獣魔契約
そこには二匹の魔物がいた。
一匹は狼だった。すべての闇をかき集めたかのように黒く、それでいて艶やかで見るものを魅了してしまう毛並み。そのたたずまいは王者を彷彿とさせ、どこか神秘的だ。大きな体は僕を乗せてもまだまだ余裕がありそうだ。
もう一匹は狐だ。それも普通の狐ではなく、九尾の狐。黄金色に近い黄色の毛並みは、触らなくともフワフワであることがわかる。どこか優しさを感じる雰囲気に思わず抱きしめたくなってしまう。こちらも大型で、しっぽだけで僕を覆い隠すことが出来そうだ。
「うわー、また大物を出してきたねぇ。」
しばらく唖然と見ているしかできなかった僕はノーンの言葉でようやっと動き出すことができた。
「この二匹が僕の獣魔…?」
「そうだね、向こうも君を主として認めているみたいだよ」
「うん?」
ノーンの言葉に二匹のほうを見ると、二匹は僕に首を垂れているように見えた。僕は事態についていくことができずに困惑した表情でノーンを見る。
その表情を見たノーンは苦笑しながら、仕方が無いと説明をし始めた。
「本当はね?獣魔にするためには生まれた魔物が出す試練に合格しなければ獣魔にはならないんだよ。もしできなかったらまた卵を探すところから始めるんだ。それに魔物のレアリティーが高いほど困難なんだ。」
「ちなみに、魔物のレアリティーはD~SSSまであってSSSが最高種になっているからね。さあそれを踏まえたうえでよく聞いてね。まずは狼のほう。この子は黒神狼といって、SSSの神種に分類される魔物だよ。次に狐は九尾といって、SSの妖怪種に属ずる魔物だよ。本当はここまでランクが高いと試練がすごく難しくて、普通は獣魔にできないんだけど、ハル君の場合は種族が神だからね。本能的に従ってしまうんだよ」
なんかズルしているみたいで複雑な気分だ。本当は試練を受けなければいけないのに、種族が神ってだけで無しになるなんて。
「ねぇ、君たちは僕の獣魔になるってことで本当にいいの?まだ会って間もないし、僕がどんな奴かもわからないでしょ?」
「我たちは確かに強い。だが、我たち魔物の本能である強者に従うという性質は仕方がないのだ」
「そのとおりでございます」
「……は?」
ふいに聞こえた声に僕は混乱する。僕とノーンはしゃべっていない、だったら誰が…?周囲を見ても僕たち以外はいない。視線を戻すと、二匹の魔物が目に入った。もしかして
「今君たちがしゃべったの?」
その問いかけに二匹がうなずく。
あ、そこはしゃべらないんだね。
「ノーンこれは普通のこと?」
「そうだね、Sランク以上は自分の意思を表すのに、直接頭に語り掛ける念話と、今みたいに話すということをするよ」
「それはかなりのアドバンテージだな。……ほかにはもうないよね?」
「ふっふっふ、これだけだと思うかい?だって最高ランクに属する二匹だよ?」
ノーンは得意げに胸を張って答えた。
まだあるのか。今日だけでどれだけ驚いただろうか。しかも冷静になってみると今はゲームの世界にいるので、当然草原はプログラムだしノーンも二匹の魔物も人口知能である。これだけリアルな世界、独立した人工知能をつくる技術があることに驚きを隠せない。
「そこまで言うってことは自信があるんだね?」
「もちろん!さあ君達、新たなるご主人様に見てもらいなよ!」
「承知した。では」
狼がそう言うと同時に二匹の周りが煙で包まれた。
見た感じモクモクというのが適切か、いやこれはモウモウとのほうが正しいか。え?なんの考察かって?そんなの煙に決まってるじゃないか!
ふざけている場合じゃないって?これぐらいは許してよ。僕だってさっきから色々ありすぎて現実逃避したくなるんだよ。だって煙が晴れた先には二人の男女が跪いていた、なんてどう考えてもわけがわからないでしょ?
「はぁー、ノーンこれが君の言っていたすごいこと?」
「そうだよ!なんたって人化できるんだよ?これは人類の夢と言っても過言ではないはずだよ!」
人化…、やっぱり二人はさっきの二匹だったか。
それとAIが人類の夢うんぬんを言っても説得力には欠けるんじゃないかと思うよ。
「あー、えっと、あなたたちが先ほどの二匹で構いませんか?」
「いきなりどうしたんだい?敬語になったりなんかして」
いやだって、魔獣の姿だった時は動物に対してと同じで敬語を使うなんてことはなかったけど、いざ人化して人間っぽくなるとね、それに二人とも僕より年上みたいだし。
一人は男性で見た目は三十代くらいだろうか、長めの黒髪を後ろで一つにまとめている。その赤い瞳は妖しさを醸し出しており、そのナイスミドルな顔立ちも相まって見る人を魅了するだろう。身長は百九十センチほどだろうか、すらっとしており一見細く感じるが、よく見るとその服の下には鍛え上げられた肉体があることがわかる。服装は黒のワイシャツのようなものに黒のズボン、膝までの高さの黒のコート。全身黒ずくめである。
もう一人は女性でおそらく二十代。髪は黄金色に近い黄色で、背中の中ほどまで伸びた髪は緩くウェーブがかかっておりフワフワとした印象を受ける。ぱっちりとした碧眼は少し吊り上がっておりクールな印象を受けるが、不思議なことにどこか優しさも感じる。スタイルは抜群によく、存在感のある胸は今まで見てきた中で一番だろう。身長は百七十センチほどだろう。こちらの服装は着物になっている。
「いや、我らに敬語は不要だ」
「ほらほら、あの子たちもそう言っているんだし難しく考えなくていいんじゃない?」
「まあ、そういうんだったら……、で、この後はどうすればいいの?」
「これで君の獣魔は決まったわけだけど、まだ契約していないから厳密にいうとまだ獣魔にはなっていないよ。だから今から獣魔契約を行おう!」
説明してくれたノーンによると、獣魔契約は主側が名前を与え、それを獣魔側が了承することで成るらしい。
よって今は絶賛名前決め中である。
「君たちは何かリクエストとかはないの?」
「いえ、私たちはご主人様がお考えになった名前をいただきたいです。」
取り付く島もない……、うーんどうしようか、ちなみに男性が狼で女性が狐だ。
うーん…よし、男性がグラン、女性は野風にしよう。
グランは本当に思いつき、野風はやっぱり妖怪種だしなんたって着物だから日本名つけたかったんだよね。
「じゃあ君たちの名前は、グランに野風にしようと思う」
「グラン、承った。我が名はグラン、黒神狼である我は獣魔の中でも最強クラス、しかしそれに驕ることなく全身全霊をもって主に仕えることをここに誓おう」
「野風、承りました。私の名は野風、私は常にご主人様と共にあり、私のすべてをご主人様に捧げることをここに誓います」
二人が言い終わると、僕たちを包むように風が吹き荒れる。
風が収まったとき、僕は二人と心がつながった感覚をおぼえた。
「これが獣魔契約…」
「そう、いまハル君は心のつながりのようなものを感じていると思うけど、それは契約によってパスがつながったからなんだ。これでいつでもどこでも呼び出せるし、君の魔力内に帰還させることもできるよ」
そんなことまでできるのか。でも二人を連れまわしたら目立ちそうだし便利だね。
それにしてもやっと契約が終わった。僕は二人が人化してからどうしてもしてみたいことがあってうずうずしてたんだ。
「ねえ野風!その耳としっぽは本物だよね?」
そう、あろうことか野風には耳としっぽがついているのだ。これは触るしかあるまい。いや、触ってみせましょうとも。
「耳としっぽですか?そうですが、それがいかがいたしましたか?」
野風は不思議そうに首をかしげながら聞いてくる。その間にも、耳はぴくぴくと動いている。
「それ触ってもいい?」
ストレートに聞きすぎかとも思うが別に大丈夫だろう。
しかし、聞かれた野風は恥ずかしそうにしていた。
「やっぱりだめかな?」
「いえ、だめというわけではないのですが…、そうですねご主人様ですし、どうぞ」
そういって野風は、やはり恥ずかしそうに頭を差し出してくる。
僕はぴくぴくと動く耳に触れる。
「んっ……」
「ごめん!強かったかな?」
「いえそのようなことはありませんが、耳は感覚が鋭いので…」
そうなのか、まあやめるつもりはないんだけれどね。それに気持ちよさそうな顔もしてるし大丈夫だろう。
このあと僕は、耳としっぽを心ゆくまで堪能させてもらった。
野風もどこか嬉しそうにしていたし満足である。
「はぁ、君はマイペースだねまったく。これで一応すべて終了したんだけど、なにか質問はないかい?」
どこか疲れた様子のノーンが聞いてくる。
うーん、あまりない気もするが……あ
「一つだけ、ノーンにはまた会えるの?」
「くすっ、そんなことを聞いてきたのは君くらいだよ。どうだろうそれはわからないかな。もしかしたら会えるかもしれないし、会えないかもしれない」
そう語るノーンはどこか寂しげにみえた。それを隠すようにノーンは言葉を続ける。
「他にはないね?じゃあ、君を始まりの都市へと送るよ!いいかい?」
「うん、お願いするよ。グラン、野風はいったん帰還して」
「承知した」「わかりました」
「じゃあノーン色々とありがとう。また会えると嬉しいな」
「じゃあねハル君。では、いってらっしゃい……、稀有な子よ私はいつまでも待っております」
意識が薄れる聞こえたノーンの最後の言葉にその真意を聞こうとするが、再び意識がはっきりすると景色はすでに変わった後だった。
「なんだったんだ今のは?」
考え込むハルだったが、すぐにチュートリアルが終わったら連絡しろよという仁の言葉を思い出し、事前に聞いておいた仁のアカウントに連絡を送ることにした。
書きたかった獣魔回いかがだったでしょうか?
狼に狐かっこいいですよね? え?聞いてない?
ま、まあとにかくお楽しみいただけたら幸いです。
ではまた次回お会いしましょう!