使い魔契約しちゃった
モエギさんのお話も終わり、とりあえず一階におりた。
うーん。いろいろ注目されてりるかも。
「トキワさん、ギルド長は何と?」
あ、さっきの受付さんだ。
「もう、森については問題ない。……問題は、天狼たちか……」
……ちょっと外を覗くと、天狼たちがいまかいまかと待ってるみたい……。
「とりあえず、外に行ってみます」
「あ、私も行く」
あたしとマリーは外に向かった。
……やっぱり注目されてるなー。あれ。
あたしは周りを見回してみた。どうも、天狼たちとは違った視線を感じたんだよな。
……見回してみても、見つからない。うーん。
「キキョウちゃん?」
あたしは目を閉じて、気配だけを探してみることにした。
ーーいる。右上の屋根の上、煙突のかげ。
いる、と思って見てみたら、やっぱりいた。
何かは分かんないけど、小さな何か。
『……おいで』
何となく、この方がいい気がして、日本語で話しかけた。
「キャウ!」
それは姿を現すと、一目散にあたしの胸に飛び込んできた。この子って……。
「真竜、ね。それも産まれたばかりの子供」
そう。それは体長40センチくらいのちびっこい竜の子供だった。
(あいたかったの!だからあいにきたの!)
これって念話かな?
(どうしてあたしにあいたかったの?)
(キキョウはキレイなんだもん。神様たちとおんなじくらい。だからね、ボクはキキョウにあいたかったの。ミンナもあいたいっていってたけど、ボクがいちばんさいしょにキキョウをミツケタから、ボクだけあいにいってイイっていわれたの!)
何と言うか、元気な子だなー。
だけど、神様と同じくらいキレイ、か。マリーも言ってたけど、本人にはよくわからん。
改めて、真竜の子を見てみる。
漆黒の鱗に同じく漆黒の皮膜の翼。瞳の色は、角度によって虹色に変わる。……ホント、綺麗な子だなー。
(うーん、それじゃキミはあたしの使い魔になりに来たのかな?)
(使い魔にしてくれるの⁉ホントに⁉)
(キミさえ良ければね)
(ウン!なる!)
とはいっても、使い魔ってどうやってするんだ?
「マリー、どうすればこの子を使い魔に出来るのでしょうか?」
「……え、ええ⁉」
パニクってるパニクってる。
「あなたの血を、その子に飲ませればよい。それであなたとその真竜との間に繋がりができる。あとはその繋がりを通して、使い魔契約をすればいい」
いつの間にかモエギさんの天狼が隣にいた。なるほど、血を飲ませるのか。
「どれくらいー」
「一滴で十分。あなたの場合はそれでも多いかもしれないくらいだ。普通の場合は、血液に特殊な薬草を混ぜた、専用の飲み物を使って、魔力を補うものだがな」
……あたしが使い魔選び放題ってのは、そこら辺も関係してんのか。
「取りあえずやってみます。マリー、何か刃物はありませんか?」
さすがに噛んで血を出したくはない。
「あ、えっと、これ使って!」
差し出してきたのは、愛用の槍。仕方ないか。まだパニクってるみたいだし。
『消毒、殺菌』
かといってそのまま使って、病気とかにはなりたくないし、消毒と殺菌は重要だろうな。
槍の先っぽに人差し指を当てて軽く引く。すると小さな切り傷ができた。これって随分切れ味いいかも。
(じゃ、血をなめてくれっかな)
(ウン!)
真竜の子があたしの血をなめた。
すぐに気がつく。確かにあたしとこの子の間に繋がりができてる。その繋がりを意識すると、どんどん大きくなっていくのをかんじる。
「ああ」
……この子はあたしの使い魔になる。だけどそのために必要なものが足りない。必要なものは……。
『キミの名前は……、黒羽だよ……』
……日本語で名付ける必要はないのかもしれないけど、あたしはそうしなければならない気がした。
……そして何かがはじけたような気がして目を閉じる。
改めて黒羽を見れば……、2メートルくらいまで、おっきくなってた、……てなんで?
まわりに人が居なかったから、ケガ人なんかはいないみたいだけど!
「……見事なものだな」
「……どういうことでしょう?」
「使い魔の能力は、主によってきまる。彼の真竜が一気に成長したのも、あなたにそれだけの器が在ったからということ」
「つまり、わたしの能力のせいと?」
「キキョウ、これからはボクがキキョウを守れるよ!」
……黒羽がちゃんとしゃべれるようになってる。
「使い魔契約をすると、人語を話せるようになるからの」
あ、そういうこと。
「黒羽、もう小さくは成れないのですか?」
「小さい方がいいの?」
「普段は小さい方が、一緒に居やすいでしょう?」
「そっか、そうだね!」
シュルシュルと黒羽は元の大きさまでちっちゃくなってくれた。
「これからよろしくね、黒羽」
「ウン!ヨロシクね、キキョウ!」
ふと気がつくと、まわりにいた天狼たちがいなくなっていた。
「真竜は創造神の眷族。競って勝てるとは思えない。だから去ったのだろう」
あー、悪いことしちゃったかなー。
「あなたが気にすることはない。これはそういうものでもある」
顔に出てたかなー。ま、それならそれでいっか。
「マリー、使い魔が出来ました!」
あたしが笑いながら振り返ると、
「……よかったね……」
マリーは力なく笑い返してきた。
「真竜、か」
「真竜、だね」
「……真竜を使い魔に出来た者は、数百年ぶりかー」
いつの間にか外に出てきてたトキワ、シオン、モエギさんがそれぞれにつぶやく。
あれ、あたしやっちゃった?
……こっちを見てる人の中には、あたし(黒羽?)の方を拝んでる人もいるし……。
「えっと……」
「まあ、諦めろ」
……どうやらあたしは、この町の人びとに、神様の使いのように認識されちゃったようだ……。
あはは……。
天狼と見せかけて、真竜と契約しちゃいました。
次回は閑話の予定です。