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ロウガイ

前話

盗賊のカンターとパーティ結成

 俺とカンターは数週間の「準備」を終え、今は旅の始まりの地メルバランの神殿に来ている。

 俺たちと神官以外は誰も居ない中、祈りの言葉が高らかに響いていた。


「おれぁ、蘇生を初めて見るぜ」

「勇者のパーティと王家のみ、死体の保管と蘇生を依頼できる」


 高額な蘇生費用を提示する神官に、勇者にはもうこの男の蘇生を依頼する意思が無いことを告げ、なんとか予算内の金額で交渉は成功した。

 永遠に死体保管をする羽目になるのは神殿側も避けたかったのだろう


「しっかし死んだとき、王家の勅令状で無理やり無料蘇生させらんなかったのかね?」

「神殿は王家とは独立しているし、そもそもレオはこいつを放置して女僧侶を入れたがっていたからな」

「ひでえ話だ」


 祈りの言葉を捧げながら、神官も眉をしかめていた。



「おお、目覚めて棺桶、神殿とくれば答えは一つ。蘇生に感謝しますぞ」


 起き上がった下着一枚の中年が、格好に似合わぬ言葉使いで礼を述べた。

 仕事の終わった神官を追い払い、半年ぶりに顔を合わせた元同僚に挨拶をする。


「ロウガイ、久しぶりだな」

「オズバルド殿、ずいぶんと髪が伸びたようで……レオ様とクレア様はいらっしゃらないようですが、それに……」

「先にまとめて全部話す。その後で質問を受け付けよう」


 疑問が多そうなロウガイの機先を制して説明を始めた。


「お前の制止を聞かず、レオが無理なダンジョン進行をしたのが死因だ。お前の犠牲で全滅は免れたがな」

「それから今日に至るまで半年が経過している」

「蘇生の金が無いと言い張り、勇者は女僧侶をパーティに入れ、お前の家伝の装備をすべて渡した」

「蘇生の金を払ったのは俺たちだ。レオはもうお前を蘇生させる気はまったく無かった」


 手鏡を渡してロウガイ自身の顔を見せる。


「知っているだろう。長く死体のままだと肌の色が暗く沈着し、戻らなくなることを」


 怒りにわなわなと震えて血管が浮き出ている様子は、真っ赤な顔になっていてもおかしくない。だが、中年僧侶の顔はあくまで濃い土気色を保っていた。


「俺たち二人も、あいつには煮え湯を飲まされた。気持ちは一緒なのではないか」


 般若のような顔に勧誘成功を確信した俺は、二人の状況を一通り説明した。


「レオの魔王討伐の妨害はしない。だが何事にも、誰であっても『報い』は必要だ。お前には選択肢が二つ――」

「――蘇生が神の御業なら、お導きいただいたオズバルド殿にこそ、この身を預けるべきでございましょうな」


 ロウガイは食い気味に、邪悪な笑顔で仲間入りをした。






 ロウガイ用に買っておいた服と防具を渡し、用事の済んだ神殿から出た。聞き耳には最大限の注意をするよう二人に言った手前もあり、いったん町の外に連れ立って出る。


「ここらでいいか。今後の方針と今日の夕方の予定を話したい」

「あぁ」

「かしこまりました」


 二人を切り株に座らせて順番に説明を開始する。



「方針については主に二つだ。追加メンバー探しと強化計画だな」


 モンスターの現れる場所で行動する際は、四人パーティが世の基本となっている。

 パーティにかかる魔法も四人、モンスター討伐時に吸収されて強さと変わる魔積値も四人までであることが主な理由だ。

 宿屋の部屋も基本的に二人・四人部屋が基本となっている。

 今後の行動範囲や行動力のためにも、一人入れてフルパーティにするほうが何かと楽だろう。


 だが悪事を働く目的で結成するパーティだ。

 無節操にだれかれと勧誘するわけにもいかない。

 勇者に恨みがあり、悪事に抵抗が無い者の中から探さなければならない。


「わかるんだがおれぁ団員、皆殺しにされちまったからなあ」

「ロウガイは何かあてはないか」


 中年僧侶は難しそうな顔で少し考え込んだ末、口を開く。


「一人おりますが、戦力になるのかどうかが疑問ではありますな」

「詳しく頼む」


 ロウガイは顔を上げると、人差し指と親指で輪っかを作った。


「その男は商人で、妹が勇者に乱暴されて自殺しております」

「はっ」


 カンターがあきれたように笑った。これはいきなり本命の情報か。第一条件は完全に満たしているだろう。身を乗り出して続きを聞く体勢になっている俺とカンターだが、ロウガイは遠回りな情報から説明し始めた。


「ちなみに壮行会の『事件』についてはご存知ですかな?」

「事件?」

「壮行会ってなぁ、勇者のかね」

「はい。初日が宴会、二日目が同行者の選抜会でしてな」

「ああ」


 出発の十日ほど前だったか。クレアと共に公募に志願し、御前試合のような大会を経てパーティ入りが決まった日を思い出す。もっともその前日に宴会が開かれていたのは知らなかったが。


「拙僧は職業僧侶ではなく戦業僧侶です。普段の仕事は王家の文官だったので、初日の宴会中は準備や片付けで追われておりました」

「文官ってな、そんな仕事もすんのかい」

「そのときは特別です。なにせ手が足りず、街の者も駆り出されるぐらいでしたから」


 早くも話は見えてきた。カンターも「なるほどね」とでも言いたそうな顔つきだ。


「で、酔って控え室で休んでたはずのレオ殿に呼ばれましたら、手も口もしっかりと縛られた事後の娘がおりましてな」


 レオのことではもうそうそう驚かないと思っていた俺だったが、まさか出発前からだったのかと脱力してしまう。


「呼んだのはウォッシュのためだ、と。子ができて・・・しまってはいけないと思う程度には酔いが冷めたようでしてな」


 ウォッシュは汚れを取る魔法で、僧侶と魔法使いが唱えることができる。裏の使い方として、指一本差し込んで使えばにもかけられることだ。

 俺たちの用途は主に前者になるだろうが、ロウガイの加入はその点でもでかい。旅の清潔は重要だ。


「できちまったわけでもないが、娘は自殺したのかね」

「その場にいた者からうわさになったようですぞ。王宮衛士をしていた婚約者と破談になり、自棄死したとか」

「あちゃー」

「そのあと家族の口は、けっこうな量の金貨で塞がれたと聞いております」

「宴会やら和解金など、景気がいい話だ。そんな金があるなら旅の支度金にして……いや、待て、まさか」


 レオの宴会希望と暴行和解金のせいで、あんなにも王からの支度金が少なかったんじゃあるまいな。微動だにしない俺を見て、ロウガイは冷ややかに言った。


「想像のとおりでございます」

「おっさんはよくそんな勇者に同行しようと思ったな」


 カンターが俺とまったく同じ疑問を口にした。実際、死ぬまでレオのお目付役として散々苦労していたが、こんなことがあったら選抜会の時点で敬遠しそうなものだ。


「実は拙僧は王家の推薦枠だったのですよ。今となってはこんな仕事を強制させた王家すら、憎さしかありません」


 一つの線につながったな。苦々しそうにしながらも粘り強くレオに説教するロウガイは、レオを制御するための王家の手綱だったというわけか。


 まあレオ側の観点だと、ロウガイをとっとと殺して遺体放置したのは、かなりうまい手ではある。その点ではやはりレオは侮れない。

 悪行をなすりつける方法をいろいろ考えていたが、ひょっとするとそれ以上に本人がやらかすのではないかとすら思えてきた。


「せめて世界を救うまでは真面目にやっていただきたいものですがな」

「世界の憧れる勇者伝説とやらはなんだったんだ」


 二人ともが嫌悪感にまみれた顔で吐き捨てた。ここであきれるのではなく、対抗意識を燃やすぐらいになってほしいものだが。


「おお、申し訳ありません。それでその娘の兄でしたな」


 思い出したようにロウガイが話を戻す。レオの話のインパクトは強すぎて、本当に困りものだ。


「実家はさっきの門近くにあった防具屋です。本人は北西のテルファの村と行き来している行商人だとか」

「さっき入ったが、店番はおやじだったな」

「いつ頃戻るか、あとで聞いておくか」


 この大陸のモンスターはあまり強くなく、倒したあとの魔積値も多くは得られない。強化計画は四人目加入と大陸移動のあとでいいだろう。



 さて、ここからはお楽しみタイムの準備だ。


「勧誘の話はいったん終わりだ。今日の夕方からはレオの実家へ行く」


 カンターが口笛を吹き、ロウガイがゆっくり深くうなずいた。


「知り合いなんかね」

「この大陸メインで行動していた頃は、よく実家を宿として利用させてもらっていた。急な帰宅にも、文句一つ言わず四人の世話を焼いてくれたな」

「はは、世話になった礼ならひでえもんだ」

「息子の不出来を親が償うは当然と言えましょう。貞淑かつ美しいアマルダ様の浄罪をお手伝いできると思うと……拙僧も身が引き締まる思いです」


 ロウガイは腐っても僧侶だ。悪事に対して乗り気になれるか不安だったが、この様子なら心配は不要だろう。

 まあ散々な目にあい、挙句に半ば殺されてからの放置とあっては、見た目以上に中身も腐ろうというものか。


「以前は世話になったと挨拶で向かい、土産のロームワインと『これ』を使う」


 カバンからぎっしりと中身の詰まった皮の袋を取り出す。


「そのアイテムはなんでございましょう」

「長く楽しむ、騒ぎにさせぬ、より効果的な復讐にする。そのための準備だ」


 胸の内からたぎる気持ちが抑えられない。このような心地は生まれて初めてだ。

 顔の筋肉がゆるむことを止められないまま、俺は二人に手はずを説明した。


ブクマありがとうございます!

なるべくこちらも更新できるよう頑張ります!

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