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売却

前話

ベルターの飴

「どちらの仲買人から行きますか」


 定例の笛を口から離したタイミングで、コージーが順番を尋ねてきた。


「ケイビーンからだ。特に話し込む内容もないからな」

「了解です」




 カジノエリアの門の外は少しいかがわしい飲み屋や店が多い。

 貴賎・玉石・善悪、すべてが対になって入り混じることこそが魅力の一画は朝まで喧騒が続く。

 その広場から少し離れた薄暗い建物の前に仲買人のケイビーンは立っていた。

 馬車を駐めると、あごで中へといざなう動きをしてみせる。

 階段を降りた地下室で商品を四つ並べると、さっそく眠っているだけであること、目立った傷がないことを手際よく確認した。


「乱暴の跡もない。あんたらプロ意識の高い人さらいだな」


 褒め言葉らしからぬ褒め言葉をつぶやいたあと、取り出したずっしりとした袋をコージーに手渡してくる。

 視線をよこさず無言で俺に渡し、配下に確認をさせるていを装うコージーは次の予定を告げる。


「二十日以内に、今度は三十一人ほど入荷します」

「それは大口だ。当然全部買わせてもらう。お得意さんは多くてな」


 あくまで淡々と進めるコージーとは対照的に、ケイビーンはにっこりと笑って握手を求めてきた。

 売約を交わしたあとはロウガイとカンターが待機する馬車に戻り、次の区画へ移動した。



「次はビレソンですが、打ち合わせ内容の変更は特にないですよね」

「ああ、変更なしだ」


 到着すると、やはりビレソンもこちらの到着を待ち構えていた。



 眠り入っているマリアの妹と弟の器量を見て、ビレソンはかなりご満悦な様子だ。


「姉妹と弟セットでこの顔と歳。なんて素晴らしい。これはいい値段出さないと売ってもらえないよね」


 持ってきた袋は先ほどの三倍ほどもあった。カンターなら思わず口笛を吹いたであろう大ゴル貨幣の量に酔いしれることもなく、コージーは指示済みの内容を尋ねていく。


「その依頼人が今飼っている使い古しは下取りに出す予定はありませんか」

「五人のうち何人入れ替えるかはわからないけど、幼い子が好きなのに三人ぐらいは二十代だから、最低でもその三人は下取り依頼してくるだろうね」

「ちなみに下取りした使い古しは、次はどこに売ってますか」

「地下娼館さ。使い潰すのも早い場所でね。儲かるとはいえ、いろんな欲望を満たしてあげるのも大変なんだよね」


 コージーは入れ替え候補の詳細を尋ね、打ち合わせた条件に近い女を二人指定した。


「明日、君らの泊まっている宿に使いを出すからさ。それから品定めと金額相談をしよう」


 最後にビレソンにも同じように三十一人の売約を交わし、安宿の名前を告げて建物から出た。



「両方に売約を交わすのはどういう意図でしょうか」

「次の売却先はケイビーンだが、ビレソンには別の大きな仕事をやってもらうからな」




 翌日の行動を考え、人通りの少ない安宿の大部屋を取って長い夜を終えた。

 マリアへの溜飲がやや下がった実感を得て目を閉じると、まぶたの裏に無邪気に笑うユーリの姿が浮かぶ。

 メルバランとロームの仕事を終えたら、北のザフスタへ向かうことになるだろう。

 ザフスタのあの村ではユーリの家族がどこにいるかなどと考える余裕はなかった。だが次に立ち寄ったときには、家族全員行きがけの駄賃にしてやるとしよう。


 疲れた体に反して心が沸き眠れなくなった。

 目を開くと、真っ暗な部屋が決別の日の闇夜と重なった。

 もうすぐだ。ロームとメルバランの仕事を終えればザフスタから再出発できる。

 復讐心で蓋をしていたつもりだったが、意識してしまうと久しぶりの望郷の念にかられる。

 いつか道中でたどり着けると思いレオパーティに加入した。だが追放されてあえて自らメルバランへと戻り、故郷は遠のいた。


『お城みたいだね!』

『それならオズは王子様だな』

『王様も王子様も、大変よくがんばりました!』


 遠い思い出が頭を巡る。

 失ってしまった元凶、重く縛られた厳格、それらを甘んじ続けて迎えた限界。決別の夜は言わば決壊の夜でもあった。

 悔恨と怒りは治まることなく胸に渦巻き、翌日はひどい寝不足になった。

区切りが悪くても文量が一定の話にするか、文量がばらばらだけど区切りよくするか、悩み中です。

今のところ後者でやってます。

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