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勇者、目覚める

「メリッサ!ヒールを頼む!」

「任せて!」


俺の声に反応したメリッサが上級武器の『宣教者の杖』を振りかざして魔法を詠唱すると、薄緑色のベールが俺を囲んだ。視界の右上に表示されたHPの数値が87から476へと回復した。


目線のさらに向こうには、自分よりも3倍ほどの大きさをした聖獣オルトロスがヨダレを垂らしながらこちらを睨みつけている。


モンスターのHPバーは表示されないがヨダレを垂らしたり息切れをしている様子を見れば、勝利が近いのは火を見るよりも明らかだ。


「ジオン、もうMPが切れた!あと一撃で決めちゃって!」

「了解」


メリッサに粋な声で返事をすると、俺はこの前のダンジョンで手に入れた「聖剣カラドボルグ」を構えオルトロスへとダッシュで詰め寄った。

オルトロスが呼応するようにこちらへ突っ込んでくる。


かかったな、俺は剣を真横から切り払った。

ケルベロスは噛みつき攻撃と爪での切り裂き攻撃の威力は凄まじい分、側面のガードは異常に弱い。出し切れる力を全て振り絞り、ケルベロスの横っ腹を切り裂いた。


「グアアアアァァアァア!」


ケルベロスは負けた屈辱を雄たけびで表す。HPゲージが切れたモンスターはアバターを消すまでの間、薄っすらと白いベールに包まれる。

切り裂かれて胴と腰に別れたケルベロスは、切り口から血を連想させる赤いライトエフェクトを発しながら徐々に白さを増していき、やがて白球の塊と化す。


そして、シュンッという音と共にその姿をこの世界から消し去った。


テレッテッテテー


軽快なBGMと共に、視界の中央には加算される経験値量とドロップアイテムの詳細が表示された。そして今回は特別にレベルアップと書かれている。


「お疲れ」


メリッサが後ろから声をかけてきた。銀色の髪の毛は三つ編みで縫っていて、つぶらな瞳には喜びの色を浮かべている。

俺はニッコリと笑顔を浮かべてハイタッチを求めると、メリッサは右の手のひらを俺に合わせてきた。心地の良い炸裂音が、ゲームの世界ではない生身の身体の触れ合いを感じさせた。




ーーーーー夢か。

俺は天井を眺めながら、先程の夢を回顧していた。


夜中までRPGゲームをした次の日は決まってゲームの主人公になる夢を見る。

レア武器を装備して、ボス級のモンスターを討伐しにいく。俺の後ろには魔術師のヒロインが後方支援にあたってくれている。


苦闘の末にモンスターを倒すと、現実では感じることが出来ない快感を感じながら、残酷な現実への目覚めを迎える。

ここまでが毎度のパターンで、目を覚ます度に絶望の渦に巻き込まれるのだ。


はあ、1度でもいいから勇者になってみてえなぁ…


俺はそんな事を思いながら目線の左下にある時間ウィンドウを見た。日曜日の午前8時。休日には珍しく早く起きてしまったな。


…ん?

さらりと流した異変に気付く。瞼を閉じて暗い世界を味わってから、再び視界をクリアにする。

何度も何度も同じ事をしたが、左下に表示された時間ウィンドウは全く消えてくれない。さらには視界の右上には、こう書かれていた。


【KOUJI】HP 30/30 MP 0/0


何だよ、まだ夢を見ているのか。ゲームのやりすぎでとうとう現実と夢の境目まで分からなくなってしまったのか。


俺は自分に呆れながら上体を起こした。眠気を吹き飛ばすためにうんと背中を伸ばす。腰の節々が鈍い痛みをあげた。


…夢じゃないな。


冷や汗をかきながら俺はベットから起き上がる。そして夢か現実かを判断する最もベタな『頬を叩く』という行為を行った。


パシィン!


「痛てぇ!」


現実であることを確かめるためにワザと大声を上げる。頬には確かに痛みを感じた。

やっぱりこれは現実だ。うん、そうだ。…じゃあこれはどう説明するんだ?


【KOUJI】 HP 29/30 MP 0/0


HPが1減っている。

こんな現象、現実で起きるはずがない。いや、そもそも現実にヒットポイントなる数値は存在しないし、ましてや具現化して命の限度を見ることは出来ない。


「どうなっているんだ…?」


俺は混乱する頭を必死に回転させながらこの状況を整理する。2月の冷たい冷気は、確かに肌に当たってチクチクとした痛みを産んでいた。

プレイ時間 00:00:03


プレイヤー名:KOUJI Lv:1

HP 29/30 MP 0/0

攻撃力:1

防御力:1

魔攻力:1

魔防力:1

素早さ:1

ラック:1


装備

武器 :なし

上半身:なし

下半身:なし

装飾品:なし

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