はじめて、イノチを奪った……
主人公、強し
昼食のあとは、ちょっと休憩して森の奥に向かった。
その途中、シオンに魔術の講義を受ける。とりあえず知っておかないと、いざって時に困るだろうし、魔術語が日本語な理由も興味ある。
そして判明した事実。魔術を使うのに、魔術語と魔力があればオッケー……って子供が真似しちゃったらどうすんの?実は火種を出すくらいの魔術は誰でも使える……、ってか、普通に家事で使うために覚えさせる。他の魔術を使うには、魔術師から直接学ぶか、専門の学校に通うしかない。ちなみに学費はタダ。その代わり、能力が低いと即退学だそう。卒業後も、進路は自由。学ぶ内容は、魔術語の読み書きのみだそう。とにかく全部暗記することが授業内容だそうで……。?うーん?
「シオン、学校で魔術語の文法とかは教えていないのですか?」
「?ううん、あくまで魔術語の暗記だけだよ。魔術はそれでつかえるから。だけど、ブンポウってなに?」
「いえわからなければいいです。では、解析をしようとした人などは?」
「……うーん、たしか解析した人はいたみたいだけど、そういう人たちは神殿に連れさらわれるとか言われてる。その後帰ってきても、魔術語について他人に話すことはなかったそうだよ。「魔術語を極めるのは、自力でやらねばならん」っていってたらしい。もっとも、極めることができた者は、もう百年以上いないけど」
「……そうですか……」
なるほどね。この世界の言語は一つ、だから文法など学ぶ必要もなく魔術語についての解析もできない。……これって使用の制限を掛けるってことかな。通常の言葉が英語で、魔術用の言葉が日本語。日本語と英語じゃ文法が違うから、その事に対する知識がないと、おかしな文になってしまう。それに、たしか日本語って発音が難しいとか昔聞いたことがあったような……。つまり、わざと魔術のハードルを上げてるってことかな。そういう意味では、よく出来てるかも。そーすると、あたしも言語については、黙秘する事にしよう。よけいな厄の種をまくこともないし。
「色々とわかりました。ありがとうございます……‼」
「?どうしたの?」
あたしは森の奥を凝視した。この感覚って……。
「……わたしは、皆さんと会う前に、空を飛んでいくモノを見ているんです。森の奥にそのモノと同じモノが居るような感じが……」
「ちなみにそれってなんだった?」
トキワが振り向いて問いかけてきた。
「それがなんという名前の生き物かは分かりませんが、20メートルくらいの、羽根の生えたトカゲのようなもの……」
「……エリカ、それって、ひょっとしたら、ドラゴン……かも……」
「……」
マリーが、おそるおそるといった感じで教えてくれた。シオンは衝撃で絶句してるし……。
そっか。この世界でも、あれはドラゴンでいいんだ……。
「強い、ですか……?」
「強い。おそらく、ミドルドラゴンの一種だろうが、今のおれたちでは勝てん。だが、調査する必要はあるからな。気配と音を消して見に行くぞ」
「わ、わかった」
あわててシオンが呪文を唱えた。
『し、遮音!気配しょ、消失!』
わたわたとしながら魔術をかける。すると、音と気配?が消えたらしい。音はたしかに聞こえなくなってるけど、気配って消えるものなんだろうか……?それに、匂いを消さなくても大丈夫、なのかな……?
ま、三人とも息を殺してだけど、進んでいくから、あたしも追いかけた。
……いた。たしかに昨日見たのと同じヤツ、みたいだ。
存在を確認できたからだろう。トキワは戻るべく合図をした。
……だけど、一足遅かった……。
ドラゴンはこっちに気づいてしまってた……。
あれか、やっぱり匂いとかか?
グオオオーー
テリトリーに入り込んだ敵、もしくは餌だろうか……。ドラゴンがこっちに迫ってきた。
それを見て、シオンがマリーとトキワの二人に魔術をかける。
『身体強化』
その効果で二人の動きがよくなる。
「シオン、嬢ちゃんを連れて逃げろ‼」
武器を構えながらトキワが叫ぶ。
「なにを!」
「行こう、エリカ!」
シオンがあたしの手を引いて走り出す。すぐにドーンという大きな音がしたため、あたしはおもわず足を止めて、振り向いていた。……そこには、ドラゴンの前肢のひとふりで吹き飛ばされたトキワとマリーの姿があった。
「二人のしたことをムダにしちゃダメだ!」
シオンがさらに手を強く引く。
だけどあたしはその手を振り払った。
……二人には恩がある。トカゲから助けてもらったことだけでなく、この見知らぬ世界で保護者になってくれていた。そして、あたしは、あのドラゴンに恐怖は感じない。怖いのは二人を失うこと……だから……。
あたしはドラゴンにむかって駆け出した。
「エリカ!」
後ろからシオンの叫びが聞こえたけど無視。
トキワの隣をすれ違うときに、剣を取る。
トキワの剣はあたしには重い。だから魔術を使う。
『軽量化、身体強化!』
剣はちょうどいい重さになったし、体は軽くなる。ホントに魔術って便利。
新しい敵であるあたしを認識したドラゴンが、まとめてダメージをあたえようと息を吸い込む。この場合、くるのはたいてい炎のブレスってやつだね。ゲームとか、物語とか、そんなに知んないけど、それくらいはわかる。
『防壁!』
何物も通さない、強固な壁をイメージ。
ドラゴンのブレスは、その見えない壁の前で防がれた。
あたしはすぐに次の魔術を使う。
『足場』
上空にむかっていくつかの足場を生み出し(さすがに足を踏み外したくないから、足場は黒い色にした)、ドラゴンの上に上る。そして、ブレスで伸びきったドラゴンの首筋に飛び降り、剣を降り下ろす。首筋に剣が当たる瞬間、最後の魔術を使う。
『……切り裂け‼』
魔術のを乗せた剣の力で、ドラゴンの首を切り落とした……。
身体強化の効果もあって、あたし自身はうまく地面に着地する。
そして怪我をした二人に治癒の魔術を掛けた。
本人の治癒力アップではなく、外部からエネルギー(今回はあたしの魔力)を使っての治癒。コレなら多分本人に悪影響はない……と思う……。
回復したトキワとマリー、見ているだけだったシオン。
三人とも呆然とこっちをみてた。
当然だね。二人を一瞬で倒したドラゴンを、逆にあたしが瞬殺したわけだし。オマケにさっきは魔術に怯えて震えてたわけだし。
だけど、目の前で人が死ぬとこなんてもう、二度と見たくない。そのためなら、どんな力でも利用してやる。
「……。みんな、大丈夫、ですか……?」
「あ、ああ」
トキワが応えてくれた。
「よかった……」
あたしはおもわず微笑んだ、つもりだった。
「……あれ?」
ーーあたしの両目から、涙がこぼれていた。……泣いたのなんて……、両親が死んで以来だよ……。
「……っ!」
座り込んで泣きじゃくるあたしを、マリーが抱きしめた。
「……ごめんなさい。怖かったよね……」
背中をなでながら、ずっとマリーは謝り続けていた。
そう、怖かった。二人を失うこと、魔術を使うこと、……そして、イノチを奪うこと……。平和な世界で暮らしてきて、こんなこと、出来てしまった自分……。
すべてがとっても怖くて、でもあたしはそれを選択してしまっていて……。
だから。
「……大丈夫、です。だけど……もう少し、……こうしていて、ください……」
「うん、大丈夫。私はずっとこうしてるから……」
……そうしてあたしは、しばらく泣き続けていた……。
ちょっと後味が悪いですね……
次はちょっと他者視点が入る予定。
トキワとマリーは桔梗をどう見ているのでしょう。