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カンター

前話

勇者から追放・所持品没収され、婚約者が寝取られる。

オズバルドは復讐を決意。

 村から近い小さな沢を通るとき、なにやら一人の男が倒れているのが見えた。腹で息をしていて、月明かりでも生きていることがわかる。

 奇遇なこともあるものだ。


「おい、どうした」


 他人とは思えないその男に近づき、声をかけた。男はうめき声を上げながら、仰向けのまま首をあげてこちらを見る。


「げえっ、お前は」


 俺の顔を知っているふうな様子の男は、体の力ががくりと抜けてまた寝そべった。


「もう動けねえ。うっ……殺せよ」


 さめざめと涙を流す男をよく見ると、特徴的な左腕の刺青で目がとまった。こいつは昨日討伐した盗賊団の親玉だ。


「カンター、生きていたのか」

「なんだ、まぐれで出くわしたのかよ。くそっ運が悪いぜ……」


 村の西にあるアジト制圧時、こいつだけが窓から飛び降りて渓流に落ちた。あの高さでは助からないだろうとレオは言ったが、やはり助かる計算があったようだ。


「殺すつもりも捕らえるつもりもない」

「あぁん? 勇者パーティの戦士がなにいってんだ」

「昨日追放されているからな」


 これだけ村が近い位置ならモンスターもいないだろう。俺は自分に運が向いてきたことを確信しつつ、近くの岩に腰掛けた。


「追放だぁ?」

「そうだ、持ち物もすべて没収された」


 俺は自分の状況をカンターに話した。感情表現が大げさなこの男は、腹を立てたり同情したりといった雰囲気だ。


「勇者は非情で鬼畜かよ」

「お前はどうしてここで倒れていた」


 カンターは自嘲混じりに昨日の飛び込み後の経緯を話した。

 ほとぼりが冷めた頃にこっそりアジトに戻ったこと。

 実の弟含む子分全員が死体となっていたこと。

 アジト内の物もすべて勇者パーティが持ち去っていたこと。

 物資をわずかに隠してあるサブアジトに移動しようとしたこと。

 この付近を通る際にモンスターから手傷を負ったことなどだ。


「知り合い、身内、財産を失くしたということか。俺を恨んでいるか」

「ないとは言えねえが、勇者が皆殺しにしろって言ってたからな」


 カンターはつまらなさそうに口をとがらせて半身を起こした。


「何もかもどうでもよくなった、という心地なんだろう」

「それだな」

「俺もさっきまではそうだった」

「今は違うのかよ」

「今、俺は勇者パーティに復讐がしたくてしたくてたまらない。手伝う気はないか?」

「おぉ?」


 カンターは途端に目を輝かせだした。この反応がイエスと言っているようなものだが、思い直したようにすぐ落ち込んだ雰囲気になった。


「つっても勇者パーティ相手じゃ返り討ちだぜ」

「すぐに殺しにいくわけじゃない。今のところ三つの目標を考えている」

「三つの目標」

「そうだ。短期的、中期的、最終的な目標だ」

「聞かせろよ」


 カンターの顔にはいつのまにか笑みが浮かんでいる。それは無気力とは正反対の輝きを感じさせるものだった。


「短期的には、まずあいつの実家の母親に復讐をする」

「オフクロに?」

「ああ、三十過ぎだがかなり楽しめるだろう。これはメルバランに帰ったらすぐにやれる」

「へぇ」


 カンターはいっそうにやりと笑った。やはりお互いふっきれていると話が早そうだ。


「次は中期的な目標だ。各地で悪事を働いて、勇者パーティのせいにしたい」

「なすりつけるのはどうやんだ」

「なに、小さい村なら勅令書や紋章の偽造に気づくこともないだろう」

「おれら二人で各地回るのもしんどいもんだぜ」

「一人、男僧侶のあてがある。間違いなく勇者への復讐に乗り気になると断言できる」

「勇者は僧侶からも恨みかってんのかよ」


 カンターはあきれたように大きくため息をつくが、相変わらず顔は嬉しそうなままだ。


「最終的な目標は、魔王討伐後に消耗しきっているあいつらを魔王洞窟の出口で襲いたい。勇者は縛り上げ、メンバー三人をその目の前で楽しめたら最高だろう。できれば討伐の手柄も横取りしたいところだ」

「あんた、悪魔かよ。一生ついてくぜ」

「もっともそのためには復讐に乗り気なメンバーがもう一人必要で、俺たちも相当に鍛えないといけないがな」


 たしなめられて少し気勢が下がった顔になるカンターだったが、しっかり楽観的な展望も伝えておく。


「まあ命を賭けた復讐はしない。俺らには急ぐ理由がない分、じっくりいいタイミングを見計らって仕掛ければいい」

「へへっアニキ、よろしくな」

「オズでいいぞ」


 月が見守る中、がっしりと固い握手をかわす。こうして俺たちの復讐の旅が始まった。



 翌日はてきぱきと行動した。夜のうちに農家の納屋に置いてあったピッチフォークを盗んで村外に隠しておく。朝のうちにモンスターの買取部位の売却と回復ポーションの購入を済ませ、カンターの待つ場所へ再合流した。


「あんたがそれを持つと、悪魔っぷりが増すもんだな」


 カンターの悪態は、もはや俺には褒め言葉にしか聞こえなかった。



メインで更新している 聖水騎士様はブラックが許せない もよろしくお願いします。

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