーティはこの基本から外れている。マリアとクレアは最初に補助魔法をかけるのが定例だ」
「補助ならまあ、やるなら最初なんじゃないかね」
「ボスならともかく雑魚相手には不要だ。そして連中は身体的にも精神的にも打たれ弱く、少し攻撃を受けただけですぐに回復をする」
「なるほど」
「そういうことかい」
「戦闘中の補助・回復魔法は、殲滅を遅らせて被弾を増やす。それより四人全員が攻撃し続けて、終わってから回復するほうがはるかに合理的だ。鍵はある程度の打たれ強さと体力、さらに火力に合わせた適切な狩り対象の選択だな」
勇者パーティで常在化されている効率の道の踏み外しがないのは、ずっとストレスを抱えてきた俺にとっては最高の環境だ。
実際、何度もレオとは口論になった。打たれ弱さや火力の手数が少ないなりに格下モンスターを狩って魔積値を稼げばいいのだが、プライドの高いレオは常に格上狩場にいこうとする。時間をかけて少数しか狩れない日々は徒労感も強かった。
最後に、勇者パーティが亀進行になる理由の決定打も教えておいた。
「それにな、マリアだけでもレオは昼まで起きてこなかった。ユーリとクレアも加わったら進行が遅くなるのは間違いない」
「言えてらぁ」
「間違いありませんな」
「それもそうですね」
今日一番の賛同が得られた。
メルバラン大陸でじっくり時間を使ったところで、金策が装備になって強さに変わる以上、道草とはならない。つまり順調ということだ。
「でもよ。前衛火力なら盗賊や商人よりか、武闘家なんじゃねえの」
「悪事をするなら断然、盗賊と商人だろう。武闘家は素手でくるみでも割ってろ」
ユーリの顔がちらついて吐き捨ててしまったが、三人は気にせず笑っているようだ。
馬車は畑や民家の横を走っている。目的地の牧場はテルファの町北側らしい。
まもなく到着するようで、コージーは馬車の速度を落としている。
「復讐を決意した日から、寝ても覚めてもそのことを考えている。いつ、どこで、誰と、どのように、を延々とな」
「はい、話を聞いてオズさんの用意周到さには驚かされました」
脈絡のない切り出し方をしたが、コージーが気を使って相槌をうった。
「上向きの材料があれば計画を上方修正するし、逆の場合は下方修正する。今のところ――」
ゆっくり立ち上がって溜めながら、締めの言葉にした。
「上がりっ放しだ。お前ら三人と組めたことも含めてな」
それぞれがにやりと笑い、拳を突き合わせて話を終えた。
おそらく、この訪問先にも上向きの材料が待っている。そんな願望混じりの予感と共に馬車を降りた。
ブクマと評価、ありがとうございます!
土日どっちかは二回更新できるようがんばります。
昔、友人に素手のくるみ割りを見せられ、武闘家の血筋だとかつがれました。




