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コージー

前話

アマルダ利用方法の説明

 いつもの時間に起床し、カンターを叩き起こした。


「ふぁあああったく、アニキは毎朝すげぇなぁ」

「やることは多いと言ったろう」


 レオのパーティを追い出されて以来、このように晴れやかな気持ちで目覚めたことはなかった。

 朝の早さに文句を言いながらも、同じようにカンターの表情は明るい。

 ロウガイの顔色は言うに及ばずだ。


「次にアマルダを訪ねるのはたぶん明日だ。頃合いを計って、じじいへの仕込みを訪問治療約束につなげる」


 詰め込んだ毒は大した量でもない。おそらく最初は二日酔い程度に考えるだろう。

 体の異常と認識するのは今日の夕方か明日頃だろうか。



「そういえば『これ』ですが、どうやって眠りの森を二人で、しかもこんなに大量に?」


 ロウガイがネムリダケの粉が詰まった皮袋を持ち上げ、昨晩の話題を蒸し返した。


 カンターのサブアジトの物資回収後、俺たちはザフスタからよりメルバラン寄りのロームへと移動した。

 金策を兼ねてこもったのは、そのローム近くにある眠りの森と呼ばれる地域だ。

 その森に棲むシニガミカマキリは、ネムリダケを体内に貯めて、自らは眠らずに眠りの息を吐いてくる。かわしてもその場にただよう息が、頻繁なデトクスを必要にさせると、ローム地方の僧侶泣かせらしい。

 全員が眠るとそのまま死亡が確定する危険な場所のため、熟練度の高い冒険者パーティでもわざわざ行くことはしない。


「アニキのやり方は、とんでもねえ激しさだったぜ」


 思い出したくもないと言わんばかりの顔でカンターが嘆く。


「強烈な眠気がなければ雑魚だ。湿らせたマスクと風で防いだ」

「むむ。ウィンドでは息を防ぐことはできないと思いますが」

「いやいや、おれもアニキも魔法は使えねえよ」


 カンターに一本取られ、いつもと立場が反対になったロウガイはばつが悪そうになっている。


「風の刃ではなく、本当にただの風だ。でかい木の棒二本と布で巨大なうちわを作り、カンターにずっと扇がせた。剣も一本しか無かったしな」

「そ、そんなもので防げるものなのですか」

「いろいろ試した中で一番うまくいった。下がりつつ扇ぎつつ、順番に首をはねていけばいい」

「湿ったマスクで息苦しいのに扇ぎっぱなしだぜ。おかげでこれもんよ」


 カンターが引き締まった腕と上半身の筋肉を見せた。


「お前が扇ぐのをやめた瞬間、俺たちはお陀仏だ」と脅した結果、なかなか引き締まった身体に仕上がった。もともとの器用さ・俊敏さもさらに磨きがかかり、これなら今後の魔積値次第でなかなかの戦力になるだろう。


「それでも袋に回収するときにじわりと眠くなる。そこで常時、これを口に入れて行動した」


 今度は別の小さな皮袋に入った深い緑色の葉を見せる。


「これは?」

「ニガアカザの葉だ。本来はすりつぶして虫刺されの薬にする。この葉を噛むと、しびれるぐらいの苦さが、脳天まで突き抜ける」


 地獄の苦痛を味わったが、財布の中身・魔積値・復讐心をしっかり育てた有意義な期間となった。


「まじで地獄のキノコ狩りだったぜ……おっさんの蘇生代だってこっから出てんだからな」

「も、もちろん感謝しております」

「夏のみ生えるキノコと聞いて、必死で集めた。半分は金を作るために売ったが、もう売却はしない」

「あとはお楽しみ用で頼むぜ」

「それがよろしいでしょうな」


 そう、金の稼ぎ道などは理性が邪魔をしなければ他にもあるものだ。



「例のコージーって商人はいつ誘うんだ?」

「今日の夕方に戻る予定らしいが、テルファに用事がある。こちらからも向かえば街道で会えるだろう」


 ロウガイの提案した防具屋のせがれは、話を聞く限りだとかなりの有望株だ。


 まず何よりも復讐動機が申し分ない。

 弱いモンスターしか出ない経路とはいえ、一人で行商をやれているなら見込みも上々だ。なるべく物理攻撃職で組みたい俺の希望に、ぴったり一致する人材だと言える。


「テルファに着いたら何をなさるのですか?」

「北西海岸付近にある孤児院まで行く。恵まれぬ子らに寄進を、な」


 金とは無縁の場所が目的地と聞いて、二人は腑に落ちない顔となった。





 朝靄がけむる街道を進みながら、今日の勧誘の方針を伝える。


「どんな人物かまったくわからんが、俺はさぐりながら話を進めるのは好かん。直球で手の内を全部話す」

「それでいいぜ」

「そうなると、断られたときの対処方法を聞いておかなければなりませんな?」


 この発想が前もって出てくるのはいい傾向だ。

 ロウガイのいい質問を聞いて、カンターも考え込む様子になっている。


「たしかに話した挙句に断られたときゃ、やべぇことになるな」

「当然だ。拒否と検討なら始末する。だが緊迫感は出すなよ」


 防具屋の実家で、コージーがいつ頃戻るかを聞いた直後だ。疑われる可能性はあるが、見られなければ町の外はどうとでもなるだろう。


「殺した場合は馬車ごといったん森に入る。接触するとき、馬車の幅以上に木々の間があいてる場所で止まって待つ」

「そいつぁおれが」

「血のりが街道に残ってもいけませんな。ウォッシュはもちろんお任せあれ」


 森沿いにある街道なのも都合が良かった。

 ダメなら荷物と有り金だけはしっかり有効利用させてもらうとしよう。






「馬車……だな」


 日が最も高くなる頃、カンターが前方をにらんで言う。

 遠目には何も見えないが、目のいいカンターが言うのであれば間違いないだろう。

 少し進むと本当に馬車らしき影が見えてくる。


「長髪、メガネだ。ガタイはいいぜ」


 人相どおりだ。後方に誰もいないこともカンターに確認させ、最後は立ち止まって到着を待った。


 お互いの顔が見える程度に近づいたところで声をかける。ゆっくり止まった馬車の御者席には、やや警戒した様子の優男が座っていた。


「あなた方は……勇者パーティのオズバルドさんとロウガイさんですよね」


 敵意があるように見えた理由もさっそく判明するが、むしろ好材料というものだ。


「今は追放された身でな。勇者に恨みを持つ者同士でつるんでいる」


 馬車をひらりと降り、車輪止めを差し込んでいたコージーだが、眼鏡奥の眼光がわかりやすくぎらついた。


「詳しく聞かせてもらいましょう」


 こいつも話が早くて本当に助かる。

 敵意ではあるが、これもある意味でレオの求心力のようなものだ。

 三人の立場や職業、恨む理由をざっと話して本題に入る。


「コージーの話も聞いている。勇者が憎いなら俺たちと組まないか」

「ええ。ですが傷のなめ合いならごめんです。勇者レオを殺すためなら協力しますよ」


 値踏みしているのは向こうも同じということか。

 見くびられて決裂しないよう、なおさら直球で構わなさそうだ。


「悪魔に魂を売る復讐だ。無関係な者も多く殺すが、ためらわず、いやむしろ楽しんでやれるか」

「ええ、それなら協力させてください。何でもやります」


 ここまで二つ返事だと、逆に覚悟が軽かったりするかもしれない。

 どれだけの覚悟や開き直りがあるか、具体的に確認しておくほうがよさそうだ。


「何の罪もない兄と妹がいたとする。必要があれば――」

「――目の前で妹を犯したあと、兄を殺しますよ」


 決まりだな。これだけ復讐に取り憑かれている目なら申し分ない。


 固く握手をかわし、お互いに自己紹介をした。



「それで、具体的な用途と額はいかほどでしょうか」


 決まりと思った直後だが、ここで何か少し話が食い違っていると気づく。

 どうやら出資者・支援者だけを探していると思われていたらしい。


「金も支援も大歓迎だが、一番の要望はお前がパーティに加入することだ」


 コージーは意外なことを言われた顔になった。

 まさか荒事は苦手なタイプなのだろうか。もちろん資金や金策協力者は多くて困るものじゃないが、体格にも恵まれていて戦力としては悪くない。


「荒事は苦手なのか?」

「戦闘が嫌で行商人はやれません。ただ一般人の僕が勇者との戦いに行っても足手まといでしょう。そう考えて資金・装備の準備をしてきて、オズさんみたいな人も探してたんです」


 詳しく話を聞くと、なんとコージーは妹の元婚約者と共に復讐計画を準備していたらしい。

 勇者に恨みがある実力者に支援を申し出る計画が第一案。それが実らずに勇者が魔王を倒した場合は、帰還後の祝宴で女を使って寝首をかくというものだった。


「なるほど、悪魔のお導きだろうなこれは。その元婚約者は今メルバランか?」

「そいつはテルファにある牧場の三男で、今は実家に帰っています。準備も全部そこに」

「今から一緒に会えるだろうか」

「もちろんです、乗ってください」


 少し食い違いはあったが、何でもやると言いきった身なら心配はないだろう。

 三つの目標と、短期的目標はすでに着手中であることを話すと、コージーは高らかに笑った。


「はは! まさか悪魔が真昼間に訪ねてくれるなんて思いませんでしたよ!」


 次にアマルダを楽しむときはコージーの仲間入り儀式だな。

 馬車内からは顔は見えないが、コージーは背中で笑っていた。


「めでたく四人揃った。みちみち、強化計画や金策の話をしよう」





この話を読んで「主人公最強」ってタグはちょっと……と自分でも思いました。


タグについては今後にご期待ください。策込みで「主人公最強だな」と思ってもらえる作品になると思います!

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