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オズの昔語り

前話

カンターが盗賊になった経緯


※この話の最初から終盤にかけての地の文はオズバルドの発言です。

 母は知的好奇心あふれる賢者だった。興味のままに動く性格で、父とはぐれないために例の笛と指輪を作ったらしい。父は振り回されつつも惚れた弱みだと苦笑していた。

 長年勇者の神託がないこともあり、勇者がいなくても魔王を倒す方法を母は研究していた。一度旅に出ると半年以上帰らないこともあり、幼少時の育ての親と剣の師は祖父だった。


 住んでいたのは東大陸のミシッピーという河沿いの町だが、俺が九歳の頃にモンスターの活動が激しくなった。

 両親は手練れが村にいないときのために、避難場所を建設しようと村に呼びかけた。村近くの洞窟内部のモンスターを排除して、入り口を堅固にした洞窟城を建てようとな。だが「金のある者はうらやましいもんだ」などと言って、村人は誰一人手伝わなかった。

 家族四人での建造は大変な作業だったが、今にして思えばこのときは一番楽しかった。岩石が固まったモンスターを両親が倒して運び、それを母の創った魔道具で祖父が加工して全員で組み上げた。完成までにかかった期間は三年以上に及んだ。


 村人は完成した洞窟城を見て手のひらを返した。手伝うどころか作業している俺たちを笑っていたくせに、もしものときは村の避難場所にさせてほしいと言い出した。俺はふざけるなと思ったが両親は快諾した。


 そして十三歳のときにクレアの父が事件を起こした。聞けば誕生日に特別な果物を食べたいとクレアにだだをこねられて採りに行ったらしい。魔人型モンスターの集落付近には近づくなと言われていたにも関わらず、だ。

 クレア父は村入口で死に、大勢のモンスターはその勢いのまま村の中へ殺到した。間が悪いことに、そのとき俺の父と村の手練れの男三人は上流の町へ物々交換に行っていた。

 村人が洞窟城に避難している間、祖父と母は最後尾でモンスターと戦い、先に城に避難した俺は二人の姿を上部の窓から見ていた。


 避難完了が近いタイミングで全員が城入り口に向かったとき、魔力が切れても無理をし続けていた母は足を負傷した。

 最後尾の連中がすぐにフォローにいけば絶対に全員で助かったはずだった。だが祖父以外の連中は母を見殺しにして、城の目前で全員内部へ駆け込んだ。




 引きずられていく祖父と母の遺体を追いかけようとした。だが扉を開けるなと大人に殴打されて俺は気を失った。


 気がついた俺はまともな状態ではいられなかった。だが父は俺に延々と諭してきた。人を憎んではいけないと、許せる心を持てと、クレアを責めず逆に守ってやれと。


 一年も経った頃、残された者同士で父とクレア母は再婚した。クレア母は村で立場がなく、何かとかばってくれる父の存在がありがたかったのだろう。

 俺はおもしろくなかったが、慕ってくる義妹のクレアをかわいらしく思う気持ちもあった。


 モンスターはさらに活発になっていった。

 父はこの革と黒鉄でできたガントレットを愛用していたが、ある日モンスターが襲来したときに見当たらなくなっていたようだった。あとでわかったことだが、勇ましがった村の男が父のガントレットと剣を勝手に装備して飛び出て行ったらしい。

 その日父は愛用の剣もガントレットもなしで村人の避難が終わるまで戦い、そして右手と腹を喰いちぎられて瀕死となった。

 俺は激怒したが、勝手に持ち出した男が死んでいたためぶつける相手もいなかった。


 教会で教わったと思うが人の魔力の出入りは右の手のひらからで、目に見えないその出入り口は魔力孔と呼ばれる。右手をなくしたりひどく損傷したりすると魔積値も消え去り、体内に作用する良い効果の魔法もあまり効かなくなる。そうでなくても左手一本で剣を振り回して戦えるものでもない。あらゆる意味で父は戦士としては終わった。


 父の治療には度重なるヒールが必要だった。次第に村の中でお荷物扱いされるようになり、貯金で暮らしていけるように物価の安いメルバランへ移住することになった。

 母の遺した羽を使って四人でメルバランに移ったが、父は寝たきりになった。魔力孔がない父には教会魔法が効きにくかったが、俺は日々休みなく働いて父にヒールを受けさせた。

 クレアには僧侶を目指してほしかったし、当然恩返しでなるものだと思っていた。だがクレアは魔法使いになると言い出した。俺の母のようになりたい、最初は魔法使いから始めたと聞いたと言われるとそれ以上反対できなかった。


 そしてクレア母は父を見限って他の男の元へ行った。だがやはり父は許せる心を持てと言った。

 クレアも母には嫌悪感をおぼえたようで、ついていかずに残った。私は母みたいにはならない、一生オズと一緒だと泣きながら言った。そのときは俺もクレアをずっと守って生きていこうと思った。

 あとで聞いた話だが、クレア母は痴情のもつれで再婚相手と共に死んだらしい。心は晴れず、むしろ不安が増した。


 主に俺が稼いだが、父に毎日教会魔法を受けさせるのは金がかかった。そして装備品や魔道具をほとんど売り払った頃に父は死んだ。最期まで人を恨むなと、正義と共に生きろと言っていた。


 冒険者として身を立てて故郷の城に帰ることが目標となり、毎日馬車馬のように働いた。そんな中、疲れ果てて家に帰るとクレアは魔力修行の瞑想をしていた。魔法使いでも体力や打たれ強さは必要で、多少は力仕事も無理ない範囲でやってはどうかとクレアに言った。だが賢者を目指すのだとかたくなに言い張って学術と魔法の勉強に時間を費やした。


 クレアは地道に努力を続けていたがなかなかものにならず、故郷に戻るための準備は進まなかった。

 いつからか恋仲にはなったが好意ではなく、俺は義務感でクレアは罪悪感から始まった関係だったと今では思う。結婚もしたがっていたが、両親の追い求めた魔王討伐にこだわりたかった。子供ができたらきっと重荷になると思った。


 理屈家の俺と気分屋のクレアは性格も合わなかった。

 進歩がなかなか目に見えないクレアに苛立った。働きどおしで剣の修行に打ち込めない中、最大限の効果を得るために効率を追求した。

 そんな俺に効率ばかりとクレアが言って、誰のせいだと思ってるんだと怒鳴ったことがある。そのときは感情の制御が効かなくなって思わず言った、母の死因はお前だったのにと。


 もちろん大事に思う気持ちもあった。歳をとれば父みたいに苦笑しながら許せるようになるものだろうと無理に考えた。

 だが同情と義務感だけで一緒にいられるのはクレアも嫌だったのだろう。今ならわかるが、あのまま続いていてもお互いもっと精神的に煮詰まったはずだ。



 追放されたときはクレアが惜しかったというより、ここまで散々いろんな我慢を強いられながら面倒をみてきたのにという気持ちだった。

 レオやマリアと一緒になって俺の装備をはぎとるクレアも、結局は他のくそみたいな連中と何一つ変わらなかった。

 数年間ずっと胸に渦巻いてきた不満が、憎しみが、嫌悪が胸の中で暴れて止めようもなかった。



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 長話の間に弱まってきた火力に気づき、枯れ木を多めに火にくべた。


「なるほど、それで重荷ですか……」

「父の戒めとクレアの両方がな。今はお前らと共にいることが本当に楽しい。だからもう戻りたくはない」



 今まで誰にも幼少期のことを話すことはなかった。だが一息に語り終えて気が緩んだか、目頭にこみ上げるものを感じた。


「しけ気味の木を入れてしまったか、けむいな」


 せきをしながら立ち上がってつばを吐き、枯れ木を集めた場所のほうへ体を向けた。


「俺が最初の火の番をしよう。寝ていいぞ」


 木をより分けるふりをしながら後ろに声をかけたが、コージーはまだ話を終えることを許さずに質問を続けてくる。


「故郷の村に着いたら何をする予定ですか」

「……いくつかあるが、まずは村人を皆殺しにしたい。手伝ってくれるか」

「へへ、おもしれえ方法で頼むぜ」

「楽しみがまた一つ増えてしまいましたな」

「はは、さっそくいい方法を一つ思いつきましたよ」


 たどり着けるのはまだ先になるだろう。だが後ろでほがらかに響く笑い声に、力強く背中を押されたような気がした。


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