懺悔
誰もいない部屋で、テレビだけが光っていた。
夕方のニュース番組では、パリっとしたスーツを着た女性リポーターが神妙な面持ちで警察署の前から中継を行っている。
「本日、マンションの一室で、女性の遺体が二つ、発見されました。死因は刃物による出血多量と考えられていますが、部屋が全焼し、遺体の司法解剖が困難なため、確定的な情報は入ってきておりません」
テレビの前には、なぜか、スマートフォンが一つ置かれている。
画面には、メモ機能が貼り付けられ、文章が綴られていた。
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圭子へ
このメモを、あなたへの最後のメッセージとして残します。
生まれた街を離れ、普通の生活を送っている今でも、あの夏の経験は、私の中で消すことができないままいます。
だけど私は、同時にあの経験を忘れてはいけないとも思っているの。うなされた夜には、私がまだあの経験を忘れないでいることに安堵を覚えることもあるのよ。
私が犯してしまったあの罪は、償い続けなければならない。
しかし、きっと私は忘れてしまう。
この幸せな生活の中、若き日の過ちなど徐々に薄れていくものなのかもね。
だから私は、このメモを残そうと思う。
あの夏の日に、自分が何をしてしまったか。
いや、何もすることなどできなかったのだけど。
助けてあげられなかったあなたに。
圭子に、弔いと懺悔の気持ちを込めて。
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