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揺らぐ魔界

新宿公園において、

謎の男と遭遇した

「久瀬浩樹」

は重傷を負ってしまう。



対峙する

「羽根野ラゥビー」達は

その男の強さに歯が立たない

事を悟った一行は、

久瀬の傷を治す事もかねて

魔界へ一時的に避難する事に。


魔界への扉が開き、

羽根野達は、未知の魔界へと足を踏み入れる。


背後の゛犬゛と゛パン屋の青年゛

には気付かないまま…。



時を同じくして

着実に侵攻していく

天使軍。


退路を自ら断った

彼らの目的は、魔王無き

魔界との相討ち覚悟の

無謀な特攻作戦だった…


この状況下、

偶発的にイレギュラー

因子として魔界に紛れ込んだ

久瀬一行は、どう関わっていくのか…


<長男>



久しぶりに…そう、約1年ぶりに感じる魔界の大気は魔力で満ち溢れていた。悪魔は、確かに魔力を自ら生み出す事は出来る。しかし、外部から取り込める状況下にあるなら、それを利用する事も出来る。


体内に大量に取り込んだ魔力を、損傷した腹部に集中させる。


見た目では解らないが、天使の力が干渉したヵ所はやや傷の治りが遅い。

人間界でなら、約一ヶ月は完治するのにかかっていたであろう。しかし、今の状況下そんな悠長な事は言っていられない。


「あ、アニキ!大分とよさそうだね」

横から、フレイラが心配そうに声をかける。

「あぁ、恐らくもうこの姿でも戦える」

「よかった。それより」

「あぁ…わかっている。

今の状況を何とかしなければな…」


ブブブブ…

ブブブブ…


羽音が耳に障る。


「ええい!ベルゼ殿!!もう少し、静かには飛べぬのか!」

今、私達はこの大きな蠅の背中にのって魔界の大地へ降り立とうとしていた。

「あぁ、すまんすまん。怪我人には、この振動はこたえそうだな。もう少し静か飛んでやるとするか。にしても予想以上にひどいな」


「あぁ。全くだ」


遠目だか、肉眼で魔界が確認出来るようになると、その様変わりに血の気が引かざるを得ない。


大地の所々には、大きな大穴があき、建物はそのほとんどが崩壊していた。


そして、本来ならこの高度まで降りてくれば、小悪魔達が飛び回っているはずなのだが今は静まりかえっている。


「にしても……あそこでワシと出会って無かったらどうしていたつもりなんだ?」

ベルゼブルだ。

「フム…最悪、飛び降りていただろうな」

「アニキ…俺はやだよ?アニキなら、魔界で全治一週間位でも、俺は多分一生歩けなくなってたよ」

「全く…メチャクチャな王子様達だ」

「違う。王子ではない……魔王だ!」


ハッとした表情で何かを思い出すケヲル。自分達は全てを末子に押し付けて、魔界を出たことを。その気持ちに気付いたのか気付かなかったのか解らないがフレイラが口を挟む。


「にしても…生きててよかったですよ。ベルゼブルさん!」

「そうだな…確かにその件については世話になったな。」

「全くだ…私の鼻が無ければ……入口から遠く離れた岩場で、誰にも気付かれる事なく朽ちていたであろう」

「(下に降りる方法を考えて右往左往してたら、たまたまアニキがベルゼブルさんの匂いを嗅ぎ付けただけなんだけどね)」


「だから、礼は言っただろ?ワシもあんなに吹き飛ばされるとは思わなかったし……なんか力を吸いとられて、意識は飛んでしまうし、たいへんだったんだからな。それより、お前ら……ウェルティアには会えたんだろうな?俺が、ゲートキーパーに吹き飛ばされて、標的の範囲外に出てしまったもんだから……それだけが心配でな」


「あぁ!ちゃんと、会えたさ。リルム義姉さんにもな」


「そりゃ……何よりだ。あいつ、色々母親の事とかで悩んでたからなぁ。まだまだ頼りないし、心配でなぁ」


「全くだ…。魔界の王の血族にしては、いささか頼りなさすぎる」

「まぁな。けど、俺は嫌いじゃないけどな」

「そうだよ!アニキ!まだまだ俺達は、あいつの事を知らないけど、嫌な奴ではないよ。あいつのオーラ……父上の放つオーラに似ていたし」

「父上の?」

「あぁ。悪魔特有の、暗い感じはしなくて……輝いていたんだ」

「そうそう、確かにあいつは……昔のルキフェルに雰囲気は似ていたなぁ」

「フム……そうか……なら、少しは期待……」


と、言葉を言い切らない内に、光の閃光が3人を襲う。


「わ、なんだ!光?」

「バカモノ!天使に決まっているだろう!ベルゼ殿!!すぐに近くの暗雲に隠れるように飛ぶことは出来るか!?」

はいよ、と一言言うと直ぐ様、雲の中に私達は隠れた。

こういう時に、空中戦に特化したレオボルトがいてくれれば……助かるのだが、わがままは言っていられない。そして…病み上がりの私とベルゼ殿を除いて、まともに戦えるのはフレイラのみである事も事実として受け止めておかなければならない。


<長男>

――魔王軍管轄保護区、「愚者の洞穴」内。


「なぁ、主人~、大丈夫かぁ?」


この場所が安全である事を悟ったアシュタルテは黒い翼を収納し、浩樹等を守る警戒度を一段階下げた。羽根野も然り、その白い翼を収納している。


「あぁ、僕はもう大丈夫だよ…アシュタルテこそ、僕の性で苦しい思いをさせてすまなかった」心配そうに、膝枕をしている佐島は久瀬の顔をのぞきこむ。

「奏にも心配をかけた…すまない。」

いいよ…と、佐島は一言呟くと優しく久瀬の垂れた前髪をすくう。横から、胡座をかいている羽根野が不安要素を口にする。ちなみに、洞窟内は羽根野の頭の光輪により仄かに照らし出されている。

「静かすぎる」その疑問に同調するように、久瀬が答える。

「はい。ここが、敵の本拠地だとしたら…天使が一匹飛来してくるのを見逃すはずないんですけどねぇ……。まぁ、そのお陰で僕は助かったんですけど」


「悪魔の2~3匹とは、戦う覚悟は出来ていたんだがなぁ。罠か……いや……」

と、考える羽根野を他所にアシュタルテが言葉を挟む。


「主人ー、ここに来た目的は何だっけか?」溜め息をつく久瀬。

「やはり、その頭身だとあほになるのか?」

「あほってなんだー!!」

と、横になる久瀬の横に座り、胴体をポカポカ殴り出す。

「さっきまでずっと、待機魔力のかかる翼を展開していたのは誰の為だと思ってるんだー!!」

「ごめんごめん。でもなんか、電化製品みたいだな…・・・それも、やたらと消費電力の食う旧式のやつ」顔を真っ赤にして起こるアシュタルテ。

「プンスカー!!ん?でも確かに、私、魔力の燃費が悪くなってるかも」


羽根野が横でため息をつく。

「忘れたのか?」

疑問符の表情で、久瀬とアシュタルテが羽根野の方を見る。

「全くそんな事では、命がいくつあっても足りないぞ。確かに、アシュタルテは実態化出来てはいるがお前の体を構成しているのはなんだ?」


「む?私の魂と、魔力だ?」


と、久瀬の方に確認の目配せをする。


「まぁ…・・・アシュタルテを再召喚した時は、僕の魔力と、メフィストの魔力を代価にしたんだけどな」

「うえぇー。」と、アシュタルテは露骨に嫌な顔をする。

「仕方無いだろ?メフィストに確実に打撃を与えられて、かつ効率的にお前を再召喚する方法を考えた結果だ。」

「むぅ」と仕方なく納得するアシュタルテ。

「それで、なんで燃費が悪いのが関係するんだ?」

「あぁ、それは恐らく、体を維持するのにも、魔力を絶えず消費しているからだろう。普通、肉体がある悪魔なら、じっとさえしていればおのずと魔力は溜まっていくからな。アシュタルテの場合、魂から発生する魔力は、体を維持する為の分が差し引かれた量しか溜まっていかない。まぁ、幸いな事に、アシュタルテの魔力は質、量、供に桁違いだからさして問題は無いが……それは、並みの悪魔を相手にする場合だ。公園で遭遇した男は、一人だったからよかったものの・・・…あの手のクラスがあと2人居たら恐らくアシュタルテも無事ではすまなかったはずだ」


「あの時は、僕が気を失って瀕死の重傷を負っていたから。その分のマイナスを考慮したらどうなってましたか?」

「あぁ、そういえばそうだな。あれ?イマイチよく解らないのだが、契約した者同士が協力して戦った場合・・・…単に2人分の戦闘力扱いには単純にならないのか?」

久瀬とアシュタルテは同じように腕を組むポーズをとる。

「確か・・・メフィストを消し去った時・・・普通の魔力による攻撃

とは違った・・・変な必殺技みたいなのが出たよな?アシュ?」

「そうだな、主人。

おかしいよなぁ・・・アシュは・・・魔力の塊をぶっ放す事しか出来ないゾ。」

「そ、そうなのか?」うん!と自身満々に答えるアシュタルテ。

「やっぱり・・・肉体が無いと”あほ”なのか・・・。」

「アシュ・・・あほか?」

「いやいや、私からしたらあの高威力の魔力砲撃を何発も放てるアシュタルテは十分優秀だから」羽根野が冷静に突っ込みを入れる。

「よかったな・・・アシュ。筋肉馬鹿だって」

「なんだとー!!」と、また怒り出したアシュタルテ。

「イタッ!!」久瀬は、佐島が急に立ち上がった為に地面に頭をぶつけてしまう。

「奏・・・どうし・・・っ!」

慌てて久瀬は目を伏せる。

「こら、奏!女の子なんだから、もう少しスカートを気にしなさい!」と、久瀬は佐島に注意する。

「あ、ごめん。スカートの中見えちゃった?」

あまり慌てる様子も無く、スカートを抑える佐島。

「見てない。」

「大丈夫……ヒロちゃんになら全部見られても平気だから」

ブッ!と噴出す久瀬。一人赤くなっている羽根野。

最近の子供は全くなってない。と、悪態をついて照れをごまかしている。

「主人!アシュも主人になら、全部見られても……」


「いらん。」と一蹴する久瀬。ショボーンとするアシュタルテを置いて、佐島が何かを呟いている。

「どうした?奏?」

「ヒロちゃん……何か聞こえない?誰かが泣いている声が聞こえるの」


奏は、自分にしか聞こえない声に誘われるがまま・・・洞窟の奥の方に突き進んでいく。


「おい!奏あぶないぞ!」


「そうよ、奏!そっちの方はまだ安全確認してないんだから、いっては駄目よ!!」

奏を引きとめようと立ち上がろうとした久瀬がよろめき、地面に手をつく。

それを心配そうに、抱えるアシュタルテ。

「ほらほら、病み上がりの人はじっとしてなさい!」と、佐島の後を追う羽根野。

羽根野の光輪の明かりを頼りに、後ろから遅いペースでついていく久瀬とアシュタルテ。

しばらくすると、短い悲鳴が聞こえたかと思うと、洞窟内を淡く照らしていた明かりが消えて、真っ暗になる。


羽根野に何かあったということだ。


「アシュタルテ。この暗さでは追えない。

何か照らすことの出来る魔術はないか?」

解った!と言うと指先に魔力を集中させるアシュタルテ。

「おぉ、いい感じだ!その調子で・・・。」

「ヘヤッ!」

アシュタルテが気合の叫びを上げた瞬間、

指先に集まっていた淡い光を帯びた球体が

150,000lux(真夏の太陽の1.5倍の明るさ)の閃光を放つ。

「ぐあああああ!!!」

「うお!アシュ、アシュの目が!眼がー!!」

「や、やりすぎだぁぁ……アシュタルテ!!」

「なんだ!なんだこの光は!滅びの光かー!!」

「ばか!お前が出した光」視界をアシュタルテによって奪われた二人は(1人自爆)

ふらつき、もつれながら転んでしまう。

「うわあ!」

「うわ!主人!眼が見えない事を良い事に、アシュに何をするんだ!」

「いや、オレも見えねぇよ。それにさっきあんた、 全部見られてもいいって言った人と同一人物だよね?」

「触るのは…別料金だ!!」

とよく解らない事を言い合いながら、

先ほど羽根野が落ちて行った奈落の底へと一緒に転がっていく。

佐島は、洞窟の急激な坂を慎重に降り切った先に見たものは、

等間隔に青い炎が灯る柱が並んだ大きな空間で、その奥にはぼんやりと大きな扉の様なものが見えていた。


「ここは?ねぇ、そこにいるのは誰?」


しくしくと少女の鳴き声が、佐島の耳に届いてくる。姿は確認出来ないが、その鳴き声は扉の前から聞こえていた。

「……なん……で……なんで……誰も私を……」

「あなたはなんで泣いているの?」

「……くれないの?なんで?」

「なんて言ってるの?泣いていてはよく解らないわ?」

「……愛……して……?」

「愛して?」

佐島は、一歩一歩、20mほど離れていた扉の前まで足を進める。泣いている少女の声は相変わらず聞き取り辛い。

「ねぇ。貴女は何をそんなに悲しんでるの?」

「……」

佐島の声が聞こえたのか、ようやく少女の鳴き声は止む。ようやくその少女の姿を確認出来る所まで佐島は近付く。そこには、扉を背に膝を抱えて丸くなる少女の姿があった。

「あなたは…どうしてそんな所に?あなた悪魔よね?何が悲しくてそんなに…泣いているの?」ぐすんと、泣きやんだ少女はしぶしぶ顔を上げる。

「お姉ちゃんは誰?」

「私?私はね……」

その時、大きな衝撃音が、後ろの方で起きる。


羽根野が落ちてくるのとほぼ同時に、久瀬とアシュタルテが高速回転して羽根野に激突したのである。悪魔かー!!と、最後に叫んだのは羽根野だった。

羽根野はその衝撃でのびてしまい、残る2名は何故か眼を押さえてうろうろその辺りを徘徊していた。暗がりの中、魔術を要いてその姿を確認した佐島は、3人が無事であることを確認すると、再び泣いていた少女に顔を向ける。


「どうしたのかな?」


すっと、自らの背後にある扉を指さす少女。


「私のね、私の体があの人達に取られてしまいそうなの」


「体?あなたの体はここに?」


「ううん。私は魂だけの存在……肉体は、あの扉の奥にあるの」と事情を話す少女。


「あの人達って?」

「多分……天使」

「天使?魔界に天使?」

「そう」と、急にキョロキョロし出す少女。

「お姉ちゃん人間?」

「そうよ?」

「なら、駄目!きちゃ駄目!あいつがまだこの辺に……!」

と少女が言葉を言い終わらないうちに何者かが佐島の後ろに回りこんでいた。


佐島は背後に何かが居る事を悟ることは出来たが恐怖で動けない。恐る恐る首を後ろに向けるとそこには大鎌を構える死神の様な幽霊がいた。

「お姉ちゃん!!!」

と叫ぶ少女の声が佐島に届くが、それに反応することは出来ずに、大鎌の刃が佐島の側面に放たれる。後ろから、まだ視力の回復しない久瀬の声が聞こえてきたような気がした。


何をどうしたのか、佐島は覚えてはいない。ありえない事に、佐島は大鎌の刃を指先でつまむとそれ以上刃が自分にこないようにしていた。

「私、こんな怪力だったっけ?」

と、冷静に状況に対して突っ込む佐島。先ほどまで居た少女の姿もなくなっている。そして、佐島の意思とは関係なく、佐島の体から魔術発動される。一陣の風が吹いたかと思うと、目の前にいる死神はズタズタに切り裂かれていた。佐島は、自分の肉体の中に、先ほどの少女が宿っている事を認識しつつ、その確認を自分にとる。

自分の唇が動く。

「危ないと思ったから、強引だけど貴女の体に入らせて貰ったわ。」佐島は自分の口から発せられる声に耳を傾ける。

「こいつはこの扉の奥に保管されている罪人の肉体が、再び魂と結びつかないように妨害する。つまり、私達のような魂を砕く為に配置されている魔王軍の門番」

「意図的に配置されてるの?」

「えぇ・・・。私達の肉体と魂は、あなた達人間と違って、とても滅びにくいの。自分達の意思とは関係なくね・・・だから、悪用されないようにこうやって保管されているの」

「魂は保管しないの?」

「うーん・・・魂は意図的に、そこに留めて置くことは難しいから・・・。簡単な方の肉体をここに保管している訳」

「魂が抜けた体は朽ちてはいかないの?」

「大丈夫よ?勝手に再生していくの」

「不死身なの?」

首を振る佐島。

「魂と肉体が離れてしまったら、活動は出来なくなるわ。」

と、近くに気配を感じて振り返る佐島。そこには目が見えないながらも、直進してくる久瀬の姿があった。遠くの後ろのほうには、羽根野を揺り動かすアシュタルテの姿が見える。


「ヒロちゃん?目、どうしたの?」

「ん?ちょっとな・・・アシュタルテがあほな事をしただけだ。それより無事か?さっき悲鳴が聞こえたけど」

「えぇ・・・。この子のおかげで助かったの」

「この子?」と、久瀬に挨拶する佐島。

「……何の冗談?佐島の声しか聞こえないけど」

「うーん」と困った顔をする佐島。

「お兄さん・・・言い感じね?」

「おにい・・・?」

「ねぇ、私の事愛して?」

不思議がる久瀬?

「佐島・・・じゃないな?」

「そう。私・・・悪魔よ?まぁ・・・今は幽霊みたいだけど。それに自分の名前も忘れちゃってるし。それより……」と、久瀬の首に手を回す佐島。

「私の魂の微かな記憶にね・・・刻まれている感情があるの」


ゆっくりと、久瀬に体を密着させていく佐島。


「誰かから、愛されたいって・・・。それに、この子も君の事……気に入ってるみたいだしいいじゃない。私も満たされるし、この子も満たされる」

先ほどまで弱かった悪魔の肉体的支配が、強まり佐島は完全に支配されている。

「……何を言っている?」

「え?」

「他人の体を借りたとしても、

それはお前が愛された事にはならないんじゃないか?だから、お前の事を愛する事はありえない」

「いいの・・・私は、愛されているという気持ちを感じらればそれで…・・・それに私はどうせ愛されない存在のような気がするから」

ゆっくりと、久瀬の体が地面に倒されてそれに跨るように膝をつく佐島。

「変よね、愛情をほしがる悪魔なんて」

手を久瀬の頬にあててそっと唇を重ねようとする佐島。

クククッ、と笑い出す久瀬。手探りで佐島の手を掴むと、上体を起こさせる。

「なら、好きなだけ奏の中にいろ。こんなことする必要は無い。」

「?」

「もう十分愛してる。」

「!!」

急激に赤面する佐島、小さな奇声を発してしどろもどろで両手をジタバタさせている。

それが、その悪魔によるものなのか、佐島によるものなのかは解らない。

「ん?どうし……」

グシャ!と言う鈍い音が久瀬から聞こえる。

 「ひどいぞ!主人!!さっきまで散々アシュタルテの体を弄んでいたくせに、今度は奏ママの体を・・・…」

久瀬の顔を上からグリグリ踏みつけているアシュタルテ。悪魔(女神?)なので目の方はもう直ったみたいである。

「ん?奏がアシュのママだとすると……主人はパパか……きゅうりがママならパパはナス?夫婦なら…・・・いいのかな?」


と、考え込んでいると、後ろから羽根野もやってくる。

「ばか者!昼間っから未成年が2人で何をやっているのだ!ん?奏?どうした固まって?」

よく見ると、佐島は顔を真っ赤にして意識が朦朧としている・・・…そして佐島の頭上を見ると、魂が抜けたように見知らぬ少女の姿が霊魂となって出てきていた。

「なんだ?佐島の前世は悪魔か?」

「ち、ちがうぅ……」

垂れた腕を力なく揺らす奏。幽体離脱したかのように、霊体の方が羽根野の方に目を向ける。

「ん・・・?その光の輪・・・天使!?」

慌てて佐島の体から離れて隅っこの方に逃げていく謎の少女。

「お前ら!天使の関係者だったんだな!くそぅ!騙された!」

「いや、何も騙してないよ」

と突っ込みを入れる久瀬。そして、アシュタルテにも一応注意を入れておく。

「何時から僕はお前の父親になったんだよ。それに・・・見えてるぞ?」(久瀬の視力復活。)

うきゃーーー!と叫びながら、足をどけるアシュタルテ。

「だ、大丈夫だ!紅いドレスの下にはボディースーツみたいなものを着ているから・・・…って!!駄目だ!!魔界に来るときに脱いで、白い服に着替えたんだった!今は着てなかったーぁ!!!主人の変態!!」さっきから、言ってる事が矛盾しているアシュタルテを置いといて佐島に声をかける。が、何故か目を合せてもらえない久瀬。

「何かあったのか?」

「うん、死神みたいなのに襲われそうになった所を、あの子に助けてもらったの。その時に、肉体は乗っ取られたの。だから、私の意志じゃ・・・…なくて、その 」

「わかってる。で、彼女は?」

隅っこで震える少女に目をやる2人。

その少女の背中に刻まれたバラの刻印が妙に鮮やかなのが印象的だ。

「彼女、悪魔さんなんだけど、あの扉の向こうにある肉体が、天使に取られそうだって」

「天使?悪魔じゃなくて?」

「うん」疑問符が一杯の一行に対して、羽根野とアシュタルテの反応は少し違っていた。

「天使が…・・・?何故だ?前の大戦以降、魔界に天使が侵入する事などありえない。魔界への不関与。それが停戦した際の条件だと聞いたことがある。だから、ありえない。しかも、この柱といい扉といい、人工的なものだ。明らかに魔王軍の管轄下にある場所だろ?」


「知らないわよ。ホントに見たんだから・・・…そして、死神の門番をものともせず中に入っていったわ」


「この中には、君の肉体が?」


「えぇ。多分。ここは、罪人の肉体が保管されている所だから・・・…」

「主人!もしかしたら・・・私の肉体もそこにあるかも知れない」

「あぁ・・・…そうだな。あほ過ぎるという罪で捕まってそうだもんな。お前」

ムキー!!!とまた怒り出すアシュタルテ。

「ん?どうした?アシュタルテ?」

「…・・・その…・・・その子…・・・」

「あの子がどうかした?」

「そのバラの刻印と…・・・橙色の髪の色・・・…アシュの知っている人に似ている」

「知ってる人?」

「うん。アシュも、まだ記憶が無い部分があるからよく解らないけど・・・。アスタロトとして生きていた時代に・・・…見かけた気がする」

少女の体をまじまじと見つめるアシュタルテ。

「でも、なんか違う気がするんだよね」終始疑問符の少女。


アシュタルテの背後で、カタカタと音がする。


「あ、言い忘れてたけど、さっきの死神・・・魔力が原動力だから、魔力が溜まったら、また復活するから」アシュタルテが背後を振り返ると、そこには大鎌を掲げるまんま死神の様な魔物が居た。


「キャーーーー!!」

アシュタルテは一目散に、扉が開いている建物内に侵入していく。

「はぁ…・・・何こんなこけおどしの様なお化けに驚いて・・・・・」

羽根野は、軽く光の球体を死神に向かって放・・・放・・・放っ・・・?あれ?

その全てが、大鎌によって弾かれる。少女の方を振り返る羽根野。

「こいつ、もしかして強い?」

「…・・・解らないけど・・・…魂だけの状態で、ここに来た悪魔は、私を除いて全員消滅しちゃったわ」死神の大鎌が、羽根野の上着を切り裂く。


「そうね・・・強さで言うと、多分、魔王軍の将軍クラスかも知れないわ?」


「・・・…そう・・・…へぇ」


死神による次の斬撃が繰り出されようとした瞬間、羽根野達は一目散に逃げ出した。

建物の中に入る瞬間、佐島は足を止める。

「貴女も一緒に!」フフ、と笑う少女。

「残念、霊体はこの中には入れないの。結界かなんかでね。だから…・・・もし、私の肉体があったら、肉片でもいいから持ち帰ってくれないかしら?」

「うん。解った。」素直に返事する佐島に、呆れた顔をする少女。

「あのねぇ・・・腐っても私は悪魔なの。そんなに簡単に信用しちゃだめよ?」

「うん。解った。」と目だけ笑って答える佐島。

「本当に人間って解らない・・・…。 あ、それと・・・・・・さっきはごめんなさい?」

ん?と首を傾げる佐島。そして何かを思い出したのか赤くなってしまう。

そしてそのまま、建物の中へ、とてててーっと走り出す。

「人間って・・・不思議ね。」


と、楽しそうに呟いた少女は、目線をそのままに背後に迫ってきた死神を、今度は竜巻を起こし、二度と復活出来ない位までに分解させる。

「あれ?私、こんなこと出来たッけ?…・・・人間の…・・・愛情に触れた性かな?」

と、一人納得したように、再び少女は扉の前で三角座りをして待つことにする。

魔界への珍客に希望を託して。


 *

 

建物の最初の部屋に一行が入ると、そこは薄暗く、石が敷き詰められた大きな祭壇のような部屋があった。肉体を納棺する前に儀式的なものを行なう為の部屋だ。奥行き200m以上はあるその祭壇の部屋を進んでいくと、生贄を捧げる台の裏手、奥に続く通路を発見した久瀬達はそのまま進むことにする。


「主人ー、このまま進んで、どうするんだー?」


「念のためだ。アスタロトとお前が呼ばれていた時代・・・…罪人になっていないという保証は100%無いだろ?メフィストとも知り合いっぽかったし。念のためだ」

「そっか…・・・うん。念のためなんだな。うん」

大丈夫よ、と佐島がアシュタルテを元気付ける。

「にしても気味が悪いなぁ・・・…」

久瀬が視界の悪い通路を羽根野の頭上に浮遊する光輪を頼りに見渡す。

青い石の敷き詰められた壁面はそこが死者の為の世界である事を訴えている。

「こ、ここ、怖くなんか無いからな!」

と、羽根野は佐島の腕を掴んで歩いている。

「それより、どうするんですか?」と久瀬。

「何がだ?」

「この先にいるんですよね?お仲間の天使が」


「らしいな。あり得んが」

「戦い・・・には、間違ってもならないですよね?」

「無論だ。アシュタルテの処分については、管轄保護区の担当者である私が許可したのだ。管轄外の天使にとやかく言われる理由は無い」

「確かに」と久瀬は、言葉では納得したものの、その心はざわついていた。


歩き出してから、20分ほど経過している。

道中、いくつかの分かれ道があったのだが、

その通路の入り口には、それぞれの行き先に保管されている悪魔の名前が、壁面に刻まれていた。そこにアスタロトの名前は無く、そのほとんどが役職も無い低い身分の者達であろう。保管されている悪魔の身分は、奥に行くほど上がっていっているようだったので、

ひとまず、最深部を目指す事にする一行。天使の用事も何かは解らないが、恐らくこんな下っ端に用は無いはずだ。魔王管轄区に忍び込む危険を冒してまで何か目的があるはずなのだ。


「しかし、腑に落ちない。ここに埋葬されているのは、悪魔達自身が罪人と認め、

閉じ込めておこうとする為のものだ。何故、天使がわざわざ災いを解放するようなマネを?」久瀬の質問にしかめっ面で答える羽根野。

「私も解らん・・・。魔界側が、肉体を利用する事を恐れたのかそれとも別の何かの理由が・・・…あるのかも知れないなぁ。意外と、悪魔達を根絶やしにする作戦のひとつかも知れないが」「言えてますね。」

「それなら大歓迎だが・・・何故、私に連絡は来なかった?おかしいゾ!」

「(他の天使にはぶられて、逆恨みしてるのか?)」と、久瀬は邪推している。

「とにかく、ここにやってきている天使に会おう。それが手っ取り早い。」

「まずはそうですね。」と返事する久瀬。

後ろからついて来ている佐島は、目一杯魔力の感知領域を広げて何か手がかりがないかを探している。しばらくすると、佐島が声を上げる。

「いた。」

すぐ様佐島の方に目をやる3人。

「天使?それとも、アシュタルテの体か?」

「恐らく、天使2体。生体反応もあるみたい」

と通路の奥を指す佐島。

すばやく羽根野が他の者に、違う通路に隠れるように合図する。

「まずは・・・私が行く」

「あれ?天使は安全なんじゃなかったんですか?」

と皮肉を込めて久瀬が反論する。

「むぅ・・・念の為だ。天使が堕天するケースもあるからな。魔界の王様みたいに。」

「了解」と、久瀬が佐島と同じ通路に身を隠す。すると、佐島が久瀬の裾を引っ張る。

「もしかしたらあの子の肉体もあの先にある気がする」

「扉の所に居た少女のか?」

「うん」

「ひとまず、天使が居なくなってから探すか」

「うん」

通路の奥の方、恐らくこの洞窟内の建造物の最深部だと思われる部屋へと消えていく羽根野。そして羽根野はその異様な光景を目の当たりにする。


その部屋一杯に敷き詰められたバラが輝きを放ち咲き乱れていた。

花を咲かせる為の循環器があるのか、川のせせらぎの様な音までしている。

「こ、ここは?」

明らかに、罪人の遺体に対する扱いでは無かった。 

この部屋自体が、保管されている肉体の保有者の為のみにあつらわれている様で、

罪人に対する戒めよりも、むしろ尊敬に近い何かがその空間には同居していた。


「ん?誰だい?」


と、奥行き30mはあるこの部屋の中央、肉体の持ち主であろう銅像の影から、声が反響する。羽根野は天使である事を確認した後、その姿を晒す。

「ハイ!現在、地上にて新宿区を管轄しております、 守護天使ラゥビー=シャズであります!」警戒されないように、先に名乗りを上げるラゥビー。


「ラゥビー?聞いた事ないなぁ?」と、さっきとは違う方向から声が聞こえる。

ひょこひょこと間の抜けた返事で2人の天使が出てくる。

「「やぁ、僕らはセノイとサンセノイ。双子の権天使だ」」

「お初にお目にかかります。」

「「こんにちわ…・・・さて、君はなんでこんな所にいるのかな?」」

と、笑顔を浮かべて双子の天使が聞いてくる。

「地上で魔王関係者と交戦中、危機に陥り、やむなく魔界へと非難して参りました」

「ふむふむ…・・・では、今私達が何をしているかは知らない訳だな?」

お坊ちゃんの雰囲気を漂わせたセノイが羽根野に問いかける。

「はい。存じ上げません。ここに来たのも、ただの偶然であります」

「そうか…・・・確かに、ここの洞窟は魔界への入口のひとつに近いものね。一時的な非難場所として利用したとしても不思議ではないね」

「ところで、権天使様達は一体ここで何を?」

「ラゥビーくん」

はい!と背筋を正すラゥビー。

「君が知る必要はないよ」

申し訳ありません、と頭を下げるラゥビー。頭を上げるように命じたサンセノイは、ひとつ提案する。

「これも何かの縁だ。命令系統や管轄は違うが、少し我々の手伝いをしてくれないかい?」

「手伝いですか?」

「実は、この墓場に保管されている悪魔の遺体を、天界に持ち帰らないといけない手筈なんだけど・・・…予想以上に重労働でね。僕ら2人じゃ運びきれないんだよ 」

サンセノイは、自らの背後に浮遊する棺桶を指差す。棺桶は、全部で5つ用意されていて、そのうち4つはすでに封がされていた。


「あとは、この古の女神リリス様の遺体を入れるだけなんだけどね。僕らは、封をされているこっちの4つの棺桶を運ぶから、君はリリス様の肉体を運ぶのを手伝えるかな?」

「リリス様・・・?魔界の女王とされている悪魔のですか?」

「あぁ、いかにも。それがどうかしたのかな?」

「いえ、何でもありません」

よく見ると、この部屋にある銅像の姿は、入口にいた少女にそっくりである。

違うとすれば胸部の大きさと背丈だろうか。ラゥビーは自分の胸に無意識に手をあててしまう。

「(いいなぁ・・・っじゃ無くて!!確かに、あの少女の面影はある。だとしたらあの子はリリスと言うことに?大丈夫か?あの子を信用して。いや、何を考えている。優先すべきは、見知らぬ少女よりも、目の前にいる権天使様の言葉だ!)」


棺の封印を解く為に、セノイとサンセノイは、2人並んで仲良くスペルを設置していく。

ちなみに、ラゥビーは体育会系の戦士タイプなので、スペル類の文化系魔術士タイプの技は使えない。


「いくよ?サンセノイ」

「いいよ。セノイ」


二人の魔力値が上昇すると供に棺桶に設置した8つのスペルも光り出す。

「これでよし!」

「うんうん、リリスの遺体に損傷は無しっと」

封を解除された棺桶の中には、銅像と同じような姿をしている女性が眠るように横たわっていた。

「銅像よりも・・・美しい・・・。(ちゃんと胸もある。誇張表現ではなかったようだ。)」

「ん?どうした?ラゥビーとか言う守護天使よ?」

「いえ!なんでもありません。」

「ちょっと、我らは疲れた。その遺体を、そちらの棺桶に入れてはくれないかい?」

「は。承知しました。」

と、ズルズルとリリスの体を引っ張り出して、空いている棺桶に移すラゥビー。遺体と言うことで、最初は抵抗感があったが、遺体という言葉が相応しくない美しさを肉体は放っていた。

「天使や人間ならこうはいかないだろうな」

思わずリリスの容姿に魅入られてしまうラゥビーに声をかける権天使2人。

「その棺桶の蓋の方に、魔力を注ぎ込むのじゃ」

はい!と返事したラゥビーは、慌てて自分の魔力を注ぎ込む。すると、自動的に棺桶の蓋が閉まり、浮遊する。

「こ、これは??」

「あぁ、これかい?これは、魔力を注ぎ込んだ者の後をついてくるように設定してあるんだ。こういった技巧系のスペルは恐らく君には使えないしろものだよ。気をつけてね?魔力を供給してあげないと、ついてこないから」

「は、はい」

「まぁ、守護天使クラスの魔力の持ち主だったら、天界までは十分持つか」

と、2人は勝手に納得して、その場を出ようとする。

「さぁ、君もついて来たまえ。君も地上に戻らなければいけないのであろう?」

「は、はい!」

セノイとサンセノイの後ろに浮遊した棺桶が、2つずつ浮遊する。

ラゥビーも恐る恐る歩いてみると、絶妙な距離を保ちつつ後ろに棺桶がついてくる事を確認する。

「何の冗談だこれは・・・。」

先行する2人に急かされて、ラゥビーはその後ろに続いた。ここで、ふと思い出したようにラゥビーが尋ねてみる。

「この場所に、アスタロトという悪魔の肉体は保管されていないんですか?」


「ん?アスタロト?ここは罪人の墓場だからねぇ。もし魔王の関係者なら、魔王の城の方に保管されているんじゃないかな?」

「あぁ・・・なるほど」

「その悪魔に何か用があるのか?」

「いえ、ちょっと地上でその悪魔の噂を耳にしただけです」

「そうか。ワシらには関係ないなら別によいよ」

「は」(脳内の次の目的地欄に、魔王の城を追加っと。さてどうするかな)

棺桶を引き連れた天使3人は、リリスの遺体が保管されている部屋を後にする。

その様子を静かに見守る久瀬と佐島とアシュタルテ。


「何だあれ?8人パーティーで冒険に出かけたはいいけど、そのうち5人がやられて、今から町の教会で生き返らせに戻る途中みたいな状態は!」


佐島は、僧侶だけ生き残ったドラクエみたいね。っと一言で表現する。


「ラゥビー、裏切ったのか?」

と心配そうにするアシュタルテ。

「裏切る訳ないだろ。あいつは、天使だ?アシュタルテは、どっちだっけ?」

「アシュは女神だ!」

と、久瀬は思いっきりアシュタルテの両側に生えた角を押さえ込む。

「イタタ!!ごめん、アシュ悪魔っぽい」

「そうか、あいつにしたら、今のこの状況の方が正常なんだ…・・・僕らといる方が異常。むしろ裏切り行為なんだ。ん?どうした?佐島?」

「先に行ってて?ちょっと、奥の部屋だけ、どんなのか見ておきたいの」

「うん、でもちゃんとついて来いよ?」

首を縦に振ると、奥のリリスの部屋を覗きに移動する佐島。

「さて、僕らはとりあえず羽根野の後をつけるか」

「了解、主人!」


――罪人の死体安置所。扉付近。

「なぁ、セノイ?」

「なんだいサンセノイ?」

「あいつらは、うまくやってるかな?」

「あぁ、恐らく大丈夫だろ。魔界もずいぶん静かになってるし」

「そうだな。あとは魔王の城さえ落せれば、完璧な勝利なんだけどなぁ」

「だね。けどあいつらじゃ、恐らく落せないだろ。なんせ、特攻前提の寄せ集め部隊だからね」

「だね。今戦っているのは、ただの時間稼ぎに過ぎないからね」

「あぁ」

「でも、僕らが参加したら、3日で陥落できそうだけどね。どうせ、魔界にいるやつなんて馬鹿ばっかりだろうから、プププ」

「言えてるね。プププ。」

「おならしないで下さい」ラゥビーが、侮蔑の目でこの2人を見る。

「おならなんかしてないよ、失礼だなこいつ!」

「失礼しました!」(こいつら、気付いてるのかな?このドラクエごっこも作戦に差し支えの無い、成功したら儲けもの程度の内容であることを。もし、こいつらが死んだ場合のデメリットを想定されていない作戦なんて、作戦と呼べない。他の連中同様特攻と同じ様なもの)「って?特攻?」

「あれ?お主はそんな事も聞かされていなかったのかい?」

「はい、何のことか全く」

「魔界、妙に静かだったと感じなかったかい?」

「確かにそうは感じましたが」

「実は、先日、天使軍による特攻が、魔界全土にかけられたのだよ」

「特攻?自爆ですか!?」

「そう。でも、安心しなさい。特攻用に急遽造られた、最下級の小天使100万匹だから気にしないでいいよ」

「また、戦争でも起こす気ですか!天使側は!」


「戦争?何言ってるんだい?魔王不在の魔界、壊すには良い機会だと思わないのかい?」

「魔王不在?(地上に居たあの犬と浮浪者は本当に魔王関係者!?)」

「そう。だから今の内にやってしまおうって腹なのさ」

「そんな。あまりにも卑劣な手段では?誰の命令で?前の大戦で停戦時に、不関与の約束が交わされたのでは?」

「それを、お前に言う必要は無かろう」

「は、確かにおっしゃる通りです・・・が・・・。(まさか、ミカエル様が指示を!?いや、そんなはずは無い。あんな聡明な方がこんな悪魔の様な所業をする訳が!)」

扉の横を通り過ぎる3人。ラゥビーは、念の為入り口付近に居た少女の所在を確かめてみる。よく見ると、振るえながら前の天使2人を柱の影に隠れて睨みつけている。

「(はぁ・・・仕方ないなぁ・・・。これ、君の体だろ?)」と呟くラゥビー。

扉近くで、ラゥビーの叫び声が聞こえる。

「主人!今、ラゥビーの叫び声がした!」

「あぁ!解ってる!!行くぞ!アシュタルテ!!」

程なくして、扉近くまで走ってくると、そこには、困惑している天使2体と地面に仰向けになって倒れている羽根野の姿があった。

「ど、どうした!ラゥビー殿!」

扉の影から、様子を伺う久瀬達。

「うぅ、すんません、セノイ先輩!実は地上での交戦時の深手の傷が原因で死にそうだったんです。魔力を20分以上放出し続けて、死んじゃいそうです」

「え、何!?傷だらけだったの?」

「って、この子、こんな喋り方だっけ!?」

「それより、どうするのよ!?仮にも、ミカエルきゅんの部下を、不注意で死なせたとなったら・・・…これから一緒に仕事しづらくなるわ!?」

「そんなこと私に言われてモー」

「(こいつら、気付いてるのかな?オネェ口調になってるの。)」

と久瀬が静かに突っ込む。

「おええぇー」

その光景を目の当たりにしたアシュタルテが、地面に手をつき、嗚咽する。

「うぅ、メフィストより気持ち悪い・・・・・・」

「・・・・・・」

「う・・・?」

きょとんっと、双子の天使と目が合うアシュタルテ。


「「・・・ちょっと、あんた何者よ?」」


「・・・…」

「「・・・…」」

「おえぇ」

「「何よ!失礼しちゃう!!」」

「お前ら、メフィストよりも気持ち悪い」

すっと、天使2人の腕が同時にアシュタルテに向いたかと思うと、一瞬の内に数十本の光の柱が降り注ぎ、真っ黒になるアシュタルテ。

「ぐぐ…あれ?こいつ、強いぞ・・・?」

と、アシュタルテが弱弱しく意識を失う。

「あの馬鹿!!」と、久瀬が足を一歩踏み出そうとした瞬間。

佐島が勢いよく、久瀬の横を通過して飛び出していった。

「あれ?なんじゃお主は?人間かえ?」

辺りをキョロキョロと見回す佐島。

そして、目当てのものをみつけたようにほっとした表情をする佐島。

どうやら、柱の影で震えるあの少女を見つけたようだ。そして、手招きをしている。

誘われるがまま、佐島の前に出てくる少女。

「えっとね、また私の頭の中覗ける?」

「え、大丈夫だけど・・・なんでなの?」

「へへ!それは、覗いてからのお楽しみ!」

と嬉しそうな声をあげる佐島。久瀬は、もしもの時の為に左手の包帯を外している。


羽根野は、どうするべきか決めかねているようで、そのまま狸寝入りを決めている。

「ちょっと、そこの人間の女!人の話を聞いて・・・…」

「ねぇ、ちょっとあの霊体、リリス様じゃない?」

驚いたようにじっくりと、その霊体を観察する双子の天使2人。

「ビンゴよ!」「1石2鳥よ!」

と、スペルを出現させる双子の天使。

「おとなしく捕まって貰うわよ!」

佐島の周囲にスペルが浮かび上がるが、佐島は一向に気にしていない。


佐島の中に入っていく少女。

「こ、これは・・・。」

と佐島の唇が動く。

「ね?」

「うん」と一人で、呟く佐島。そして、涙を流す。

「奏?」と久瀬が不思議そうな顔をする。

何かがぶつかる音がする。

「ううーん、むにゃむにゃ。もう食べられないぉ」

(少し赤面している)


ラゥビーが、何故か寝たふりをして、

棺桶の蓋を蹴飛ばす。

「「「あ」」」

と、双子の天使と、佐島の声が重なる。

「あなた(私)の体?」と佐島。


「私達を無視するなー!!」

双子天使が叫ぶと同時に、スペルから光が発生する。

それは悪魔を捕獲する為の魔術。その光の中で会話が為される。

「あなたの望みは何?」

「私は、もう一度愛されたい・・・いや、もう愛されてたのね。」

「うん。罪人のお墓の中に、貴女の肉体はあったけど、とても愛されていた様な気がするの」

「そうね・・・。ならもう私が望むものは無いわ。あなたの望みは?」

「私はヒロちゃんを守る力がほしい。」

「そう…・・・なら、都合よくそこに私の肉体があるわ。私1人じゃ、肉体に戻れないのよ。死霊使いが居れば良かったんだけど、そうも言ってられないわね」

「うん。急がないと、どっちも天使に持ってかれちゃうよ」

「そうね。あんな奴らに渡す位なら、もう一度私もあの肉体に戻りたいわ」

「契約成立?」

「フフ、そうみたいね」

閃光が佐島を中心にいくつも放たれる。


掻き消されたスペルが、空しく崩れていく。その中から現われたのは少し小さくなった第一皇女リリスの姿だった。

「あら、なんだか小さいわね。」

くるくると、自分の体を見下ろすリリス。そして、背中のバラの刻印を確認すると納得したかのような表情をする。

「そっか…・・・少し削れてた魂に合わせて、肉体の方が変化したのか。それにしても、バラの刻印って…・・・魂にまで干渉するのね。 ホント、神様っていじわる。だから嫌いよ」

後ろで、嬉しそうにしている佐島。

「ちょっと、解ってる?私に何かあったら、貴女もただじゃすまないことを」


「うん。貴女が死ぬときは、私が死ぬ時。それが契約者」

ため息をつくリリス。そして、双子の天使を睨みつけるリリス。

「ねぇ、私を捕まえるのはいいとして、この子が怪我したらどうするつもりだったの?!」

「たかが人間一人、消えても問題無かろう」

「あら、天使様とは思えない発言ね?」

「ひぃ!」と短い悲鳴を上げる双子の天使。


「何?なんか文句ある?」


顔を見合わせる天使2人。


「ら、ラゥビーは事故死ということで」

「そうね、そうね。そしてリリスの遺体は無かった…・・・事に。ノルマの4/5はクリアーできてるし、いいわよね!」


「うんうん。アザゼル、ベリアル、メフィストとかの遺体は見つけられたし、

もう十分よねー!!」、言い終わらない内に、リリスの元を一瞬で離れていく双子の天使。


ため息をするリリス。

くるっと、向き直ると佐島に挨拶をするリリス。


「改めて宜しく、お嬢ちゃん」

「うん、宜しくね!リリちゃん。」


羽根野は自分のしてしまった所業の罪の重さにその場でうずくまってしまう。

久瀬は、丸焦げになったアシュタルテをつついて、自らの魔力を分け与えている。


「おい、無事か・・・?」

「う、うん。大丈夫だ、主人。あいつら強かった。」

「人を見かけで判断するからだ、いい教訓になっただろ?」

頷くアシュタロテ。

「私でも勝てたかどうか。」

「えぇ!!」

と、全員がリリスに向かって視線を向ける。



「け、権天使相手に、迫力勝ちだと・・・!?」驚いた表情をする羽根野。

「女は度胸、男は顔ってよく言うじゃない。あれよ、あれ」と久瀬に擦り寄るリリス。

「そんなの言わないよ!」と突っ込む佐島はリリスを久瀬から引き剥がそうとする。

「お兄さん、これで私を愛してくれる?」

「さぁ。どうでしょうね?」

佐島が間に割り込む。

「でも、持って行かれちゃったわね。いくつかの悪魔の肉体」

「そうだが・・・リリスが持っていかれなかっただけでも。よしとするか」

「アシュは、メフィストの肉体が持っていかれて清々したゾ!」

「その中に、お前の肉体があればもっと清々しただろうな」

ムキー!!と、また怒り出すアシュタルテ。

「にしても」と空を見上げる久瀬。

「悪魔の肉体を、一体何に?」

「あ!」と羽根野が声を上げる。

「アシュタルテの肉体がある場所が解ったかも」

「え?」と振り返る一同。

「あの権天使様が言ってたのだけど、この墓場に無いんだったら、魔王の城の地下に肉体が保管されている可能性が高いらしいぞ」

「・・・・・・ハイリスクだ」と、久瀬が呟く。

「魔王城、懐かしいわ」とリリス。

「諦めましょうか。またヒロちゃんが危ないめに合うのはよくない」と佐島。

「ちょちょちょちょーっと!!駄目、絶対駄目!」必死に訴えるアシュタルテ。

「なんにしても、折角魔界に来たんだ。土産のひとつでも持って帰らないとな」

「あぁ」と羽根野が久瀬に返事する。

「魔王の城へまでなら、微かに記憶に残っているから案内しましょうか?」

とリリスが手を招く。地獄へと招待するかのように。


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