翅の音=ムスカ外伝=
一人息子のムスカは、蠅の王である父と魔界で暮らしていた。
ある日、ムスカは父に連れられ人間界へやってきた。
父親であるベルゼブルは息子の成長を思い、様々な試練を与える。
しかし、甘えん坊なムスカはすぐに泣き、駄々をこねる。
これに悲観したベルゼブルは荒行に打って出る。
『一人で天使を狩れる様になるまで、帰ってくるな。』
それだけを言い放ち、魔界へと帰ってしまった・・・
ムスカは父を追いかけるが、あまりの素早い飛行について行く事が出来なかった。
帰り道が分からず、気付くと公園に立ちすくんでいた。
右も左も分からない人間界で独りぼっちになったムスカが、無事に魔界へ戻る日は来るのだろうか…
外伝1~ムスカ~
スウェルティア内のキャラクター、蠅のムスカのお話し。
一人息子のムスカは、蠅の王である父と魔界で暮らしていた。
ある日、ムスカは父に連れられ人間界へやってきた。父親であるベルゼブルは息子の成長を思い、様々な試練を与える。
しかし、甘えん坊なムスカはすぐに泣き、駄々をこねる。これに悲観したベルゼブルは荒行に打って出る。
『一人で天使を狩れる様になるまで、帰ってくるな。』
それだけを言い放ち、魔界へと帰ってしまった・・・
ムスカは父を追いかけるが、あまりの素早い飛行について行く事が出来なかった。
帰り道が分からず、気付くと公園に立ちすくんでいた。
右も左も分からない人間界で独りぼっちになったムスカが、無事に魔界へ戻る日は来るのだろうか…
第一話 【モノマネしてみよう。】
人間界、都内某公園__。ムスカは唯一の家族と離れ離れになった事が悲しくて泣いていた。
ムスカ: 「ぅぅぉおやじぃ~!! 置いてかないでくでぇ~~!!!。゜゜(´□`。)°゜。」
大きな声で泣き続けて、一体どれくらいが経っただろうか。
…とは言え、小さな蠅の姿のムスカに気が付く人間などどこにもいなかった。
既に声は枯れ、涙もすっかり乾いていた。
ムスカ:「俺一人じゃ何も出来ないよぅ…。どうしたらいいんだろう…。」
魔界にいた時からムスカは父親に甘えてばかりだった。父を前にしただけで下級の悪魔共が逃げていくのが嬉しかった。
誰も父に逆らわない。だから俺にも逆らわない。何もしなくても、望めば何でも手に入れられた。何より、強くて優しい父は何よりも誇りであった。
ムスカ:「くそぅ…人間界って何でこんなに臭いんだ。忙しく動く人間なんて眺めても、どうせ何にもならないんだ!(`ε´。)」
それにしても、人間界にも色々な生き物がいるものだ。今まで魔界では見た事がないくらい小さく弱々しい。
やたらと息の荒くて弱そうな毛の塊と、地べたにうずくまったままこっちを睨み付けてくる目つきの悪いの。
ムスカ:「何が ”にゃぁ~ん” だ…お!天使みたいな羽根してるくせに真っ黒なやつがいる!!
…あいつなら仲間になってくれるかな。」
あまり気は進まないが、とりあえず様子を窺いながら話しかけてみるか。
ムスカ:「おぉ~い、オマエ悪魔だろ。オレの事、知ってるだろ?」
・・・・・・
反応はなかった。小刻みに顔を傾げながらこちらを見ている。
ムスカ:「ちょ!オマエ無視すんなっ!!オマエなんかなぁ、親父がいたら…」
そう言い掛けた時、漆黒の翼の生き物はものすごい速さでくちばしを突き出してきた。
ムスカ:「ぉわっっ!!!!」
寸前で直撃を逃れたが、漆黒の生き物はまたこちらを見て顔を傾げている、さてはコイツ……
ムスカ:「お、オレを喰う気だなっーーーー!!!Σ(~∀~||;)」
急いで小さな翅を動かして逃げてみるが、漆黒の生き物はものすごい勢いで追いかけてきた。あんなデカイ翼で来られたら吹き飛ぶじゃねぇかっ!そもそも、喰われてたまるかっ!!
ムスカ:「っざけんなぁーー!くぅーるぅーなぁーーーーー!!」
とっさに近くに居た人間に張り付いた。だが漆黒の生き物も突っ込んでくる気だ!
人間:「ぅわっ!こっちくんなっ!!」
人間の男が持っていたカバンでカラスを追い払うと、驚いたカラスは遠くへと逃げていった。
ムスカ:「ラッキー!良くやった人間!」
そこで改めて周囲を見渡してみた。
ここに居る動物達は皆、人間との距離を見計らっている。
まるで人間を恐れているようだ…
確かに、地上で最も多い生き物は人間だと聞いていたが、ここまで従順に他の動物を馴らしているとは…
人間の姿をしていれば、危険が減ると言う事か……。
ムスカ:「…よし。モノマネしてみよう!足が二本で腕も二本、顔は以外とコンパクトに出来てるな…」
人間の男の肩でじっくり観察を終えると、既に公園からは離れていた。どこかの建物内に入ってしまったようだ。
とにかく、一度見よう見真似で変身してみよう。
ムスカ:「せ、せーのっ…」
眼を開けると、目の前には人間の女が立っていた。
ムスカ: 「おう!どうだ。」
何かとてつもない表情でこちらを見ている。しまった…失敗したか…??
女性:「ひっ…!!!へ、変態ぃいいーーーーーー!!!!」
人間の女は叫びながら逃げていった。不思議に思い、キョロキョロと自分の身体を見回してみた。
そうだった、すっかり忘れていた。人間は素肌を晒すのも見るのにも、羞恥心を強く感じるらしい。
ムスカ:「面倒だが、何か纏わないと歩き回れない…うぅ~ん。」
ふと横を見ると、小さな部屋が沢山あった。そこにはちょうど良い真っ赤な履物が並んでいる。
人間の足の裏は思ったよりも柔らかい。痛いからこれ履いて行こう。
だが、これだけじゃまだスッポンポンだな。早く何か着ないと、また人間に叫ばれて目立つしなぁ…面倒くさい。
隣の部屋では、変な機械が ”ゴウンゴウン” と音をたてながら回っていた。
ムスカ:「何かこの部屋暑いな…」
熱はうるさい機械から発せられている。
機械の中を覗くと、そこには人間の服が回っていた。
この機械が止まれば服を頂戴できる!
だが、このうるさい機械はどうやったら止まるのか。
中をジッと見つめていると、今度は ”ピーーーーッ” という音をたてながら機械が止まった。お!今がチャンスだ!
ムスカ:「どれでもいいか…。じゃぁ、オレの好きな赤いのだな。
まぁあとは…この白いのなら穿ける!」
よっし!これでやっと外に出られる。
この場所はあまり好かない。何だか良い匂いが一つもない。
人間の血の匂いが少しして、白い服の人間がいっぱい居る。
命が消えたり、生まれたりする所なのかな…
ムスカ:「とりあえず、そろそろ腹減ったし…外に出てなんか探さないとな。」
第一話 【モノマネしてみよう。】- 終
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第二話 【食べんしゃい。】
腹は減ったけど…
親父が言ってたからなぁ…
( ベルゼブル: 「たまには良いが…人間ばっかり喰うんじゃねぇぞ!」 )
・・・・・・・・
そもそも、人間って美味いのかな…(´・ω・`)そうは思えないな…
ムスカ: 「親父が漬けてるマンドラゴラの漬物…食いたいなぁ…」
目の前では人間の乗った機械が忙しく行き来していた。
どこを見渡しても自分の知っている風景はなく、
容赦なく照り付ける日の光が眩しくて身体に沁みる。
再びジワジワと寂しさが募る。
涙眼になりながらも、見知らぬ街をトボトボと歩き出した。
道を知らないはずなのに、気付くと再び公園に戻ってきていた。
何故だろうか、この公園は微かに懐かしい匂いがした。
公園のベンチに力無く座ってみる。
ムスカ: 「やっぱり、蠅の王にとってオレっていらなかったのかな…
もしかして、いつまで経っても弱虫なオレに嫌気が差したのかな…
オレって…捨てられたのかなぁ…( ´ ×`。)」
どうやって生きて行ったらいいのか分からなくなった。
何よりも、蠅の王の息子である自身がなくなった。
そんな憔悴しきった時だった。いきなり人間が俺に向かって話しかけてきた…
男:「なぁによ兄ちゃん…悲しい事でもあったのかね、えぇ~?」
ふと顔を見上げると、そこには老人が立っていた。
ポカンと口を開けたまま見上げていると、老人はニコリと微笑んだ。
老人:「ちょっととなり座るよぉ…ぃよっこらしょ。
頭なんて抱えちゃって、駄~目だよぉ~。まだ若いんですからねぇ…」
人間の爺さんよりは生きてきたつもりだ(`ω´;)
ムッとした瞬間、 ”グゥゥ~…” と腹が鳴った。
老人:「なぁに、お腹空いてたのかねぇ。ちょっと待ってなさいよぉ。今車に取りに行ってくっからねぇ…」
老人はゆっくりベンチから離れると、少し離れた場所にあった ”車” に
何かを取りに行った。少しすると、老人が甘い匂いとともに戻ってきた。
老人:「はいこれ食べんしゃい。おじさんはあの車でパン焼いてんのよ。
お腹が空いてたら、悲しい気持ちになっちゃうからねぇ…」
老人から ”パン” と言うものを受け取った。
そっと匂いをかいでみると、甘くて人間臭かった。
老人:「おじさんがねぇ、一番得意なのメロンパン。美味しんだよぉ~。」
とにかく腹が減っていた。
勇気を振り絞って、思いっきりパクっと噛り付いてみる。
ムスカ: 「ぅ・・・ウマイっ!!!!」
老人: 「そうでしょぉ、そうでしょぉ。元気が出ると良いねぇ。」
人間の食物を初めて口にしたが、まさかこんなに美味しいとは…!
手の中にあったはずの ”メロンパン” は、あっという間にたいらげてしまった。
すると老人はスッと手を伸ばしてきた。
老人:「はい。一個300円になりますよぉ。(^ω^)」
・・・・・・・・・300円ってなんだ??
分からないから、とりあえず出された手にパンッとタッチしてみた。
老人の顔色が変わった。少し眼がキリッとしている…(`・ω・´)キリッ
老人:「駄~目だよお兄ちゃん!お金ながったら何にも食べられないんだよぉ~!」
ムスカ:「お金??も、持ってねぇよ…」
どうやら人間界では、何かを貰うのに ”お金” が必要らしい…
少し間があったが、老人は口を開いた。
老人:「まぁ、そうかなぁとは思っていたんだけども…あのねぇ。どうしてもお腹が空いたらね、またここに来なさい。」
そう言うと、老人はまた車へと戻っていった。
もしかしたら、人間とは思っていたほど愚かな生き物ではないのかもしれない…
もっとアホで意地汚い生き物だと思ってた。そんなに害の無い生き物だという事も分かった。
問題は…天使に出会った時だな。
魔界にいた時から親父が修行をつけてくれてはいたけど…正直、自身無いな。
確実にヤバそうな奴は見分けられるようにならないと。
蠅の姿で飛び回って、偵察から始めるか…
第二話 【食べんしゃい。】 -終
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