トキワとマリーはなにをおもう?
前半桔梗視点、後半は別視点です。
マリーが隠していた事実が明らかに。
ふと気がつくと、そこはお昼を食べた湖の側だった。なんで?
……そーいえば、ドラゴン倒して、大泣きして、その後のキオクがない。そっか、これがキオクソーシツ……なわけないって。あのあと泣きつかれて寝ちゃったのを運んでくれたんだろうな。
お礼、言わないと。
起き上がって周りを見ると、マリーとシオンが食事の準備をしてて、トキワは剣を調べていた。
……たしかにあの剣って、「切る」より、「叩き潰す」
方に向いてるからね。ハンターとして剣を酷使する以上、「切る」方に向いた剣を使用なんてできないよね。コストかかっちゃうし(切ることに特化した場合、切れ味鈍ったら即昇天……かな)。
あたしは剣とにらめっこ(この世界にもあるのかな?)しているトキワに近づいた。
「よう。もう平気か?」
あたしに気づいて、声をかけてくれた。
「はい。大丈夫です。色々とご迷惑、おかけしましたよね。ごめんなさい。それと、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる。
トキワは驚いたようにこっちを見た。
「違うだろ!礼を言うのはこっちだ!嬢ちゃんがいなけりゃ、おれたちはとっくに死んでたんだからな。
だから、本当にありがとう。嬢ちゃんは命の恩人だ」
「「エリカ!」」
マリーとシオンがこっちに気づいてしまって走ってきた。
「ごめんなさい!私が未熟なせいでー」
「ゴメン!僕に力が足りなかったからー」
……いやあの、言いたいことは何となくわかるけど、いちどに言われると……。
「二人とも、落ちついてください。わたしは大丈夫ですから」
「「……」」
とりあえず、落ちついてくれたよう。
「ほんとに大丈夫?」
マリーが抱きついてきた。なんかこのぬくもりに慣れてきちゃったみたいで、安心するなー。
「はい。剣を持ってなにかの命を奪う、ということがはじめてで……それをためらわずに行えたこともショックで……。それで泣いてしまったのです。少し眠ったおかげで落ち着きましたから、もう大丈夫です」
今度はちゃんと笑えたから、もう大丈夫。
「そっか」
マリーも笑い返してくれた。
「それで、これからだが」
一段落ついたということで、次の行動かな。
「とりあえず、今日はここで休む。明日から町に戻るぞ」
まあ、みんな消耗したしね。
「……ところで嬢ちゃん。どうやってこの剣でドラゴンの首を落としたんだ?」
……さすがに気になるよね。
「上空からわたしの重量とあわせて、剣に「切り裂け」という意味の魔術を乗せたのです」
「魔術をのせた!?」
「……た、確かに、無機物であっても魔術はかけられるから、そういうことも可能で……」
「すっごーい。さすがエリカ」
……マリーの反応は、ちょっとずれてる気が。
「異世界からきたせいか、発想がおれたちとは違うんだな……」
しみじみといわれてしまった。
「……とにかく、今日はみんな疲れてるし、夕飯を食べて休もう」
シオンが鍋を指差す。今日の夕飯は、ドラゴン肉のシチュー……。
これまた、ものすっごくおいしかった……。
ちなみに、ドラゴンは倒したあたしのものだそうで、肉は腐る前に食べたほうがいいから、ということで使ったらしい。
そこらへんについては考えがあるけど、町でシオンに色々確認してからにしよ。
とにかく今は、
『……疑似生命作成』
地面に手をおいて魔術を使う。
すると、地面からポコポコと20センチくらいの小さなブロック人形のようなものが生まれた。
うん、イメージ通り。
「……見張りはこの子達がしてくれます。わたしたちはゆっくりと休みましょう」
「……」
てこてこと四方にむかって歩いていく人形たちに、みんななにも言えないようだった。
……かわいいとおもうんだけどなー。
ーーー
トキワはじっと焚き火を見ていた。もともとこの世界は四季の変化がとぼしく、冬でも凍死することはないが、炎は野生の獣を遠ざける。
人形たちもそれがわかっているのか、ときどき焚き火に枝を放り込んでいた。
「……眠らないの?」
マリーがトキワに近づいた。
「そっちこそ」
「……話したいことがあるんじゃないかと、思ったの」
「……」
たしかに、トキワはマリーに聞きたいことがあった。
「おまえはー」
「キキョウちゃん、ってかわいいよね」
「……やっぱりか」
トキワはため息をついた。大泣きして寝た振りをして、桔梗の話を聞いていたのだ。それだけマリーの演技力はムダに高かったりする……。
マリーの彼女に対する接し方は、かつての妹に対するものとは全く違う。マリーはエリカを溺愛しているように見せていたが、実際のところ精神的には距離をおいていた。
「……振りででも溺愛しとかなきゃ、暴れるからね。まあ、いつ、何があっても驚かないよ」
といっていたくらいだから。
エリカが亡くなった後も、知り合いに変に思われないように、落ち込みまくっているように見せていたくらいに、徹底する性格でもある。
「だって、キキョウちゃんってほんっとに可愛いじゃない。素直だし、礼儀正しいし、機転もきくし、命の恩人だし」
楽しそうに笑いながら、知り合ったばかりの少女について挙げていく。
と、ふと真顔になって語り始めた。
「キキョウちゃん、最初から私達を頼ってくれたけど、無条件に信頼してってわけではないわ。吐いたあと、私が水を渡したことで、ある程度は近づいても大丈夫って感じたみたいだったけど。
……あの子、自分でもいってたけどほんとに子供だからね。ほんとに異世界から来たのかはともかく、ここがあの子にとって見知らぬ場所、というのは本当だと感じた。だから自分を守るための無意識の行動だとおもうけど、どうしたらいいのかとか、誰にも聞いてないの。先のことをわざと考えないことで、精神を保っているのね。だから、甘えさせてあげるための理由をあげたの。妹を亡くした私が、あの子を妹扱いするなら、あの子も私のことを姉として甘えることができるとおもったから」
「……よっぽど気に入ってるんだな」
「知ってるでしょ。私はその人の在り方を、視ることで見分けられる。あんなにキレイなかたちをした子は初めて視たもの。エリカとは正反対ね」
「……そうか。おまえがそこまでいうのなら、よっぽどだな。まあそれなら、あの嬢ちゃんはおれたちで守ることにするか。あの子のキレイさがなくならんように」
「もちろん」
トキワとマリーは、顔を見合わせてにっこりと笑った。
この世界では、マリーのような異能力を持つものが稀にいます。
それで視たものから、桔梗を妹として守ることにしました。
ちなみにシオンはマリーの演技については知りません(エリカの方も、桔梗の方も)。




