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生贄

前話

アマルダ葛藤

 早朝、組合所に集合した面子を前にして、今日の予定から説明した。


「ググレガス、クルブシ、コルボッフは今からロウガイがロームへ連れて行く。ドリーは夕方前集合で俺が連れていく予定だ。合流してからはロームで飲もうじゃないか」


 消耗品を惜しみなく使う点と休憩を階層ごとに取る点を念押しして、遺跡に向かう四人を送り出した。


「さて、こちらは昼過ぎまで狩りだ。遺跡近くのザリガニバチの森に向かう」


 一匹を地面に貼り付けて、増援を呼ばせ続ける方式について最初に説明した。


「それと編成は俺がミスドナ、ウェンディ、チシャメコを受け持って森の東側。カントハルフ組はマクドナ、ロテーリア、フォコパで西側だ。そっちは僧侶がいないから消耗品はけちらなくていい」


 死蜂の村と同じく俺が羽を切って落とすことに専念し、残りのメンバーが地面の蜂に重い武器を振り下ろし続けた。




 昼は遺跡入り口の結界に八人集まって飯にした。


「疲れたとは思うが、素の筋力をあげることも大事だ」

「はい。午後もよろしくお願いします」


 言いながらもミスドナは軽く笑顔が引きつっている。ウェンディに至っては疲れ切って一切言葉が出てこないようだ。


「私は魔法使いだし体を鍛えるのはもう要らないかも」

「そうだな。だが今日のように長い狩りだとずっと魔法を打てるわけでもない。打たれ強さも大事だしな」


 チシャメコが文句を言うのは予想できた。掲示した日に入っていたパーティとももめていたが、とにかく楽して稼ぐことにしか興味がないというのは本当らしい。


「だが魔法はなかなかだった。ロームの貴族家で魔法家庭教師の募集があって、お前はそっちのほうがよかったかもしれんな」

「えっ、そんなお仕事あるの?」

「家庭教師だけやればいいわけじゃない。冷蔵庫の氷を作ったりも仕事のうちだ」

「そんなの楽勝だし。オズさん連れていってよ」


 先ほどの疲労感は嘘のような勢いでチシャメコは迫ってきた。当然狙いどおりだが、この単純さでよく男を手玉にとってきたものだ。


「でもよ、あの一家は金払いがいいすけべで有名だかんな。チシャメコだとお坊ちゃんに押し倒されるんじゃねえか」

「そう思って提案してなかった」

「あはは、生娘じゃあるまいし。金払いがいいなら歓迎だよ」


 チューブトップのローブを上にずり上げて、色気を寄せながらやる気を見せてきた。早くも心はロームに飛んでいるらしい。


「む。じゃあ明後日の育成はピブスルーダにして、チシャメコはもう今日の夕方に連れて行くか」

「やった。やっぱり人脈ある人って最高だね。けちな連中とは大違い」


 悪名が拡がって男をたぶらかすのも難しくなってきていたのか、先日までのパーティでは戦利品がなかったらしい。今後を考えて町移動は願ってもないといったところか。


「あとで連れていってもらうまで、ここの衛士さんの前で待っとくよ。じゃあみんな、一足お先っと」


 言うが早いか小走りで輪から離れ、遺跡入り口の階段に腰掛けていそいそと爪を磨きだした。

 今後は家庭教師をしつつロームの冒険者をだます皮算用でもしているのか、ぴんと伸ばした指先をまじまじと眺めてはうすら笑っている。


「ま、いろいろ仕事はあるが交易が一番堅実なのは間違いない。駆け出しを短期で形にしようと思うとどうしても訓練はつらくなるがな」


 輪の方向に向き直って声をかけると、少し元気が戻ったか全員笑顔を作った。


「大変だよなあ。みんながんばってると思うぜ」

「食後の甘味といこうか。蜂蜜を出してくれ、本大陸のやつだ」

「あいよぅ」


 カンターが配り出した蜂蜜を目ざとくみつけて、チシャメコはすぐに戻って来た。


「なになに! おいしそう!」


 他の者は苦笑していたが、この女のこれからを思うと笑顔もはかどるものだ。





 昼からの一狩りが終わり、組合所への帰途についた。


「よくがんばったな。つらかったと思うが、今日一日だけで劇的に変わったはずだ。明後日の狩りのときに実感できるだろう」

「はい、お疲れ様でした」


 ミスドナに続き他の者からも口々に礼の言葉があがる。


「ウェンディも根性を見せた。現時点では一番戦闘力は下だが、これからのがんばり次第だ。目標のためにも明後日も気合を入れて参加してくれ」

「は、はい。もちろんです」

「みんなにも言っておくが職業はあまり考えない。最悪消耗品を使っても利益は充分にあがるからな。全員入れてやりたいが、どうしても最後は四人になる。危機感を持ってがんばってくれ」


 ウェンディは目に見えて思いつめた顔となった。交易の責任者であるミスドナ、戦闘力を褒められていたマクドナとロテーリアは誰の目から見ても安泰に見えるだろう。つまり補欠合格を含めた五名で一枠を争うことになると理解している。

 もっとも、旅の快適を考えるとやはり僧侶は必要不可欠ではあるのだが。


「明日はご指導がありませんし、デトクスを勉強しようと思っています。もう少しでものになりそうな感じはしてますので」

「そうか。デトクスがあれば進行の大きな助けになるな」


 今日一日で魔積値もずいぶんとあがったはずだ。案外あっさり覚える可能性もある。

 だが今は、とってつけたようなアピールの言葉が出たことのほうが狙いどおりだ。





 組合所で解散して次にドリーと合流した。

 遺跡入り口でチシャメコを拾い、注意点を伝えてから遺跡内部へと入る。





「にっが……もうこんな思いしたくないし、絶対ロームに定住しよ」

「……謙虚に地道に励んで、お互い新天地で活躍しましょう」

「何よ。うわさの話なら言っとくけど、私から物を要求したことなんて一回もないよ。毎回、向こうが押し付けるみたいにくれるんだ」


 特に責められたわけでもないがチシャメコは攻撃的な口調でドリーにつっかかった。

 生贄のググレガスは以前に同パーティで、装備盗難にあったと泣くチシャメコに装備一式を贈ったらしい。直後に抜けたチシャメコにはすっかりだまされたと吹聴していることはこの女も知っているようだ。


「ま、納得ずくならそれは男女の贈り物だ」


 実際、本心でもそう思う。取引にせずに下心を隠して善人ぶるようでは、逆手に取られても文句は言えない。


「そうだよ。だまされたとか言うやついるけど、それにしたってだまされるやつが悪いんだ」

「深いねえ」


 たまにはカンターもうまいことを言う。本人は無自覚かもしれないが。


「本当にちょうどよかったよ。しみったれた土地でけちな連中に付き合うのなんて、もうこりごり。都会なロームのほうが私には合ってるって思ってたんだ」

「はは、お前には退屈な町だっただろう」


 吐き捨てたチシャメコをとりなしたところで、前方に青い光が見えてきた。


「着いたぞ。新天地への入り口だ」

「おお、これが地通じの扉。このように神々しい光なんですね」


 先にカンターが入り、続いて二人がおそるおそる飛び込むのを確認してから続いた。







 生贄四人は宿屋で合流させ、夜に飲みにいくまでは待機しておくよう伝えた。

 続いて夜の進行の詳細を伝えにコージー部屋の扉を叩く。


「今日は同時進行なんですね」

「適材適所で引き合わせるのも楽じゃない。部屋の並びはやりやすいようにとってはいる」




 コージーの部屋で待っていると、チシャメコを抱えてカンターが入ってきた。


「顔は見られてないか」

「ばっちりよ」


 麻痺針の傷口を治し、目隠しと口布で縛ってから部屋奥のベッドに寝かせた。


「よし、じゃあとりかかるか」

「デトクス」

「むぐっ、んー」

「む、起きたか。いかん」


 起きたチシャメコにわざとコージーの発言を聞かせ、直後に麻痺針をもう一度刺した。

 続いてコージーは部屋を出て、生贄四人を連れて階下へ向かう。五人が何やら雑談しながら通っていく際、聞き取れないぐらいのコージーの声が聞こえて、部屋の奥を隠せる角度で扉が開いた。

 コージーは扉の目の前のベッドに置いていた小さなかばんを手に取りつつ口を開く。


「仕入れた商品も美味しそうだったでしょう」

「ああ、一回食ってみたかったもんだ」

「売り物だからしょうがないよなあ」

「はは、まさに熟れ頃って感じですよね」


 欲しい言葉が即座に出てきたコージーは相槌を打ちつつ扉を閉めて離れていった。

 だがすぐに急ぎ気味の足音が戻ってきてもう一度扉からコージーが顔を出す。


「言い忘れていた。仕入先と少し打ち合わせをしてくるから、そいつは眠らせておいてくれ」


 もう一度チシャメコにネムリダケをかがせて眠らせると、コージーはこくりとうなずいて再度階下へ向かった。




「都合よくググレガスの発言だったのがよかった」

「あいつらはチシャメコとは違うもんの話をしてたんだよな」

「拙僧どもが昼に到着してから、コージー殿と一緒に卸の店を案内しましてな。こちらの甘み豊かなブドウを食べさせたあと、王家用として最高級の品を目の前で買ったのですぞ」


 チシャメコはコージーの声を知らない。恨みの心当たりがあるググレガスの犯行だと素直に受け取ってくれるだろう。


「ってぇことはチシャメコは……」

「あとで好きにしていいぞ。ブドウも明日夕方までには傷むかもしれんし食ってしまおう」


 当然目隠し必須で、コージー以外は声を出さない条件も念を押した。


「もちろんわかってら」

「まさに熟れ頃。拙僧も食してみたいと思っておりましたぞ」




 飲み屋に行くと、四人はすぐに美味い酒とよいしょに酔いしれた。


「ようやく本大陸での冒険開始だな!」

「メンバーも万全だしな。我々にふさわしい舞台に、やっと辿り着いた感がある」

「そうとも。お前ら四人がメルバランでくすぶっているなど、国の損失だ」

「やっぱりオズバルドさんはわかってるなぁ!」


 がばがばに緩んだ口角からこぼしながら酒をかっくらい、すぐに四人はへべれけになった。

 ネムリダケも不要かと思うほどだったが、念のために最後の一押しはたっぷりと眠りの毒を盛る。

 宿屋に着く頃には全員まっすぐ歩けないようだったが、しっかりと鍵をかけるように伝えて部屋に押し込んだ。


「さて、四人は少しだけ時間を置くか」


 先にチシャメコの売却から終わらせることにして、馬車内と口布ありの部屋とで多数決をとる。


「コージーのやすり芸が見てえから馬車だな」

「やすりをあてながら凄む勇姿、拙僧も熱望しますぞ」

「伝説のやすり、相手は黙る」

「吹き出しそうになるんでそういうのやめてください」




 前回と同じく街道から見えにくい位置に馬車を止めた


「デトクス」

「……ん、むぐ、ん――」

「騒いだり暴れたりするようなら、殺します」


 首元に金属の冷たさを感じたチシャメコは、すぐに身を固くさせて黙り込んだ。

 先ほどは嫌々ながらの雰囲気を出していたコージーだが、今は細身の刺突剣を構える体勢でこちらにきりりとした顔を向けてくる。

 俺たちのこらえ方に完全勝利を確信したコージーは、ゆっくりと立ち上がって演技を続けた。


「初物でもないですからね。好きにしていいですよ」


 弱化ポーションを手渡してカンターとロウガイを目線で促し、腰掛けてブドウを手に取った。飲んだあとにデトクスを受けると、なぜか喉が乾いていけない。

 大粒のブドウだが張りと柔らかさは絶妙だ。淡い緑の薄皮をむくと透明感のある果肉が弾けるようにその姿を現した。

 次々と口に放り入れつつ様相が変わっていくのを眺める。怒りと罵倒、悔しさと苦悶、戸惑いと懇願を経て、最終的にはすっかりチシャメコは従順になった。この様子なら新天地での生活も実り多きものとなるだろう。

 指導の成果を一つ一つ確認するかのように問いかけ、愛弟子の卒業式は終わりを迎えた。



 前回と同様、カンターを使いに出してビレソンを呼びつけた。

 待っている間に取引役のコージーに一芝居を入れるよう伝える。


「上玉だからと少し値段でごねてみてくれ。次の取引は本人に来てもらわねば、計画の修正が少しつらいかもしれん」




 やはり今回もビレソンは部下をよこしたが、打ち合わせどおりに話を進めた成果を察知させる言葉が部下の口から出る。


「次は他の仲買人と競りになるんだよな」

「そうです」

「一人一人か」

「いえ、三十一人まとめ売りです」

「……わかったよ」


 馬車を見送りながら、さっきの交渉の感触を確かめるようにコージーが口を開く。


「次は来ますかね」

「わからん。普段から口布で人相が見えない部下は都合が悪い。裏付けさせられなければ、もう一工夫することも考えている」


 部下に任せて三十一人を買い逃してはいけない、そのようにビレソンが考えてくれればいいのだが。




 宿屋に戻ってからは今日の主目的に着手した。

 念のために麻痺針も各自準備してカンターに開けさせたが、生贄四人は気持ちよく熟睡していた。

 改めて深く眠らせ、肌着以外の全てを回収していく。


「まぬけなツラしてんなあ」

「本当にな。明日は連中が俺たちを起こしに来る。それまで寝ててもいいぞ」

「はは、お疲れ様です。僕は荷物移動ともう一仕事を」

「すまんな。だがうまくいけば、極上のタイツなのは約束しよう」

「はっ、それで僕の欲望方向に餌を吊ったつもりですか?」


 言いながら、拭いていた眼鏡を上下逆にかけなおして早足で去っていった。

 徐々にコージーも遊び心が出てくるようになったものだ。






 翌朝は扉を叩く音で目が覚めた。


「おはよう。そんな格好でどうした」

「オズバルドさん! 盗みに入られた!」

「なんだと。お前たちの部屋にか?」

「そ、そうなんだ。起きたら何もかも……」


 慌てたふりをして宿屋の主人に尋ねるも、そもそもこの宿は呼び鈴をならすまで人が出てこない。

 当然のように主人はお気の毒様といった顔をするだけだった。


 古着をカンターに調達させて、俺たちの部屋に再集合する。


「かんぬきがない宿屋だと注意していた。まさか鍵が開けられるどころか、身ぐるみ全部盗まれても誰も目を覚まさないとは……」

「あ、あんたが飲め飲めって……」

「まさか、俺のせいだと言いたいのか?」

「い、いや、そうは言ってない」

「普通は深酒したらデトクスをもらう。僧侶も様子を見てかけてやるぐらいは、冒険者の危機管理として当然だ」


 今度は眉間をつまんで無言を決め込んだ。ドリーはうつむいて何も言えなくなっている。


「職と人数は揃ってるし、稼いでまた揃えたい。贅沢は言わんので何か装備を貸してもらいたい」

「……慈善事業じゃないんだぞ。俺たちも装備の新調が急務なのに貸せるわけがないだろう」

「し、しかし裸でいったいどうしろって――」

「手紙を預ろう。家族が出すと言うなら金を運ぶだけはやってやる」


 だがもともと身寄りがない四人で固めている。誰一人あてもなく、あとは懇願するだけの不毛な繰り返しとなった。


「俺とて痛い。王からの信頼も地に落ちるだろう……昨日の酒宴もお前らの今着ている服も……はぁ、無駄な出費とはこのことだ」

「残る手段は一つですな」

「そ、それは一体」

「自主的に勇者召還をするといいでしょう。幸いローム王家は精鋭部隊を持っており、軍務に集中させるために金払いはいいようですぞ」

「しかも鍛えられるときた。復帰のときにも無駄にはならねえな」


 冒険者廃業を意味する単語に肩を落とす四人だが、他に道もないと悟って静かになった。


「ドリー殿だけは教会を頼るという手もありますが、どうなさいますかな」

「四人で行動を共にすると決めました。私も軍に参ります」

「そうか。四人揃って復帰する日を楽しみにしている……また会おう」







「精鋭軍は国の機密に触れる部隊だ。俺の名前を出すとメルバラン王家のひも付きかと警戒されて、くだらん仕事につけられる可能性もある。精鋭部隊に入るつもりなら気をつけろ。ではな」


 町役場で紹介された王宮外壁の衛士詰め所に連れて行き、離れたところで少し様子をうかがった。



「中に通されてったな」


 予想はしていたが、召還手続きは即座に行われるようだ。


「檻に入った獲物……いや、獲物に食いつかせた餌ですかな?」

「それぞれが、ふさわしい場所に収まったということだ」


 がらがらと大きな音を立てて門扉は閉まり、残響は無慈悲さをもって耳にこびりついた。


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