第三話 部活見学(中編)
暗い暗い部屋。無数のモノリスがそこには有り、モノリス自身が微弱な光を放ち、モノリスだけは辛うじて見える。
「また、日本での発見報告かね。」
「はい。ブレスの能力は、死者の復活。」
それを聞き、暗い会場に並ぶモノリスがざわめき始める。
「熾天使クラスのブレスじゃん。羨ましいなぇ〜。伊太利亜支部では、能天使が最高位だよ。というか、日本は力を持ちすぎ。こっちに一人分けてよ。」
「ダメです。」
「時雨のけち〜。」
「今回発見された天使、『坂野雪那』の能力は誠に危険な物である。それにより、彼を階級『熾天使』、天名『ヤオエル(小さな神)』と定める。異議申立てが有る方はどうぞ。」
一際巨大なモノリスは威圧的に言い放つ。このモノリスの声の主こそが、世界錬金術協会のギリシア本部の本部長で有る。
多数のモノリスが異議が無い。
しかし、少数だが中には異議を申し立てる国もある。
そういった国は、自国に熾天使どころか智天使が一人もいないような国である。日本は発見された天使の数は他国と比べると少数では有るが、発見された天使の大半が中級天使以上である。上級天使が一人も居ない国にとっては面白く無い物である。
しかも今回発見された天使は上位中の上位、最上位の熾天使である。発見された熾天使は雪那を除いて現在7名。所有国は、亜米利加が2名、日本、中国、独逸、仏蘭西、希臘が1名ずつ所有している。
アジアの小さな島国で世界で7名しか発見されていない熾天使が2名も選ばれてる事をやっかみ、異議申立て等をして、せめて智天使でも良いから階級を落とそうと嫉妬交じりに少数の支部が頑張っている。
しかし、本部長はやっかみなど御見通しか、彼等をあえて無視。
「これで、今回の天使の発見報告及び階級付けの話しを終える。続いては、堕天使の発見報告について話を開始する。」
「露西亜支部だが、昨日領内の海中内で堕天使を発見。直ちに軍を動かし撃退し、ソロモンの指輪に封印を施した。」
「西班牙支部ですが・・・・・・・・・」
次々と各支部のモノリスが自国領内で発見されて欲しくない奴の報告を始める。こっちは発見されて欲しい天使と比べ、出るわ出るわ。
天使の発見報告は絶対だが、堕天使による緊急発見報告会合は上級でない限り無いのはこれが理由だ。
「日本支部ですが、3日前に3匹ほど発見。軍の代わりに保安部を動かし、封印に成功。」
そして、各支部の発見報告が終わると、辺り一面のモノリスが一瞬にして消え、部屋に明かりが灯る。
会合が終わったのである。
「う〜ん!!終わったぁ♪しかし、ヤオエルねぇ〜。会合では言ってないけど、日本の『ラジエルの書の断片』によると彼は『アダム』なんだけどなぁ〜。ま、そんな事を言うと雪那君は殺されちゃうしね・・・これで良いのかな?」
時雨はぼそっと呟く。そして、PDAをポケットから取り出し何処かに連絡を取り始める。
「私。もうそっちの方には雪那君来た?・・・まだ。そう・・・彼の事に付いて少し教えて上げとくね・・・彼は・・・」
「くそ〜!!だから俺はあいつに会いたく無かったんだよ!!」
「まぁ、これでも飲んで落ち着きたまえ。」
生物部のドーム付近にあった自販機で購入した冷たい炭酸飲料を綾斗に手渡す鈴音。ちなみに、雪那もちゃっかり奢ってもらっている。
「おっ、気が利くな。」
綾斗はハンドルを片手で捌きつつジュースを一気に飲み干す。
「くはー!!やっぱ、夏はこれだよな。」
「親父臭いぞ。雪那君もそう思うだろ。」
俺に話題を振るなよ!!
「良いんじゃないですか?俺だってけっこうしてますよ。風呂上りとか。牛乳ですけど・・・」
「ほら見ろ。男にとってこれは常識なの。女が見知らぬ男に体を触られて痴漢と叫ぶくらい普通なんだよ。」
えっと・・・それとこれは同一視したらいけないだろ。犯罪行為と一緒にするな。
「僕は叫ばないぞ。」
「へぇ〜・・・」
「触った瞬間そいつを叫ぶ間も無く他界させてやるから。」
こえ〜・・・そう言えば、朋来さんって体内発電できたんだっけ・・・
「あっはっは、そうだったな。アメリカ支部の奴が来た時、執拗にお前の体触ってた時一度最大放電でぶっかましたんだったな。雪那君、アレは凄かったよ。その触ってた奴も変異型で体の大半がゴムに創り変えられていた奴でな。絶縁体であるゴムでできた人間が感電死しかけたんだぜ。本当面白かったな、アレ。」
面白いか・・・
「次は何所に行く?」
「ここからだと、軍事部だな。保安部も近くに有るが、こっちは僕達が話せば済むだろう。」
「じゃあ、軍事部に着くまで保安部の話をしてやる。保安部ってのは、堕天使と戦ったり、他の部の人や要人の護衛をする仕事だ。部長は鈴音で、俺が副部長だ。」
へぇ・・・時雨さんは日本支部の部長だけに護衛も凄かったんだ。日本最強の二人が付いてんだし。
「部員数は化学部に継いでで多く、14名だ。ただし、最高位の天使は鈴音ちゃんで座天使。人数は多いけどあまり強い能力者が回ってこないんだよ。理由は君と一緒。誰も化け物と戦いたくないんだよ・・・」
「へぇ〜・・・でも、何で数は多いんですか?」
「危険手当などが有って給料が多いんだよ。化学や医学等に通じた能力者の場合、開発費などが貰えるけど、俺みたいな明らかな戦闘向け能力はそう言う金が殆ど貰えなくてな、だからだ。それと、俺の家、親父が早く死んでるから御袋が一人で弟や妹の養育費とか稼いでるからな。少しでも多く家に仕送りしたいしね。」
「僕の場合は、完全な趣味だ。」
後者の戦闘狂はほっとくとして、綾斗さんってかっこいいなぁ。家の兄弟や母親の為に命をかけて戦うのかぁ。俺にはできそうに無いぞ。
「綾斗さん、頑張って下さい。」
エールを送ったからといって、綾斗さんが楽になるわけではないが送る。
「ありがとう。おっと、軍事部に着いたぞ。」
「でかっ!!これって生物部よりでかいですよ!!」
軍事部の部室は、生物部の部室より巨大であった。
「うん。軍だからね。やっぱり、保安部と軍事部はその点優遇されてるんだよ。」
「へぇ〜・・・」
「そんじゃ、中入ろっか。」
軍事部は、生物部のように幾十のドアとかが有るわけでなく、網膜センサーがついており、それで部外者か内部の物かをチェックしている。
綾斗がセンサーに目を近づけると・・・
『保安部の黒宮綾斗様ですね。どうぞ。』
女性の声の機械音声が鳴った後、ドアがスライドする。
おお!!以外と近未来的な!!
俺は中に入って最初に巨大な機械に目が行った。
それは、巨大な人型ロボット。正確に言うとパワードスーツの一種。『セレスシャル・セーバー(天空の救援者)』、通称SSと呼ばれる物で有る。昨年開発された人命救助用の機械である。ヘリや人が危なくて近付けない場所等に安全に入り迅速に救助する為の物である。
俺もTVや雑誌などで良く取り扱われるのを見たことがあるが・・・こいつは違う・・・
「綾斗さん・・・これSSじゃないですよね・・・何ですか?」
「おっ、気付いたか。お前結構この手の物が好きなのか?空が喜びそうだな。これはな・・・「ちょっと待ったー!!」
こっちの方に資料等を抱え走って来る、一人の女性。
「私が説明するわ。貴方が、新しく発見された子で、坂野雪那君でしょ。貴方に着いての情報は尚紀から貰ったから、説明はいらないわ。」
次々に早口で捲し立てていく女性。
「あの〜・・・御名前は?」
「あっ、私の自己紹介がまだだったわね。っていうか、鈴音と綾斗、私についての紹介ぐらいしときなさいよ。私は蒼井 空って言うの。『そら』じゃなくて『から』だからね。」
手をこちらに差し出したので、俺は握り返す。
「手の肉刺が凄いわね・・・剣道か何かしてた?」
「ええ、家が薙刀の道場でして。親父に昔から鍛えられてまして。」
「薙刀ねぇ〜、以外とマイナーな武術だな。」
「綾斗よ、そうでもないぞ。僕の実家よりはマシだ。」
朋来さんの実家って何してるんだろ?凄い気になる。だって、どうやったらこんな戦闘狂が生まれるんだ?
「で、話を戻すわ。これは最近、独逸が亜米利加のSSを対堕天使用に改良した兵器。製品名『ハイメル・リッター(蒼空の騎士)』、略してHR。そして、この子は独逸から貰ったデータを元に我々が造り上げた純日本製のHR、機体名『焔鬼』よ。」
SSを兵器に転じた物・・・考えてみればそうか・・・今まで転じられていなかった方が可笑しいんだし。
それより、焔鬼・・・何故、妖怪の名前?しかも、機体の色が青だし・・・
しかし、これには重大な欠陥が有る事に俺は気付いた。
「でもこれ・・・パイロットが入るコックピットが、小さくありません?」
「いいとこに気付いたわね。これはLBS(Link Brain System)と呼ばれる装置を搭載しており、HRと操縦者をシンクロさせて動かすからね。それにより、動作の誤差は10のマイナス9乗秒まで減らす事に成功。ただし難点を上げるとすると、機体との相性があるのよね。」
「はぁ・・・つまり、従来のSSには有ったコックピット内部のレバーやそれに順ずる物は無くなったから、コックピットが小さくなったと。」
「正解。三重丸+花よ。」
「へぇ〜・・・」
雪那は感嘆の声を上げ、HRを見上げる。
その手の物が好きな雪那にとって、焔鬼は素晴らしい物に見えた。
「鈴音、来年には最終整備を終えれそうだから、対G訓練とかちゃんとしときなさいよ。」
「分かっている。それと、リニアガン等の武器をメインに積んどいてくれ。僕のブレスさえ有れば電気は無尽蔵に造れるからな。」
「分かったわ。バッテリーとかも少なめにして、軽量化も図っとくわ。」
「頼むよ。」
「ほれ、次は医学部の方に行くぞ。」
腕時計をちら見し、時間が押して来たのに気付き、綾斗が次の部に行くぞと促す。
「坂野雪那君、旧型のSSなら結構余ってるから、暇な時に来なさい。乗せてあげるから。」
「本当ですか!!」
喜色満面、雪那の顔がぱーっと輝く。
「勿論よ。ただし、年を明けてからね。今は焔鬼の最終整備があるから、そっちの方で手が一杯なのよ。」
「はい。」
「良かったな。」
雪那達が出ていった後、空は怪しく微笑む。
「あの子なら・・・きっと乗れる筈よ・・・『夜叉』に・・・」
空は焔鬼の隣に置かれている布に包まれた巨大な何かを見る。
「オペの最中?」
「そうなんです。総理のオペの最中です。誠に sorry.何ちって。」
行き成り寒いギャグをかましてくれる、看護服を着た少女。
「お前の寒いギャグを聞きに来たんじゃない。・・・だれか、医学部について説明できる奴はいるか?」
少女は目を輝かし、人差指で自分を指差すが・・・
「・・・副部長以外で。」
「私を無視!?あえて、無視!?副部長を無視ですか!?良いですよ・・・所詮私は御飾りの副部長ですよ・・・あなたと違って、御飾りですよ!!」
ぐすん・・・と床にのの字を書き始める少女。
「綾斗さん・・・この人誰ですか?」
「ああ、こいつは、医学部副部長の木戸 このみ(きど このみ)。こいつのブレスは、寒いギャグだ。」
「違うよ!!そんなブレスで副部長が勤まると思うなよ!!」
両手を上に突き上げ抗議。
「効果は、患者を次々と凍死させる事ができる、究極殺人能力だ。」
何気にかっこよく、究極殺人能力の部分だけ英語でを言う鈴音。
「鈴音ちゃんと綾斗君の馬鹿!!女の子を虐めるのは最低なんだよ!!」
「そうだよ。レディーは虐めちゃダメだよ♪」
にゅっという擬音と供に何処かから涌き出てきて、このみに加勢する奴が一名。
「「尚紀!?何でここに!?」」
神出鬼没な登場をする、生物部部長に驚く綾斗と鈴音。声に出してはいないが、雪那もかなり驚いている。
「僕の能力が必要らしくてね。特別に御手伝いに来たの。」
「そういえば、尚紀さんのブレスってどういう力なんですか?」
「雪那君、良くぞ聞いてくれた。僕のブレスは、『拒絶を拒絶』する力なんだ♪」
拒絶を拒絶?能力の時点で矛盾してるぞ・・・
「この世には様々な拒絶がある。僕はその拒絶を無い事にできるんだ。例えば、拒絶反応とかね。」
「凄い力ですね。」
素直に凄いと誉める。
だが、反面頭を抑える人が二人。鈴音と綾斗である。
「そのせいで、理解不能なミュータントが次々生み出されてんだよ。」
「うむ。君の力は保安部でも使ってみたい。謎生物で小隊を作ってみたいし。」
「止めてくれ。それより、尚紀。お前は手伝いに来たのじゃないのか。」
「あっ、そうだったね。じゃ、また後で♪」
尚紀は建物の奥に小走りで向かう。
「じゃあ、まったり見学していきます?御茶と御菓子くらい出すよ。」
「いや、急いでるから止めとく。部長の顔だけ見せとく。」
「ああ・・・スージー君の顔だけ・・・それってホラーだよね。」
スージー君?日本支部なのに外国人もいるのか?
「医学部部長、骨皮 筋右衛門で愛称スージーなわけ。」
そんな疑問を感じてる事に綾斗は気付き、笑いながら説明をしてくれる。
「凄い名前ですね・・・名付け親の顔が見てみたいです。」
「そんじゃ、二階に昇ってスージーの顔を見ていくか。」
皆が、何か企んでる笑いをしながら、俺を二階に誘導する。スージーさん・・・一体どんな人なんだ・・・
そして・・・次回に続く・・・
「3」
「2」
「1」
「どっかーん!!」
尚紀「なぜなにカガク部!!」
鈴音「今回は2回目をやらせてもらう。」
尚紀「今回の御題は『ソロモンの指輪』♪」
鈴音「前回に引き続き、科学は一切関係ないな。」
尚紀「まぁね・・・」
空「じゃあ、説明するわよ。大天使ミカエルがソロモン王にあげた刻印の彫られた指輪がソロモンの指輪と後に呼ばれてる物で、その指輪には悪魔を使役する力があったとされており。その力で、ソロモンは『ベルゼブブ』『アスモデウス』『ベリアル』といった、有名な悪魔を使役したとされてます。本作品中での、ソロモンの指輪は、世界のあちらこちらに出現した堕天使を封印する為の道具のことです。」
尚紀「そんなこと、誰でも知ってるんじゃないの?指輪の前にソロモンって名前もついてるし・・・」
鈴音「僕もその指輪が欲しいんだが・・・最近綾斗が、僕から逃げるし・・・パシリ体の男の癖に・・・」
尚紀「綾斗は良いパシリになるよね♪ブレスも結構便利な物を持ってるし。」
空「私も、たまに利用させてもらってるわよ。」
尚紀「最後に聞くけどさぁ・・・雪那は『なぜなに科学部』に出てこないの?主人公なのに。」
全「・・・」