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犬、血、そして仲魔


天使から逃れるように、暗雲の中を突き進むケヲル一行。


黒い靄が視界を奪う。暗雲の中は時折スパークが迸り、仄かに鉄の匂いがする。我々は今、自分の嗅覚とベルゼブル殿の勘で魔王城を目指している。


「ベルゼブル殿、少し2時の方向に軌道を修正しては貰えないか?天使の、戦火の匂いがそちらの方から匂ってくる」

「あいよー。しかし、よく利く鼻だなぁ」

「あぁ、この1年色々あってな。我がベルゼ殿の鼻に、フレイラがベルゼ殿の眼となろう。だから、安心して飛んでくれ。」

「頼もしいもんだな今のお前らを見たら、あいつもきっと誇らしいだろうよ」

「あいつ?」それが誰を差すのかは粗方検討はついていたが、我はその答えを待つ。

「あぁ、お前らの父ちゃんのことだよ。」

「父上」

前の大戦で戦う父親の最後見た姿を思い出す。何か、会話をしたような気がする。

「お前ら、今魔界で起きている騒動が収まれば、また地上に行くんだろ?」ベルゼ殿が、心を見透かした様に話しかける。「あぁ…無論だ。」

「覚悟は堅いか。けどな、このまま残ってもいいんだぞ?」

我がとるべき行動のもうひとつの道を示されて少し揺らぎそうになる心。

大戦後、わずかだが魔王として過ごした日々を思い出す。


そこには、暖かい兄弟達が居て、王の間に集う魔王軍の精鋭達と魔界に点在する集落を守護する将軍達が居た。

「そうだな、それもいいかも知れんな」

そっと、肩に手を置かれて我に返るケヲル。

「すまない、少し思い出に浸りすぎたか・・・フレイラ・・・。」

「え?呼んだ?兄貴?」

と、声のする方を見たが、肩に置いているはずの手は両方ともベルゼブル殿の背中に置かれていた。この肩に置かれた手は誰のものであろうか?ベルゼ殿のものにしては、小さく、そして硬質的である。肩に置かれた手を辿り、その持ち主の体を目で追っていくと

見慣れない顔がそこにはあった。顔というか…・・・赤ちゃんの人形のような物体がそこにはあった。

「お主は何者だ?」

「ててて、テンシ・・・いや、コテンシだよ?」

「・・・…」

「アクマは、食べちゃうよ?」

肩に置かれた手に力が入ったかと思うと、大きく口を開ける小天使。


素早くフレイラの方を確認すると、ぞっとするような光景が目に映る。

4~5匹の小天使が、フレイラの頭と、ベルゼブル殿の体にひたりと張り付いているのであった。


「ベルゼ殿、我らに構わず1回転してくれ!」


あいよーと言う掛け声と供に、力強く羽根が振動し、ベルゼブルを中心に強力な遠心力が生まれる。その力に抗えなかったフレイラと小天使は、

そのまま空中に投げ出される。投げ出された一匹の小天使が、何やら光を溜め込んでいるのが見える。


「フレイラ!待っていろ!いますぐ助け・・・!」


その言葉を言い終わらない内に、一匹の小天使が凄まじい

爆発音を立てる。そして、それに連動するように爆発していく小天使達。


爆発していないのは、フレイラの頭に張り付いている一匹だけであった。吹き飛ばされた影響か、爆発自体は規模の大きなものでは無いが、あれを頭にもろにくらってはただでは済まないのは確実であろう。しかしフレイラの横顔を見ると、意外にも冷静に小天使を見つめている。何かのタイミングを推し量っているようにも見えた。何やら、呟く声が聞こえる。


「ふーん。青から紫、赤から黄色、そして白色で爆発するのか。そして・・・この丸いお腹が爆心地ってことね」

「フレイラ?」

こちらに顔を向けるフレイラ。落下中にも関わらず、その表情にはどこか余裕がある。

「あ、兄貴、こいつはまだ青色だから、爆発しないよ。それに、爆発するお腹の部分は砕いといたから恐らく不発に終わると思う」

そう言い終わると、小天使の腹部に減り込ませていた左手で自分の頭から小天使を引き剥がし、空中に放り上げた。


「兄貴!お願い!」


「承知した!」


放り投げられた小天使とフレイラとの距離を十分見定めた後、炎の塊をその小天使に向かって走らせる。爆炎をあげながら、燃え尽きていくその人形を傍らに、ベルゼ殿にお願いしてフレイラの回収を急がせる。随分と高度は下がってしまったが、フレイラの手を空中で掴み、ベルゼブルの背中に乗せる事に成功する。


「ありがとう、兄貴」

「いや。こちらこそ、危険な思いをさせて済まなかった」

「いや、いいよ。あのままじゃ、ベルゼさんが危なかったもんね」

「すまんなぁ、坊主。おぉ、それよりも、見えてきたぞ!魔王城だ」

3人が見下ろした先には、赤い大地に白い壁が聳え立つ魔王の城がそこにあった。

悠然と大地にしっかりと根を下ろしている魔王の城には、独特の威厳に満ち溢れている。

それは、過去に数々の実績を上げてきた父上を現すにふさわしいものであった。

「ついに帰って来たか」

「そうだね、兄貴」

「坊主ども!どこに降りればいい?」

そうだな……と、魔王の城を眼下に確認すると、その光景に眼を疑った。


魔王の城を中心に、四方八方から先程の小天使が凄まじい数で侵略してきているのである。恐らく50万、いや、60万匹は軽く超えている数だ。

魔王城へと雪崩込んでいるその白い群れが、いくつかの場所で流れが滞っている様に見えた。その場所を良く見ると、魔王軍の精鋭や、将軍達が必死になって食い止めている

姿が見えた。それ以上、魔王城を、魔界を汚されない為に。


今この形ある魔王城は、この者達の奮闘の成果でもあるのだ。この者達が居なければ、恐らく魔王城も壊滅的な被害を受けていただろう。

「お前達」言葉につまる。その感動をどう言葉で表現していいかが、解らなかった。

「行こう!兄貴!」

「そうだな。かつての部下の手前、これ以上の醜態は晒せん」


「フレイラよ、今お前の眼にあの小天使はどう映っている?」


「そうだな…ほとんどが紫色で、どうやら、やられそうになったら爆発してるみたいだ。

兄貴!!もう少し、魔王城に寄ってくれる?」

「うむ、ベルゼ殿!可能か?」

「了解」

と、壁面ギリギリに近付くベルゼブル。

「何か見えるのか?フレイラよ。」

「うん。下の奴らが何匹かと、それに混じってあの感じは恐らく別の天使が城の中に潜入しているみたいだ。ここからじゃよく解らないけど」

「ベルゼ殿」


「あいよー!!」

と言うと、今度は逆に魔王城と距離を取るベルゼブル。

「あれ?兄貴、城の中には入らないの?」

と、ベルゼブルが後退を止めると、今度は空を蹴るように足を延ばす。

そして前方へと精一杯加速し始めた。もちろん、その先にあるのは魔王城の壁面である。傷一つ無かった魔王城にベルゼブルの頭がめり込む。

「やっぱ痛いわ。頭と複眼、潰れたかも」

「ちょっと!!」

「行け!!フレイラよ!下は我らに任せよ!」

「え、でも俺なんかで」

「大丈夫だ。安心しろ。お前ならやれる」

「でも……天使とサシで勝負した事なんか無いよ」

「お前は確かに経験は浅い、しかし、お前にもあの父上の血が流れているのであろう?」

「!」

「お前の体はお前だけのものではない。父上のものでもあり、母上のものでもある」


「そうだったね…。自分を信じられないって事は、父さんや母さんを信じれないってことだもんね」

「あぁ。信じろ、父を!そして、最後まで気丈に立ち向かう健気を見せた母上を思い出せ!」

「わかった!」

そう言うと、フレイラは頭に被っていたバンダナを取り、折りたたむとそれを額に当てて結びなおす。

「うむ。よい目つきになった。」

「うん。いってくる!」

そう言うと、ベルゼブルが突っ込んでいた頭を下げる。そしてその体を伝い、魔王城に空いた大穴に体をすべり込ませていくフレイラであった。


頭を壁面の大穴から救出させたベルゼブルはそのまま重力に逆らわず地面に向かっての落下運動に身を任せる。しばらくその大穴を見上げていたケヲルは、ただ一言、がんばれと呟いた。

「さぁ、ベルゼブル殿!」

「あいよ。無理すんなよ。 俺達、これでも病み上がりの死にかけだぜぃ?」

「フッ、かっこ悪い所は、弟には見せれんからな」

「まぁな。鷲も第一世代の誇りってもんがあるからなぁ」

そう言うと、変身を解くベルゼブル。口の端に笑みを浮かべる両者。

「父上とも肩を並べた貴方と供に戦えた事を、誇りに思う」


「鷲もだ。ルキフェルのせがれと、戦って死ねるなら本望だよ」

「安心しろ、貴方は死なせない」

「それはわしの台詞だ」

身構えた2人の体から強い光が発せられ、膨大な量の魔力の波が発生する。

「ベルゼ殿は、魔王城の東側を頼む。そちらの方がやや押され気味のようだ」

「あいよ」

ベルゼブルは上手に空気抵抗を利用して指示された方へと流れていく。

一度、ケヲルの方に目配せをすると、そのままの勢いを利用して、白い塊の中へと突っ込んでいき魔力の爆発を起こさせる。その凄まじい轟音と衝撃に、戦場が一瞬時を止めたように感じた。

「第一世代の悪魔達の頑丈さは本当に頭が下がる」

ケヲルは呪文を唱えると、幾つもの炎の帯が発生し、地面に群がる白い小天使に突き進んでいく。それはまるで、狩りを待ちわびていた猟犬が野に放たれる様相に似通っていた。広範囲に広がっていくケヲルから放たれた灼熱の帯に、それまで規則的だった小天使の群れの動きが徐々に乱されていく。


ケヲルが地面に静かに降り立った時には、炎で創られた柱により進路が塞がれ、限定的な動きをせざるを得なくなっており、その進軍の歩みを遅らせていた。

「まぁ、初動にしてはまぁまぁと言った所か。さてと」

辺りを見渡すケヲル。とりあえず、その場所から一番近い仲間の所へと行く事にする。

小天使は絶えずケヲルを狙い、突撃と爆発を繰り返す。その爆風が、衣服や髪を少し焼くがそれをものともせず、一歩一歩悠然とした態度のままその歩みを進める。


小天使を炎の腕で焼失させつつ

その場から一番近くに居た人物に声をかける。


「そこに居る者!名を名乗れー」


ケヲルは、悪魔独特の魔力を感じ

そこに仲間がいると判断し、声をかけた。


もちろん、辺りには膨大な数の小天使が

蠢いており、声をかけた人物も何十匹もの

白い天使に塗れており、誰かは判断できないからである。


「フム、そのお声はもしやケヲルお坊ちゃま?」


ケヲルが、その声の主を助けようと炎を発現させるが助けは不要と言わんばかりに硬質の金属が空を裂くような斬撃が辺りに響き渡る。一瞬にして空間が切り取られるようにして散り散りに吹き飛ばされる天使。


「お懐かしゅうございます。ざっと1年でしょうか?」


微笑む歪な鎧に身を包んだ老人の姿を確認したケヲルはそのもの名を口にする。


「フォーカス殿、貴公でありましたか」


「カハハッ、面目ございません。このような瑣末な出来事に王のお力を借りる等万死に値しますな。王がお帰りと言う事は、レオのお坊ちゃんもお帰りで?」

「いや、アイツは引き続き天界へ続く門を探す為に、まだ人間界にいる」

「そうでしたか。やはり、なかなか尻尾を出しませんな。天界の連中は」

「そうだな。ちょっかいは出してくる癖に、その足取りを追う事は困難を極めている」

「ですな。一刻も早く、魔王のご子息が神にその刃を突き立てる日を楽しみにしておりますよ」


ケヲルは、一片の疑いも無く復讐を成し遂げられるであろうと期待する老人の眼差しに、僅かに罪悪感が芽生える。本当に、そんな事が可能なものなのか。人間界で遭遇し戦った桃色の髪の少女を思い出す。おそらく、末端の天使には違いないのだろうがここまで天使の手が秘密裏に人間界に及んでいる事に恐怖を覚える。


そして、このタイミングでの襲撃。魔王の血を引くウェルティアとリルム姉さんが

丁度魔界を出た直後にだ。それまでは、魔界の門と地上がどこで繋がっているか天界側では解らなかったにしろタイミングが良すぎる。いや、それは無い。


前の大戦の終結時に魔界の門にゲートキーパーを配置させたのは奴らだ。その繋がりを把握していない訳がない。なぜ私達4兄弟が地上に出ただけでは魔界は襲撃されなかったのだ?第一皇女リリスの血と呪いを引き継ぐリルム姉さんが関係している?

それとも、第三皇女ユーリ殿の血を引くあの謎の多い末子ウェルティアが関係しているというのか?


それとも、私達6人全員が関係して…とそこで、フォーカスに声をかけられて思考が中断する。

「何か心配事ですかな?王?」

目の前の老人は驚く事に、思考の海に漂っている間私に出来た隙を庇いながら戦っていてくれたのである。単身戦うのと誰かを守りながら戦うのではその難易度に雲泥の差がつく。

さすがは、レオボルトの組織する魔界の騎士団団長なだけはある。あの組織は人間ではないのだから、騎士団などという名称を語る必要は無いであろうと指摘したのだったが、レオボルトは戦う為に作られた組織よりも、皆を守る事を優先させた組織が作りたかったのだと語っていた。


その当時の人間界の影響を受けたのか騎士としての誓いと洗礼を当時まだ女王に即位したばかりの第三皇女ユーリ殿から受けているのには呆れるを通り越して感心したものだ。


その時、何故だか優美なドレスを着せられ、頬を赤らめながら跪く騎士達に洗礼をするユーリ殿を思い出し、少し微笑まし気持ちになる。しかし、レオボルトが守る事を意識した切欠は口に出すまでも無く我らの母上、第二皇女フェイリアの暗殺が糸を引いているのだろう。


感傷に十分浸る間もなくケヲルは魔界の炎により天使を焼き尽くす。


「フォーカス騎士団長!何時からこの様な事態に?」


話しながらも、2人はまるで相棒同士のように息のあったコンビネーションで天使を裁いていく。

「ちょうど4日前からですな。しかし、戦争にしては居るはずの戦闘を指揮するものが見当たりません。 これでは、こいつらを全て倒しきるまで我らは疲弊していく一方ですな」

「あぁ、恐らくこれは、戦争等では無い。大義名分も何もない、ただの破壊行為だ」

「もしや、これは玉砕覚悟の特攻だと申しますのか?」

「あぁ。しかし、まだ別の可能性が消えていない訳でもないが」

「そうですな。幾らこれだけの数の天使を魔界に投入しようと、王不在の魔界とは言え、

まだ強豪揃いの魔界に決定打を打ち込めるはずがないのは向こう側も気が付いているはずなのですがな、城内にはバアル殿も待機しておりますし」

「そうだな」

「存外、ただの時間稼ぎかも知れませんな」

「ふむ…(目的は別にある?) 魔界における被害状況は?」

「それは、生憎、この数の天使を裁ききるのに手一杯で魔王軍全員が迎撃に出ております故に、状況把握までは至らない次第でごさいますな」

「城への被害は?」

「あるにはありますが、城周辺に比べて被害は少ない模様ですな。奴らは何故か周囲からわざわざ目立つように侵攻してきましたからな。ちなみに城内部を警護しているのはバアルを中心に、他数名の下級悪魔であります。その他の主な将軍は用心の為、魔界に点在する各集落への防衛に当らせております」

「そうか…(やはり、この襲撃、どこか違和感があるな…)」

ふと、ケヲルの背中に手が置かれる。


「ここはこのじじぃに任せて下され。王は、敵の真意をお確かめになるのです」

「そうだな…こいつら程度なら時間はかかるとはいえ、他の者も対処出来ない訳でもない……なら、私には他にすべき事があるようだ」

「そうですとも、さあ、行って下され」

「あぁ、城内部には、今フレイラが潜入してくれている。バアルもいるのなら、問題は無いだろう。私は、周辺の情報を集めてみる事にする」

「ご武運を!」

と言うと、フォーカスは手にしていた得物を上段に構えて魔力を帯びた斬撃を放ち、道を造る。その道は、近くの森にまで続いていた。

「まずは、あちらに身を隠しなされ。こいつらは創りが甘い分、魔力を感知する力はありません。視覚からの情報で動いとるようです」

「すまない、感謝する」

そしてケヲルはその身森へ隠すために、その足を進めた。天使どもの真意が他に無い事を願いながら。


 *


魔王城近くに位置する森に久瀬浩樹達はその姿を隠していた。

「おい、久瀬!なぜ私まで隠れねばならんのだ……城の周りに群がっているのは子天使ではないか」

「えぇと…今、ラゥビーさんはあの双子の天使の手前上、事故死と思われてますからね。なるべく姿を現さない方がいいと思います」

うぐっ、と言葉につまるラゥビー。その横には、膨れっ面をして機嫌が悪そうな佐島奏とアシュタロトが木々の茂みに身を隠している。その機嫌を損ねている原因が、先程から久瀬に体を密着させて隠れているリリスにあるのは言うまでもない。

「ん……リリスさん?なんか、近い……というか柔らかい……?」

「そうかしら?ほら、もっと屈まないとあの不細工な人形に見つかっちゃうわよ?」

「確かに」

「ごめんなさいね、本当はもっと大きかったのだけど……容姿が若くなった性で小さくなってしまって」

「なんの話をして」

と、突然リリスの両肩を激しく掴み自身に向き合わさせるラゥビー。

その瞳には怒りと憎しみに燃えていた。

「何が小さいだと!……この悪魔風情が! 十分すぎるほどあるじゃないか!今の貴様の肉体年齢は何歳だ!言ってみろ!」

「何、あなた…少し怖いわよ?」

と自分の胸の輪郭をなぞり大きさを確かめるリリス。少し悩んだ後、15歳位かしらという素っ気ない答えが返って来た。

「な、ななな……!私の肉体年齢よりも若いだと!その癖に!」

(高校生としてラゥビーは一時的に潜入はしているが、実肉体年齢は23歳である)

「何?嫉妬?」

「う、うるさい!私なんてこの肉体年齢で……(A)……B位なんだぞ!」

「知らないわよ。貴女に肉体を与えた神様にでも文句いいなさいよ」

と、呆れた顔で答えるリリス。ぐぐ、と唸るように渋々リリスの両肩にかかっていた圧力を緩めて行く。佐島とアシュタルテは何やらひそひそと話をしている。恐らくガールズトークなのであろうと感じた久瀬は聞こえないフリをしている。

その時、久瀬達が隠れている茂みの近くに空を切り裂く様な金属音が発生した。


その音にすぐさま警戒態勢をとり身を屈める5人。しばらく音を立てず、魔力の気配を消す。しばらくすると、そこに1人の銀髪の男がやってきた。その紅い眼には猟犬の様な鋭さが湛えられている。しばらく口を塞ぎながらじっとしている久瀬達。


その男からは丁度10m位の距離が離れており、森の茂みが闇を造り外観からはその姿をうまく隠せている。見つかる心配はないだろうと、そのままやり過ごす事にする。


しばらくすると、その男の足音は明後日の方向に歩みを進めていった。


その場にじっとしているのは、危険だと判断したラゥビーは場所を移動する事にした。あの銀髪の男に見覚えがあったからだ。移動する為に中腰になった瞬間、何者かの気配がして全員そちらに振り向く。そこにいたのは、マルチーズかなんだかよくわからない犬の様な姿をした獣だった。全員に走った緊張の糸が一瞬にして振りほどかれるが、ラゥビーだけは緊張の面持ちのまま冷や汗を頬から垂らしていた。

アシュタルテは無邪気に犬に近付いて撫でようとしている。

「待って、アシュタロテ。こいつ悪魔よ。それも……私と一度戦った事がある」

「え、ラゥ…」

アシュタロテがラゥビーの方に顔を向けた瞬間、その獣のかわいい牙がその手に

襲い掛かる!けたたましい悲鳴が、静寂なる森に木霊する。

「痛いー!この犬噛みついたぁ!」

呆れる久瀬。

佐島はおろおろしている。リリスはその犬を見下すようにしか見ていない。

ラゥビーだけは、魔力を解放し、戦闘態勢を崩さない。そして、その犬から言葉が発せられた。

「バゥバゥ…ワン(は!しまった!反射的に噛みついてしまった)」

犬は、噛みついたまま人語を話しだす。

「そこの桃色の髪をした天使は、以前地上で手合わせした者だな。そして他の者は、レオボルトと戦い、命からがら魔界への門を潜り逃げ込んできた者達だな。すまないが、今お前達の相手をしている暇は無い。敵対すると言うならここで焼き殺……」

と、犬の首根っこを掴み、本気で首を絞めていくリリス。

「どうするって?この犬っころが!」

「ちょ、リリス!その絵面は非常にまずい。動物愛護団体に訴えられる!」

と、変に冷静な指摘をする久瀬。佐島は必死に、噛みつかれているアシュタルトの腕を引っ張っている。

「痛い痛い、奏、なんか引っ張ると余計痛い!」

目に涙を浮かべて懇願するアシュタルテ。

「放せ!犬!」

と、何故だか反射的に口を放してしまう犬。

「バフッ(しまった、餌付けされていた頃の犬の習性が!)」

手を解放されたアシュタルテは、傷口を押さえている。見事な歯形がついていた。

「くぅーん…」

ケヲルは力無く声を出す。そして、今度は向きを変えられてよしよしと、リリスに頭を撫でられている。無礼な!と怒りを露わにしているケヲルだか、尻尾を激しく振っている所を見ると嬉しそうであるという事はそこにいた全員が理解していた。

「よし、いい子ね。私のペット一号にしてあげるわ」

「わん!」

「ちょ、何考えてるの!リリス!そいつ、確か魔王の血を引く者って言ってたわ。ここに来る前に、そいつとは一回戦って負けているし、地上で遭遇した別の魔王の血を引く者とも戦ったけど、私達4人では全く歯が立たなかった…… 気をつけて!」

「ふぅーん…。魔王のね」と見下ろすリリス。

「リ、リス?」

「リスじゃないわよ。リリスよ」

「リルム姉さんの……母君?第一皇女リリス殿?」

「リルム……やっぱり貴方……あの子の兄弟だったのね。まさか犬とはね。あのルキフェルめ、私の後釜に雌犬と……当てつけってわけね」

首を必死に振るケヲル。必死にもがくとリリスの元を離れて人間に近い姿をとる。

そしてなぜだかアロハシャツを着ている。

「私を侮辱するのはいいですが、私の母上を犬呼ばわりするのは耐えられません」

「あら、あの人に似ているわね……やっぱり親子なのね。その雰囲気だとやっぱりあの人と仲の良かったヴァンズ家のフェイリアって女の子供かしら」

「はい。ご察しの通りで」

「やっぱりね。まぁいいわ。どうせ私が死んだ後の事だったし性が無いわね。

浮気されなかっただけましだわ」

「あの魔界一の美女と名高かった貴女も……純愛を貫い……ゴフっ!」

うるさい、とリリスからケヲルに拳が飛ぶ。その頬は気のせいか赤く染まっている。

「で……その……。あの……兄弟なら解るわよね?」

顔を顰めるケヲル。

「父上なら……?いや、兄弟?ですか?弟達は、今はフレイラを除いて全員地上にいます」

「だれそれ?そんな華の名前みたいな子供の事なんてどうでもいいわよ。」

あ、と全てを理解したように呟くケヲル。

「リルム義姉さんの事ですか?」

「そうよ、このにぶちん!」

と、ますます赤くなっているリリス。当然久瀬達に会話の内容は解らない。

ラゥビーは相変わらず警戒態勢をほどいていない。自分はにぶちんと言う名前では無く、ケヲルだという訂正を入れた後、少し曇った表情をする。

その表情を読み取ったリリスはあえて付け加えた。

「解ってるわよ。私はリルムに殺された。けど、あの子を恨んではいない。恨まれる覚えはあっても、私があの子を恨む理由なんてないわ。憎んでいたのは……呪いよ」

佐島が、リリスの服の裾を引っ張る。誰1人として気付かなかった僅かな体の震えに気付いたからだ。

「義姉は今も元気です、今は地上にいます」

と簡略的にケヲルは答えた。

兄弟とは言え、親子間の問題に立ち入るつもりはないようだ。

「ねぇ、ひとつ聞いていい?」

「はい?」

「あの子の体に、薔薇の様な刻印は現れている?」

その質問には首を傾げるばかりのケヲルだった。

「兄弟とはいえ、姉の体の事までは……」


「まぁそうよね」

ふわああぁ~っと、アシュタロテから欠伸の音が聞こえてくる。

無意識に、アシュタロトの方を見るケヲル。久瀬が、肘でアシュタロトを小突く。

「ムッ?ムムム?」

「むぅ?」

「地上で、レオボルトと戦っていた時は貴女に気付かなかったのだが、そなたは昔の知人に似ている。いや、正確には、その者はもっとこう……色黒で、もう少し禍々しく、男勝りの性格をした女性であったが」

あ!と叫ぶ久瀬。

「もしや、貴方の知っている人……アスタロトというのでは?」

「おぉ、そうだ。レオボルトに半死にさせられた少年よ。魔王軍の最も主要たる悪魔、ルキフェルと肩を並べる大公アスタロト殿だ」

「……なんか、ものすごい奴と契約しちゃったんだな、僕は」

大丈夫、と肩を叩く佐島。私はリリスさんとだからと、慰める。

当のアシュタロトは、ピンとこないのか。首を傾げてばかりいる。

「そうか、だからメフィストはあんなに親しげに……」

「ん?あのメフィストも地上にいたのか?少年」

「はい、危うく……全員殺されかけましたけどね」

「地上でか……どうりで、こちらでは見かけない訳だ。奴はどうなった?」

「僕らの魔術で体を消滅させてやりました。」

「そうか…礼を言わねばならんのかな?」

「礼?」

「あぁ、奴は我々、リキフェル派とは折り合いが悪くてな……。我らの母上を暗殺した疑いも掛けられていた」

「暗殺?」

思い出して怒りが蘇ったのか、アシュタロテが地団太を踏みだした。

「あいつ、嫌な奴!肉体天使に持っていかれて清々した。」

「肉体?(アスタロト殿と本当に彼女は同一人物なのだろうか?)」

「ん?あぁ、そうだよ。双子のおかま…いや、天使に肉体を持ちだされていった。

ざまぁみろだ」

「天使が?確か、あの祠には魔界における犯罪者の肉体が再び魂と結び付かないように

造られた場所。なぜそんな者達の肉体が必要なのだ?」

「それは知らないよ」

「あ、ケヲルさん。”アスタロト”の死体……じゃなくて、肉体ってどこかで保管されてますか?」

「あぁ。もちろんだとも、我々にとって大事な方だからな……魂を探し出した時の為に魔王城の地下に手厚く葬られて……いや、保管されている」

何やら考え込む久瀬。

「魔王城って…あの、へんな白い人形が群がっているあの大きな建物ですよね?」

「あぁ、その地下にあるが今は近付かない方がいいだろう。中に小天使では無い上級の天使が潜り込んでいる可能性も高い」

「貴方はここで何をしていたんですか?」

「あ、我か?我は他に天使の怪しい動きがないか探索する為にここに来ている」

「城へ潜入する気は無いんですか?」

「あぁ、中は弟に任せて来た。任せたんだ。ニ言は無い。それに、地上からでは城に恐らく侵入できんだろ。それほど強く無いとは言え、相手は特攻覚悟だ。それに数も桁違い。目的も解らん」

「教えて下さってありがとうございます。……僕達の事は殺さなくていいんですか?

リリスや、アスタロト(仮)を倒す理由は無いにしろ話ではそこの天使とも一度戦っている様子ですよね?僕達も、貴方の弟さん、レオボルトさん?と一度戦っています。何か、思う所は無いんですか?」

「ふむ、無いな。我らの目的は別の所にある。それに障害がでた場合のみ対処するようにしている。確立は低いにしろ、関係の無い所でこの命使う訳にはいかんからな」

「関係無い所?」

「まぁ、貴様には関係の無い事だ。それに、リリス殿やアスタロト殿と仲の良い所を見ると、そなた達にちょっかいだせば、彼女らが黙っていないであろう」

と、すぐにでも先手を打てるように、ラゥビー、リリス、アシュタロトの三人が構える。

それを見たケヲルは、愉快そうに笑う。

「ハハッ、ずいぶんとお前達は彼女達に好かれているのだな。よい、今は敵対する気は無い。この力は滅ぼすべき相手に向けるものだ。それに、利用できるものは利用させて貰う性質でな」

不敵に笑うケヲルに同調する様に目を細める久瀬。と、その場を後にしようとするケヲル。去り際に、いずれ決着でもつけよう、とラゥビーに言い残して姿を森の奥に消していくケヲル。

「貴方は、どちらに向かうんですか?」

「あぁ、ちょっとな。あいつ等が死体を回収すると聞いてな……。気になる場所を思いついてな。ここから遠い場所だ。魔界でもう遭遇する事もないだろう」

その言葉の意味を理解で着なかった5人は返す言葉は見つからなかった。

「さてと」久瀬は城の方を見る。「ここには、ありったけの魔力が満ちている」

「そうだな」

「うん」

「そうだな、主人」


全員が、城の方へと向かい直る。

「蹴散らすか」

という提案に、全員が頷く。

「私のお城を、あんな不気味な人形共に占拠されるなんて寒気がするわ」

「アシュタロテちゃんの肉体を取り戻す」

「アシュの肉体…腐ってないかな?」

「わ、私は……私は……ど、どうすればいいんだ!!」

と困惑するラゥビーを置いて、その茂みから姿を露わにする4人。

4人の魔力が膨大に膨れ上がっていく。

契約するものとされるもの。

魔界に降り立った異端者の刃はその切っ先を奴らに向けようとしていた。

「アシュタロテ、城正面に向かって最大級の魔力の大砲をぶっ放せ。お前の波動砲の威力を見せ付けてやれ!大砲娘!」

「は、はどうほう?うん!ぶっ放してやんよ!!」

「リリスちゃん、大規模な竜巻って発生させる事が出来る?」

「えぇ、貴女が望むなら」

次の瞬間、魔界自体を切り裂くような激しい閃光と、大地と空を震え上がらせる暴風が辺りに群がる小天使に襲いかかった。


 *


魔界から発生する瘴気を一身に受け止める大沼がある。

その場所には瘴気が視覚化できるほどの濃度が蓄積し黒い霧としてその大沼がある樹林を不気味に覆っている。その場所は、古の悪魔とされる魔族でさえも黒く深い霧の中が

どうなっているのか、そこに沼があるのかでさえ怪しい場所だ。故に、この区画一帯は黒い瘴気が害を及ぼす範囲に等間隔に黒い鉄塔が立てられその間には鎖が張られて

入れないように管理されている。最も、こんな鎖程度では侵入は可能なのだが、その実、好奇心で入った魔界の者が誰1人として帰ってきたことは無い。


というのは、魔界にある伝説のうちの一つだ。ちなみに、リルム義姉さんが歳の割に若く見えすぎるというのもその伝説のうちの一つである。


おっと、余談であった。


このケヲルこと我は、今この悪い噂が絶えない大沼の近くに来ている。


今、城の方が大参事となっている状況で、なぜこんなにも離れた場所にやってきているのかというと、その近くに第三皇女ユーリ殿が以前住んでいた小屋があり、その近くに彼女の息子によって建てられた墓があるからである。


この場所を知る者は実は魔界ではほとんどいない。父上とその側近、兄弟では私位であろう。彼女は、大戦前、その身を隠す為にその時、お腹に居たウェルティア共々ここへ隔離された。最後まで本人は前線を離れようとはしなかったが、それでも父上はその意見を断固と拒否し、彼女をここへ隔離した。正確には、そのお腹の子、ウェルティアが言うには”役に立たずだから追いやった”らしいが。


そして彼女は……家主がしばらくいない為、少し誇りが被った室内をケヲルは見渡す。


「家の中は無事な様だな」


そう、嫌な予感が的中したのである。


彼がここに到着した時には既に、小屋の裏手にあるウェルティアお手製の

渾身の出来のユーリ殿の墓は崩され、ユーリ殿が横たわっていたであろう棺桶のスペース分の空間がきっちりと消失していたのである。そして、暗い霧の大沼を囲うように建立された鉄塔に1人ずつ配置されている魔王軍配下の監視者が1人残らず殺害されていた。


消失した第三皇女ユーリ殿の遺体。

殺害された鉄塔の監視者の殺害。


これは一見関係無さそうな件だが、恐らく魔界襲撃の真の目的である可能性は高い、

そうケヲルの感は告げていた。しかし、いくら考えてもケヲルの脳内でこのことは繋がらない。むしろ悩んだ点と言えば、この事を誰に報告してもよいか。その一言に尽きていると言ってもいい。そして、この事がケヲルの中にある一つの疑問に直結している。そう考えてもいた。なぜこのタイミングで魔界が襲撃されたのか。



その理由は、恐らくユーリ殿の足跡を辿っていけば恐らく

付随して出て来る答えではあるとケヲルは考える。


頭の中には、どこか頼り無さげに、それでも女王として優しい眼差しを別け隔て無く魔族に向けてくれている1人の麗しい人間の姿を思い描いていた。


彼女は大戦の最中、人知れず息を引き取った。


父上が十数年続いた長く辛い大戦の最後、敵軍の長でもあるミカエルとの一騎撃があり

父上がその姿を消すと言う形で、大戦の幕は降りた。我々がユーリ殿の死を知ったのはその大戦後であった。


その事については恐らく、ユーリ殿自身が魔王軍に悪い影響が出ない為に情報を規制した可能性がある。


何故なら、第二皇女……和平を望んだ我々の母上の暗殺が発端となり、下火だった戦争の火種を大きく成長させたからである。


もし、あの時、その知らせを魔王軍全員が聞かされていたらその被害は致命的なものになっていただろう。その事について一番辛い想いをしたのは間違いなくウェルティアだった。1人、涙と激情を堪え、母の言いつけを守ったのだ。


孤独に母の遺体を埋葬しながら。


ユーリ殿の死因は、恐らくこの黒い瘴気の影響だろう。


発生源から少し距離がある為か、その影響力は少ないが彼女とウェルティアはここで数十年生活を強いられてきたのだ。私自身、体内から発生する魔力で緩和させてるとは言え、

気を抜いたら吐き気や眩暈が襲うだろう。


この強靭な体を持つ私がだ。


それを人間だったユーリ殿が平気であった訳がまず無い。ウェルティアは父上の血と力を受け継いでいる分、幾分かはましであってあろうが、普通の人間がここで生活をするとしたら命があったとしても廃人になるのは覚悟しなければならない。

そう、だから第三皇女は死に、末子は父を恨んだのだ。

そこでまたしても疑問が湧く、なぜ父上は、ここにユーリ殿を隔離したのか。

もしくは、何故ここをユーリ殿は選んだのか。そして、若かったとは言え、十分戦える素質を備えたウェルティアに対して軍事訓練も受けさせず、戦争に顔も出させ無かったのか、私達の目から遠ざけるようにさせていたのも明らかだった。


そして、もう一つ引っ掛かる事がある。


私達兄弟を地上に上がるように促したのは

王の側近バアルであったこと。彼の助言が無ければ、恐らく我々はまだ魔界に居たのだ。


初見、リルム姉さんが、ゲートキーパーに傷を負わされた事はバアルは知らなかったが、それを知ったバアルは漏れなくウェルティアを追いかけさせる様にして人間界への浮上を促し、魔王城に設置された巨大投擲器により、地上に向かわせている。


あの様子から、ベルゼブル殿は恐らく関与していないと思われるが

可能性がゼロでは無い。天使側だけでは無く、我々魔王軍側もどこかに何かしらの真意が隠れている。そうケヲルは確信しつつあった。


それが唯の思い違いであってほしいと、ケヲルは魔王城がある方角を暗い霧の大沼に建つ鉄塔の頂上で眺めていた。


ふと思う。


天界への門は、本当に地上経由でしか開かないのであろうか。


物理的に繋がりがそうであるなら仕方ないが、これらの3世界は

異なる性質を持った世界である。それなら、魔界から天界へ行けないはずが無い。


黒い瘴気のかかる広大な樹林の中央に目をやるケヲル。

その中央にはぼんやりとだが、大きな十字架のシルエットが地面に突き刺さっていた。


「我はどうしたらいいのであろうか」


誰かが何かを隠しているのは確実だ。だが、その真相は、恐らく……大切な誰かを傷つけなければ手に入れられない、そんな生々しい痛みの伴う代物であることに間違いは無かった。


一枚の写真をユーリ殿とウェルティアが暮らしていた部屋から見つけ出す。


この魔界に連れて来られるまでは人間界に居たという第三皇女。だから、ユーリ殿の部屋には魔界では見慣れない品物がいくつかある。これはカメラと言う機器を使い、現像されたものだ。その写真には、幼いウェルティアと少し疲れた表情で映っているユーリ殿が写されていた。

「あっちに戻ったら、せめてこれを……」

背後に違和感を感じ振り向く。迂闊だった。この大沼を監視する者は誰かに殺害されていたのだ。確かにその血はまだ新しかった。

「気付くのが遅いよ、君」

そう冷たく言い放った人物は奇妙な形をした剣をケヲルの胴体に突き刺した。

反撃の態勢に移るケヲルだが全身に力が入らない。無様に両手をだらけさせてその人物に寄りかかるケヲル。

「き、貴様は…」

「君は確か…あの人の長兄だったね?でもおかしいな。君は上に向かったと聞いたんだけどなぁ……」

「まぁいいか」と呟くと、その男は手にしていた剣をケヲルの腹から抜く。

「どうしようかな……そうだ、魂は無理でも肉体だけでも持っていくか……フフ、あの人、どういう顔するのかな、楽しみだな」

言葉を発しようとするケヲルからは、空気と供に赤い血溜まりを吐きだした。たかだか剣を体に突き刺されただけだというのに、その意識はすでに無くなっていた。剣を手にしていた男が何かに気がつく。ケヲルの手から落ちた写真だ。

「ユーリ様……と、その子供?いや、まさか……」

写真を裏返し、その日付を確認する。

「まだ私達にも情報は全て開示されていないと言う事か……」

フン、と口を鳴らすとその人物はケヲルの肉体を抱えて鉄塔から飛び降り、

黒い瘴気に包まれた樹林へと姿を消した。


 *


――魔王城内部中階層。


城の壁が揺れている。城の外側だろうか、轟音と共に空気を切り裂くような風の音が微かに鳴り響いてくるのが聞こえる。その衝撃に、少し恐れを抱いてしまうが、ここが地上から400Mは離れた場所だと言うことを思い出したフレイラは、気を取り直して城内下層部へと歩みを進める。

恐らく誰かが魔術を使ったんだな。でも……地上ではずっと小天使と悪魔軍がずっと戦っていた訳で……ここまで音は届いてなかったんだけどなぁ。よっぽどすごい奴が、参戦したのに違いない。確か、外から視た時に城内にあった反応は……大きなオーラが2つ上層部に。小天使と思われる大量のオーラが下層部に見えて、その下に更に大きなオーラがひとつに、小さなオーラがその付近にあった気がした。

今は、霊視したとしても、城の内部からなので下の階の無数の小天使のオーラが邪魔をしてそれより下にあるオーラは確認しにくくなっている。


この魔王城は広大で頑丈な造りになっている。


そして大型の悪魔でも快適に過ごせるようにと、各階を突き抜けているスロープがあるのだけど、念のため別にある階段を利用して下の階を目指している。ふと風切り音が上の方から聞こえてくる。それは気を付けていないと気付かない僅かな震動だが、それはスロープのある場所から聞こえてきている。恐らく、上層部にいた大きなオーラを持つ天使がスロープのある場所に空いた大きな突抜けを利用して下降してきたのだろう。


慌ててスロープからは死角の場所に体を隠すフレイラ。

顔だけはその姿を確認する為に出している。

段々と近づいてくる風切り音。


羽音が聞こえてくると供に天使ニ体の会話も微かに聞こえてくる。

「……イとサン……はどうだ?」

「あぁ…奴等はうま……しい」

その言葉に聞き耳をたてるフレイラだが、断片的にしか聞き取る事は出来ない。

「なら……もう……要ない……」


「そうだ……きあげるか」


丁度フレイラの視界を横切る天使達。


「そうだな。最後に外と中にいるあいつらを一斉に爆発させる合図を出せば、俺達の役目は終わりか」

「あぁ。あとは……様が上手く動いて下さる」

「……だな……あとは何の心配も…」

と、そこで片方の天使の声は途絶えた。

魔王城に押し寄せている小天使を爆発させるという言葉を聞いた瞬間、自然とフレイラの体はスロープのある空間へと身を移し、一体の天使へ飛び膝蹴りをおみまいしていた。

予想外の打撃に意識を失った天使はフレイラの荷重がかかった分、落下速度を上げて最下層の大広間へとぐんぐんと降下していく。

もう一体の天使はしばらく唖然としていたが、思い出したように羽根を羽ばたかせて降下し、狙いを定めつつ魔力の閃光をフレイラに向けて穿つ。


それを予期していたフレイラは、上空を見上げてその全てを見切っていた。

その閃光の幾つかがフレイラの掴む天使にも当たり、その痛みで意識を取り戻す。

ニヤリと笑うフレイラの顔と視線がぶつかる。


「ニヤリ(‘ U‘)/ (゜ロ゜)ギョッ」


凍りつく天使、掴みかかっているフレイラの右手には視認出来るほどの魔力が蓄積されていた。伊達にパン屋修行はしていないんだよと叫び大きく拳を振り上げるフレイラ。


「地上で覚えたパンの神様の必殺技だぁー!!

くらえぇぇ、あーん!ぱーん……!!!」


その拳が叩きつけられたと同時に、大広間の床に溢れ返っていた小天使の群れに2人は突っ込む。メキメキという音を立てながらフレイラの落下した付近の小天使が潰れていく。


拳をまともに受けた天使は再び意識を失っていた。

恐らく彼が目を覚ますのは、全てが終わったあとだろう。


「何とか一体……次は……」


スロープの上方を見上げようとするフレイラ。追手の天使への注意を越えた何かの臭いが嗅覚を刺激し、その惨状へと目を向けさせた。魔王城一階大広間……。その場所は、魔界と呼ぶのにこれほど相応しいと思えないほどの地獄絵図にフレイラは吐き気を催した。


小天使は他でもない、目の前のたった一人の老人にこのスロープ付近まで追いやられていたのだ。急造品の粗悪品、特攻前提で命を吹き込まれた小天使に防衛本能など存在しない。その小天使が、両手に包丁を構える痩せ細った老人に恐れ、戦いているのだ。

その惨状と戦慄を前に、目の前の人物がよく見知った顔だと認識するのに数秒かかる。


この城内に於いて我々の身の回りの世話を一手に引き受けてくれたあの側近…バアルの顔がそこにあった。


その顔はもはや恐怖そのものだ。物言わぬ死が体現し、我々に牙を剥いている。そう表すのに相応しい姿であった。その黒い衣服は小天使の返り血を浴びさらにどす黒く。

切り刻まれ、肉片と化した小天使は壁や床面を血の色に染め、まるでオブジェのように四肢を刃物で固定された小天使達もいる。それらはもはや、天使と悪魔という関係性をかなぐり捨て、一方的に補食されるものとするものの関係性を強く示していた。


死を体現する老人から声の様な叫びが発せられる。


「やぁやぁおぼっちゃま。お久しゅうございます。……後から追いかけられたリルム様とウェルティア様にはもうお会いになられましたか……?」


「運良く会えたよ……」


「そうですか、それはよかった……。あぁ、さすがフレイラ様ですね……立派な天使を捕まえて下さったんですね……しかも二匹も」


「え、いや、俺が倒したのは一体だけ……」


なんの空気抵抗も無く、刃物がフレイラの両頬を霞め飛ぶ。

それらは、静かにフレイラの上空に降り立った天使に突き刺さり、そのまま広間の柱に磔にする。


一瞬の出来事に痛感が追い付かないのか、磔にされた天使はただ狼狽しているだけだった。

「そうそう。こうされるのが貴方達は喜ばれるのでしょう」

どこからともなく新たに取り出した包丁が空を裂き、天使の両足を貫き柱に固定する。

貴様!と、一言言い終わらない内に天使は絶命した。一本の包丁が、その喉元を正確に貫いたのだ。

「おやおや、誰も許可していませんよ?食料ごときに向ける耳は生憎持ち合わせておりませんので、失敬」

震える口許で、フレイラはその老人の名前を発するので精一杯だった。

「フレイラ様、申し訳ございません。今すぐ広間を綺麗に致しますからお待ち下さいね」

フレイラはただ頷くだけしか出来なかった……。外で鳴り響く轟音も風音も、今のフレイラには届かないようであった。


フレイラがその幻視により垣間見た老人のオーラは黒く禍々しいものだった。悪魔そのものである。より魔王に近いはずの父上や兄達のオーラとは比べられないほどの

純然たる黒さだった。それは純粋な悪魔のみが持つ本性がそこにあるような気がした。幼少より魔王の血族を優しい眼差しで支えてくれてきた人物とはかけ離れた禍々し黒い狂気である。一体幾つもの憎しみを積み重ねればそれほどまでの狂気を携えられるのかは解らない。


老人は歩き出す。


恐らく厨房からこの天使の血肉のまみれたフロアを掃除する為だろう。老人の背中越しに、誰かが現れるのが見える。魔王軍関係者だろうか?


気の性かバアルの魔力が一瞬揺らいだように見えた。

声が聞こえた。肩越しに聞こえた声は知らない響きだ。


「おぉー……マジか?ここに押し掛けたこいつ等全員細切れにされてんのか?え!何!あいつらまでやられてんじゃん」


その言葉に対し、ひとつの言葉も返さないバアル。それどころか身動く動作一つも無い。


「あぁそこの怖いおっさん。無理して動かねぇ方がいいよ。今、あんたは俺に魂握られてるも同然だからな。いや、動けねぇよな」


バアルの後頭部で見えない人物を確認する為に背伸びをする。そこに立っていたのは何やら大きい棺桶を空中に待機させている黒髪の天使だった。眼は線のように細い男だ。


「あ、なんだ?もう一人居たのか?眼が細いから解んねぇんだよ……ってうっさいわ!」


自己完結している会話を聞きながら男の眼が強く見開かれたかと思うと体中の細胞が壊死してしまったように感覚の全てが奪われてしまい、身動き一つとれなくなってしまうフレイラ。幸いな事に、幻視のコントロールは生きているようで、そのファインダーを

切り替える事が出来た。幻視で見た奴の眼は、不気味に紅い光を湛えており、その紅い光がバアルや自分の体を支配しているように見えた。


幻視にも2種類ある。


ひとつは、ありのままの状況を詳細に見る事が出来るのだが、そのレベルが普通の眼の機能に対し、桁違いに高いのだ。例えば肉眼では絶対に確認出来ない紫外線や熱源、空気の流れや漂う埃まで解る。レベルを上げれば細菌もぼやけては確認出来るのだが、気持ち悪いのでそこまで幻視のレベルは普通上げない。


そしてもう一つが、他人の情報を様々なオーラとして認知出来る能力だ。


こちらはどちらかと言うと、自身が幻を見せられている形に近い。だが、これはその人物の外見に依存しない、内面や危険性を視る上では非常に役立つ。先程のバアルの黒くて大きな影のオーラも、バアルの思考や肉体的な部分から発せられたエネルギーの様なものを眼を通して脳が感知し、フレイラのイメージに近い形が浮かんでくる。これは自動的に行われるので、ほとんど本人の思い込みだとかに左右されない客観的な映像といて機能している。フレイラが驚いているのは、天使と思われる細目の男では無く、その隣に浮遊している棺桶の方だ。そう…棺桶の蓋がされているとは言え、先ほどのバアルの上回る程の禍々しい気が立ちこめていたのだ。

「いた!いたた!やっぱあかんわ!目細いのに無理したらあかん!健康に悪いわ!」

と何やら天使には不釣り合いの関西弁で話している。

「まぁええわ。2人とも動かれへんようにしたし、これでしばらくは安全やろ。おい!お前ら起きんかい!」

その関西弁の天使は磔にされた方の天使に突き刺さった包丁を抜き、フレイラが

叩きのめした方の床で寝そべっている方の天使の横に降ろす。そして其々に手を翳し、両手が光を帯び、それが2体の天使に流れ込む。

「貸し1万円や。ほんまやったら、お前らはほっとかれても文句は言われへんのやけど、 さすがに見て見ぬフリは出来へんもんな。まぁ、後でがっつりたかったるさかいな、覚悟しときや」


ガハハと笑いながら、視線を此方に移す。


「念の為や」と光の砲撃を放つとバアルごとフレイラを魔王城の壁に叩きつけた。身動きが取れない為、ノーガードで受けたそれはかなり痛い。

「よし、直ったわ!刺されてた兄ちゃんは、魂が離れかけとったで?ほんま危機一髪やったわ」

「申し訳ありません。サリエル殿」

頭を下げている2体の天使。

「ええよ。帰ったらたっぷり報酬貰うさかいにな。それより、これ、兄ちゃんが持ってくれへん?重くてしゃーないねん。持ってへんけどな!ガハハ!」

困った顔をしつつも、棺桶を受け渡される天使の1人。


「成功したのですか?」


「当たり前やろ?誰や思うてんねん。サリエルさんやで?まぁ・・・同期のミカエルに比べてエリートコースは歩んでへんけどな。こういう裏方仕事ばっかりや」


フレイラに殴られた方の天使が囁く。どうやらフレイラの達を殺すかどうか伺いを立てているようだ。


「え、いやや。わしは血生臭いの嫌いやねん。どうせあと半日は動かれへんし、はよいこ?」


なごり惜しそうにこちらを睨みつける天使2体。


「それより、この棺桶の中身はやはり」

「もちろんやで?何回か邪魔されたけど、しっかりと当初からの目的のサタンはんの肉体や。魂の方もばっちり宿ってるで?」


サタン…?そう言えば聞いた事がある。父さんが魔界を統治する時に封印した古の悪魔の1匹だ。魔王軍総出でやっと封印する事に成功したらしい。今も魔界では未開の地があるけど、それはサタンの影響下にあった土地で薄らいではいるけども未だにサタンから発生した瘴気が影響しているからだ。あの中では、本当に強い悪魔しか生き残れない。

当時、それを良しとしなかった魔王軍がサタンを封印したのはそれが原因と聞いている。

ちなみに父でも殺し切れなかったらしい。


「ベルゼブルとべヒモスは…どうするつもりで?」


「まぁ……ええんちゃう?あいつら生きとるしなぁ……あんな奴ら持って帰ったら

天界潰されてまうわ。レビィアタンは……まぁあの沼で大人しくしとったさかい問題あれへんやろ。べヒモスはビビりやし、ほっといても問題ない。ベルゼブルは、なんやらその息子に力分け与えてもうて、現役の時の力はもう出されへんってあの人から聞いたしな」

「了解しました。」

「あの双子の天使うまいことやってるやろな?はよう帰って、リリスはんのナイスバディ拝みたいわ」

ほな行こか?と、サリエルが翼を羽ばたかせた瞬間、爆音が魔王城城壁の一部をくり抜いていた。なんや?とサリエル達が、そちらの方を見やる。

真っ先に、地上の公園で見かけた少年とあほそうな悪魔が小天使に捕まって

走り回ってくる。

「うおおおおおお!!ば、爆発する!アシュタルテ!これとってくれ!」

「うわあああああ!!主人!油断した!強力な魔術には隙が多い事忘れてた!

発動するまで油断するんじゃなかった!主人!これあげる!」


アシュタルテと呼ばれた方の悪魔は小天使を無理やり少年の方にひっぺがす!

爆発する!と悲鳴をあげる。小天使の状態を幻視すると、赤色だった。あと5秒も経たないうちに自爆するだろう。


一陣の風が吹いた。


ふわりと簡単に巻き上げられた天使は、その身を爆発させる事無く切り裂かれる。

辺りに小天使の血飛沫が舞う。大きく破壊された城壁の入り口には、一人の少女とどこかで見た覚えのある悪魔の少女が立っていた。

「ヒロちゃん…大丈夫?」

「すまない。助かった…。ここなら安全かと壁を破壊して侵入してみたんだが」


少年の息を飲む音がする。ここはバアルの調理場と化していた事をフレイラは思い出した。そのことを忘れていたのは、この者達が鉄壁の魔王城の壁をいとも簡単に破壊した事に驚いていたからだ。慌てて少年のもとに駆け寄る少女2人。アシュタルテは、難しそうな顔をしてフレイラとバアルを見比べていた。


朱色の髪をした少女が口を開く。


「お久しぶりね…バアル」


俺の目の前にのしかかっているバアルさんに対して挨拶をする朱色の髪をした少女。

知り合いと言う事は、どこかで俺も会っているのかも知れない。その既視感だったのか?


その少女の言葉に沈黙を守り続けているバアル。


悲しそうにこちらを見つめていた少女の表情が

少しづづ変化していくのが解る。


瞳が潤みを帯びて怒った表情に変化していく。


「何よ!その…確かに……昔ちょっとあなたを傷つけちゃったかも知れないけど、だんまりを決め込む訳?あんたも私の事なんてなんとも思ってなかったのね!何よ!無視する事なんて無いじゃない!怒ってるなら怒ってるってはっきり言いなさいよ!!」


次第にはプンスカと両腕をぶんぶん振りまわしてバアルに掴みかかってくる。

あ、そういえばバアルさんサリエルとか言う邪視の影響で動けないんだった。


「それに何?よくわからない男の腕に抱かれて、あんたこの……数年?で趣味まで変わっちゃったの!?」


俺には解る。先程までバアルを包んでいた禍々しいオーラが消えて、その色を優しい色へと変色させていた。彼がきっと話せていたのなら、優しく微笑んで彼女を受け入れたのだろうと言う事は容易に想像出来た。


「え、ちょっと!だんまり決め込んでる癖に、なんで泣いてんのよ?怒ってるの?悲しいの?どっちなのはっきりしなさい!」


バンバンと頬を叩く少女。なんと怖い者知らずなのだろうか。


驚きの声が発せられた瞬間、一人の男の声でそれらは中断された。いや、男の能力で場に居る全員の動きを封じたのだろう。


頬もその朱色の頭髪と同じぐらい染めている彼女がその男を振り返る。

「何よあんた」

「おやおや、そのお姿は……もしやあの女王リリスさんでっか?」

「今は女王じゃないわ。ただの逆賊の犯罪者よ、ひっこんでろこのくそ×××!」

何やら呆れた様な表情をしつつ、その顔は嬉しそうだ。

「想像通りの毒舌や。ええよ。わしそういう気の強い女好きやねん。なんやまぁ……えらい想像してたんと違うなぁ、体つきがやや幼い?」

「ほっときなさいよ。あんたに体の成長具合なんか心配されたくないわ」

ビンタがサリエルの頬を捉えようとした瞬間、リリスと呼ばれた少女の動きが止まる。

リリス……魔王軍第一皇女の……あのリリス?そんなはずは無い。彼女は自らの娘、つまりはリルム姉さんを殺そうとした罪で裁かれたはず……その遺体も再び魂と結び付け無いように魔王軍直轄の施設で安置されているはずだ。リリスと呼ばれた少女の動きも、この場に居合わせた者達と同じく体が硬直してしまっている。力無くサリエルに抱き抱えられる。

「まぁええわ。基本的に天使達は厳粛さを尊重して形造られとるから、女子のほとんどが貧乳仕様やねん。今のあんたでも十分、ごっついマブいわ。なんや?あの双子の天使リリスはんを上に持って帰る前に復活させたんかいな、変やな。あいつら転生の儀式使えたんかな?しかも魂までオリジナルとかほんまありえへんわ。帰ったら褒めたらなあかんな」

サリエルが振り返ると本人しか解らない違和感にすぐ気付く。人間の少年と少女が、もがきながら僅かずつ動いているのだ。

「うぐぐぅ……なんだこれ?体が鉛になった様に重い。おい!そこの細目! リリスを放せ!」

「……ヒロちゃん、あんまりあいつに近付いちゃダメ!」

「おいおい、ホンマかいな?わしの邪視くろうてここまで動けるって初めて見たわ。って……やっぱりお前ら人間かいな。……少しは効いてるって事は、お前らまさか噂に聞く契約者っちゅう訳か?」

「そうだとしたらなんだ?」

サリエルに一歩一歩近付いて来る少年。今思いだしたが、この少年達はレオボルト兄さんと死闘を演じていた子達だ。無事だったようだ。

「もの好きやな……わざわざ悪魔と契約するなんてな…首さえ突っ込まなければここで死なずに済んだのにな」

リリスを抱えていない方の手で懐をまさぐると、柄の装飾の美しい短刀を取り出す。躊躇無くその少年に刃の切っ先を突き付ける。背後に居た少女の悲痛な叫び声がする。

こちらからでは全く解らないが、その少年の体を傷つけたのだろう。血が床に滴り落ち、床面を紅く染め尽くす小天使の血と混じり合う。少年の鈍い声がする。

「わし、血を見るのは嫌いやけど、メンド臭い事はもっと嫌いやねん。あんさん自覚あるか?悪魔と契約するって事は、わしらの敵やっちゅう意思表示や。それに魔力なんてもの人間に扱いこなせる訳あれへんねん」


もう一度、短刀が振りかざされるが、それを振り下ろす前に光が一閃伸びて来てサリエルの手に握られた短刀を弾く。

「いったーーー!なんやねん?!」

その光の方向を見るサリエル。

「お前…誰や?人間ちゃうやろ?」

光の発生源を辿ると、小天使を貫く十字架の剣を右手に携えた桃色の髪の少女が立っていた。城癖から挿し込む光が彼女の後光となり、神々しい雰囲気を醸し出している。

「だっだだだ、誰でも良いだろ!通りすがりの悪魔だ!!」

手足がガクガクと震えながら出した声で、その神々しい姿が台無しだ。オーラの感じがサリエルとか言う男と同じ気配を漂わせている為、その言葉は恐らく嘘だろう。そしてそのオーラの感じはどこかで見かけた事があった誰だったっけ?最近見た気がする。

「はいはい。貧乳は引っこんでてええよ」

細目の男の目が見開かれ、紅い閃光が彼女の目を通して全身を包む。客観的に見て改めて気付いたのは奴の邪視も恐らく魔術か何かなのだろう。もしかしたら、その紅い閃光を見定める事の出来る俺なら、その光の帯一つ一つを自身の魔力をピンポイントで干渉させて相殺すれば解除する事が出来できる…かも知れない。


そして、桃色の髪の少女に紅い帯が纏わりつこうとした瞬間、何かの力が働いてその帯が寸断されてしまった。

「貧乳はステータスだ!」

短刀を再び拾い上げようとしたサリエルに再び光を放ちその得物を弾く。

「なんや!まだ動けたんかいな!お前も人間か?魔術使えるって事は、こいつと同じ契約者か?」今度は皇女リリスさんを抱きかかえているにも関わらず、素早い動きで短刀を拾い上げると、桃色の髪の少女に向かっていった。佐島はその隙を利用して一歩一歩久瀬に近付き治癒魔法をかけている。それに気付いていた桃色の少女はわざと相手をその死角に誘い込み十字架の剣で対抗する。

「な!なんやその対応速度!ほんまに全く効いて無いやんか!」

「何がだ!聞いているだろ!さっきから貧乳貧乳言いやがって!」

「ちゃうちゃう、なんでお前には邪視が全く効かへんねんって話や!」

「じゃし?漢字で書くと……邪な……視る?お、お前!!そんな目で私を見ていたのか!!」

一向に噛み合わない会話を続けながら、両者は激しい斬り合いを続けている。

すばやいサリエルの切り込みをリーチで勝る十字架の剣がその間合いを殺す。が、傍らに抱きかかえているリリスを盾代わりにするなどしてなかなか決着がつかない。


「なんやお前…結構やるやん。場馴れ、戦い慣れしとるな?」

「当たり前だ!伊達に守護天使として地上の悪魔共を退けてはいない!それより、その人を放せ!卑怯だろ!」

「あほ!戦争に汚いも綺麗もあるか!勝てばいい……ん?んん???」

サリエルの動きがピタリと止まる。

少女の方も動きを止めて青い顔で全身を震わせる。

「お、お前!同業者かいな!通りで貧乳仕様……いや、邪視が効かへん訳や。確か守護天使の役職についてる奴は、悪魔と対峙する機会が多いさかい呪いに対する耐性は底上げされてるって聞いた事あるわ。それでやな自分」

「そ、そうなのか?いや、そうなのでありますか?」

今更ながら態度を改めている。

「で、どないすんねん?わしにはあんたと戦う理由は無い」

短刀をヒラヒラさせるサリエル。相変わらずリリスを愛おしそうに抱きかかえている。

「私には、管轄の地区の人間を護る使命があります。」

「契約者は処分すべき対象やろ?」

「いえ、場合によりはその処分を保留、もしくは対象外とする事は守護天使の権限において判断を委ねられています」

「まぁそうやな。中には無理強いされて契約させられてまう人間もおるさかいにな。」


 *


ふと先程の悪魔の老人を思い出し目をやるサリエル。

が、彼は自身の目を疑った。先程までそこに居たはずの2人の姿が見えないのだ。

それに加え、部下の天使二人が苦しみながら地面に突っ伏していたのだ。

「あ、あいつ等はどこや!」

サリエルの叫びがフロアに響く。次の瞬間、一人遠くの方で身動き一つとれずにいたアシュタルテの地面が何故か部分的にくずれ落ちその姿を消してしまう。

久瀬と佐島の短い悲鳴が響く。恐らく、アシュタルテ本人が言葉を発する事が出来たのなら間抜けな声を発しながら落下していただろう。

「なんや!何が起きてんねん!お前か!お前の仕業か!」

問い詰められるラゥビーは、疑問の表情しか浮かべない。

「私にも解りかねます!」

しかし、ラゥビーは一部始終を見ていた。


老人の傍に居た青年が、もぞもぞ動きだしたかと思うと次に老人と何やら見つめ合い、その動きを拘束する何かを解いたのだった。その次の瞬間には、両腕が自由になった老人から再びサリエルの背後に待機していた2体の天使にその包丁を投げつけたのである。

それらは音も無く正確に喉もとを貫き、声を発する事を困難にさせていた。


「(奴らは何を狙っている?こちらに注意を惹きつけたはいいが、邪視と言えばこの人、ミカエル様の同期の大先輩じゃないのかな?(・_・;))」


「なんや嫌な予感するわ…その棺持って帰るで! 今なら動けるのはこの天使だけ」


不穏な空気を読み取ったサリエルはすぐさま部下に撤退するように指示を出す。

両者供喉元を傷つけられているがかろうじて動ける状態だった。が、その判断を下すタイミングは少々遅かった。雷鳴の様な金属音と供にアシュタルテが居た場所に空いた穴から

魔力で構成された黒い大きな蛇が顔を出す。その体には黒い稲妻を纏っている。


その圧倒的な威圧感にその場に居た誰もが身動きを取れずに居た。


「な!なんやこいつ!悪魔…いや、魔術か!!」


黒い影が一瞬にして天使の1体に喰らいつくと稲光を発しながらその体を黒く焼きつかせた。サリエルが光を放ち、その黒い大蛇を掻き消すが時既に遅し襲われた方の天使はぴくりとも動かなくなっていた。その場にへたりこんでしまうもう一体の天使。

「あほ!今はその棺持ってはよ逃げ!」

禍々しいまでの憎悪が、そのフロアに広がる。床に空いた穴から顔を出したのは、黒い大蛇の背に跨る褐色の肌の女性と額に布を巻いた先程の青年だった。

目を閉じている褐色の女性が青年に囁く。

「天使はどこに居る?」

「11時と2時の方向。距離はそれぞれ……」

「いや、方向さえ解ればいい」

褐色の肌の女性が携える禍々しい形をした杖に黒い魔力が形を形成する。雷撃にも似た大蛇のシルエットを持つ魔力がその双方向に放たれ触れた箇所を焼き尽くす。

床や壁面は削れ、黒い炎がその痕跡を現している。

サリエルは間一髪避ける事が出来たが、棺を任されて天使はその雷撃をまともに喰らい壁に叩きつけられその身を焦がす。

「な、なんやお前!リリスちゃんに当ったらどうすんねん!まだお前みたいな奴が魔界に居るんや?前の大戦で主要な奴らは天界側がまとめて始末したって聞いたで?!」

黙れと一言言い放つと、小さな蛇がサリエルの左腕に巻き付き、弾ける。その衝撃でリリスを放してしまうサリエル。その隙を見逃さなかった青年は、邪視の効力を自らの眼の力により見極め、相殺させながらサリエルの懐に飛び込むと鞄から何かを一握りし、それをサリエルの顔面にぶちまける。

「な!眼潰しやて!卑怯やで!砂か!」

粉末状の何かがその視力を奪う。涙を流しながら短刀を振るう。

「視力がしばらく使えんかったら、魔力を探れば戦える!」

青年が拳を下段に構える。

「違うよ。これで邪視を相殺する為の魔力を裂かなくてよくなった。だから……」

フレイラの効き手に魔力の渦が形成されていく。

「うずまきパーンチ!!!」

下段から上段に振り上げられた拳は、サリエルの顎を打ち抜く。ただのアッパーだが、顎にクリーンヒットした為、サリエルの意識がぐらつく。


その場に仰向けに倒れるサリエル。

「ちなみにそれ……砂じゃなくて小麦粉ね」

眼を擦り、視界を取り戻していくサリエル。

青年が背後から素早く迫って来た影に弾き飛ばされる。

少し様子が変わったアシュタルテだ。

「誰がそんな隙与えるかよ!」

サリエルの眼前に大きく開かれた右手に閃光が走り、サリエルの眼を焦がす。

そのあまりの痛みに泣き叫ぶ天使。

「お前らほんまに鬼、悪魔や」

そうだ、悪魔だ。と言い放ったアシュタルテがサリエルのマウントポジションを取り、異様な形のした杖の鋭い先端をサリエルの右肩に突き立てる。刃は無い為、その切っ先が肩を貫通する事は無かったが、ゴリっという鈍い音が響く。そのあまりの痛さに叫ぶ事さえ出来ない。

「私達が悪魔なら、貴様等は畜生、外道の極みだな。まだ私達を殺し足りないか。更には墓暴きの様な真似をし、安らかに眠る仲間の遺体まで持て遊ぼうとする……許されるない。ここで果てろ!」

両腕に難く握りしめられた杖が、何度もサリエルに振り下ろされる。

肩に、腕に、胸部に、腹部に。清潔な白さをキープしていたサリエルの衣は徐々に赤く染まっていく。抵抗力を無くしたと解ったアシュタルテは、今度は杖の反対側、飾りの付いた杖の頭頂部を振り下ろし、顔面を徐々に砕いていく。血に染まっていくその天使の顔。


 *


フレイラの眼には、そのフロア一杯に広がるアシュタルテの黒い黒い憎悪の影で埋め尽くされていた。黒い海に一人体を浮かび上がらせ、悲しみを纏ったそのオーラを包み隠している。アシュタルテは外観からでは解らないが泣いていた。心が泣き叫んでいた。悲しみが伝わったとしても、その悲しみの理由をフレイラは知らない。

アシュタルテは「お前らが、お前らが!」と呻くように声を絞り出しながら杖を振り下ろしている。サリエルは少し痙攣した後、動かなくなった。

その姿を確認したアシュタルテは距離を少し取り、魔術を間髪入れず発動させ、黒い大きな蛇の形をした魔力の塊を出現させる。

「黒き蛇に喰われて消えてしまえ」

その蛇が稲妻を纏いながら、サリエルに襲いかかる。

直撃する瞬間、サリエルは左手を黒焦げになった天使の方に向ける。

仄かな光がその天使を包む。

「エリートコース外れたとは言え、これでも誇り高き天使や。任務は果たす……。

まぁ……気の強い女に殴り殺されるんなら本望やわ。リリスちゃんも抱きしめられたし」

轟音が鳴り響き、フロア全体が震える。黒煙が舞いあがり、しばらくは確認出来なかったが、サリエルが居た場所にはもう何も存在して居無かった。あるのは、焼け燻ぶっている燃えカスのみだ。


その場に居た全員が息を飲み、アシュタルテから眼を外せないでいた。サリエル様…と呻く声が聞こえる。そこには先程焼き尽くされたはずの天使が元の神々しい姿で佇んでいた。貴方の意思は必ず、と言い終わらないうちに、体が光に包まれたかと思うと、一瞬にしてその場から姿を消した。サタンと呼ばれる悪魔の棺と供に。


下の階からバアルが戻ってくる。

リリスにかかった邪視の効果を解きつつ、フレイラはバアルの意見を求める。


「バアルさん、サタンという悪魔の棺が持っていかれてしまいましたけど…」


その言葉に険しい顔をするバアル。そこにアシュタルテが口を鋏む。


「構わない。あいつは元々肉体も魂も、滅ぼし切れないから、魔王城の地下奥不覚に封印されていた。 処分に困る粗大ゴミを持って行ってくれて逆に感謝しているくらいだ。それよりバアル?」


アシュタルテとは対照的に、不安の表情を崩さないバアル。しかし、それを確認しているにも関わらずアシュタルテは提案する。


「天使の襲来で散り散りになった部下を一度魔王城に集める」


困惑の表情をするバアル。


「しかし、魔界は今混乱状態にあります、もうしばらくは魔王軍の手の者を各集落の警護に当らせた方がよろしいかと、あと天使軍の残党は……?」


口答えをするな。と言い放ったアシュタルテは、地下を指さす。


「小天使共は、私とリリス殿で粗方の数は減らしておいた。後は時間の問題だ。集落への警護は、私の軍隊に任せる。今は、魔王軍の戦力の把握と意思の統制を図りたい」


アシュタルテの指さした地下の方からは、狂気にも似た悪魔の叫びが反響している。

その声に身を強張らせる人間の少年と少女。そして、結果的に我々に協力してくれた若い天使。その桃色の髪をした天使にアシュタルテは視線を送る。


「私の眼の前では、誰であろうと天使は敵だ。私の矛先がお前に向かないうちにさっさとこいつ等の邪視を解除してやって、上に帰れ!」

「アシュタルテ……」

「魔界の4帝の1人アスタロトだ。それとリリス殿はどうするつもりだ?」

冷たくあくまで冷やかな面持ちでそう訂正しながらリリスに伺いを立てるアスタロト。

そうね……と一度辺りを見渡すリリス。

「私も上に行くわ」

「そうか、解った。お前の娘も上に行ったらしいからな」

一瞬、時が止まったように表情を固まらせるリリス。次第に顔が赤くなってきたのを隠す様に訂正する。

「違うわよ!私は犯罪者よ?ここに居場所は無いし、それに…女王でも無いし、今はこの女の子と契約しているただの悪魔よ。まぁ、何よりこの子達の事は気に入っちゃったしね。」

しばらく考えた後、アシュタルテは答えた。


「本来、悪魔に侵してはいけない法など無い。ここはあんたの家である事に変わりは無い。

その姿で再び転生出来たのなら、私達は貴方をいつでも受け入れる。第一皇女リリス様。罪は罰により贖われた」


更に顔を赤らめていくリリス。優しい眼に涙を浮かべた後、プイッと後ろを振り返り少年と少女を抱えると、桃色の髪の少女に明け渡す。3人が団子になって転倒する。

慌てて戸惑っていた3人だが、天使の少女に触れた瞬間、両者の体はいつの間にか軽くなっていた。

「行くわよ!天使のお嬢ちゃん」

「解っている!それより私はラゥビーだ!いいかげん覚えろ!」

少年と少女の視線がアシュタルテに向けて放たれる。それを避けるように背中を向けるアシュタルテ。少年と少女から呼びかけられる。それをアシュタルテは訂正する。


「私は……4帝アスタロトだ。早く失せろ!私の部下共は蘇ったばかりで腹を空かしているんだ、喰われたくなかったら」

「忘れたのかよ!俺達の事!」

「あぁ、忘れた。失せろ人間」


「嫌だ。お前を上に連れて帰る!お前は俺と契約した悪魔だ!」

フンと鼻を鳴らすと少年の前に立つアスタロト。

ヒールの高いブーツを履いている為か、少年を見下すような格好になる。


「何寝言を言っているのだ?お前が再契約したのはアシュタルテの方だ。しかもその契約内容は、メフィストの魔力を代償とした曖昧なものだ。肉体を取り戻し、アスタロトして存在している私に対してその契約は無効なものになっている」

薄らと笑みを浮かべる少年。

「よく覚えてるじゃないか…アシュタルテ」

鎌をかけたのか!と怒りを露わにして少年を突き飛ばし、踏みつけるアスタロト。

「5秒くれてやる。さっさと失せろ……主……久瀬浩樹!」

少年の顔は伏せられ、前髪にその表情は確認出来なったが、何かその眼下には意思の強い思いが込められている様な気がした。リリスに抱きかかえられて久瀬と呼ばれた少年は、浮き上がる。

「絶対に諦めないからな!」

「何をだ!」と一言言い放つと、今度こそ背を向けて少年が視界に入らないようにする。魔王城から一人の天使と悪魔、少年と少女姿が消える。俯いたその顔からは表情を伺い知る事は出来ないが、何かに必死に耐えているようにフレイラには見えていた。バアルに眼を向けるアスタロト。

「指揮は私と……そしてベルゼブルがとる。フレイラ、そしてケヲルが戻って来たら、しばらく魔界に留まり、少しの間でいい、協力をお願いする。地上への門は、専属の者に調べさせる。直に判明するだろ」


頷くフレイラとバアル。この時、既にケヲルの姿がどこにも無い事を誰も知らなかった。


事態を収集すべく、再び魔界に帰郷した魔王の血を引く兄弟は思いもかけない所でまた1つ大切なものを失ってしまったのだ。そして今回の出来事が後にどれほどの影響を与えるのか、誰も予期していなかったであろう。今は亡きあの人を除いては。

第四章・揺れる魔界編 ~了~

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