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勤勉

前話

オズのSAN値が0になった経緯

 しばらくは麻痺毒液と蜂蜜の補充をしなくていいよう、追加でみっちり一日ほど死蜂の村で狩りをしてロームに帰還した。


 翌日は朝からほくほく顔のメシューマより報告を受ける。


「芋づる式の検挙はうまくいっておるぞ。どいつもこいつもなかなかに貯めこんでおってな」


 王と連携しての検挙・預金召し上げ・懐柔は順調で、想定した以上に大きな金額となっているらしい。

 具体的な名前などを名簿で確認していくと、マーブル・チシャメコ・孤児院のシスターについても情報は入ってきていた。マーブルとチシャメコはどちらも元キヴォンヌ派の貴族が連れてきて、シスターはケイビーンの検挙時に保護されたらしい。

 今後の処遇の予定を聞くとマーブルは地下娼館行きで、チシャメコは後宮地下室に連れていきたいとメシューマは言い出す。


「後宮地下室には拘束具付きの魔力を吸い上げる魔道具がある。チシャメコという者はなかなかの魔力でもあるし、陛下も気に入ったようでな」


 まったく、立派な王様だ。だが考えてみれば地通じの扉やゴル金属の融解装置は多大な魔力を必要とする。今後は僧侶か魔法使いなら、男でもその使い道で利用はできるか。


「魔力を吸わせる場合、男を連れてきても役に立ちますか」


 気になっていることをコージーが質問してくれたが、メシューマはつれなく首を振るばかりだった。


「貨幣鋳造装置も地通じの扉も王宮奥にある。立地を考えると後宮地下室で飼うしかないが、男は陛下が喜ばん。それで一つ提案だが、孤児院の者は一般民――」

「どうぞ、シスターも後宮地下室行きで」

「はは、話が早くて助かるぞ」


 どうせ王に伝えるときは「断られたがなんとか私が説き伏せた」とでも言うのだろう。

 王が一目見て熱望したらしいが、好みも知れたのはけっこうなことだ。もちろん楽しむだけではなく、実用性も兼ねているあたりはさすがと言うべきか。

 報告用の子供も合計二十人と充分な人数が回収できており、シスターは市井に戻さないほうが俺たちとしても都合がいい。


「一緒に監禁されていた子供たちが、シスター不在を騒ぎだしませんかな」

「後宮仕えに召し上げられて本人も希望したと言えば問題ない。しっかりしつけたあとで子供たちへ手紙の一つも書かせれば、不審がられることもないだろう」

「縦読みで、『たすけて』って書かれるやつだな」

「そんなのは演劇だけの話だ。おどして書かせるのに、文面を相手に任せる阿呆はいない」

「そういやそうだな」



 報告内容は万事順調なようだが、男の国有奴隷に関してはあまり数が増えていなかった。ぼったくり酒場の女をほとんど地下娼館組にまわすとなると、それなりの数を監禁するには管理の男手も必要になってくるものらしい。


「あにき、王様酒場を開こうぜ」

「一応詳しく聞こう」

「いやさ、娼館いくかいかねえかだといかねえって気分でも、ちょっと遊びてえなってときはあるもんだ。そんなやつら狙いで、女はべらせて王様と奴隷ゲームができる酒場を作りゃいいんじゃねえか」

「たしかにただの酒場なら男手は一人いれば問題ありませんな」

「で、こりゃもうたまらんぜってなったやつぁ別料金で個室連れ込み交渉よ。騒いで楽しむだけのやつはそれで帰りゃいい」


 カンターにしては理にかなった提案だ。もともとやってた仕事とそこまで違いがないことを考えると、脱走などもあまり警戒せずに経営できるだろうか。


「とりあえず一店だけ試してみるが、牢獄建造に必要な人員はまだまだ多い。やはりごっそり連れてくる必要がありそうだ」

「ううむ、だが男の国有奴隷は無理やり連れてきて働かせると、監視の兵が多く必要になる。それに指示出しする職人は一般人で、口止めが難しくてな」

「ご心配なく。納得させた者を五十人ほど連れてきます。こちらは日が決まればまた連絡しますので」

「ほぉ。だが無茶はいかんぞ」


 注意しつつもメシューマの顔に心配の色はない。なんでもそうだが、やっていくうちに次々と新しいアイデアは湧いてくる。第二幕で主眼とするのは「引合わせ」だが、そのように考え出すとメルバラン大陸が宝箱のように見えてくるのは不思議なものだ。




 午後にはメルバランへ到着し、王宮で定例の荷下ろし後はカンロニーとの面会をした。


「ううむ、そのように悪党がはびこる町であったか。だがそれだけの人数であっても見つかってよかった」


 厳しい取締まりが始まって今後メルバランに被害が及ぶことはないはずだと伝えると、カンロニーもほっとした顔をみせた。

 ジーロ村の税収がまるごと消えたのは痛いが、国が援助していた孤児院がなくなったのは支出が減ったということでもある。子供らが成人して十年はロームの税の半分が入るとなれば、取り返しがつかない痛手というほどでもないのだろう。


「レオの母親には私から説明しますので、明日には家に帰していいかと。ですが不安な様子がなくなったと判断できるまで、勇者家に見張りの衛士を一人つけてくれませんか。数日で構いませんので」


 衛士の立ち位置は勝手口と玄関両方が見える敷地の角にしてほしいとも依頼して話を終えた。


「今後も冒険者業と並行しながら行方不明者を捜索していきます」

「あいわかった。このたびはご苦労であったな」

「いえ、詳しい人数は明後日のロームからの連絡をお待ちください」


 予想はしていたが、やはりカンロニーから報酬などを手渡されることはなかった。計画・誘拐・売却・捜査・検挙すべてが俺たちの手によるものなので不満に思うこともないが、そうでなかったらただ働きだったかとがっかりするところだ。



 帰宅許可を伝えるべくアマルダを探すと、北側の堀に面した庭で一人座っていた。王宮の影となった北側の水面と同様に、それを眺める顔色も暗く沈んでいる。


「アマルダさん、ただいま戻りました」

「あら、おかえりなさい」


 顔を上げてこちらに気づくと、スカートをつまんで小走りに駆け寄ってきた。いつもの普段着ではなく、貴族が着るような長いワンピースを身につけている。


「似合ってますね。どこのご令嬢かと」

「んもう。着させられただけよ」


 ローム王が軍を挙げて悪党の一斉検挙に踏み切り、事件を起こしたビレソンのアジトは手下も含めて一網打尽となったことを説明した。


「いろいろとありましたが、これで一安心です。きっとジーロ村の人もこれから見つかりますよ」

「メシューマ様の奥様がいろいろかまってくれて、オズ君のことも聞いてたわ。本当にありがとう……」


 だが顔色はそこまで明るくはなってない。ビレソンの動機をレオへの復讐心と勘違いさせている以上は本当の意味での解決ではなく、義父が死んでいた現場に帰るのも気乗りしていないのだろう。


「もう家に帰れます。明日の朝、僕が迎えに来ますので」

「それなんだけど……私一人であの家は広すぎるわ。王城の食堂勤めでも掃除でもしながら、今の部屋にそのまま住ませてもらえないか頼んでみようかと思ってて……」


 少し予定外の言葉が飛び出てきた。住み慣れた家や家族の思い出を優先させるかと思っていたが、度重なる不幸のことを考えたくない気持ちが強くなっているようだ。

 交易パーティの育成期間がまだ終わっておらず、メルバランを離れるまではもう少しかかる。連れ去るまでに一人あの屋敷で孤独を感じてもらおうと思っていたが、王宮生活を開始されてしまうのも都合が悪いか。


「それなら僕がメシューマ様に直接頼んでおきますよ。返事待ちはなるべく一日か二日で済むようにしますんで。どのみち荷物を持ってくる必要もあるでしょうから、明日はいったん帰宅となりますが」

「ありがとう……頼ってばっかりでごめんなさい」


 明日には追い込む必要があるが、特に準備が足りてないということもない。むしろ当初の想定の範囲内では上々の出来だ。特に心配することもないだろう。


「いいえ、好きでやってることですから」




 時間もあいて、明日の小芝居に参加することになるベルターの口裏合わせでテルファに向かうことにした。


 夕方前に到着するとベルターは開口一番、会心の笑みで拳大の翼の模型のようなものを差し出してくる。


「うまくいきましたよ。これが完成品です」


 聞けばタビガラスの子世代からむしった羽が使えるようになったという。

 翼の模型は魔力伝導率の高い銅で翼型に骨組みを作り、そこに子世代タビガラスからむしった魔力の薄い羽をびっしりと同じ方向にくっつけてある。


「放出される魔力の流れを一定方向に揃えることで、羽と変わらない使い方ができるようになりました」


 少し山あいの方向に離れた場所へ連れ立って向かい、さっそく試用してみることにした。


 試しにテルファからメルバランへ飛行移動し、成功を確認してすぐにまた元の場所へ飛んだ。帰還して着地したときは四人、次々とベルターとハイタッチして上首尾をねぎらう。


「ぜんっぜん普通の羽と変わらんぜ。次に産まれたやつも合わせりゃ使い放題ってぐらいになるんじゃねえか」

「すばらしい。これは『合成鳥の翼』と名付けよう」

「子世代はたくさんいます。これからは町移動が楽になりますね」


 その次の孫世代以降が同じように使えるかはわからない。だがベルターのタビガラスが生きている間は少なくとも安泰で、子世代もたくさん増やしておけばいいだけだ。


「げへへ、売ったらすんげえ儲かりそうだな」


 カンターの発言を機に三人は一斉に俺に視線を集めた。この翼の取扱いは慎重に決める必要があるとすでに察知しているらしい。


「先のことはわからんが、現時点ではこれは売りには出さない」

「へ」


 カンターだけが意外そうな顔をし、残りの三人がそれぞれ理由を説明した。


「僕らが遠距離飛行移動を多用できると知られるのは、僕らの悪事がばれる危険が高まるのでは」

「それにたくさん売るほど値段も下がって、下手するとくそ勇者の旅の進行も助けてしまいますな」

「売るのはいつでもできるので、あわてることもないかもしれませんね」


 開いた左手に握った右拳をぽんと置いてカンターは納得した。三人が言うとおりでもあり、金にしたければ町を変えながら交易をしたほうがデメリットは少ない。


「全部正解だが、あくまでタビガラスはベルターの所有物だ。ベルターが納得するならば、という条件付きだがな」

「金を稼ぐことが目的じゃありません。復讐を成功させるための使い方をしましょう」


 ちらりと見たベルターは機嫌が良さそうに笑いながら快諾した。


「すまんな。ならば俺たちだけで自由に使わせてもらう。先にアバスに行って装備新調をしてからだと考えていたが、ある程度はもうマゾナスで売っている最高のもので揃えよう」


 装備は下取りに出すと買い叩かれるのが常だ。まめに格上装備に買い直すより、手持ちがあるならいきなり一番いい装備にするほうが損失を抑えられるだろう。


「オズさんはマゾナスにも行ったことがあるんですか?」

「ある。故郷を離れる際、母の魔道具は独自の品のため値がつかなかったからな。競売にかけるために立ち寄った」

「世界で一番物価がたけえ国と町だっけか。行ったことねえし楽しみだぜ」


 カンターは楽しみにしているようだが、この翼を得た以上は予定も見直す必要がある。

 レオがロヴァニールを離れているならば早く向かうに越したこともなく、交易パーティに育成期間を費やすよりも、強力な装備を貸し出して早めに稼働させたほうが得策か。

 明日明後日はアマルダの追い込みもあり、今からでもマゾナス往復を済ませておくのはありだ。


「すまんが急ぎの進行に変更だ。マゾナスへは今から俺だけ飛んで、装備を買って戻ってくる。お前ら二人は交易組と裏組を集めて宿屋で飲んでてくれ。コージーは馬車をメルバランへ戻して、そのあと宴会合流だ」


 すでにメルバランでの悪事は一区切りついて、フォコパとピブスルーダの売却も知らない声が必要になるということもない。コージーも今後は一緒の行動で問題ないだろう。


「了解です。お気をつけて」

「急ぎで装備買うってのはいいんだが、あいつら集めるのはなんでだ」

「ロテーリアに見せつける餌みたいなものだ」


 ベルターにアマルダ用の劇の脚本メモもわたし、急ぎ三人でメルバランへ飛んだあとにマゾナスへ一人で向かった。



 六年ぶりに訪れたマゾナスは記憶に残る町並みとほとんど変わらなかった。閉店間際の武器屋に駆け込むと、店を閉めようとしていた店主は迷惑そうな顔で口を開く。


「あんちゃん、武器は明日も逃げねえぜ」

「やかましい。今日の客が明日も来ると思うな」


 商業組合に加入しているマゾナス一の武器屋なら、特にコージーの鑑定はなくてもいいだろう。飛行しながら買おうと考えていた装備をどかどかとカウンターに積んでいくと、すぐに店主はにへらと笑ってもみ手でご機嫌を取りだす。


「これはこれは……全部お買い上げでよろしいので?」

「それと普段ここで製作していない、買取した装備品なども見せてくれ。いくつか買いたいものがある」


 大ゴル貨幣がずっしりと入った袋をカウンターに置くと、店主は店の奥に向かって大声で呼びかけた。


「へい、ただいま! うおおおおい、買取品の箱二つとも持ってこおい!」


 徒弟が運んできた品を物色し、いくつかカウンターに引っ張り上げていく。


「軽業服は一着だけか」

「ここらじゃもっといい防具があるもんで製作はしてませんや。でも買取品で補修が終わったのももう一着ありますぜ」


 交易パーティ組の底上げにも最適な品で、もっと買いたいところではある。だがロヴァニールでも売っている品ならそこまであせることもないか。


「む、この短剣は初見だがいい品だな」

「細身で小さいぶん急所に入りやすいようになってまさあ。量産品じゃねえから買っとくほうがいいと思いますぜ」


 俺とカンターの武器は早めにゴル装備にする予定もあって買うつもりはなかったが、小ぶりなこの短剣は取り回しが良さそうで、悪事の普段使いにも合いそうではある。



「こんなところか。これだけ全部もらっていこう」

「毎度ありい! 一緒に宿屋まで運ばせますがどちらにお泊りで?」

「不要だ。すぐに出るからこのでかい革袋に全部入れてくれ」


 こんな大量のものを持ち運ぶのかと店主は驚いていたが、俺自身も買った品の重量が帰りの飛行移動中に身にかかることをすっかり忘れていた。これは急いで事を成そうとしてはミスをするという教訓にせねばならない。

 薄暗いこともあり体裁もそれほど気にする必要はなく、町中で翼を使ってメルバランへ飛んだ。

 荷物の負荷はとんでもなく、特に着地した直後は立ち上がれないほどだった。肩にかける部分が食い込みにくいように作られているコージー特製袋でなければ危なかったかもしれない。

 膝の土ぼこりを払って肩を回し、深くため息をついた。


「本当に悪事も楽ではない」


 真っ当な生き方がばからしいと感じて悪魔に魂を売り渡したはずだったが、どう考えてもレオパーティにいるときの三倍以上働いている。


「悪魔は勤勉である、か」


 つぶやくような愚痴を一言だけ吐き、装備を引きずりながら宿屋の階段を登った。

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