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拠点キャンプは段ボール製

そこは魔王軍会議室。

フレイラ:「兄貴ーー!兄貴どこだーー!!」


森林の中は、一部の風景だけが切り取られたかのように穴が開いていた。


フレイラ:「兄貴…まさか…まさか…」


あまりに突然の展開に、フレイラの眼は潤んだ…


だがその時、少し離れた場所から何か聞こえる。



ザッザッザ・・・

ハァッハァッハァッ・・・・



ポチ:「フレイラ!今更来て何用だ、まったく…」


フレイラ:「あ、兄貴!良かった無事で…

……て、何してるんだよ。そんなとこで。」


ポチ:「ここから何か良い匂いがするのでな…見て分かるだろ。

掘り起こしておるのだ。U・ω・Uハァッハァッ」


フレイラ:「あにき・・・・・・」


ポチ:「ハッ!!

そんな事より、皆に話さねばならぬ事が出来たのだ。急いで戻るぞ!!」


フレイラ:「ちょ、待ってよ!兄貴!!

………その犬癖何とかしてくれ!(´Д`;)」


新宿公園、救世主宅。


今、俺は、古ぼけた青色のジャージという服を着ている。


ここ、新宿公園、ホームレス衣装倉庫には沢山の衣装が並んでいた。


しばらくすると、中からリルム姉さんが着替えて出てくる。


魔界にはないファッションだったが、なかなか似合っているように思えた。


「うんうん、サイズもぴったりね…ウェルティーも、それなかなか似合ってるわね。」


と、上着のチャックを一番上まで上げられる。


なんだか、首がチクチクするのですぐさま俺は軽く下に下げる。


この胸に書かれた番号はなんなのだろうか…


人間とは番号をつけられて家畜のように暮らす生き物なのだろうか…。


ブルーシートで作られた救世主さんの家の前に俺達は集合した。


レオ兄さんは…やはり、ゴーレムのような格好をしている。

ホームレスの不法住居の一角に先ほどまで噴水前にいたメンバーが集まっているのが見える。


そこには、姉さんと兄さん、末っ子くん…がいるらしい。


ビーチパラソルが中央に刺さった白いプラスチック製の円形の机の回りに、事務イスが並ぶ。


これだけでも、この公園の外観を崩しているのに、そこに座る人達は奇妙である。


私の会社に勤める重役の様なオーラを纏う浮浪者、


段ボールの箱を装着しゴーレムと化した我が兄レオボルト。


青い上下揃いのジャージに金髪が違和感を感じさせる3年A組の末っ子。


リルム姉さんの服装も、さっきとは違っていて…所謂日本の中学生が着ているセーラー服というやつだ。


この色々と突っ込み所がある集団を見張るのは少したいへんそうだった…


しばらくすると、救世主(メシア)と呼ばれている男が立ち上がり、どこかに向かった。


俺はこれをチャンスだと思い、お茶会をしている姉さん達の所に向かう。


とにかく兄さん達と情報交換をしなければ…もし、何か天界に関する情報が得られれば……


と、先程の救世主が視界の端に入る。


公園に設置されている自販機の前で何かしている。


「今日は、少し暑いので…冷たい飲み物がいいかな。」


よし、迷っている。


4人分の飲み物を選んでいる間に、簡単な情報交換は可能だし、まず俺がここに来ている事を明らかにしないといけない。


連続した打撃音が耳に入り、聞き慣れた自動販売機の音がする。


「よし、今日は大量だ。」


すかさず俺はその男に突っ込みを入れる。


「それ犯罪だからー!!」


その男は、自動販売機の絶妙なポイントに蹴りを入れて飲み物を入手していた。


しまった。


人間界の生活に馴染みすぎた性か、社会人として注意をしてしまっていた。


「犯罪ではありません…これは奇跡です。」


「言い切ったー!!」


と、まんまと相手のペースに嵌められてる俺は咳払いをして必死に自分から飛び散った平静をかき集める。

「えと…こんにちは。

私は都内で、食品加工業の営業を担当しております、水下と申します。」


すごすごと名刺を律儀に渡してしまう俺。


「こちらこそ宜しく。

名刺はもうないから…これを変わりに。」


と、手渡されたのは残り度数10のグラビアアイドルが映されたテレフォンカードだった。


「(今の時代、どこで使うんだよ!)」


「その娘のテレカは貴重でね……今は引退した伝説のAカップアイドル…峰下友里亜のデビュー当時の…」

「誰だよ!」


思いっきり、俺はテレカを投げつけようとするが、その男の只者ならぬ鋭い眼光がそれを阻止させた。


「くっ……。」


「(いらないんだったら、返して欲しいな…。)」


とりあえず、スーツの胸ポケットにテレカをしまう。

この重役オーラは苦手だ。

心なしか救世主は、残念そうな表情をしているようになぜか見えた。


気持ちを切り替えた俺は開き直って切り返す。


「よかったら、私もお茶会混ぜて貰えませんか?」


「ダメです。」


救世主は、快く承諾を拒否した。


しばらくすると、救世主さんが帰ってきた。


変わった容器に入った飲み物を大量に抱えながら。


それらを配り終わると、一息ついて、救世主さんとレオボルト兄さんは飲み物先っぽを捻り、なかの飲料に口をつける。


姉さんと俺は見よう見まねでフタを捻る。


何とか俺はフタを開ける事が出来たが、リルム姉さんは手こずっているようだ。

悪態をつきながら、飲み物を振り回している。


そして…


「キィちゃん……。」


と呟いた瞬間、普通の人間では見えない速度で飲料の先っぽが翼で切り裂かれた。


ポロッと机の上にそれが落ちた瞬間すごい勢いで中から液体が噴き出した!!

キャー!!!


というリルム姉さんの叫び声と供に、辺りの空気が震える。


この感じは、魔力だと気付いた時既にその飲料には、魔力で出来た姉さんの槍が数十本突き刺さっており、その槍が避雷針の代わりのように天空からの稲妻を引き寄せて轟音と稲光による閃光が辺りに拡がる。


そして、耳をつんざく金属音がしたかと思うと、キィちゃんの口から発っせられた超振動音波により、円形だった机は跡形も無く崩れ去った。的を、目の前の飲料に絞っていた為か、幸い俺達に被害は無かった。


…はずだが、音波の性か救世主さんは椅子に項垂れる様に気を失ってしまっている。


平気だったのは、魔族である俺達だけだ…


しばらく間を置き、レオボルト兄さんが口を開く。


「これは、コーラという飲み物で…炭酸飲料なんだ。

だから、余計に振ると泡が噴き出すんだよ…リル姉…。」


辺りを見渡すと、周囲の人達も全員気を失っている。

そして、俺達が折角着替えた服はそのコーラ色に染まっていた。


魔王:「人間界って…こんなに面倒くさかったのか…」


何だか既にどっと疲れた。

負傷していた身体も大分落ち着いたものの、疲労感は積もっている。


リルム:「もぉー!本当ビックリしたんだからー!」


姉さんは少し怒っていた。

…が、良く見ると大変な事になっている!

姉さんの身にまとう服は布が薄く、茶色い液体がかかった事によって身体が薄っすら透けて見える…


見てはいけない様な…

見てはいけない様な…

見てはいけない様な…


リルム:「…ウェルティー。」


ドキッとした!

姉さんは僕の視線に気付くと、ギロっとした眼でこちらを睨んでいた…


”どーせ一度は全裸を見てるんだし、今更隠されても…

そもそも、姉の裸体を見たところで何も…”


という俺の思惑がいけなかったのだろうか…


『はいっ。これを羽織ってよ。』


そこには、先ほど見かけたパン屋がいた。姉さんに向って服を差し出している。


リルム:「ありがとう!やっぱりフレイラ気が利く子よね~♪」


フレイラ:「だって…姉貴の今の目つき、怖いよ。」


姉さんはフード付きの服を嬉しそうに羽織った。

なかなか姉さんに似合う可愛らしい物だ。

…ん?姉貴??


フレイラ:「えっとー…はじめましてだね、弟くん。」


魔王:「あ、はぁ…」


フレイラ:「俺は四男のフレイラ。パン屋なんだ、よろしく。」


魔王:「あぁ…俺はウェルティア。」


食欲を掻き立てられるような匂いと、何だか懐かしい匂いがする…


フレイラ:「そんな事より!大変なんだっ!!」


4兄の表情は急に慌てた様子を見せた。

その様子に、レオ兄さんの顔も少し強張った。


フレイラ:「僕達が出てきた門が壊された。

たぶん…もうあの場所から魔界へは戻る事ができない。」


ポチ:「…さらにだ。」


…ん?俺はフレイラとは別の声の主を探した。


ポチ:「壊したのは天界の者であった。

やつら…自分達の仲間を魔界に送り込んで、進軍させたらしい」


魔王:「わ。犬がいる、ちっさいなぁ(´ω`)」


・・・・・・


辺りの空気が静まった。


レオボルト:「では、その進行は私達では止められない…ということか。」


ポチ:「やつらは言わば特攻部隊。どんな手段で魔界を荒らすか分からぬ…」


リルム:「そんなっ!せっかく人間界に来たっていうのに…

魔界に残ってる人達はどうなるの…」


ポチ:「大丈夫だ…おそらくだが、他にも門がある。

この人間界にも魔界の匂いが強い場所があるのだ。

もしやそこより魔界に繋がっている可能性がある…」


フレイラ:「…これから…どーすんの?」


ポチ:「我が魔界への門を探す。

姉さん、レオボルト、それから…末の子よ。

そなた達は人間界で様子を伺うとよい…」


フレイラ:「えぇーー!まさか俺と3兄はぁ??」


ポチ:「もちろん…門を見つけ次第、魔界へ出向いて殲滅作業だ。

特に三男坊よ…お前は人間界慣れし過ぎであるぞ。

全く気付かんかったではないか…U`ω´U」


唖然としてる俺にその犬は話しかけてきた。

ポチ:「末の子よ…初の人間界、油断するでないぞ。

…我はケヲル。王の血を継ぐ長男である。」


魔王:「(え。犬なのに…( ´艸`))」


ポチ:「…良いか末の子よ。人の世では姿形に惑わされるな。」

(U`ω´U失敬な…)


魔王:「あ、俺はウェルティア…です。」


どうも姉や兄達は心の読み方が上手いらしい…

それにしても、もう少しマシな犬の形はなかったのだろうか…


ケヲル:「では、天使どもにはくれぐれも気を付けるのだぞ。」


挨拶も早々に、俺達は散り散りになった。

俺は姉とレオ兄さんと暮らす事になるんだろうか…


リルム:「私達はまず、人間界の事を良く知らないとね。

さ…行きましょ。」


その時だった、またしても微かな声が聞こえる…


『その前に、お前から匂う父の血の理由を聞かせてもらおうか…』


そこには紅く虚ろな眼をした男が立っていた。

姉さんやレオ兄さんはそいつに気付かず、テントへと入ってしまった。


魔王:「だ…誰だよ、アンタ。」


得体の知れない男だ。

殺気をまとい、今にも飛び掛ってきそうな勢いだ…


「俺はなぁ…

地獄の君主の一人。蠅の王ベルゼブルの血を継ぐ者、ムスカだっ!!」


ムスカ:「その父の血が、何故お前から放たれる!

お前…父を手にかけたかっ!!」


魔王:「ベルゼブルの息子っ!お前が!」


俺は思い出していた。

何者にも縛られる事もなく自由に飛び回り、俺を助けてくれたベルゼブル…


魔王:「あの人は…俺を庇ってくれた…

俺一人では門に辿り着く事が出来なかった。

この人間界に来る前に、天界の門番に襲われたんだ。

その時、ベルゼブルは俺をこちに逃がすために身体を張ってくれたんだ…」


ムスカ:「なんだそれ…。そんなの関係ないだろーがぁ!!

お前がクソ弱いから、親父が犠牲になったって言うのかよ!!

ふざっけんなよ!お前さえいなければ…クソっ!

お前なんかの為に居なくなっていい人じゃねーんだよ!」


確かにあの時、自分の力無さを痛感した。

俺や俺の兄弟達の存在を疎ましく思う者もいるのだ…


魔王:「…すまない」


ムスカ:「そんな言葉、要らねぇーんだよ!

俺は一生恨み続けるからな…お前とお前の血筋を…」


魔王:「・・・・・」


ムスカ:「親父が守りたかったモノが、こんなもんだったなんてな…」


そう言うと、紅い眼の男は去って行った…

俺はしばらく立ち尽くしていた。


テントからリル姉さんが、何事も無かったかのようにヒョッコリ顔を出した。


リルム:「おーい!ウェルティー。まだ外にいたの?今はここで休みましょう。」


俺はテントに入り、すぐに腰を下ろすと深いため息をついた…


レオボルト作戦室。


茶色いちゃぶ台を囲むようにウェルティア、リルム、レオボルトが座る。


魔界への門が閉じられ、天使による侵攻が開始されたという事実を前にして、3人に託されたのは前に進むという事だった。


「まず、私達の最終目的は、天上界へ行き、父上の仇をとる。もしくは、父の安否を確認することにある。」


「うむ。」


「そうだったんだ…。」


しっかりしなさい、とリルムはウェルティアの肩を叩いた。


「君が地上に来た目的はなんだったんだい?」


とレオボルト。


「…母が暮らしていた世界を…知りたかった。だから、父親の仇とかでここに来たんじゃない。」


その言葉を聞いて少し曇った表情をするリルム。


「ウェルティー……あなたがお母さんを思う気持ちは解るわ…。


けど…今の状況は魔界の王である貴方が無視出来るものでは…無いの…。


父、ルキフェル不在の今……地下世界の何千万という住民の行く末は、私達兄弟の肩に……。」


とそこで、ポンとレオボルトがリルムの肩に手を置く。


「リル姉……魔界の王の役目を末っ子に擦り付けて出てきた俺達が言える事ではないよ…。」


はっとしたように、リルムはそれ以上ウェルティアを言及する事は無かった。


「ウェルティーくんは、父親との記憶はあまりないのかい?」


責めるでもなく、優しくレオボルトは問い掛けた。


「ほとんど無い…です。


父が最後…大天使ミカエルとの決闘の最中姿を消した10年前のあの時も、俺は、父さんには戦力外通告を受けていて…


世界の外れの方でずっと…母親の傍に居させられていた。


兄弟の話も聞かされていなかった。


何一つ魔界に貢献出来ていない俺が……魔界の王?


ふざけてるのにも程があるよ…!!部下一人も守れない俺が!!」


ここにきて、初めてウェルティアの心情を理解した二人は、その苦しみが兄弟達とは別の所にある事に気付く。


「ウェルティア…。」


と、悲しみの表情でリルムが優しく手をのばす。


「ごめん。ちょっと頭冷してくる。」


と、リルムの手を振り払うようにウェルティアは外に出た。


とぼとぼと俺は歩き出す。

行き先などないけど、今は考えたい。


ここ数日の急激な環境の変化に心がついていけてないのかも知れない。


魔界の果てでひっそりと暮らしていた日々を絶ちきるように魔王の座につかされたあの日…


私の他に兄弟がいることを知らされた日…


そして今は、地上に出て人間界にいる。


兄弟とも偶然的に出会えた…


いい人(犬?)ばかりで、内心嬉しかったな…。



夕暮れ時、真っ赤に染まる空と曇…


地下世界で見た同じ赤い景色とはこうも違うのか。


黄昏時…


昔から悪魔が好む時間帯だと人間達は話すそうだが、ホントの黄昏時を地下世界に住む俺達は知らない。


そして、妙に懐かしくて、寂しい気持ちにさせるこの景色を多分悪魔は好きになれないと思う。


思い出すのだ…


自分が誰かに大切にされていた時の事を…。


ユーリ=マイリアード


自分を大切に思ってくれていた人の名前だ…。


父上の記憶はほとんど無い……むしろ、魔界の片隅に俺達を追いやった張本人を俺は許さない。


その怒りの感情が、先ほど現れたベルゼブルの息子を名乗る人物を思い出させる。


「そっか……。


俺も憎まれて当然なんだな…。」


大切な者を失った者の悲しみは深い……


故に何かに対する激情を持って抗わなければ崩れてしまうのだ。


あいつも、俺も一緒なのだ。


違うと解っていても、誰かを恨まなければ自分を保っていられない…。


ふと自分の兄弟達の事を思い出した。


あの人達にとっての父は…

どうであったのだろうか…。



見た感じは正直言って解らない。


全然平気そうにも見える。


脳裏に俺の事を悲しそうに哀れむリルム姉さんの顔が浮かぶ。


そんな訳はない!!


平気なはず、悲しくないはずがない!


顔も知らなかった末の兄弟の俺に対しても優しく親身に接してくれた…


何より、兄弟全員が魔王という座を捨ててまで地上に出てきているのだ。


何千万という民とを天秤にかけても、それでも地上を、天上界を目指そうというのだ。


たったの1人の大切だった人の為に。



「……謝ろう……。」


自然とその言葉が口から出た。


直ぐ様引き返そうとする俺だったが、今姉さん達と顔を合わせたら泣いてしまいそうなので、近くにあったベンチにしばらく座る事にした。


ふと思い出す…。


「そういえば、大丈夫かな。救世主さん達…。」


状況が状況であった為に完全に放置してしまっているのである。


救世主さんが項垂れている場所に向かって歩き出す…

歩き出す…


ある……?


あれ?



「確かこっちのはずじゃ……ない。」


木々を抜けると、そこに広がっていたのは


夕陽を浴び、赤くピカピカしたビル群がウェルティアを見下ろしていた。


そして、その間をすり抜けるように忙しなく走る自動車と人間達。


「これが……本当の人間界。」


その光景に圧倒されたウェルティアは、怖じけづき、本能的に姉達がいる公園に引き返そうとする。


が、残った理性を全て使い、全力で本能を否定する。

「ここで引き返したら、魔王の面汚しだ。


少しでも…姉さん達の…役に…。」


がくがくと膝を震わせながらも、一歩また一歩と足を前にだす。


公園から5メートル離れた所まで足を進めると、ウェルティアは人波に飲まれてしまった。


通行する人々の肩にぶつかり、ウェルティアはバランスを崩し、手を地面についてしまう。


通行する人々からは時折罵声や愚痴が聞こえてくる。

(どけ、邪魔だ。)


(何?この子…全く最近の子供は…。)


(金髪の男の子だ…外国人かな?)


(あのジャージ、どこの学校だっけ?)


「な、なんなのだ…。

なんだこの拒絶感は!」



考えて見れば、自分は悪魔…ここで文明を築き、繁栄している人間からすれば、私など厄介者……


と、手を耳にやる。


変身は解けていなかった…

あれらの言葉は同じ人間に向けられたということか…。人間界…侮れない。


ウェルティアの得た情報


1.人間は人間に対して冷たいらしい。



実験②


悪魔に対する対応は?



「よし!


古来より、人々から悪魔は恐れ、畏怖される存在…


と聞いた事がある。


ここで、悪魔としての姿をさらけ出し…。


さらけ…出し……。


辺りが神々しい光に包まれる。


ウェルティアの耳や目は悪魔のそれだが


背中から生えた一対の翼だけは、悪魔を彷彿とさせるようなものではなかった。何より、このジャージ姿に翼は無しだと、ウェルティア本人は自覚している。深い溜め息を吐く。


辺りが光に包まれた瞬間こそ通行人にざわめきが起こったが、空を見上げるだけで、ウェルティアに対するリアクションは少なかった。


「(え、何あの人……コスプレ?)」


「(場所間違ってんじゃないの?ここは新宿よ。)」


「(あれ、何のキャラだっけ…ジャージ姿で翼の生えた…。)」


「(秋葉原にいけ。)」


「(ほら、あれじゃない?

<蘇った竹下先輩>とか言う…漫画のコスプレよ。きっと。)」


「(確かに似てるわね…)」


実験②結果


失敗。


恐怖を抱くような悪魔のようになれない為に断念。


実験②考察


人間界でウェルティアがジャージを着て悪魔化すると、コスプレと言われ、竹下先輩になれる。


「……帰ろう。」


半泣きになりそうなウェルティアは、情報収集を諦めて、公園に戻ることにした。


とぼとぼと歩き出した瞬間、遠くから犬の鳴き声がしてくる。


「……わふわふ。」


「ん?この間抜けな鳴き声はどこかで…。」


「わふ!!」


「あ!この犬…ケヲル兄さん!!」


「って、お主か!!」


と、ウェルティアはケヲルから頭突きをくらい、尻餅をついてしまう。


痛がるウェルティアの頭に乗っかりケヲルが語りかける。


「同族のような匂いを感じで来てみれば貴様か!全く…なんと間が悪い。」


「へ?一体…」


「とりあえず、囮くらいにはなりそうだな。」


と、言うと体を回転させながらウェルティアの体を本気で蹴飛ばす。


「では、あとは頼んだぞ!末の子よ!」


勢いで数メートル吹き飛ばされてバランスを崩し、前のめりに倒れてしまうウェルティア。


そこに、丁度同じ方向から走ってきていた人物に思いっきりぶつかってしまう。

その衝撃で両者はこんがらがるように地面に叩きつけられてしまう。


その悲鳴と共に。ウェルティアが最後に見たものは、

桃色ショートヘアーな少女の姿だった。


<守護天使>


「くっ!!逃がさないぞ!

悪魔匂い袋に引っ掛かったきっと凶悪な悪魔め!!」


これ以上悪魔による人間への干渉拡大を防ぐためにも、

未確認の悪魔をのさばらす訳にはいかない。


例えそれが・・・匂いに引き寄せられて寄って来ただけかも

知れない野良犬だったとしても、万が一があってはいけない。


そういう思いでこの少女はなりふり構わず街中を走りまわっていた。


あと、もう少しという所でそれらは台無しになる。


この眼の前の人間の性で・・・。


「は!!」


よく見ると、転倒した衝撃を全て吸収するかのような

態勢でこの少女の下敷きになり、気を失う金髪のジャージ姿の青年の姿があった。


「・・・あ、えーと。申し訳無い。

色々大丈夫ですか?」


と声をかけると、返事の代わりにその顔から一筋の血が流れる。


「は、鼻血が!気も失ってるし・・・。ウムム。」


(どうする?ラゥビィー=シャズ。

お前は今、岐路に立たされている。

眼の前に倒れる一般市民を救うか、あの疑わしき駄犬を追うか。

護るべき存在、人を守るか。忌むべき存在、魔族を討つか。)


そこにビル風が吹き、ウェルティアの顔に掛っていた前髪が

揺れる。


その合間から除く瞼とその輪郭は、生まれの良い貴族を思わせると

同時に、独特の哀愁が漂っていた。


「この顔を、どこかで見た事がある気がする・・・だれだっけ・・・」

まじまじと顔を覗き込むラゥビー。


そして次の瞬間、パチッとその瞼の持ち主と眼が合う。

その透き通った眼に、天使の総隊長ミカエルの面影をラゥビーは見た。


目覚めたウェルティアは、自分の体の異常にすぐさま気付く。

少女が明らかに、自分のお腹の上に乗っている。


「え・・・と・・・。(お腹痛い。)」


突然目覚めた眼の前の王子様に反応する事が出来ず、固まってしまう少女。


「ごめん、ちょっと退いてくれる?」


と、ウェルティアがラゥビーの肩に手を置いた瞬間、キャー!という叫び声と供に顔面に渾身のパンチを受ける。


「ぐふ。」


ウェルティアが再び最後に見た景色は、何故か顔を赤くして拳を突き出している桃色・・・。


「あれ?あ、つい私・・・反射的に・・・。」


顔に流れる血が二本に増えたのを確認したラゥビーは決断した。

人を護る方を選ぶと。


「と、その前に・・・。

逃げられると思うなよ。悪魔風情。


楽園の守護者たるこの私の眼の前から。」



スルスルと、白いジャケットのポケットから

黄金の懐中時計を取り出す。


一見、年代が古い物のようにも見えるが、開いたその時計盤には

宝石のような物が散りばめられ、高級感を漂わせていた。


そっと、その懐中時計に魔力を注ぎ込むと、ラゥビーを中心に大きな十字架

が出現する。


「なぁ、悪魔共よ。この地上を守護する我らが、そこに住まう人間の目を気にして

手を出さないとでも思っているのか?紛れれば手を出せないとでも考えているのか?


それは甘い。甘いのだよ。」


光の十字架を中心に時計の様な紋章が浮かぶ。


「主より承りし、奇跡、目の当たりにしろ。」


その時計の紋章が広範囲に広がる。

その光の波は、先を行くケヲルにも届いていた。



「―む?何だというのだ?この光の波は・・・。まぁよい。」


テテテと、特に何も気にもせず走りだすケヲル。


だが、どうも空気が重い。

そしてどうも先程と比べて景色に違和感があった。


何かが、どこかが違う。


「すんすん。あらゆるモノの匂いが・・・消えた?

いや、音までもが・・・。」


ケヲルの周りの空間から息を潜めたように音が消えた。

そして、気付く。


風にそよぐ木の枝、舞い上がる木の葉、そして街を闊歩する人間までもが

その動きを止めていた。


しかし、遥か上空に漂う白い雲は依然として気ままに空を漂っている。


「何だというのだ・・・。まさか!限定的に時を止めたとでも!」


当り!と言う声と供に、先ほどウェルティアを使い、煙にまいたはずの少女が背後にいた。


そして、ケヲルを背中から掴みあげる。


「わふわふ!」


「・・・・。」


「・・・わふ?」


「まだ解ってないのね…。いくらとぼけても無駄。

貴方が動けるという事実が、何より貴方が悪魔だという証拠なの!」


そして、ラゥビーの手から眩い光がスパークする瞬間、変身を解いたケヲルがするりと

そこから抜け出した。


「これはこれは、何とも無礼な奴だ。何者かは知らないが、私が躾てやろう。犬のようにな!」


と、地獄の炎を纏い、攻撃を仕掛けようとした瞬間、上空から数十本の十字架がケヲルめがけて降り注ぐ。


次々と降り注ぐ光の十字架を避けながら、叫ぶケヲル。


「おい!貴様!そのような辺り一帯を巻き込むような攻撃を仕掛けては

人間の命も危ないのだぞ!?」


その叫びに何も答えようとはしないラゥビー。

返答するかのように降り注ぐ十字架の数が増えていく。


「この勢いますます強くなっている。あやつ、人の命など

気にしておらぬのか?」


と、避けきれなかった十字架の一つを炎の壁でガードする。

が、今度はその壁を標的とするように、その数百もの十字架が炎の壁に突き刺さっていく。


「ぐぅ!このままでは・・・!」


「ハハハ、このまま死んでいいよ?悪魔さん?」


その言葉と表情からは、狂気にも似た強い信念が感じ取られた。

そして、炎の壁を貫いた一本の十字架がケヲルの頬を掠める。


「くそ!迂闊であったか・・・。犬の誘惑などに負けなければ・・・。」


「最後に教えてあげる。」


怪訝な表情をするケヲル。


「何をだ?」


「貴方がなぜ、悪魔だと解ったかよ。」


「それは、私が…悪魔の匂い袋に釣られて出てきたからであろう。」


「違う、貴方がこの時の止まった環境で動けるという事がそもそも

悪魔、もしくは天使だという証拠なのよ。 」


「時を止める。まさかとは思ったが、そんな事がホントに…。

む、待て!それでは、自分達も動けなくなるではないか。」


「私達は、この世界に対しては部外者的な存在。

世界の秩序、理、つまりは時間の拘束に対する制限はつかないのよ。


逆に、この世界のシステムに組み込まれている人間達には制約がつく。

それは、同時に”時間”という名の、絶対不可侵な最強の鎧を身に纏う事にもなる。


そこを利用して、地上の悪魔排除用に作られたのがこの魔道具よ。」


と言って、それをケヲルに見せつける。

「そうか、それでお主は、こうも周りの被害をも考えずに戦えるのだな。


(何故この娘は、余計な事まで話すのだ?

相手との優位性の違いを見せつけ、戦意を失わせる為か?

いや、それとも…。)


ぐわッ!!」


ケヲルの腹部に激痛が走る。


ラゥビーは上空から降り注ぐ十字架の一本を、手に持ちそれをケヲルの胴体に突き立てた。


「これで、逃げられない。」


言葉の通り、十字架は体を貫通し、その先は地面にも深く突き刺さっていた。


「両手は、上空から降り注ぐ十字架を防ぐので精一杯。

体は固定された。貴方にもう攻撃手段は残っていないわ。」


「ハハ、小娘が・・・生意気を。」


「選ばせてあげる。大人しく魔界に帰って一生そこから出てこないと誓うか、

天界へ来て、悪魔更生プログラムを受けるか。」


「目的を果たすまでは、魔王の血族としておめおめと帰る訳にはいかん。

(どちらにしろ、魔界に戻る手段はないがな。

うむ?こやつ、天界による魔界襲撃の件を知らないというのか?)

更生プログラムを受けるのは、悪魔としては生き恥だ。


他にないのか?選択肢は?」



「ある。それは・・・貴方が死ぬこと。」


「(こいつ、何だかんだ言いながら、殺す事を躊躇っているのか。なら・・・。)」


静かに目を閉じるケヲル。

死を認め、覚悟したその行動に魔界の眷属の誇りが垣間見えた。


「余計に、殺し辛いのよ!他の犬畜生以下の悪魔の様に、最後まで足掻いてよ!」


と、十字架の剣でケヲルの首を落とそうとした瞬間、見たくないという感情から眼を閉じてしまうラゥビー。


そこが、勝敗の差を分けた。

ゴリっと、骨が何かにあたるような音が響く。


驚きで、何が起きたかを把握出来ずに大きく眼を見開いているラゥビー。


「・・・?(息が出来ない!)」


先ほどまで居たケヲルは小さな犬の姿になり、ラゥビーの首に噛みついている。


「ふごふご。(念話:勝負とは、最後まで解らぬ。そういうものだ。)」


急いでその犬を手で振り払うラゥビー。

だが、不用意に手で弾いた為に、余計に傷が広がってしまう。

そして、間髪入れずに噛み傷から血が溢れだす。


そして、激しく咳き込む。


「…ゴフッ!」


あたりに、血が飛び散ってしまう。

その場に崩れるラゥビー。


「安心しろ、すぐには死なん・・・。

噛まれたとはいえ、子犬の歯だ。」


必死に、ケヲルを捕まえようと手を伸ばすラゥビー。


「無論、この状態で他の悪魔やわしに襲われたとしても責任は取れないがな。」


そういうと、再びケヲルは歩き出し、ラゥビーの元を去っていく。

「(甘いな。私も。)」


一筋の涙が流れる。


かすれていく視界の中で、自分が命を奪っていった悪魔の断末魔を思い出す。


「(仕方ない、私も命を奪う者。覚悟は出来て・・・いた。)」


まだ、ラゥビーの発動させた魔道具の効力は続いている。

助けを呼ぼうにも、ラゥビーを助けてくれるものなどいないのだ。


「(しくじったなぁ。少し、時間を固定するの長く設定しずぎたなぁ…。)」


ラゥビーが、気を失い、掠れる視界の中で最後に見たものは、時間固定領域外にある

自由気ままに夕焼け空を漂う雲だった。


「(はぁ、もっと自由に生きたかったな。

私、まだ恋も経験していないのに…な。)」


ふと、脳裏に先ほどの青ジャージ姿の少年の事を思い出す。


「(あ、まだあの子に謝って無かったな、ハハ。)」


そこで、ラゥビーの意識は途絶えた。


それと同時に、ウェルティアは目を覚ました。気を失っていたらしい。


その間、何か大切な夢を見ていた気がする…


二人の天使が何かを争うように話していた。

その天使たちは、いずれも6枚の羽根を持ち、

容姿もどことなく似ていた…双子かな?


そんな事を考えていると、ふと気が付いた。

鼻の下が温かい…触ってみた。



ウェルティア:「…鼻血出てる」



何故鼻血など…そう思いながら、フラフラと歩き出した。


少し歩いた所で、先ほど目にした桃色の艶やかな髪を持つ女の子が倒れていた。何でこんな所に…



ウェルティア:「おーい…すみませーん!

ここで寝てたら、人間とぶつかって鼻血出ちゃいますよー!」


駄目だ、気付かない。


見ると負傷をしている事に気が付いた。

…とにかく場所を変えよう。


あれ、そういえばケヲル兄さんどこに行ったんだろう。


ウェルティア:「…まぁいいか。」



ウェルティアはラゥビーを背負って歩き出した。困った…自分一人でも何処へ行ったら良いのか分からないのに、人を抱えてまでして、何処に行こうと言うのだろう…そう思った瞬間、何だか急に重力を感じた。


偶然すぐそばにベンチを見つけ、そこに寝かせる事にした。

怪我を見ると、まだ血液が流れ出している…


ウェルティア:「とりあえず、血を止めないと…」


しかし、誰かの怪我など治した事はない。

自分を自身の治癒力で回復する力は多少持っているが…


ウェルティア:「仕方ない試してみるか…」


そういうとウェルティアは自分の薬指を八重歯で少し噛んだ。


ウェルティア:「鼻血だとなんか…可哀想だしな。コレで…」


指から流れ落ちる血液を、彼女の首筋の怪我に垂らす。

そして手をかざし、力を込めた。


一瞬の眩い光を放ち、かざしていた手を引くと、

もう彼女の首から血液が垂れる事はなかった。


ウェルティア:「成功した…みたいだな。」


誰かを助ける。初めてそんな事を体感した。

何か少し、心が温かかった。


…だが、この子は人間だ。

悪魔の血を分けてしまったが、一滴くらいなら…大丈夫だろう。

よし。とりあえず、この子はもう大丈夫。

目が覚めるまで、一緒に居る事もないだろう。


とにかく俺は、最初に来た公園を目指そう。

ケヲル兄さんみたいに鼻が良い訳じゃないけど、

感じるんだ…きっと辿り着けるはず。


ウェルティアは大きく息を吸い、目を閉じた。

そして息を吐くと同時に耳を、鼻を、心を、身体全体を澄まし、

必死に何か感じる所がないか探してみた。


すると、何か聞こえた気がした。


・・・・・・・


歌だ。

美しい女性の歌声が聞こえる。


今はこの声以外に感じられるものが何もない。

行ってみよう、この声を辿って…


・・・・・・


街の中を声を探りながら歩いた。

人間の動きを真似したりするうちに、一定の秩序がある事にも気が付いた。


ウェルティア:「この世界では、

進んで良い時とそうでない時が色で決まるのか… 」



…随分と歩いた。


辺りの風景も、変わっていた。

地面から生えていた四角い塔は消え、

静かな場所までやってきた。


未だに四角い建物はあるが、まるで揃えられた様に無数に広がっている。

そのどれも、中に人間の気配がある。


ウェルティア:「もしやこれが人間の築いた城なのか…」


その小ささに驚きを隠せない。辿ってきた声はもう近いはず…

すると、そこには周りの建物とは明らかに雰囲気が違う館があった。

門は錆び、庭の植物も伸び放題に生い茂っている。


声はここから聞こえる。


ここまで辿って来たのだ。

ウェルティアは、その館に入ってみる事にした。


キィィーー・・・・


錆びた門は悲鳴のような音を上げた。

門をくぐり、生い茂った雑草を掻き分け、館の玄関に着いた。

近くで見るとだいぶ老朽化している事が分かる。


こんな所で、人間は歌い続けるのだろうか…?


扉に触れると、

まるで誰かが中から迎え入れてくれるかのように勝手に開いた。


ウェルティア:「入って…いいのか…」


恐るおそる館に足を踏み入れた。

中はまるで、何年も放置された様な有様だった。

くもの巣が張り、空気も淀み、ほこりにまみれた空間だ。


どうやら歌声の主は、この館の二階に居るらしい。

階段は玄関を入ってすぐ目の前にある。

よく見ると木が腐り、今にも抜け落ちそうだ。


ギィ…ギィ…


一歩ずつ確かめる様に踏みしめ、ようやく二階にたどり着いた。


部屋数が多い…

何故か分からないが、一番奥の部屋に居る気がする。


手前の部屋を飛ばし、真っ直ぐと一番奥にたどり着いた。

ドアノブを握った瞬間、歌声はピタリと止んだ。


ウェルティア:「…っ!」


不安になり、握っていたドアノブをいっきに押した。


すると、そこには大きなピアノが置かれているだけで、誰も居なかった。

しかし、何者かの気配を感じる…


????「まぁ…今日は悪魔さんなのね。」


ウェルティアの背後から急に声がした。

驚いて振り向くと、そこには美しく神秘的な雰囲気を持つ女性が立っていた。

ウェルティア:「あ、あなたは…?」


????:「ウフフ。私の声を聞いて来たのでしょう?

私はセイレン。歌がとっても好きなのよ…」


ウェルティア:「あなたが歌ってたんですね。

とても美しい歌声だったので…つい。」


セイレン:「いいのよ。みんなそうだもの…

今日は若くて可愛い悪魔さんで、私も嬉しい…」


ウェルティア:「はぁ…。」


大人の魅力を持つその女性に見入りながら、疑問も抱いた。


嬉しいって…なんだろう??


ポタッ…


ウェルティアは、またしても鼻血が出ていることに気が付いた。


セイレン:「ウッフフ。本当に可愛くて…本当に…

美味しそう。」


ウェルティア:「ん?」


その瞬間、美しかったはずの女性の顔は変貌した。


殺意。

それしか感じなかった。


そして大きく息を吸い込むと、ウェルティアに向って超音波のような甲高い声を発した。


耳が…裂ける!!!


ウェルティア:「うぅ…いっ…てぇ…」


両耳を押さえながら床にしゃがみ込んでしまった。

立っていられないどころか、意識が飛んでいきそうだ。


俺の良くない所は、好奇心のみで行動する所か…

しかし、反省会は後で良い。

とりあえず、コイツをどうにかしないと喰われる!!


ウェルティア:「ぅあ゛ああぁぁぁぁーーーー!!」


圧縮された空気をいっきに解放するように、ウェルティアは翼を広げた。


セイレン:「天使だったのね!?

…なら、なおさら美味しそうじゃない!!」


セイレンはさらに強く声を張り上げた。


ウェルティア:「くぅっ…うるっさいな…」


ここまで強い音は物理的には防げない。

いくら羽根で防いでも耳に届く。


コイツの音から身を守るには、音で反抗するしかない!!


思いっきり、思いっきり空気を溜め込んで…


ウェルティア:(こいつ…調子に乗りやがって…)


『ぅらぁぁぁぁぁあ゛あ嗚呼ああああああああーーーーーー(`Д´゛)!!!!』


…自分でもビックリするぐらの声が出た。

俺は昔から歌が異常に下手で、そういったものには無縁だったが、

声量だけには自信があった。


コツイに負けたら喰われるだけだ。絶対に、絶対に負けるもんか!


…だが気付くと、声を張り上げているのは俺だけだった。


ウェルティア:「あれっ…」


セイレンはケイレンしながら倒れこんでいた。(ナンチャッテ…)


セイレン:「な…なんてヒドイ音なの…」


音の認識力が高い者ほど、あらゆる音に敏感だ。

俺の声は…相当ヒドかったらしい(´・ω・`)


するとセイレンは姿を消し、そこには気配だけが残った。


セイレン:「私…本当は実体を持たないの…

でも寂しいし、お腹も空くのよ…」


ウェルティア:「俺みたいにホイホイ追いかけてきた奴を喰ってたのか…」


セイレン:「あなたで二人目ね…私が食べ損ねたひと…

あの人も可愛かったけど…今は何をしてるのかしら…

ルキフェル様…」

!?

父の名前が出た事に驚いた。

…と同時に、親子そろって誘惑に引っかかってしまった事が恥ずかしい(/ω\*)


ウェルティア:「父を…知ってるのか!?」


セイレン:「あら…

あなた達、親子なのね?どうりで可愛いと思った。


だいぶ前に、ちょっと地獄にも行った事があったの。

その時、色んな悪魔を食べたけど…

ルキフェル様だけは、食べれなかったわ…悔しい。


そうそう、その時に美しい歌声だって褒めてくれて、

これを貰ったの。」


そう言うと、床にコロリと何かが転がった。

手にとって見ると、それは深い紫色の宝石だった。


ウェルティア:「…これは?」


セイレン:「確か…

幼い頃に弟と交換した、宝物の一つって言ってたかしら。

とても綺麗で、こんなもの頂いて良いのかしらと思ってたの。

でも…今は美味しい悪魔が欲しいわ…」


ウェルティア:「・・・・・」


セイレン:「今度あの人に逢ったら返そうと思ってたの。

もう…何百年も前の物だけど、あなたに上げる。」


ウェルティア:「何百年て…おばs…」


セイレン:「・・・・・」


すごい形相で睨まれた…気がした。


セイレン:「はぁ~…

んもぅ!!美味しい悪魔が食べた~い!!!」


そう言いながら、セイレンは何処かに消えていった…


ウェルティア:「こんな所で父の形見が貰えるなんて…」


ふと、テントを飛び出して来たことを思い出した。

俺一人じゃ、何も出来ないのかな…

やっぱり、情報がないとな…


ウェルティア:「…帰ろ。」


古びた館を出て、またトボトボと歩き出した。


(プゥ~ン…)


すぐ後ろの小さな翅の羽音には気付かぬまま…



<守護天使>


へっくし!!


「な、何事!?」


ラゥビーは、自分のくしゃみで目を覚ました。


気が付くと、既に辺りは日も沈み、暗くなっていた。

「寒い。え~と…。何をしてたんだっけ…。」


必死に自分の記憶を探る。

脳裏に、犬の悪魔の姿が過る。


「そっか、私…あの犬と戦って殺され…!」


慌てて喉の傷口を確認する。


衣服には、びっちりと赤い血の後がついていたが、傷口は塞がっていた。


不思議な事に、かさぶたがとかではなく、傷が無かったかのように皮膚が元に戻っているようなのである。

「これは…一体?」


(明らかに、私は時間固定中に気を失った。


そして、恐らくその設定時間を超えては生きられないと悟っていた。)


色々な考え、可能性がラゥビーの頭を過る。


仲間に救われた。


そう考えるのが妥当であろうが…なぜ名乗り出ない?それに、管轄区毎に一人配備されている為、距離、時間的に都合よく助けて貰えたとは考えにくい。


時間固定の影響で人間は動けない。


なら、残る選択肢は…魔族である。


「ありえないわ。」


じっと、考えていても仕方ない。


とりあえず、自分の住むアパートへの帰路へつく。


「魔族だとは、考えにくい。私の知る限り、悪魔とは…監視役の我々天使を疎み、隙あらば殺してしまおうと伺う、陰湿で猟奇的な存在。


ましてや、道端に倒れて死にかけの天使を助けたりしない。」


(ましてや、天使としての力を開放していた私に気付かない悪魔も居ない。


行き当たる答えは…。)


「きっと、奇跡が起きたのよ!」


そう思う事にした。


もしかしたら、私達の事をきっと影ながら見守っているミカエル様が起こした奇跡に違いないわ。歩いて20分位して、ラゥビーは自分の住むアパートの一室にやってくる。


玄関を開けると、血のついた服を直ぐにでもクリーニングに出せる準備をする。

幸い、被害は中に着ていたノースリーブだけで、上着は何とかクリーニングすれば使えそうだ。


「結構、お気に入りだったんだけどなぁ…。このロゴ。」


自分の部屋に、荷物や衣服を一先ず置くと、シャワーを浴びる準備をする。


「…肉体があるって…メンドクサイのね。」


溜め息を尽きながら、バスタオルと替えの下着を持って浴室へと向かう。


血を洗い流す為に。暖かいシャワーを頭から被るラゥビー。


「はぁ…。


今日は、反省点だらけ…。

戦いは最後まで、解らないってことね…。

あと、魔力を攻撃面に回しすぎて、ダメージを受けた時を考慮してなかった事。今まで、悪魔どもに反撃を許さなかった為に、そのおごりが隙を生んだ…。」


パンパン!と、自分の頬を叩くラゥビー。


「まぁ……。あの犬悪魔にも、お腹にダメージは与えられたし……


五分五分ってとこかな。」

一通り、体を流し終わると、湯船に浸かるラゥビー。

「はぁ~……にしても、まだ生きてて良かった!!


まだ、恋は経験出来るゾ。」


そう言うと、一筋の涙が頬を伝った。


そして、嫌な事を思い出す。


「あぁ!明日、学校でテストがあったんだ!!」


<三男>


ノートパソコンを起動させて、今度新開発される商品に目を通す。


この中で私が広報活動及び市場調査を担当している

のはこの商品「わたチョコ」だ。


従来の製法では、チョコで綿菓子を作るなど不可能しかし

我が社が新開発した製法で・・・。


そこで、俺は深く溜息をつく。これ本当においしいのか?俺は好きだけど。


「食品加工会社なのに、製菓分野にまで手を出して・・・

ホントに、うちの会社は何を考えて・・・。」


と、過った不安を描き消す。


「違う!今、大事なのは情報だ。天界と魔界に関する情報・・・。

ケヲル兄さんにはあぁ言われたけど・・・探る時間なんか・・・。」


ロロー、ご飯出来たわよー?


と、二階の部屋にいる俺に対して下から水下夫人の声がかかる。


「あぁ、すぐ下に降りるよ。」


この声をかけてくれた年配の女性は、俺が今お世話に

なっている会社の社長夫人だ。


そう、一年前、俺はこの水下夫妻に養子入りをした。


戸籍もちゃんと持っているので、今の人間社会で生きて行くのに何不自由もない。


一階の食卓に顔を出すと、既に専用の茶碗と箸が用意され、

白いご飯とお茶が準備されていた。


今日は匂いから、酢豚だと判る。


食卓には4人分の席が用意されており、俺が座る席の

向かい側には、奥さんの水下巴さん、同居している孫娘の

由香里ちゃんが席についている。


「巴さん、社長は?」


「え?あぁ、今日も外食よ。多分また接待よ。」


「たいへんだなぁ。なんか、有給まで使って休ませて貰って恐縮です。」


「いいのよ、ロロちゃんにはいつも助けて貰ってるから。」


「奥さん、そろそろロロ・・・よりも、ルーベニッヒの名ので呼んで

貰える方が有難いのですが・・・?」


「いいじゃない。ロロって言うのも貴方の名前だし、何より呼びやすい。」


「そうそう、ロロの方が可愛いしね。ルーベニッヒって、どこかの貴族の

名前みたいで変よ。」


「・・・奥さん、由香里ちゃん・・・。」


いただきまーす!

という掛け声と供に食事が始まる。



一年前、魔界から地上に命からがら出てきた時、俺達は一年後

落ち合う事を約束し、散らばった。



結果、

ケヲル兄さんは犬に。

レオ兄は、ホームレス。

俺はサラリーマン。

フレイラはパン屋。


となっていた。


そして、偶然にも傷を癒し、魔界を出てこられたリルム姉さんとも

再会で出来た。


あとは、あの謎の多いウェルティアと言う末子。


私達もその存在は噂程度にしか聞いてはいなかった。


一体、父上は何を考え、何を行おうとしていたのだろう。


酢豚に入っているパイナップルとか言う果実を除けながら

俺はまだ上手くなれない箸を使い食事をする。


そして、横から由香里ちゃんに、その事を気付かれて

それらを無理やり口に入れられる。


辛いモノの中に甘いモノが入っている事への疑問

を訴えかけるが、やはり無駄だ。


「そこがいいのよ。」と、もうすぐ大学受験を控える

この少女は私にそれ全てを押しこむ。


この少女との出会いが、魔界を出てから右も左も解らず

彷徨っていた私の運命を変える事になった。


だから、この少女には感謝している。

もちろん、私を自らの会社に招き入れてくれた水下夫妻にもだ。


食事を終え、自分の部屋に戻った俺は、寝間着に着替えて

寝る準備をする。


一通り会社の資料に目を通した後、ノートパソコンの電源を落とした所で、

部屋をノックする音が聞こえてくる。


「ん?どうぞ?」


「入っていい?」


ドアを開けて入って来たのは、由香里ちゃんである。


「どうしたの?」


「いつも、こんな時間には帰って来ないから、たまには話でもしようかと。」


「そっか、仕事のある平日は大抵22時位だもんなぁ。」


「だね。」



そう言うと、由香里ちゃんは部屋に置いてあるソファーに腰をかける。


お風呂上りなのか、タオルを首に巻き、髪はまだ濡れている。


明日持っていかなければならない書類を鞄につめながら、由香里ちゃんと会話する。


「大丈夫、後で乾かすから。それより・・・。」


そう言うと、由香里は何やらポケットからごそごそと取り出す。


「これ、ホントは明日なんだけど・・・渡せないといけないからさ。」


その四角い箱を少女から受け取る。

その箱は何やら綺麗に飾られており、そっと包装を解くと

中からオシャレなネクタイピンが姿を現す。


「これは?」


「明日で丁度・・・一年だからさ。私があんたに助けられて、初めて会った日から。

ちょっとした感謝の気持ち。」


「あ、ありがとう!!」


嬉しくなった俺は、早速明日着ていくスーツの傍にそれを置く。


「明日から、付けていくよ。」


「毎日つけるように。社長令嬢からの命令よ。」


「ハハ、承りました。」


由香里ちゃんに今は母親と呼べる存在はいない。

数年前に事故で他界している。


その反動で、由香里ちゃんは夜遅くまで新宿を

俳諧するようになっていたのだが・・・

そのおかげで俺と彼女は出会う事が出来た。


彼女は、夜の街でのトラブルに巻き込まれていた。


そこに居合わせたのが、当時の俺だという訳だが・・・。


「ロロ、変ったね。」


「そうかな?」


「最初は、なんか…異国人って感じがしたけど、今はすごく親しみやすい。」


「それを言うなら、由香里ちゃんもそうだよ。出会った時は、髪の色も違っていたし、どこか投げやりだった。」


「お互い様だね。」


と、俺達は笑いあった。


「さぁ、湯冷めしないうちに、髪を乾かせて寝なさい。」


「まぁ、令嬢に命令とはなんて失礼なお方。」


「それは申し訳ありませんでした。」


と、去り際に笑顔を残して部屋を出て行った。


「・・・ここの生活も、いつかは終わりがくるんだな。」


俺は少し寂しい気持ちになり、先ほどのネクタイピンを眺める。


ふと、鏡に映った自分の顔を確認する。


髪の長さはもちろんの事、目つきもどことなく

優しくなり、一見するとただの人間である。


しかし、実際は違う。


俺の体の中には間違いなく悪魔の血が流れている。

確かに、魔力自体も減少している事が、人間へと馴染んでいる

要素のひとつであるが・・・。


俺は、日々の仕事により、限りなく自由に過ごせる時間が

少ない。


そこで、俺が取った手段は、悪魔として一般人と契約を交わし

その情報を探るというものだった。


幸いな事に、ここ数年裏世界では悪魔との契約者が増加している傾向にある。


それに乗っかった訳だが、俺の契約内容は他の悪魔とは違い、危険なものではない。


情報の提供。それのみだ。


もちろん、その対価として契約が無効になるまで

魔力は捧げた状態のままであり、他の悪魔や天使との

戦闘になれば危ないのだが・・・。


情報を得る際に、私の契約者の身に危険が迫った場合の

感知と、逃げきれるだけの力は与えておくのが義務というものだ。


魔力と引き換えに有力な情報を提供する。

それが、私と情報提供者との間に結ばれた契約だ。


その情報は、念話、もしくは私専用のノートパソコンの

メールアドレスに直接届くようになっている。


「それにしても・・・魔界側の者が、人間側と契約している

など、地上に出て来るまで知らなかった。それも数年も前から・・・。

一体何者が・・・それに、魔界のどの派閥かも検討がつかない。」


部屋の電気を消し、布団の中に入るロロ=ルーベニッヒ。


「事が済んだら、魔王の血族として徹底的に調べあげねば。」


しばらくしてルーベニッヒの意識が揺らぎ、ノートパソコンに

一通のメール着信があった事を知らないまま眠りについた。


<長女>


「あ、やめて!お願い、許して!!

許して、許して、ごめんなさい!!・・・ママ!!」


悪夢を描き消す様に叫びながら目を覚ます。


眠りについてからどれ位時間が経過したかは解らないが、

部屋に挿し込む月明かりが、リルムの汗ばむ体を照らす。


外から、自分の事を心配するキィちゃんの声が聞こえてくる。


「またあの夢を見たのか・・・。」


「私の性で起こしちゃった?」


「心配するな。俺は夜行性だ。


どちらにしろ昼間は、お前の頭の上でほとんど寝ている分、

夜は目が冴えて眠れん。」


部屋の中から外にいるキィちゃんの様子は解らないが、

私の居る家の前に座ってくれているようだった。


「キィちゃん。いいのよ?眠る時位、私の事は気にしなくても・・・。」


「ん?お前の傍らにいるのは癖みたいなもんだからな。」


「・・・ありがとう、キィちゃん。何だか昔を思い出すね。」


「あぁ、魔界を練り歩いた時も、野宿する時はどちらかが起きて見張り役をしていたものな。」


「そうね・・・。」


リルムは、体にシーツを羽織らせるとアルカードの座る扉の前まで移動する。

そして背中合わせになるようにして座りこむ。


互いに反対方向を向いたまま会話を続ける2人。


「どうでもいいが、リルムよ、この姿の時位は本名で呼んでは貰えないのか?」


「いいじゃない。私にとってはどっちの姿もキィちゃんなんだし。

それに、家の中からじゃあ貴方の姿は今どちらか解らないもの。」


「ふむ・・・確かにな。」


それは嘘、今蝙蝠の姿か、人型の姿かは声の感じで本当は判別出来る。


「今は人型だ。その方が、威圧感が出るからな。

小さい蝙蝠では誰も怖がりはしないであろう?」


「フフ、やっぱり、私を守ろうとしてくれているのね。」


「当たり前だ。こんな所に一人で眠らせる訳にはいかん。

ここの連中の住処に女の匂いは全くしなかった。変な気でも起こされたら・・・。」


「大丈夫よ、ここの人達はそんなことはしない。」


「お前は・・・またすぐ人を信じる。

生きる者全てが善良である訳ではないと、判っているのであろう?」


「そうね。けど、神様はこの地上を彼ら”人間”に委ねているわ。それは、彼らが正しい者ということではないの?」


「そうであるはずなんだがな・・・。

時折入ってくる人間の噂は、決して善いものばかりではない・・・。」


「・・・何を考えているのかしらね。この世の神様は。」

「さぁな。俺の知った事じゃない。それより・・・。」


私の事を気遣うように聞いた言葉は、夕刻、頭を冷やすと言って出て行ったきり

帰って来なかったウェルティアの事を差していた。


「ウェルティア・・・戻って来なかったわね。」


「あぁ。」


「全部、私の性ね。あんな無神経な事を・・・。

彼の抱えているものと、私達の背負っているものは違う。

それを私は・・・。」


「気にするな。あいつは、リルムの事を嫌いになった訳じゃない。

少し混乱しているだけであろう。」


「嫌われただけならいいんだけど・・・慣れない地上で、迷子になっていないか少し心配。」


「気にするな、あぁ見えても、やる時はやる男だ。現魔王でもあるしな。」


「・・・明日、準備が整ったら、捜してみるわ。キィちゃん、その時は・・・。」


「解っている。昼間であろうが、飛び回ることぐらいは出来る。」


「ありがと。じゃあ、寝るね?」


「そうしろ・・・」

「あ、アルカード・・・?」


「なんだ?」


「明日に向けて貴方も眠って置いた方がいいんじゃない?」


「しかしだな・・・。」


大丈夫、と声を出した瞬間。

淡くリルムの体と瞳が輝く。


大地を切り裂く無数の斬撃音が静かな公園の闇に木霊する。


「はぁ・・・お前は加減と言うものを・・・。」


「へへ。」


そこには、リルムの家を囲むように実体化した槍が大地から数百本と

突き出してその上にあった椅子や粗大ゴミのような物を串刺しにしていた。


「柵の出来上がり。」


「これでは、人間界で言う所の串刺し公の再来であろう・・・。」


「串刺し公か…。キィちゃんならイメージぴったりじゃない。」


「リルム!俺の仕業にするつもりか!?この”串刺し姫”め!!」


「へへ、でもこれなら安心でしょ?

それより、中に入って一眠りする?」


「馬鹿者、俺は木の枝という専用のベットがあるわ。

第一にお主は昔から寝る時は服を着ないではないか。

全く、デリカシーのない・・・。」


「私は気にしてないからいいじゃない。貴方は蝙蝠ペットだし。」


「気にしろ、ばかもん。」


羽音が聞こえてくる。

どうやら変身して飛び立ったようだ。


「…おやすみ。キィちゃん。」


その言葉に返事するようにキィという鳴き声が夜の公園に響いた。

~第二章~完

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