こんな聖職者あり?
出発しました。
翌日には出発の準備は整った。
まあ、ハンターなんて根無し草のような仕事だし、荷物は全部袋に入ってるし。
食料の買い出しなどもギルドが請け負ってくれた。あたしが町でしたことのお礼だとか。……ほとんど自分の欲望に負けただけなんだけどね。
王都に向かうメンバーは、トキワ、マリー、シオン、黒羽と、今回馬車の御者さんがついてくる。王都から買い出しに来て帰るついでに案内役をしてくれてる。……馬車なのは、あたしが馬に乗れないからもあるかも……。いいもん。いざとなったら黒羽に乗るもん。
「さて、まずはベスビアだな」
「ベスビアまではどのくらいかかんの?」
「馬車で丸一日、といったくらいだよ。町の規模はこことあまり変わらないけど、むこうはギルドより神殿が主になってるんだ」
「へー」
そう言えば、この町の神殿って?
「ここは神殿ないものね。必要なときはベスビアから来てもらうから。ギルドがおっきいとそうなっちゃうのよね」
聞くと、どうやらギルドと神殿でやってることがけっこう重複してるよう。そのため、ギルドがあるか、ギルドが神殿の一部になってるかのどちらからしい。
神殿だけの役割は、冠婚葬祭と神様からの意思伝達のみ。医療とか、資材買い取りとか、ハンター宛の仕事の依頼とか、教育とか、他のことは重複する。そのためにこういうことになったらしい。ーー結婚については予約制、葬式については神様から前もって啓示があるので、神殿のない町でも困らないそう。
途中で一泊野宿して、見えてきましたベスビアの町。
なるほど、町の中央に高い尖塔のある神殿が鎮座してるんだ。……現在黒羽で上空から俯瞰中。みんなで移動する時は、黒羽に籠をつけてる。落ちないように魔道具化もしてある。今回はあたしとマリーだけ上空から町を見たいと上がった。ちなみにトキワは上空からの光景に興味なし、シオンもそこまで積極的じゃないし。……マリーは、絶対に絶叫系のアトラクションを乗り継ぐタイプだな!あたしと一緒だ。
黒羽から降りてトキワたちと合流する。
「上空からの景色、きれいだよ」
「ほんと。神殿を中央において、まるーくひろがってるの。きれいな街並みよね」
楽しく話すあたしたちに二人は苦笑する。
「楽しかったのはいいが、そろそろ町に入るぞ」
「はーい」
トキワに二人で返事して、黒羽をちっさくした。
あ、御者さん目を丸くしてる。
「聞いてはいましたが、直接見るとまた違いますね」
「ま、百聞は一見に如かず、って言うしね」
「?どういう意味だい?」
あ、この世界、ことわざなかった。
「言葉で百回聞くよりも、実物を直接見た方が理解できる、って意味」
「なるほど」
納得してもらったみたい。
「よし、いくぞ」
あたしたちは、町に入った。
……やっぱプレナイトとは違うな。むこうは少々雑然としたとこあって、暖かみがあったけど、こっちは整然としてて、なんか上流階級ごよーたし、みたいな雰囲気。
「まずは神殿だな」
「神殿長を迎えにいかないとね」
……一緒に行くのって神殿長だったのか。
「そんなお偉いさんと一緒で良いわけ?」
「向こうも王都の神殿ぬに用があるらしくってな。真竜を見たいってのもあるようだが」
野次馬かよ。
などなど、お喋りしてるうちに神殿についた。
……連絡がいってたってか、黒羽が目印がわりかね。すぐに門番はあたしたちに気づいたよう。
「ようやく到着したか。遅かったな」
……あたしたちをみるなり、門番がいった。遅いって、普通のはずだけど。
「その娘がキキョウか。なるほど、なかなか美しい娘だな。これなら長も喜ぶだろう。すぐに長のもとに案内しよう」
「……」
なに、このえらそーなの。
しかたないから、いちおーついてくけど。
みんなでぞろぞろついてこうとすると、
「くるのはお前だけだ」
とあたしを指す。
「……」
ほんっきで何様と叫びたい。
「すみません。わたしはキキョウちゃんの姉のようなものです。キキョウちゃん一人では心配なので、一緒に行っても良いでしょうか?」
「……うむ、よかろう」
「(ゴメン、マリー)」
「(いいの。心配なのはほんとだもの)」
「ならおれたちはさきに宿を探しとく」
「キキョウならぼくたちの居場所は分かりますよね」
はぐれた時用の魔道具は、みんなでもってる。コレもあたしが作ったもので、迷子防止になる!とお母様方に人気でした。
「それじゃ、あとで」
あたしたちは手を振って別れた。
案内役について歩くことしばし。
立派なドアをノックする。
「キキョウが到着しました」
……思ってたんだけど、なんで初対面から呼び捨て?そんな許可あげた覚えないぞ。
「入れ」
室内に入ると、……なに、この成金趣味?
神殿長とやらも指輪やら首飾りやらゴテゴテつけてるし。
見た目30くらいで以外と若い感じだけど、ダメだなこりゃ。あたしと合わん。
「お前がキキョウか。そっちは?」
「キキョウの姉だそうです」
そーいや、こいつら名前聞いて来なかったな。
「なるほど、なかなか美しいな、気に入った。お前たち、私の妾にしてやる。ありがたくおもえ」
「けっこ……」
「申し訳ございませんが、わたしは既婚ですし、キキョウも相手がございます。ですから、このお話は本神殿の事がすみましてからと……」
この世界、婚約以上は神殿での契約みたいなのが必要で、相手がいるのに無理強いをすると天罰が降る。そのため、浮気は出来なく、別れたくなったら、神殿での解約が必要となる。つまり、あたしとマリーに相手がいるから、解約出来る本神殿にさっさといくべし、という意味になる。
事実はどうあれ、身の安全の為には必要……になんでなるんだか。
「そうか。それでは仕方がない。明日の朝、出発とする。今日は神殿に泊まるがよい」
「いえ。すでに宿はとっておりますし、町を見て回りたいので今日はこれで……」
「むう。仕方あるまい。ではまた明日な」
……本っとにコイツ神殿長かよ。この好色ぶりとか、成金趣味とか。
「失礼します」
あたしたちはさっさと神殿から離れた。
「破棄が本殿でしか出来なくって、良かったわ」
「ほんとに。マリー、ありがとね」
……マリーの機転のおかげで、何とか逃げられたし。
「どういたしまして」
笑い返してくれたマリーの手を引いて、あたしは急いでみんなと合流しに向かった。
ある意味、神殿長の危機、かな?
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