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商い

前話

ロームの歴史話

「一昨日あれから作ってみました。持っていってください」


 夜が明けないうちから出発準備に取りかかる中、コージーはさっそく製作を終えていた鉄の爪を渡してきた。


「いいじゃないか。ザフスタの品にも負けてないぞ」

「はは、使わせてみて何か変更希望がありそうなら教えてください」






 宿屋を出てメルバランまでの道中は一昨日の戦果報告を聞いた。


「飲んだ二人が表にぴったりだぜ。あにきも文句ねえはずだ」

「冒険者としては新人の姉妹でしてな。商人の姉がミスドナ、武闘家の妹がマクドナといいますぞ」

「すぐに喰えるか」

「二人ともお高くねえしばっちりよ。昨日が朝はええから連れてかなかったが、宿屋に来たいっつってたからな」


 話が早いのはいいことだが、合格後は性的な意味でのホトトギスでしたとなっても旨味がない。

 餌用パーティ四人の存在をちらつかせ、育成期間は本採用だと告げずに文字通り体を張らせてみるか。


「大手商家の四女と五女でしてな。加入出来るようなら仕入れ値も融通してくれるそうですぞ」


 ピンクペッパーやティーツリーオイルは仕入れ値が安くそこまで大きなメリットでもない。だが生粋の商人なら交易を任せるのも不安はないか。

 聞けば稼ぐのも浪費するのも派手な一家らしい。


「ロームの物品に味をしめて、ゆくゆくは直接商いたいといったところか」

「おそらくは。四女と五女は以前からローム交易を考えて鍛えていたそうです」


 逆に、家も娘二人を後押しするということか。話に聞くような商売っ気があるなら、二年もただ使われる側に甘んじるとは考えづらい。


「……その大手商会とやらが扱う商品を知っているか」

「手広いっつってたな。食いもんメインだが家具とか農具の店もあるらしいぜ」

「他は」

「家の売り買いも――」

「他は」

「そう言えば王家御用達の宝石商も一族の店だったと思いますぞ」

「それだ。宝石は盲点だったな」

「なにがだ」

「指定の物品を運びつつ、かさばらない宝石を個人でこっそりと商うつもりだろう」


 もちろん何も考えてない可能性もあるが、大手商会を切り盛りする才覚の一家なら当然狙ってくるところだ。

 荷物にならず国によって産出する種類が異なるとくれば、上納金逃れができる交易品として最適のはずだ。


「そう言えばオパールはメルバラン大陸でしか取れないと聞きます。ロームでは高く売れそうですな」

「ロームだと緑色のガーネットが有名だな。稀少石も種類はあんぜ」

「原石で仕入れて実家で加工するのも美味しいか」


 宝石は一つあたりの利幅が大きい反面、二日に一回ペースで大量に持ち込んでもさばけない。持ち込める量が限られる陰の商いには、ぴたりとはまるだろう。



「ってこたぁ……不合格なんかね」


 早合点したカンターはがっくりと肩を落としている。どうせ狙った獲物を逃すことになると勘違いしているのだろうが、これでは昨日の零点の教訓がまったく活かされていない。


「逆だ。むしろ狙いがはっきりしているのは好都合だろう」

「どういうこと」

「宝石利益の上納金を取ることもできるが、黙認と引き換えに言うことを聞かせるほうがいいか。まあ面接の流れ次第で決める」

「これも『相手の欲望を見極める』ということですな」

「そういうことだ」

「つっても二人とも楽勝でヤれるぜ」

「従順なほど、そこからさらにいい使い方ができる。手駒が多くて困るものではない」


 もともと交易はカタギアピールが主目的だ。

 そこまでたいした額でもない上納金をむしってへそを曲げられるより、飴を与えて有効利用していくほうが有意義だろう。







 先に王宮で売荷を下ろして組合所へ向かった。敷地にはすでに大勢が用紙を手に待ち構えている。


「募集主のオズバルドだ。大勢集まってくれたことに感謝する。さっそく今日の注意点を――」


 説明しながらざっと見渡して数えたところ六十人は超えていた。

 そのうち女は二十人。表裏で六人予定だがそれなりに選り好みが出来そうではある。


「――では記入済みの用紙を俺に持って来てくれ。手渡すときに装備が見えるよう、目の前で一回りしてくれるとありがたい」


 居並ぶ希望者たちから紙を受け取っては、メモ書きを走らせてカンターとロウガイに手渡していく。

 話にあがったミスドナとマクドナも姉妹揃って並んでいた。

 ミスドナはゆるめのターバンと肩口で巻いた髪をしていて、いかにも金回りのいい商人といった装いだ。下着と面積の変わらない胸当、アバス風の透けた腰布は話に聞いたとおりの意欲を前面に押し出してきている。

 色気のある視線を残しながらくるりと周ったあと、甘いほほえみと共に一礼して列を離れた。

 やや華奢なのが気になるところだが、直後のマクドナはそれを完全に払拭した。

 長い髪が背の高さをより際立たせている。姉と同じく胸元は豊かだが、腕・腹・脚は筋肉で引き締まり、冒険者としてもかなりの素材だ。

 端正な体つきと顔立ちだが、一回転したあとは無邪気さを思わせる笑顔を見せた。

 二人とも決まりでいいだろう。カンターの自信とがっかり顔にも納得だ。


「では一次選考に入る。二年間の交易にどう貢献できるかという点を重視するつもりだ。二階の貸し切り部屋は最中、立ち入り禁止で頼む。結果が出たら二次選考方法と併せて掲示板に貼っておく」


 総勢六十七人の用紙を受け取り終えて、熱い視線を背中に受けながら二階への階段を登った。





「もうちょい来るかと思ってたんだがな」


 椅子に腰掛けながらカンターが紙を放り投げた。

 自分が受け取った用紙が検討の価値なし組だと、見ていて察しがついていたらしい。


「生贄四人、交易四人、裏二人か三人予定だが、ロウガイに渡した用紙は何枚だ」

「拙僧が受け取ったほうは四十枚ですな。こちらは全員面接でいいのですかな」

「そうだ。知っておいたほうがいい情報がある者は先に教えてくれ」

「チシャメコって女魔法使いはたちがわりいらしいぜ。装備盗まれたってふかして、貢がせたあとはポイなんだとよ」

「男僧侶のドリーは教会魔法に関しては熟練者ですぞ。国営牧場に勤めているはずです」


 他の者は面接と用紙からの情報となりそうだ。

 そしてやはり交易パーティの僧侶が悩ましいところとなった。


「器量と年齢でウェンディという者の一択ですなあ」

「お堅そうだったのがねえ。喰えねえなら裏がいいんじゃね」

「とりあえずウェンディとドリーを真っ先に面接するか。それ次第で他の選考も左右する可能性はある」


 一次合格者四十名の名前と順番を記し、カンターに掲示を頼む。


「ウェンディはそのまま連れてきてくれ」

「へぇい」




 ほどなくして扉が開き、カンターにうながされておずおずとウェンディが入ってきた。


「ウェンディと申します。戦闘経験は多くありませんが、よろしくお願いいたします」


 器量だけならまったく申し分がない。

 輝くような金髪、深みのある眼差し、薄い唇とすべてが洗練された美人といった印象だ。

 だが装備と用紙の習得魔法欄に目を向けると、冒険者としては駆け出しどころか生まれたてだとわかる。


「魔法はヒール、ウォッシュ、ファストムーヴの三つか」

「はい。申し訳ありません……」

「いやいや、募集文にあるとおり現時点の強さは重視しない」


 とは言ったものの、本業部分をおろそかにしすぎると育てる期間が長くなりすぎてしまう。

 できればミスドナと二人がかりですぐに一体を仕留められるぐらいの攻撃力が欲しいが、この細腕ではいい武器を持たせても直接攻撃は期待できなさそうだ。

 かなりいい値段がつきそうでもあり、無理せず裏で売り払うほうが無難だろうか。


「ちなみに今の仕事は」

「テルファ南町にある実家の教会で家事手伝いをしています。より多くの困っている方を支えるためにも、僧侶として精進したいと思っています」


 雰囲気と同様、応募の動機もなかなかに堅物感を出してきた。


「それと……冒険者の幼馴染がロームに旅立って半年になるんです。三ヶ月前からどの町の順位表にも載ってなくて……」

「探しに行きたいということですかな」

「はい。もちろん仕事は二年間しっかりやります。今は役立たずですが……本当に、やる気だけしかないんですけど……精一杯がんばりますので!」


 膝の上に持っている木製の杖を握りしめて、ウェンディは頭を下げた体勢で止まった。


「なるほど。いや熱意は伝わった。幼馴染とは特別な仲ということか」

「はい……結婚の約束をしてました。式と贈り物のために、どうしても稼ぎたいと言って……きっと無理をしすぎたんだと思います」


 少しだけ顔を上げたウェンディの目元に涙が光った。

 冒険者が無理をしすぎたときは死ぬときだ。だが死んだとは思いたくない意地もあるのだろう。

 おそらく今まで冒険者になることなど考えてもなかっただろうに、この短い期間で応募に踏み切ったあたりはかなりの決意と行動力を感じさせる。


「とりあえず二次選考は合格だ。あとでまた最終選考について説明するから待機しておいてくれ」


 途端にウェンディは顔を上げて、見開いた目をまっすぐに向けてきた。


「え、本当ですか?」

「ああ、最終選考は実際に育成に入る。そこで様子を見てから判断したい」


 自分でも冒険者としての魅力が何もないことはわかっているのだろう。となると選ぶ理由がなければ怪しまれる可能性もあるか。


「実は前情報がある有力な三人が年若い女性でな。四人部屋で泊まるとなれば、男や年配者が入っては仕事もやりにくいだろう」


 他の女僧侶はいずれも年配の者ばかりだった。それもわかっているウェンディは大きくうなずきながら話を聴いている。


「ロームは危険な町で、単独で出歩いたりなどは厳禁だ。四人で何でも行動を共にしていく必要がある。連帯行動に不安はないか」

「大丈夫です。神の教えに従って他の方を尊重し、協調性を持つことをこころがけています」


 話した内容を他の者に言わないよう釘を刺してウェンディの面接を終えた。

 笑顔で何度も礼をして、やっと部屋を出て行ったところでカンターが口を開く。


「身持ちが固いのは裏って言ってたが、そっちの話はなかったな。あいつが交易の僧侶でいいんかね」

「ロームに行きたがっておりますし、裏役で連れていくのは簡単そうですがな」

「俺も最初は裏だと思った。だがこれも欲望を見極めて操るための訓練だ」


 交易パーティはそれなりに時間をかけられる。一見難しそうなことを何とかする練習台にはちょうどいいだろう。


「なんとかなるだろう。それにコージーがタイツを破けないのでは、交易を発案したかいがないからな」

「へへっ、了解だぜ」

「じゃあ次は生贄候補のドリーだ」



 こちらは魔法の習得数も優秀で体もかなり鍛えていた。


「馬術訓練者や家畜の怪我治療の繰り返しに張り合いをなくしたと言いますか……やりがいのあることをしたいとずっと思っていました。ですが無鉄砲な者と組んで無駄に命を散らしたくもなく、二の足を踏んでおりました」


 パーティの安全を管理するべき僧侶としては望ましい気質だ。

 まともな三人と組めば、ロームより先へも問題なく進出していけるだろう。もちろんそれを補助するつもりはないが。


「なるほど。実は今回、育成の必要がないような即戦力もけっこう集まっていてな」

「ああ、オズバルドさんパーティの空きを狙う方たちですね。同時に探しているという噂は本当なのでしょうか」

「いやいや、俺たちの四人目はもう別で決まっている。だがメルバランの冒険者に、今以上の活躍をしてもらうことは王家の意向でもある」

「あとは僧侶がいれば、いつでも本大陸でやっていける者が集まっておりますからなあ」


 即戦力四人を本大陸側で数日指導して、問題なさそうであれば活動開始してもらう計画を説明すると、ドリーは不安が先に立っている様子だった。


「その数日の指導中に私からお断りさせていただくようなことがあっても――」

「もちろん尊重するし、その場合は交易パーティに加入させることも検討しよう。だが慎重さについては入念に指導するし、リーダーも俺が決める。心配は不要だ」

「ああ、ならばぜひお願いします」


 前衛にはリーダー気質が多く、ボンクラなリーダーに振り回される後衛の苦労話は絶えない。

 もともとの懸念点でもあった部分が問題ないとわかってドリーは安心した雰囲気となった。


「はは、心配しすぎもいけませんぞ。くそリーダーの無理な進行で命を失くすなど、たいていは冒険者志望をいさめるための話ですからな」

「現時点では即戦力パーティのリーダー候補一番手だ。今の内容は口外無用で頼む。では次の掲示まで待機してくれるか」

「はい、よろしくご指導お願いします!」





 ドリー以降も生贄パーティ候補を面接した。

 全員、俺たちのパーティの補充は考えてないことを聞いてがっかりし、次に即戦力パーティの話をすると目を輝かせる流れが定番となる。




「ググレガス、クルブシ、コルボッフ、ドリーの四人で生贄パーティは決定ですかな」

「なかなか美味しそうに仕上がったな」


 都合よく身寄りなしの恵体四人が揃った。確実にローム王家も食いついてくるだろう。


「ここから交易と裏の選考を再開する。次はロテーリアを呼んでくれ」

「おれもあいつがいいと思ってたぜ」

「ウェンディほどではありませんが、お堅そうな雰囲気でしたなあ」




 入ってきた女戦士はかしこまった一礼をした。


「ロテーリアです。父も兄も軍所属で、家族に鍛えられました」


 女だてらに体格がよく大人びた顔つきをしているが、成人したばかりらしい。


「二年間経ったあとの予定はあるか」

「冒険者を続けるつもりです」

「四人で行動を共にするが、そこについて不安や質問などはないか」

「問題ありません」


 淡々とした性格と話し方で、都合よく扱えそうかどうかは今ひとつ見えてこない。

 愛想はいまいちだが器量はなかなかだ。だがウェンディとミスドナの非力さを考えると最後の一人は戦闘力を重視したい。


「ちょっと剣を振ってもらってもいいだろうか」

「はい」


 素振りどころか軽い手合わせもできそうな広さの部屋は都合がよかった。

 ロテーリアはもう一度こちらに一礼をしてから演武形式で剣を振り始めたが、風を斬る音の鋭さで完全に不安は解消された。


「ありがとう。もう大丈夫だ」


 律儀にもう一度礼をしたあと、ロテーリアはおもむろに服をたくし上げて割れた腹筋を見せてきた。


「鍛えてます。よろしくお願いします」


 同じように二次選考合格と待機を伝えて次はミスドナを呼んだ。




「実家が大手商家なのに冒険者志望なのか。普通は人を使うと思うが」

「ええ。どうせ家だと下働きですから」


 身の上を聞くと、上の兄姉とは腹違いだという。愛人として囲われていた母が亡くなり父に引き取られたが、父以外はあまりよくはしてくれないらしい。

 このあたりは聞いていた話とはやや違うようだが、姉妹共に立身の意欲が充分だというのは好材料か。


「戦闘についてはまだまだですけど、指導していただく皆さんの言うこと、何でもよく聞いてがんばるつもりです。色んなこと、教えてくださいね」


 語尾は少しだけ首を横に傾けた。

 あざとく見えるようでは真面目な者には逆効果だが、おそらくカンターとロウガイの物欲しそうな雰囲気で直球が一番だと判断しているのだろう。

 こちらとしても話が早いのは好都合だ。


「隠れて個人的に商うとしたらどんな品がいいか、もう目星はつけているのか」

「え、と、そんなことは――」

「考えてくるぐらいのほうが安心して任せられるんだがな。読まれた腹は割って話すのが商人だろう」


 ミスドナは軽く目を閉じて息を吐いたが、すぐに笑いながら観念したように計画を話す。


「こほん……かないませんね。木細工と宝石を考えてました」


 後者はオパールのイアリングを指差しながら言った。どうやら予想は半分だけ当たっていたらしい。


「宝石は予想していたが、木細工とはどのような品だ」

「はい。勇者様の紋章をかたどった、室内に飾るアミュレットです」

「その手のもんはロームでもあふれてんぜ」


 メルバランでも勇者の加護にあやかった紋章のアミュレットや表札は定番の品だ。


「ふふ、二点ほど特別な点がありまして」


 ミスドナはいたずらっぽく笑いつつ、指二本を立てた手の甲を見せる。


「まず材料です。勇者邸でお使いの家具同等品の新品を寄贈して、引き取ったお古から切り出して作成します」


 お礼を言いながら満面の阿呆面で新品を受け取るじじいとアマルダが頭に浮かんだ。この点については失敗することはないだろう。


「うーむ、うさんくさい売り文句と思われませんかな」

「そこで二点目か。両王家認定交易の看板で、でまかせではないと証明するつもりだろう」

「そのとおりです。値段は手探りですがその点もご指導ください」


 聞けば発案は実家ではなくミスドナらしい。どの町にも熱狂的な勇者信者はいるが、ロームはメルバランより金回りがいい。

 本当に価値が出るのはレオが魔王討伐を成し遂げてからだろうが、それを見越して先に買っておきたい層は多いはずだ。

 時勢と土地柄を考えると、おそらく木細工の値段ではなく高級工芸品として売れるだろう。


「しかしそれなら――」

「はい。木細工については相談するつもりでした」


 逆に言うと宝石は隠れて商うつもりだったということだが、ずいぶんとぶちあけたものだ。


「ぶっちゃけましたなあ」

「まったくだ。両方とも報告予定だったとは言わないのか」

「宝石まで予想する方には逆効果だと思います。それに上納金があっても構いません。毎日こつこつとやっていきます」


 商人の「かないません」と「まいりました」は言わば常套手段だ。すべて手の内を見せています、あなたの思いのままにとみせて、こっそりと儲けは確保している。

 今のミスドナも最奥にある儲けのからくりに気づかせないよう、早めに強欲を諦めたふりをしているのは明白だ。だがこのしたたかさも、裏を返せば有能な人材とも言えるか。


「二次選考は合格だ。育成期間で問題ないと判断できたら交易パーティのリーダーはお前にする」

「よかったよかった。よろしく頼むぜ」

「適役だと思いますぞ」

「うふふ、責任重大ですね。ゆっくり打ち合わせ、させてくださいね」


 この姉妹を軸に、もう二人はロテーリアとウェンディで問題はないか。

 残り二人を嫌気なく流していくためには姉妹対ロテーリア、その次に三人対ウェンディの状況を作る必要がある。

ならば妹が姉と歩調を合わせるのかどうかもしっかり確認が必要だ。


「マクドナも呼んできてくれ。一緒に話をしよう」

「へぇい」



「えへへ。私ももう合格だなんて、さすがお姉ちゃんだね」


 端正な顔立ちのマクドナだが、話してみると姉にべったりの甘え屋のようだ。

 見た目と性格が一致しないのは姉妹の共通点らしい。


「父の装備援助があるなら戦士が有利だったと思うが、武闘家にした理由はあるのか」

「軽装備のほうが売荷をいっぱい持てるからってお姉ちゃんに言われました。頭は全然ですけど、体は丈夫ですし鍛えてます!」


 この発言だけで姉の商売根性がよりはっきりと、そして姉妹の関係性も見えた。

 ミスドナから自分で何も決められない性格と紹介されている間も、満足そうににやけている。


「本当に何も知らない子で……お恥ずかしいです。よろしくご指導、お願いします」

「任しとき。ばっちり面倒見るからよ」

「はっは、拙僧も一肌脱ぎますぞ」


 有頂天とはこんな様相のことを言ったか。これではどっちが獲物かわかったものではない。

 だがこの姉妹の身を張った商魂と器量は、餌役として使えば悪事の幅を広げる。

 娼婦代の節約程度に考えていたが、これは思わぬ手駒となりそうだ。


「将来、自分で店を持つつもりはあるのか」

「もちろんです」

「そうか。今日はいい日になったものだ」

「まあ。それなら夜はお祝いしたいですね」





 四十人分の面接は終わり、最終選考へ進む者の名前は掲示し終えた。


「全員分の予定表は書き終わりましたぞ。確認をお願いします」

「ええと、この五人は全員裏にすんのかね」

「裏はチシャメコ、フォコパ、ピブスルーダだな。残り二人は補欠合格とだけ言って実際には連絡はしない」

「ウェンディとロテーリアの献身をあおる当て馬ということでございましょう」

「そういうことだ」

「ミスドナにリーダーさせんだし、あいつから言わせりゃ王様と奴隷ゲームぐらいすぐさせられるんじゃねえの」


 あのゲームに対する絶大な信頼はどこから来るのだろうか。

 基本編も頭からすっかり飛んでいるように見える。


「言われてさせられれば義務になる。最初は遠ざけるぐらいでちょうどいい」

「ふぅん。じゃとりあえずミスドナからは何もさせねえし、それで上納金も取るってことかい」


 そう言えばさっきの流れの中では、木細工も宝石も上納金を取らないとは言及してなかったか。


「いや、宝石も木細工も好きにさせるつもりだ。上納金は取らない」

「ふむ。積み重なるとそこそこの額になってきませんかな」


 直後に昼二回目の鐘がなり、すぐに扉を叩く音が聞こえた。


「あとで話すか。カンター、開けてやってくれ」


 集まった十三人に仮合格である点、育成と指導の期間次第で今後を決めていく点、それぞれに渡した予定表の流れで進めていく点を説明した。


「交易パーティのリーダーはミスドナ予定だ。あとで姉妹揃って宿屋に来てくれ。仕入れの相談といこう。他は解散で構わない」

「はい。皆さんもお疲れ様でした」


 早くもミスドナはこちら側の空気を出している。

 先に退出する際、ちらりと見たロテーリアとウェンディはミスドナに挨拶をしていた。



 宿屋までの道中、さっそくカンターが話を再開させる。


「上納金の話だが、なんでとらねえんだ」

「仕入れか卸で必ずミスドナの実家が絡む。薄っぺらにされた利益から割合で納めさせても、たいした額にはならんからな」

「む……それはたしかに……」

「何言ってるかわかんねえ」


 悪人ならばこのぐらいの説明で意を得て欲しいものだが。


「木細工とオパールをばか高い値段で仕入れ、逆にガーネットは仕入れ値同然の価格で卸す。ミスドナの利益はほとんど出ないため上納金も少ない。だが父親は大儲けだ。ミスドナはあとで父から金をもらえばいい」

「考えてみれば、報告してない取引がないかローム側の店の記録を追うのも、けっこうな手間ですからなあ」

「なるほどねえ」

「実際はあまり露骨にはせんだろうが、どうせきっちり納めさせるのは無理な性質の金だ。気前よくくれてやろう」


 商人は損して得とれ、だ。

 今は体目当てだけと思わせておけばいい。


「そうだな。十パーずつぐらいで区切って、お前らの好きな拙僧ゲームの賞品にしてもいいぞ」

「楽しそう」


 少し先になるが、メルバランを離れられるようになってからがあの四人の本当の使いどころだ。

 王家と貴族が味方についたあとなら、ローム一の大商会すら取って代わることも可能だろう。


「楽しくなりそうだな」

「へへっ、ほんとにな」



9000字超えてるんですが、二話に区切るほどでもなく……


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