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とってもコワイモノ

主人公のチート判明。

森の奥を目指して獣道を歩いている途中、ふと思い出した。

そー言えばまだみんなの仕事とか、聞いてなかったっけ。

「シオン、少し訊ねてもいいでしょうか?」

「?なんだい」

「トキワは仕事をハンターと言っていましたけど、どのようなことをするのですか?」

「そういえば説明してなかったね」


シオンによると、ハンターとは魔物を狩ったり薬草などを採取したりというのが仕事らしい。強い魔物を倒す力を持つ、とか珍しい薬草類を採取出来る、とかの高い能力を持つほどランクが上がるそうだ。ちなみにトキワはBランクで、能力は中の上といったところ。他の二人はCランクで中堅だそうな。ここらへんは年の功、といったどころか。

最もこれは戦闘ランクで、採取ランクはシオンがD、他の二人はEとかなり低いそう。まぁ全てについてオールマイティーな人間は、そうはいないわな。

実際、両方のランクを最高位のSSまで上げれた者は誰もいないらしい。


「それで、今回の任務は森の奥の異変を調べることなんだ」

「ふだん強い魔物が出ない外縁部に強めの魔物が現れるなんて、戦う力をもたない人たちには、とてもキケンですからね」

調査のため、魔術師のシオンがいると便利だからという理由で、ギルドに指名されたそうだ。魔術師はかーなーりー珍しいそうだ。ましてハンターなんかやってるのは魔術師の1割程度で、普通は貴族や国のお抱えになるらしい。その方が生活は安定するはな。あたしも公務員とかがいーかなーってちょっと考えてたし。父さんの道場の再建とどっちにしよう……と話がそれた。

「どれくらいまで進むのですか?」

「あと一時間くらいで湖に着くから。そこで休憩してさらに一時間、くらいだよ。

……そういえば、獣道で歩きにくいと思うけど、このペースで大丈夫?」

「体力には自信があります!」

「……そう」

……おもわず強調しちゃった。元の世界で最も自慢だったので。毎朝ジョギングしてたせいか、体育の授業とかで息を切らせたことなかったっけ。おかげで体力オバケ扱いだったし。

「えっと、シオンは大丈夫なのですか?」

「僕は慣れてるから……」

ふと目をそらしたシオンの視線をおうと、マリーが膨れっ面してて、トキワがなだめていた。

「……マリーってエリカさんをほんっとに溺愛してるんですね……」

「うん……」

そこで会話は終わり、あとは黙々と歩いた。


一時間後。到着した湖はスッゴクきれいだった。

ちょっと小さめだったけど、森の木々にかこまれた景観は見事、の一言。

「それじゃ、ちょっと早めのお昼食べよ。

シオン、肉出して」

「はいはい」

シオンは食料袋から、トカゲの肉を出した。まるまる一匹分でかなりの量がある……?あれ、食料袋って、子供用のリュックサックくらいの大きさだよ⁉なんであんなにすっぽりと入っちゃう?

「……あの、シオン。質問が……」

「エリカ、質問なら私にしてよ!もう、歩いてる時だって、シオンとばっかりしゃべってるだもん」

「……わかりました。では、マリーに訊ねます」

驚いてないってことは、マリーも知っているんだろうし……

「あの食料袋、見た目の容量よりも多く入っていますよね。どうしてですが?」

「知らない。あれはそういうものだし」

「……」

えーっと。

「その手の説明はシオンに聞いてくれ。マリー、お前は昼飯の準備を手伝え」

「むー、しょうがないな。それじゃ焼肉にしよ」

「焼肉なら夕べ食ったわ」

「私は食べてない‼」

なかいーなー。

シオン曰く、いつものこと。というわけで、改めて聞いてみたところ、シオン自身が袋に魔術を掛けたからということが判明。

『容量・増加』でこうなる、と。

どれだけ入るかは、魔力の大きさとイメージ次第。ついでに発動方法を聞いてみたら、イメージしながら呪文を唱えること、唱えたあとに発動を意識する事で使えるらしい。ふむ。ちょっと試してみるか。

シオンから借りた制服が入っている袋。ここから制服を取りだし魔術を試してみる。大きさは……とりあえず、湖の大きさで。失敗しても魔術がかからないだけらしいし、魔力が足りなければ容量が小さくなるだけらしいし。

『容量・増加』

ヴィン、という擬音がしたような気がした……。あくまであたしの主観でしかないけど。

さて、容量は……

「……」

「……」

袋を覗きこむと、底が見えなかった……。

シオンの食料袋は、6畳間くらいの大きさで、覗くと大きさが判る。入っている物は見えないけど、持ち主にはリストみたいに見えるそうで。覗いてみて判るのは袋の容量だけで……。

「エリカ……。質問だけど、魔力の底って感じてる?」

「……つまり、魔力が尽きそうかということですね。

……いいえ。たしかになにかが減ったような感じはありましたが、すぐにそれは満ちてしまったようなのです……」

「……つまり、実質減ってない状態かな。魔力を一度に放出できる量って自分で判る?」

「……感覚でしかありませんが、魔力全てをいちどに使えそうです。この袋に掛けた魔術に使った分は、全体の数十分の一かと……‼」

「⁉ エリカ⁉」

焦ったようなシオンの声が、遠く聞こえた。

自分で言葉にしたことで、ハッキリと自覚してしまった。


ーーあたしは、世界を、滅ぼすチカラがある……。


自在に魔術を使える、カンペキな魔術語(日本語)の発音と、発動するために必要な魔力。その2つがそろってしまっている。

……いわば、核兵器のスイッチを握ってしまったようなもの。

しかも、その発動を止めることができるものは、誰一人いない……。

あたしは怖さで震えが止まらなかった。

能力を制御する事は、おそらくできる。……だけど、感情を制御できる自信は、……ない。

どうしよう……。


なにも考えられなくなって、泣きそうになったとき、ふわり、となにか温かいものにつつまれた。

顔をあげると、マリーがあたしを抱きしめていてくれた。

「大丈夫、だから。エリカは力の怖さがわかっているもの。

あのね、私も最初に槍を持ったときに師匠に言われたの。

武器を、人を傷つける物を持つことは、時に自らを傷つけることにもなる。力を持つことの意味を、常に考えるように、って。

力ってね、あることは悪いことじゃないよ。ちゃんと使えば、エリカやみんなを守ることができるから」

「ですが、感情が爆発して魔力を暴走させたりしたら……きっとその時は日本語使っているでしょうし……」

「だから大丈夫。私はエリカのそばにずっと入るから。ひとりにしないし、暴走しそうになったら止めてあげるから。だから、大丈夫」


ーー大丈夫、大丈夫。

マリーはあたしの背中をなでながら、ずっと抱きしめてくれていた。

どれくらいの間そうしていたか……。ふと見ると、トキワとシオンが心配そうにこっちをみていた。

……らしくないかな。やっぱり知らないとこで自分が変わってしまっているのは、とっても怖い。だから、抱きしめて、なぐさめてくれたマリーには感謝だな。

「ありがとうございます。もう、大丈夫です」

「本当に?」

「はい」

体を離してお礼をいう。

「心配させてしまって、すみませんでした」

トキワとシオンにも頭を下げる。

「大丈夫なら、とにかく飯にしろ。腹が減ってるから、よけい悪い方に考えちまうんだ」

……それはあんまり関係ないよーな。

まあ余分な時間を取らせてしまったことだし、おとなしくご飯を食べよう。


いただきます。

実際に、急に大きすぎる力を手に入れた場合、狂喜乱舞するか怯えるかのどっちかかと思いました。

平然としてはいられないですよね。

ちなみに主人公は怯える方でした。

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