調整
前話
王と貴族と冒険者で結託
メシューマ邸に先に戻り、家主の帰宅を待つことにした。部屋を断って内庭で腰掛けて待つ間、カンターが先ほどの流れを感心しながら振り返る。
「しっかしあにきはすげえな。王様も言いなりにしちまうんだから」
「繰り返すが欲望を見極めることが肝心だ。さっきお前はメシューマが美味い汁を吸い過ぎだと言ったが、実は今回の件だけでも一番得をするのはローム王だからな」
「預金ですよね」
「そうだ。キヴォンヌは法務担当で派閥も作っていたし、相当に私腹を肥やしていただろう。全財産を俺たちがもらうと言ったが、一番額がでかい銀行預金が具体的にいくらか俺たちにはわからん」
「『派手に使っていたようだった』などとのたまって、目減りさせた金額で報告してくるでしょうなあ」
「きたねえ、じつにきたねえ」
王の性格を考えると目減りどころか、おそらく一割かそれ以下にしてくるだろう。それにもっと肝心なのはそのキヴォンヌがつぶれたという事実のほうだ。
「強大な存在になりすぎた派閥筆頭がつぶれたのも大歓迎のはずだ。今頃はメシューマにがめつくなりすぎないよう釘を丁寧に刺していることだろう」
「じゃメシューマのおっさんはそこまで儲からないんかね」
「王よりは控えめな取り分にするだろうな。だがそれでいいのさ。あいつは王宮貴族筆頭の座が一等のご褒美だからな」
キヴォンヌのせいで日陰の役職に甘んじてきた期間がどのようなものだったかは想像にかたくない。ローム貴族名門の鬱積も、一撃で晴れた心地だろう。
「もちろん俺たちにとっても今回の成功はでかい。ちゃんと全員が一番得をする形に収まっている」
「大金もですが、逃げ込める土地という点でも大きいですよね」
「今後は名義札を作ってもらえるからな。悪事もやりやすい。何でもやりたい放題とまではいかんが、名義を使い分けて悪事を働いてる者がいると世間に悟らせない程度には利用する」
「呼び方は気をつけねえとな」
「カンター殿が一番不安ですぞ」
うっかり口を滑らせて悪事が台無しになってはばからしい。別の名義を使うときはそれにあわせて定番の変装を準備するほうが間違えにくいかもしれない。
「十日後ぐらいに装備をほとんど新調するが、コージーはそれに合わせて手軽かつ効果的な変装アイテムも四人分考えておいてくれ」
「はは、僕以外も変装生活ですか」
「次の町に行きゃコージーも変装はおさらばだと思ってたがな」
「ロームでもまだまだやらねばならんことがある。ゆくゆく大商会も取って代わるか懇意にして、王、貴族、教皇庁の力もすべて合わせてリスボアルにあたるつもりだ」
「あたるってえのはどういうこった。戦争しかけるわけでもねえだろうし」
「戦争とはちょっと違うか。流れるのも血ではなくゴルだしな」
「……今ので少しだけ、結末のからくりが見えました」
にんまりと笑うコージーだが、カンターとロウガイはまだ意を得てはいないようだ。
第二幕の結末とそこに至るまでの展開も大筋で決まってはいる。だが儲けを大きくすること、レオへの復讐を絡めることは工夫の余地を大きく残している。今回同様、全員からいい案が出てきてほしいものだ。
メシューマが帰宅してからは応接室で今後についての話を進めた。
「陛下は今後、わしを通しておぬしらと話がしたいそうだ」
王にとってもメシューマにとっても危惧を解消できる提案であり、早くに言われるだろうとは予想していた。
「ええ、それがいいでしょう。ただし私か子爵が捕まるときは全員の身の破滅となること、しかと念押ししておいてください」
「ふん、もう体裁も気にしなくなったか」
「話が早い方が子爵もお好きでしょう」
「そうだ、それぞれうまくやろうぞ。では具体的な部分もいくつか詰めていこう」
話は地下者の検挙方針から始まった。
「改めて国民登録がない者を探し、見つけた者は連れてこいと陛下に命じてもらいましょう。今までの経緯は不問で評価すると明言すれば、奴隷を保持する危険を案じて自ら手放す貴族はそこそこいるはずです」
「ふむ。だが解放された者の家と仕事はどうする」
「解放してやることもありません。目と口を縛ったまま集めて、再編した地下娼館にまわしましょう」
「再編とな」
「情報の限り一斉検挙はしますが、地下娼館すべてをつぶしてはいけません。資金預金の召し上げと今後の上納金に納得する者は子飼いにして営業させましょう」
「なるほどな」
地下娼館から世間に引っ張り上げる人間は孤児院の子供だけにして、他の者はこのまま沈みっぱなしで稼いでもらうほうが本人以外は幸せというものだ。それに今更チシャメコやマーブルがひょっこり世間に出てきてもやりづらいものがある。
体裁上はつぶして別の場所で営業再開させることになるだろうが、娼館はベッドさえ運び入れれば建物に手を加える必要があまりないのも楽なところだ。
「地下には地下の役割があります。大事なのは手綱をしっかり握ることでしょう」
「なるほど、言えておるな」
問題は引っ張りあげてメルバランに報告する孤児院の子供だ。ケイビーンを検挙すればまだ売りさばいてない者を一斉に保護できるだろうが、コージーの顔を知っている者が世間を出歩くのはよろしくない。
普段は変装をさせているとはいえ、しばらくローム本拠地で動くとなるとどこかに隔離する必要があるか。
「救出したテルファ孤児院の子らは一般民登録をすることになるはずです」
「まあ帰還の手段もなかろうし、そうなるだろうな」
「孤児院を設立しましょう。製塩所の町の教会が火災にあったと聞きましたが、跡地にぴったりかと」
「メシューマ孤児院ですか。新しい法務担当は民への情も厚いと評判になりますなあ」
「なるほど。子供の年代はどれぐらいだ」
「三から十四まで。年長の者は教会の注意が入らない程度に働かせましょう」
補助金なしで製塩所の町の労働力を増やせるとなれば国としても大歓迎なのは見えていたが、こちらも二つ返事で話は進んだ。
「ぼったくり酒場は容赦なくつぶしましょう。男は国有奴隷、女も共犯として国営娼館にぶちこめます」
牢獄を造るのにも人出が必要だ。今後やりたいことを考えると、極限までこきつかえる男の国有奴隷はなるべく増やしておきたい。
「検挙した仲買人や地下娼館から芋づる式に情報も入るであろうな」
「ビレソンのアジトは国営娼館の新店舗にぴったりですね」
「でかい建物だからな。二階が生活用の収監場所、一階が店舗でちょうどいいか」
「空いた建物は出店希望の市井の者に貸しだすのもいいですなあ。下積み中の職人や商人はこぞって応募してくると思いますぞ」
「それならメルバラン特産品店はどうでえ。直で仕入れるから安く売れんぜ」
「よかろう。後日希望する場所の中から一店舗は融通しよう」
店については代表者をコージーにして、当面の雑事は任せることにした。
「それなら馬車を停められる敷地付きでお願いします。それとできれば二階建てで」
「コージー殿もこれで商会代表ですな」
「へへっ、二階はおれらのアジトだな」
「今後は連絡も取りやすいか。人を雇ったら早めに教えるのだぞ」
話は順調に進んでいるが、ぼったくり酒場が少なくなると身を崩す冒険者も減ってしまう。国防に関わるところでもあり、先にフォローが必要か。
「ゆくゆくは私がメルバランから連れてきますが、それまでは子飼いの仲買人も一人いたほうがいいかもしれません」
「ふむ」
精鋭軍を充実させるなら冒険者狙いが一番なのはわかっている。となれば狙い撃ちの商売を準備するほうが早いか。
「女を通りに立たせるのは非効率的です。元冒険者の女を使って、冒険者がたむろする酒場から連れ出させましょう」
「コージーなら一撃で捕まっちまうな」
「なんて……おそろしいっ……」
検挙関連の話も終わり、残るはキヴォンヌの家族や使用人の処遇についてとなる。
「メイドたちは器量がいい者ばかりでしたなあ」
「使用人全員、奴隷落ちでいいでしょう。見せしめにして噂になれば、使用人からのタレコミが怖い貴族は確実に奴隷を手放そうとしてくるはずです」
多いときは五人も屋敷に奴隷を飼っていて、使用人が気づかなかったなども道理が通らない。
「家族はどうするか。この国の法では家族も責任は問われるが」
若くて美しい妻とよく似た娘を活かさない手はない。同じことを考えたか、カンターがしたり顔で提案してくる。
「奴隷落ちは当然として、それを世間に知らせるのがいいんじゃねえか。キヴォンヌは恨まれてたみてえだし、妻と娘を同時に食えるとなりゃ指名殺到すんぜ」
「はは、やはりつるんでるだけあっておぬしも悪党か」
「へへっ、褒めすぎだぜ」
メシューマのからかいにまんざらでもなさそうな顔をしているが、活用方法としてはもうひとひねり欲しいところだ。
「それは第二段階でいい」
「第二段階」
「飽きるまでの間、裁きの猶予期間としてメシューマ子爵預かりの身にしましょうか」
「わしのか」
「ええ。キヴォンヌの前で派閥の者にまわさせるのがおもしろいかと。これからの親玉が誰なのか、元キヴォンヌ派だった者に理解させる儀式みたいなものです」
絶望を浮かべるキヴォンヌの顔はいい酒の肴となるだろう。
「やっぱりあにきは悪魔だぜ」
「目の前では、わし自信ないかも」
話し合いを終えて、宿屋に戻る前にアマルダへの土産と交易品を購入しに向かった。
「メルバランに戻るのは孤児院の子供が何名か保護されてからだ。それまでに死蜂の村にも行っておきたい」
「明日があちこち休みだかんなあ。痛まねえものにしねえといけねえか」
状況が状況でもあり、酒を飲む気分ではない可能性もある。そうなると工芸品などのほうがいいか。
「宝石も偵察いっとこうぜ」
「行ってみるか」
入った宝飾品店はカメオに力を入れているらしく、店の半分は様々な素材のものが並んでいた。
「ミスドナとマクドナにも何か買っておくか」
「つってもこれは戦闘中つけらんねえしな」
姉妹をうらやましがるように持っていきたいが、ロテーリアなら武器のほうが効果的のようにも思う。ここで金をかけるのも得策ではないか。
「それにあいつら宝石はうるさそうだかんな」
「言えてるか。財布が太いときほど口は閉めろというしな」
結局、アマルダの土産だけに絞って物色することにした。
「この貝のカメオ、アマルダにそっくりだぜ。でけえところも似てら」
「サンゴでできたバラのカメオもなかなか」
なかなか決まらずあれこれと見ている中、急にカンターが脈絡のない話を切り出してくる。
「アマルダとじじいとあんまり飲みたがらなかった理由だがよ」
「む」
「情がわいちまうと、あとあとやりにくくなるかと思ってな」
「なるほどな」
土産の物色と同時進行で会話は続いた。なんとなく意図的に別の予定を作って外されているようにも感じていたが、理由は納得できる。
「あにきはそういうのはないんかね」
「あるぞ」
カンターは驚いたふうな顔になった。手に取っていた品を元に戻しつつ大きく息をつく。
「そういうところがすげえよなあ。あにきはアマルダのことが気に入ってんだとばかり思ってたぜ」
「ないと言ったら嘘になるか」
自覚がないわけでもなかったが、なんとなくカンターに図星をつかれるのは居心地が悪い。
「それでもゆくゆくやっちまうんかね」
「情があろうがやるべきことを最優先するし、特に俺たちの目標を考えればなおさらだと思っている」
「必要なら誰でもってことかい」
「お前ら三人以外はな」
陳列台の反対側に別の客が歩いてきたのを感じて、そこで会話を止めた。宝石の物色に戻ったほうがいいかと考えたか、カンターは次の候補を差し出してくる。
「あにき、これなんか似合うんじゃねえか」
「そうか」
受け取ったイヤリングはロヴァニール産らしきアンバーの品だった。たしか恋人や夫婦間で送る宝石だったか。
イヤリングを受け取ってまじまじ眺めていると、陳列台の向かいの客から視線を感じてふと顔を上げた。
そこにいたのは思いも寄らない、よく思い返す人物だった。
「ぬわっ、マリア」
「うぇっ」
「ごきげんよう。幸せそうで安心しました」
急にマリアはそそくさと背を向けて店外に歩き出した。
「待て。何か勘違いをしてないか」
「いえ寛容な神はきっと御許しくださるはずです」
品を戻して追いかけようとすると、店の入り口ではレオもたたずんでいた。
「オズバルド」
「レオ……久しぶりだな」
初レビューをいただいてしまいました。
ありがとうございます。




