雨の通学路
それは、雨の日のことだった。
いつもなら彼氏と帰るのだけれど、生憎その彼に用事ができたらしく、一人通学路をトボトボと歩いていた。同じ時間帯の道でも、彼がいるのといないのとでは随分違うんだなぁと空を眺めながらふと思う。
信号を渡ろうとしたところ赤になってしまい、青になるのを今か今かと待っていると。視界の端に、見覚えのある人物が見えた。
「……あれ?もしかして、龍樹?」
その人物はまさに、先ほどまで校舎内で一緒に話をしていた彼だった。
さっき言ってた用事って、この辺りで何かあるのかな。なら、なんで途中まで一緒に帰らなかったんだろう……?
何故か無性に気になった私は、彼に声をかけた。
……かけようとして、言葉が喉に詰まった。
「…………え?」
身体中に電流が駆け巡るような衝撃と、心臓が縮み上がるような感覚。息さえも、止まったかのような圧迫感。それらが同時に、私の体を襲う。そこには、目を見張る光景があった。
彼と一緒に歩く、一人の女の人がいた。いや、まだそれはいい。まだ、それは……。
あろうことか、彼はその女の人と腕を組んでいた。とても、楽しげに。
危うく倒れそうになる体を必死に抑え、その様子をジッと見つめる。
しかし、その後すぐに私は見るんじゃなかったと後悔した。
彼はおもむろにその女の人の腕を掴むと、体を自分の方へ引き寄せ唇を重ねた。そう、キスをしたんだ。
「……なん、で」
頭の中でクエスチョンマークがグルグルとまわっていく。
……これ、何?私、夢でも見てるの?これは夢なの?それとも嘘なの?
誰かに肯定してほしくて心中で問いかけても、答えてくれる人はいない。一番肯定してほしい人は、ここにはいない。
「…………なんで」
『俺と付き合ってください』
ふと、あの日のことを思い出した。
そもそも、この関係が出来たきっかけは彼だ。彼は、私のことが好きだと言ってくれた。私も彼のことが好きだったけれど、私なんかが釣り合うはずないって分かってて、ただただ遠くから眺められたらそれで充分だった。だからこそ、その言葉を聞いた時、嬉しさのあまり涙を堪えずにはいられなかった。なのに。
「なんで?」
おかしいよ。なんで、彼は私以外とキスをしているの?
長い長いキスがやっと終わり、唇を離す。二人とも、火照ったかのように顔を赤らめている。
「なんで……なんで!?」
思わず叫び、彼の方へ駆けっていく。
「龍樹!?なん――」
そこで、私の声は途絶えた。
そう言えば、赤信号を待っていたんだっけ。
はじめまして、リリです。
遂にやってしまいましたインスタント感覚の初短編、初投稿は如何でしょうか?基本的にありきたりな展開になってしまいますが、面白かったと思っていただければ幸いです。