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商品

前話

貨幣価値、アイテム価値の話。


 もう一度遠回りな説明をしてから、言いたいことを強調することにした。


「俺たちの最終目標は、魔王討伐直後のレオパーティ全員を殺害することだ。確実に達成するため、殺せる手段は複数想定し、万全の準備ができるようにしたい」


 ベルターが目を細めて邪悪な笑いを浮かべた。

 任せて支援する身だと、俺の口ぶり一つで安心したり不安になったりするかもしれない。

「大船」だと安心してもらうための説明も、ある程度気を使う必要がありそうだ。


「物を言うのは強さだが、魔積値狙いの狩り自体は、リスクを負わず順番にステップアップする必要がある」


 無理に背伸びをした狩場を選ぶのは、逆に効率を損なう。だが弱すぎても接敵までの時間が足枷になり、効率を損なう。正しい狩場選択は大事だ。


「だがゴルがあまり得られない狩場に時間を費やすことは、金銭的には言ってみれば無駄な時間だ」

「なるほど。今、過ごしている時間や土地のどこに儲け話が転がっているか、めざとく拾うってことですよね」


 コージーが眼鏡をくいと上げた。


「そうだ。全員が多く提案するほど、リスクの低さ・かかる時間の少なさ・儲けが優秀な方法を選択できる」

「わかった、おれなりに考えてみるぜ」

「拙僧もやってみせましょうぞ」

「商人として、そこに貢献しないわけにはいきませんね」


 長い前置きだったが、今後のために必要な話はこんなところでいいだろう。



「それじゃあメルバラン大陸でやっていく金策について話そう。この不毛の大陸で、唯一豊富な資源がある。それを持ち出して売り払いたい」

「まだ焦らされるんかよ」

「問題形式で、すぐ答えが出てくるなら直球で話すがな」

「資源ねえ」

「……わかりませんな」

「……察するものはありますが、方法が思いつきません」


 口に手を当てて神妙な顔をしているコージーが上目遣いを向けてきた。

 カンターとロウガイにはもう少し誘導が必要なようだ。



「ところで、マゾナスでゴルを蓄えた者がメルバランに移住したら、楽に余生を遊んで暮らせると思わないか」

「今までの貯金が十倍になるようなもんか」

「あまり話は聞きませんな」


 ここメルバラン大陸東部にある誘惑の遺跡には、本大陸のローム付近につながる地通じの扉が設置されている。

 誘惑の遺跡はローム側のモンスターが出るため、油断したメルバランの者が入ると死地となる可能性が高い。だが主にメルバランから出たい者ばかりが遺跡に足を運び、本大陸から移住者が訪ねてくるなどという話はあまり聞かない。


「俺は幼少時、東大陸の国に住んでいたから理由はわかる。この大陸は貧しすぎる」

「あー」

「ふむ、どういうことですかな」

「さっきの話ですよね、ゴルもアイテムも稼げないっていう」

「娯楽も含めてだな。例えば酒だ。風味のないスピリッツとしぶいだけのワインしかない」

「気持ち良くなる葉っぱもねえな、おれはやらねえが」


 以後、本大陸出身のカンターと交互に列挙する形になった。


「甘い菓子もない」

「娼館もねえな」

「タバコもない」

「コーヒーもだな」

「祭りもたいした規模のものがない」

「当然カジノもねえな」

「演劇などもない」

「流しの吟遊詩人も見たことねえな」


「はっきり言うと、魅力がないということだ」

「そ、そこまでですか……」


 メルバラン組三人には気の毒だが、ロームに行けば言っていることがわかるだろう。

 土地だけが原因ではなく、王家の政策もあっての結果ではあるが。

 人は生活の質をなかなか落とせない。いくら慎ましく余生を過ごせると思っても、あまりに魅力のない土地には住みたいと思わないだろう。


「この大陸を出るための場所が『誘惑の遺跡』とは、よく名付けたものだと思う」


 魅力の無さに辟易とし、危険の無さに増長する者の次の行動は決まっている。

 大陸ロマンに憧れて遺跡を抜けようとし、力尽きるのが規定路線だ。

 モンスターは入り口付近では冒険者をあまり襲わず、楽観的な展望を持ったパーティが最深部に入るのを待ってから牙をむく。

 多くの者がそこで死体となるが、世のためと自らを大義立てた冒険者を止めるすべを国が持たず、最深部には大量の人骨が重なっている。


「魔積値、ゴル、素材、魅力に乏しい、平和ぼけした隔離大陸。それがここメルバランだ。つまり――」

「人を売る、ということですな?」

「そうだ。この大陸はモンスターが弱いせいで、人口だけは多い。それに非合法な奴隷商人がおらず、人さらいをまったく警戒してない」


 他の大陸ではネムリダケの粉があっても簡単にはいかない。

 通常なら一番リスクが高いさらう瞬間だが、メルバランはそこがやりやすい。

 移送さえ確立できれば人売りの最高の環境になるだろう。


 しかし四人はいずれも難しそうな顔になっている。


「考えはしたんだがよ、いろいろ難しくねえか」

「いい傾向だ。難しいと思う点を順番に頼む」


 これは認識のすり合わせであり、計画が無理なく遂行できるかの審議だ。


「まず誰に売るんだ? この大陸は人身売買は全面的に禁止らしいじゃねえか」

「ロームだ。ネムリダケの粉を複数の仲買人に売っていたが、どいつも非合法な人買いをしていると確認した。うち二人はほぼ間違いなく、バックが貴族だ」


 もちろん買い手がいたとしても、たいしたゴルにならないここメルバランで売る気はない。

 対してロームはいいゴルになるだろう。お国柄、貧富の差も大きく、後者相手の商売は当然景気がいいものとなる。


「ローム側に出たあとを待ち伏せとなると、遺跡を突破できる者のほうが少ない中では、時間もかかると愚考いたしますぞ」

「遺跡を抜けた冒険者を待つのは悠長すぎる。だが自ら勧誘した者を連れて抜けるのもだめだ。募集に時間がかかるし、売り払ったあとにそいつの口から俺たちの名前が出るだろう」


 確実に抜けることはできるだろうが、「商品」の数も少なくなるのはデメリットだ。

 それに奴隷にしたとして、完全に人と接する機会が消えるとは限らない。


「誘惑の遺跡はメルバラン側入り口に王家の衛士が常駐しています。さらった人間を連れて通り抜けるのは、厳しいのではないかと思うのですが」

「無理だな。見張りを買収したところで、戦闘力のない者を大勢連れたり抱えたりして抜けるのはきつい」


 遠距離から攻撃魔法を放ってくるモンスターもいて、戦闘力がない者が集中砲火を受けるとあっさり死んでしまう。だからこそ、隔離された大陸となっているのだが。


「船があるわけでもありませんからなあ」

「ゆくゆく船が手に入ったときは、やり方次第で派手に儲けられるかもしれん。今回は船は考えない」

「ってなるとタビガラスの羽しかねえよな」

「そうだ」


 顔を見せずに協力関係を得ることは難しく、それは今後を考えるとリスクが大きい。

 となればタビガラスの羽で運搬することは不可欠だ。


「でも嫌がるやつとか寝てるやつは飛べないって聞いたぜ」


 羽が発する魔力を体に受けとめて、飛行移動は可能となる。

 そもそも飛行する気がない人間は反応せず、眠らせて抱えても、四人以上の生体を運ぼうとすると失敗するアイテムだ。


「それに自分の意思でついてくるって人なら、顔だって見られてしまいますよね」

「羽一枚で三人運んで利益が出るものなのですかな」


 三人がそれぞれの難色を示した。

 実際、このあたりが奴隷商人が出向いてこない理由なのだろう。そしてそれが安穏とした空気につながっているということだ。


「だが死体なら運ぶことができる」

「は?」

「魔力が連結できるのが四人までだが、死体を抱える分にはその上限を超えるらしい。重さがどこまでいけるかは知らんが、子供なら二人合わせても金属鎧・盾・槌武器の合計よりは軽いし問題ないだろう」

「し、死体ですか?」

「そうだ。四人で子供の死体を二つずつ抱え、計八人を一枚で運ぶ。体の前後にくくりつければ落とすこともあるまい」


 驚きと戸惑いの表情で顔は固まっている四人だったが、我に返ると一斉に質問を始めた。


「僕らで殺すということですよね?」

「当然だ。メインは修道院狙いだが、その前に一つ、とある村で予行演習だな」

「し、死体を買う者がいるのですかな」

「ロームの西に街道でつながった製塩業の小さな町がある。そこに住んでいる教会の牧師を脅して蘇生させる。うまく顔は隠さんとな」


 それに、王家や貴族か勇者パーティのみしか蘇生に協力しない教会の決まりは都合が悪い。

 ロウガイはレオが預けていたこともあって蘇生できたが、今後の俺たちはそうもいかないだろう。脅して蘇生させる経験は早めに積んでおくべきだ。

 損傷が激しくない死体は蘇生可能と実感すれば、全員思い切った行動もできるようになるはずだ。


「なに、無慈悲に殺された無実の子供たちを見て、蘇生を拒否する牧師もおらんだろう。依頼の仕方一つでどうとでもなる」

「盲点でした、いい方法だと思います」

「さすがアニキだぜ……」

「予行演習の村はどちらですかな?」


 立ち上がり、部屋の壁に貼られたメルバラン大陸の地図に近寄る。


「ここにあるジーロ村だ。四十人程度だと言っていたな。大人の女も混じるだろうが、ここで八人だけ確保して、残りは始末する」


 メルバランから南にある海岸線沿いの村を指差した。ここは昨日の酒宴で話のネタになった村だ。


「故郷だとか、言ってたな」

「そうだ。かくまうパターンになる場合に備え、逃げ込める実家は先に潰しておく」


 アマルダの実家がある村だが、奇遇なこともあるものだと感心する。そういえば昨日はそのことには触れていなかったか。


「そしてマリアの出身地でもある。妹と弟がいるそうで、さらに好都合だ」


 マリアに似ている妹と弟なら、きっとどちらも高く売れるだろう。


「妹ですか」


 コージーの眼光が途端に鋭くなった。


「そうだ。罪のない女児を変態貴族に売り払うのは気が進まんか?」

「とんでもない。必要があればなんでもやります。それに勇者に心酔・協力してる者の身内なら、むしろ楽しみで仕方がありませんよ」

「へっ、おれも弟を殺されてるからよ」

「家伝の装備を奪われている拙僧も、マリア様の身内とあらば張り切りますぞ」

「早くも、準備していた羽が役に立ちますね」


 四人の目のぎらつきを見て、ジーロ村を金策初手に選んだことはやはり正解だと確信した。

 無関係な者をいきなり手にかけるより、復讐心を当てつけられる相手から始めた方がいいだろう。

 理性や良心は、順調にこのパーティから消えつつある。


 見やった窓の外は西日が沈みきり、残った光も見る間に暗く覆われていった。

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