閑話 手芸ってなんてたのしいの
桔梗の趣味。
宿屋の庭先に大きな鍋とかまどを用意した。
あたしの収納袋から取り出した、さまざまな草木が横に置いてある。
……草木染めって、昔学校の体験学習でやっただけだけど、ちゃんと出来るかなー。
「一体何を始めるのですか?」
隣で見ているひとり、服屋さんのハルシャさんが訊いてきた。
これからやることは、服屋さんも関係あるし。
どうも、この世界での染め物は、魔石を使って絹を染めるってだけなんだよね。木綿とか、生なりのまま服に仕立てている。デザインも似たり寄ったり。まあ、貴族の絹の服はそーでもないみたいだけど。
そこで、簡単に材料が集められる草木染めをやってみようと思い立ってみた。なにしろ魔術で染められる色とか調べられるし、季節感無視でいろんな植物が生えてるし。それであたしはトキワたちといった森に、トキワと二人でいってきた。
マリーも行きたがったけど、黒羽に乗るのは、さすがに二人が限界で……。木の枝とかも集めるから、力のあるトキワに頼んだ。
「さて」
おもいっきりうろ覚えなとこもあるけど、取りあえず始めてみる。
ちなみに使用する草花については、なんの色が出るか、と口に入れて危険は無いかを調べてある。万一、子供が口に入れちゃったら危険だし。
それにしても、この世界の植生ってどうなってんのかね?
材料集めにいったとき、花の咲いてる桜の木の下にひまわり咲いてたよ……。
基本的に一年中あんまし気温が変わんないみたいだけどね。
ちなみに南の火の国は常夏、北の水の国は一部常冬だそうな。
さてっと、そろそろいっかな。
染料の中から布を取り出す。ちなみに魔術使って時間は短縮済み。
取り出した布を同じく魔術で乾燥させる。……よし。きれいに染まってる。
「時間は魔術で短縮しましたけど、これが草木染めです」
「……こんなもので、こんなにきれいに染まるのですか……」
「染まるのです」
続けて、他の色も染めていく。布だけじゃなくて、糸と細いヒモも染める。
「……これで染色は終わり。あとは、部屋で作りましょう」
ボーっと観ていたトキワ(興味ないか)とハルシャさんを連れて部屋に戻った。
「終ったのー」
……まだ、すねてんのか。連れて行かなかったことでマリーはずっと不機嫌状態。黒羽はその腕に捕まえられてジタジタしてる。
「はい。マリー、どの色が好きですか?」
あたしが抱えてた色とりどりの布をみて、目を輝かす。
「あ、これがいいかも!」
選んだのはピンクの布。桜で染めた物だった。
「きれいな色、ですよね」
「ホント」
……機嫌、直ったか。
「では、これで作ります」
「え?」
みんなしてこっちを不思議そうに見てる。
あたしは針と同色の糸を用意する。
そして、勢いよく縫い始めた。
作るのものは、立体的な形をしたリュックサック。ベルトは下のの方で紐で調節できるようにした。手が届きやすい辺りにポケットもつける。
そして、ここからが本番。
あたしの収納袋から取り出したのは、刺繍用の布止め。
これは元々あたしが持ってたもの。作りは簡単だし、後で量産とかするといっかも。。
次にあたしの魔石で染色した魔力糸を用意して、リュックと同色に色を変える。
……あたしの魔石で染めたからか、色後からでも変えれたよ。
この糸で文字を刺繍する。内容は『容量拡張、重量固定、不壊』、の三つ。
容量はシオンの作った物と同じくらいに抑えた。重量は固定しとかんと、重いものを入れたとき動けなくなっちゃう。ドラゴン入れたら、持てなくなってたし。あとは、壊れないようにもした。戦闘中も背負ったままで壊れる可能性もあるし。
……あとで調べて分かったんだけど、刺繍とか刻んだ文字は、1度魔力を通すとその後永続に周辺の魔力で稼働するようでー。
そのため、現在シオンはコキヒさんと研究中。
最後に濃いピンクの糸で花の刺繍を入れれば完成。
「どうぞ、マリー」
「え、くれるの?ありがとう!」
大喜びでリュックを背負ってみてる。
次にトキワとシオンの分も作った。色は青と紫。刺繍で飾る代わりに黄色い糸で縫うことでアクセントにしてみた。
最後に自分の分も作る。これは薄緑の布を使い、刺繍は若葉にした。
「なるほど、これなら両手が常に空いてる。便利だな」
「それにスッゴク可愛いし」
うん。喜んでもらえてなにより。
次に、端切れを用意して、刺繍を入れれば完成。
これをマリーの髪と黒羽の首に飾る。
うん。
「わー。これも可愛い。髪とかじゃなくて、この袋に着けても可愛いよね」
いや、全く。
「それにしても、紐も染めてたのはこのためか」
確かにリュックの紐は同色にしたけど、これには別の用途がある。
「これはこうするんです」
あたしは二本の棒を取り出す。自作の編み棒だ。
ちょうどよさそうな枝をドラゴンの皮をヤスリにして磨いてみた。よく削れた。トキワはあきれてたけど。
……実はこの世界には毛糸がない!
寒冷地の防寒は、毛皮と綿入れだそうで。
仕方ないので、細目の紐で代用する。まずは簡単なボールでも作ろっか。
紐を丸く編んで、中に綿を詰める。ボールのあみぐるみだな。
「出来ました」
「?なにこれ?」
「おもちゃ、ですね。これなら子供がぶつかっても怪我しませんし、口に入れても危険はないでしょう」
「なるほどね。それじゃこれー」
「すごい!」
あたしたちは思わずビクッとする。今まで無言だったハルシャさんが、いきなり大声を出したから。
「キキョウ様!これ、私たちがやってみてもいいですか⁉」
「もちろん構いませんけど……」
そのためにやって見せたんだし。
ちなみにほとんどの人があたしを様付けする。原因は黒羽。もーあきらめました。
あたしはノートを取り出す。ちなみにふつーの紙はある。意外と流通してる。ノートには草木染めのやり方と、染色に適した草花、色などを記載してある。
「これをご利用ください」
「これは……‼」
なかを見て、ハルシャさん驚いたよう。
「ありがとうございます‼」
ふかぶかと頭を下げて出ていった。
「いいの?」
「いいんです」
手芸関係が広がってくれれば、趣味を共有できる人ができるかも、という打算があったり。
「さて」
最後にあたしは今まで使っていた収納袋に魔力糸の刺繍を入れる。内容は『容量拡張、重量固定、時間停止』。……入れた物が腐ったり、変質したりしないように。
ふう。時間促進はあまり魔力を必用としないけど、停止はやっぱりかなり使用する。時間は進むもの。それに逆らうからだろね。
「なに、したんだ?」
あたしの様子に、不安になった模様。
「この袋の中の時間を止めました。……これはトキワたち以外には教えない方がいいとおもって」
だからハルシャさんがいなくなってから作った。
「そう」
マリーが頭を撫でてくれた。
「あくまでも、その袋だけにしとけ」
「はい」
あたしは二人に笑いかける。
……それにしても、久々の手芸三昧、楽しかったー!
本来、目的の色を出すのは技術と経験が必用と思いますが、桔梗はそれを魔術でズルしてます。
……ちなみに桔梗は休み時間によく刺繍をしてました。クラスメートに頼まれたりして。
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