仕組み
前話
メシューマ子爵に恩を売る
「どうして俺たちが王家や貴族のご機嫌をとる必要があるか、教えておこう」
レオを追う旅は悪事だけでは成立しない。
旅の進行を計画する際にも、真っ先に懸念事項として考えてもらう必要がある。
「以前、レオパーティはどうやってお前のアジトを突き止めたかわかるか」
「質屋からって言ってたな。ってことは見せた名義札で身バレして、連絡がまわったってことか」
世界で統一された規格の名義札は固有の識別番号と名前が彫られており、一般人でも冒険者でも必ず持っている。
犯罪者情報がまわった際の抜き打ち検問、町役場の手続き、教会での魔法治療、武器屋での購入、質屋での売却、冒険者組合と組合の宿屋の利用など、提示を求められる機会は多い。
「そうだ。国同士は地通じの扉でわずかではあるが物品移動をしている。そのときに犯罪者名や冒険者名の情報もやり取りされ、衛士や冒険者組合にまわることになる」
「それはわかるぜ。だからこいつを殺して名義を奪ったんだよな」
カンターが「カントハルフ」と銘されたゴル金属製の小さな名義札をつまんでみせる。
パーティ結成直後にザフスタの冒険者組合所で知り合った男から奪った札だ。
人前で口が滑る可能性を考えて、もともとカンターは奪った名義の呼び方に変えようとは思っていた。だが偶然にも奪った名前の愛称で違和感がなかったため、今でも仲間内ではカンターと呼んでいる。
「いや、悪事がばれちゃいけねえってのはわかってるがよ。何もご機嫌取りまではしなくてもってことさ」
「少し話がそれるが、一般人と冒険者の違いはわかるか」
「そらあ、冒険者組合で登録したかしてないかじゃねえの」
「登録したあとだ」
「……わかんねえ」
建前上は冒険者登録をする盗賊もいるが、カンターはそうではなかったようだ。
今の名義札も奪ったものとくれば、登録時の説明事項は知らなくて当然か。
「税金だ。一般人はまず人頭税といって年齢に応じた税金がある。それと仕事の報告が義務化されていて、その仕事に応じた収入税というのもある」
「言われてみりゃあそうだな」
「冒険者は定住しないのが当たり前だから税金はない。登録時だけ一年分の人頭税と同価格の登録料があるだけだ。ここまではいいか」
「把握ちゃん」
「だが一般人が冒険者になるということは、国にしてみれば人頭税と収入税が減るということだ。なぜ国はそれを阻止しないと思う」
「ええと、ゴル金属やモンスター素材を買い取りてえからだろ」
「それもあるがモンスター討伐なら軍もやっている」
「じゃあわかんねえ」
すねた様子で口先をとがらせて言うが、まったく可愛らしくはない。
「……冒険者組合ではゴル金属や素材買取時に組合料が天引きされている。その中から冒険者登録した出身地の国に支払われる取り分がある。モンスターが弱くゴルが少ない国からすれば、より強い国で活動できる冒険者は一般人の何倍、者によっては数十倍以上のゴルを出身地にもたらす」
言ってみれば出稼ぎだ。モンスターが強い国にしても、よその国から自国で狩りをしに来てくれる者が増えるならこれに勝る話もない。
「だがこの仕組みを利用し、冒険者登録をして税金逃れをする者がいる。その気もないのに冒険者になることを皮肉って『街勇者』とか『勇者様』と呼ぶ」
「ははっ、どっちもゲスには変わりねぇな」
商売で一山あてた者があとは蓄財で暮らしていこうなどと考えて実行することが多いようだ。
八年前までは数十年以上も勇者の神託が降りなかったため、本来の意味はおとぎ話だけとなり、勇者と言えば税金逃れか大怪我などで活動できなくなった冒険者のことを指していたらしい。
「当然、国としては無活動の冒険者は取り締まりたい。そこで『勇者召還』だ」
「カタギの世界に帰ってこいやってことか」
「そうだ。冒険者組合の記録は出身地に送られるため、一年経って人頭税と平均的な収入税以上をもたらせていない者は召還警告リストに載る。対象者を見つけた国はまずは穏やかな警告をする」
「警告ってえと」
「一般民登録をして紹介される職に就くように言われる。出身地と別の国で召還された場合、十年間は納めた税金が召還国と出身国で折半となるらしい」
かつて俺の父も剣を振れなくなり、メルバランで自主的な勇者召還をしたことを思い返す。
「仕事はどんなだ」
「必要不人気職だな。若い男なら軍、年配ならそれ以外の肉体労働、女も下働きが主だ」
「それも無視したらどうなるよ」
「一般的に公開されてないことと、一回目が穏やかな警告なんで甘く見る者はそれなりにいるらしい。だが召還に従わず、改善もしてなければ二回目は容赦ない。次は『勇者償還』だ」
償還とは借金を清算することだが、その単語は知らないとカンターはしゃくれた顔で意思表示した。
「税を免除される以上、それを超える利益を国にもたらすことは冒険者の義務だ。だが警告をしても達成できない・従わない者は身柄を差し押さえて体で払ってもらうということだ。そのときになって貯金から払いますなどと言っても一切聞き入れられず、財産すべて取り上げられた上で作業牢獄に入れられる」
一般人でも税金を納めない者には作業牢獄が待っている。日中は石材の作成などの重労働、日没を過ぎると麦の脱穀機を回したり縄を編んだりさせられるようだ。
「まじかよ、聞いた事ねえぜ」
「登録時の注意で伝えられるのは『強制的な措置を取ることがあります』という一言だけですからなあ」
おおっぴらにすると、条件を満たしてしまった者は一足早く街の生活を捨てて野盗やヤクザの手下入りをするのを見越しているのだろう。
仕留めるときは不意の一撃で、と考えるのは国も一緒らしい。
「ところで話が戻るがよ、身内がいねえノーキンはともかく、メンブレンが国に記録を調べてくれって泣きついたらメンホーらが教会とか武器屋を利用してないってわかっちまうんじゃねえの?」
「召還者・犯罪者リストに名前が載って出回って、初めて武器屋や教会は国に『対象者が来た』と報告する。普通に狩りをしていた連中が載ることはない」
「そうかい」
「もう一つ余談だ。女の街勇者で器量がいい者は、ロームやアバスなどのでかい国だと国営の娼館に沈められる。その者を指名すると『勇者娼館』コースがあるらしい」
「どんなプレイなんでえ」
「勇者として各職の女冒険者を陵辱できるのが売りでな。僧侶と賢者が人気らしい」
「なっ……あっ……」
一貫して耳だけを傾けていたが、そのときコージーに電流が走った。
「話がそれた。つまり冒険者は国の枠組みの外にいるようで、実際は複数の国の管理下に置かれているようなものだ。旅で必要不可欠な施設において名義を照会されるのだからな」
「お、おう、わかるんだがよ。俺らは買取だって出すし商売も報告すんだろ。悪事がばれなきゃいいだけの話じゃねえの」
じれ気味になったカンターが手を広げて三回目の質問をしてきた。
「長い説明ですまんな。言いたいことは国は冒険者を強制的に拘留できる強大な存在だということだ。悪事を実際にしたかしてないか、見られたか見られてないかも極端な話、まったく関係ない。王や貴族が『あいつは気に入らない』と思えばそれだけで冒険者は身の破滅だ」
「さようですぞ。犯罪者とでも償還者とでもでっち上げて、ただぶち込めばよいだけですからな。逃げられたら他国に悪意のある情報を流せば行った先でお縄です」
冒険者は組合、宿屋、武器屋を利用せず活動することは困難だ。つまり生命線を握られていると言っていい。
「むちゃくちゃじゃねえか。権力には逆らわねえほうがいいってことか」
「違うな。逆らえないから権力と言う」
過去の魔王討伐実績や教会と民の信仰対象ともあって、レオは王家相手であっても強気に出られる。
だが俺たちはそうではない。世界には公平も公正も存在しないとよく理解することは必須だ。
もっとも王の勅令状を盾にして何もかもを奪われた俺は、すでに失敗した身ではあるが。
「逆に王や貴族に気に入られた場合、利点は計り知れない。たとえ悪事が明るみに出て追われたとしても、その国に戻って『無実です』と言えばいい。それを受け入れてもらえるだけの信頼か利用価値があれば、まったく問題なく生きていける」
一国一城の主が保護すると決めればそれは絶対だ。俺たちは細心の注意を払って復讐と悪事を進めるつもりだが、それがばれて明るみに出る可能性も考えておく必要がある。
「それと俺たちの旅の目的を考えると、積極的に王家の協力を得る必要もある。魔王討伐局面に追いつき、最終的な準備と装備を用意するためにもな。では一番いい装備とは何か」
「マゾナスってところに売ってるんじゃね」
「マゾナスで作れるという点は正解だ。だが売ってはいない」
「じゃあどうする」
「材料を渡して作ってもらうしかない。マゾナス王家だけが融解したゴルを装備に加工できる技術を持つ」
軽くて最も硬い純ゴル金属装備こそが最強装備だ。全装備を揃えるまでは必要ないが、全員の胴体と腕防具、俺の剣、カンターの短刀は最低でも揃えたい。
「ちなみにいくらかかると思う」
「六万ぐらいか?」
「売ってる武器で一番高いものが十五万だ」
「ということはそれ以上ですか。いかほどですかな」
「剣一本が百八十万ゴルだ」
「ひゃくはちじゅうまん……」
「つまりマリアの妹を含む八人を売った金ですら、剣一本の十分の一にも満たない。もちろん防具も必要だ。上級のポーション類や魔除けの聖水も、水のように使えてこそ万全だと言える」
先は長い。ここまで金稼ぎは順調だが、ロームは世界水準で見れば魔積値が低い国で物価も安い。
最終目標に向けて本格的に稼ぐとなればアバスやマゾナスで派手に稼ぐ必要がある。
「それと魔法船も必ず手に入れる必要があるが、レオと違っておそらく俺たちは買わなければならん。王家だけが作れる言い値の品だ。おそらくこれが一番高い」
「まだあんのかよ……」
「リスボアル王家の信頼が得られれば安くなる可能性もありますからな。こびは売っておくものですぞ」
「改めて言う。慎重に悪事を重ねて、ときにその隠れ蓑として善行も積みながらゴルを稼ぐ。要所の国の王家の信頼も得て、小さな集落などは派手に強盗してできれば人は売り払う。レオの悪名に繋げながら、な」
広場中央の泉には恋人同士の願掛けで一ゴル貨幣がたくさん投げ入れられている。
今もまた一組、泉に背中を向けた姿勢で恋人たちが互いに一ゴルを放っていた。
「俺たちの願いは神の代理人を殺すことだ。あの泉をゴルで埋め尽くすぐらいでなければ、悪魔も叶えてくれんだろうさ」
「よっくわかったぜ……」
恋人たちとは正反対の顔色でカンターが締めの言葉を吐いた。
召喚と召還の違いってややこしいですよね。
パクリ全開でifのカンター作業牢獄・地下賭け札編とかおもしろいと考えて、食い物にされるイメージしか出てこず五秒で断念しました。




