093 国王との謁見と王命
おはようございます。こんにちは。こんばんは。nahatovallです。
全国的に大雨による被害が甚大ですね。合わせてコロナウイルスの患者も増加傾向、地震などの多発と。
大変な時期とは思います。自分も仕事の関係で色々な場所を訪れ、通行止めなどでかなり足止めをくらいました。自分の住む場所は然程被害はないのですが、現地の方々は大変苦労されていると思います。
どうか、無理せずお過ごしください。
「やっと着いたーッ!!」
馬車に乗って身体を動かしていなかったため、身体中が硬くなっておりそれを解きほぐす様に肩を回したり、背伸びをして身体を伸ばしたりする。
「クルト?馬車の中で動き回らないで、狭いんだから」
リーゼロッテに指摘されたクルトは「悪い、悪い」と返事をして席に着いた。帝都アバルトロースを出て一月程、出発してからは二月半ぶりの王都への帰還だ。テンションが上がってしまうのは致し方無い。
「エリーゼにラウラ、二人ともご苦労様。屋敷に戻ったら暫く休暇をとっても良いから」
レオンハルトは、この依頼中殆ど二人に御者をさせていた。街などに滞在中は買い出しをお願いしたり、誰かの付き人をさせたりとほとんど休まる時などなかった。辛うじて帝都に在住していた時は向こうの給仕係や使用人等が世話をしてくれていたので、少しは休める事は出来たかもしれないが、それでも給仕係として毎日何かしらの仕事はしていた。
そう考えると二月半も休ませずに働かせていた事になる。・・・前世だったら間違いなく労働基準監督署に通報されるか、内部告発で調査が入っていた事だろう。
こっちの世界の給仕係は八時間労働とかではなく、早朝から深夜までの超過労働なのだ。週一回の休みを設けたりはするが、基本的にあまり休みらしい休みはない。
大勢の給仕係や使用人がいる様な貴族や大商人であれば、休みもそこそこ取得できるのだろうが、うちの様な出来たばかりの貴族は時間も人手も何時も足りない。
強いて言うなら、露店での商売や冒険者としての依頼を受けなければ人手の問題は解決するが、そうなると収入減が無くなるため、奴隷はまだしも普通に雇用している執事や給仕係、使用人などを雇用できなくなってしまうのだ。
小さな領地を貰っている騎士爵家や準男爵家は、自給自足の生活を領民と行い、領地を貰っていない騎士爵や準男爵家は、各大臣の下で文官として働いたり、武官として騎士や兵士たちの小隊長職に就いていたりして生計を立てているのが現状。
子爵や伯爵位は、文官や武官の仕事でも役職仕事を得ている者が多くその分給与が高い。また、領地は領民から徴収する税で回していけるので普通に経営していればそれ程、困る事は無い。
話を戻すが、レオンハルトは貴族ではあるが領地を持っておらず、しかも役職位の立場にいるかどうか以前に文官や武官でもない。となれば収入源は自分で何とかするしかないのだ。
一応、これまでに冒険者業や商業で稼いだお金は下級貴族とは比べ物にならない程持っているけれど、お金は無尽蔵にあるわけでもないのだ。商品開発や冒険者用の道具を揃えたり、武器防具の手入れや新調など何かとお金はかかる。
だから、現状維持の場合はこれ以上人を増やしても将来的に大変な事になるので、屋敷にいる執事のフリードリヒや執事見習いのローマンたち使用人に、奴隷であるローレたちには申し訳ないが今の状態を維持させてもらう事になるだろう。
前世だと、こんな条件だと直ぐに退職願いを出されたり、翌日から出社してこなかったりするだろうが、この世界ではあまり気にしない・・・それどころか、衣食住がしっかり確保されるので、やりたがる人が多いのだそうだ。
世界や文化が違えば、こうまで人の考えも違うのだなと改めて思う。
そのまま馬車を低速で走らせ、王城へと向かう。コンラーディン王太子殿下を王城まで護衛するのが冒険者としての仕事だから、それが完了してから冒険者ギルドへ寄り依頼完了の手続き等を行って屋敷に戻るようになる。
まあ、王城で何かしらの話し合いはありそうだが・・・と言うか必ずある。特にアバルトリア帝国の貴族にもなってしまったのだから、逆に何もない方が可笑しい。
王城に到着すると何時もの様に入口で降りて、馬車をエリーゼとラウラに任せる。馬車を所定の位置に停めたら、中に入って来るように伝える。そうする事で、兵士が王城内に勤める使用人に指示を出し、我々がいる部屋まで案内してくれる。レオンハルトたちが案内されて数分後にエリーゼとラウラも部屋に来て、他の使用人と共にお茶の準備を始めた。
「この焼き菓子美味しいな」
「紅茶の香りがとても良いわ」
「其方の紅茶は、紅茶の有名なヴィルグ地方の物になります」
各々が寛いでいると早速、誰かがドアをノックした。王城の使用人がドアを開けると着替えを済ませたコンラーディン王太子殿下と精一杯おめかしをしたレーア王女殿下が立っていた。
「レオンハルト様ッ!!
歓喜に声を上げて飛びついてくるレーア王女を流石に避けるわけにも行かず、レオンハルトはそのまま抱き着かれる形となった。
傍に立っていたシャルロットは仕方が無いと言う大人な対応に対して、ティアナとリリーは凄い羨ましそうにその光景を眺めている。リーゼロッテとエルフィーはそんな状況に後れを取ったのか只々その光景を見ていただけだった。
「とても、とても寂しかったです・・・」
何だか暫く合わないだけでこんなにも王女が人目を気にせず大胆になるのかと思ってしまうが、実際に気になる人から好意に思っている人に変わり、世間にはまだ公表されていないが婚約者になった人だ。それも自らが好きと判断しての婚約。
その婚約者に二ヶ月近く会えなかったのだから、抱き着いてしまっても仕方がないだろうし、その理由が実の兄である王太子殿下の指名依頼によるアバルトリア帝国への護衛、レーア王女がお見合いに向かうはずだった帝国の公爵の次期当主となる人物の婚約パーティーなのだから、また迷惑をかけてしまったと言う気持ちもあったのだ。
暫く抱きしめられていたが、王太子殿下がそろそろ良いかと見計らい。部屋を訪れた用事を口にすると共に廊下に待たせていた騎士を部屋の中に入れる。
「皆、今回は非常に助かった。これが、依頼の報酬だ。後で冒険者ギルドに完了の手続きをしてくれ」
すると、王太子殿下の合図で五人の騎士が前に出て、それぞれ持っていたトレイの上に置いている物を渡す。
袋の中には最初に決められていた一日当たり大銀貨一枚と依頼完了の報酬としての金貨五枚分の報酬が用意されていた。
因みに依頼期間は七十六日だったので、金貨七枚と大銀貨六枚に報酬の金貨五枚合わせて金貨十二枚、大銀貨六枚が袋の中に入っていた。
日本円にして約千三百万円。二月半分でチームとして考えたら安いかもしれないが、これに加えて護衛中の魔物等の討伐時の素材が加わる。それに、時々の戦闘でほとんどが移動に近いし、宿屋などは国が持ってくれる事を考えれば、そこそこよい収入ではなかろうか。
「それと、彼とレーアの件はまだ秘密だから、誰にも口外してはいけないよ?もし口外した場合は重い罪に問われるから・・・」
そう言えば、皆がいる中でレーア王女殿下は俺に抱き着いたのだった。何も知らない人が見れば大スクープだよな・・・。
王太子殿下の言葉を真剣に受け止めた彼らは、無言で首を縦に振るう。何せ笑顔で話す彼は、何処か恐怖を刻み込まれる様な雰囲気を醸し出していた。
金貨の入った袋とその横にギルドへ依頼完了を証明するための書類を一緒に受け取った月の雫や森人の集い、赤い一撃の面々は冒険者ギルドに向かった。
俺たちはこの後国王陛下との謁見が待っているとの事で、その準備をする。
そして、すべての準備が終わり、国王陛下が待つ謁見の間に向かった。
「なる程の・・・さて、今の言葉に何か付け加える事はあるか?」
謁見の間の中央で跪いて待機する円卓の騎士の面々と旧ガバリアマルス王国の元第二王子と元第一王女、流石に幼い第二王女を連れて来るわけにも行かないので王城で務める使用人にお世話を任せている。護衛の際に起こった魔族襲撃の件や帝国での特爵位なる爵位を陞爵した件をコンラーディン王太子殿下の口から報告され、今はその事実確認のために我々や共に同行した騎士団に質問される。
難しい国同士の話は皇帝陛下と王太子殿下の二人で話し合われていたので、俺たちが知る内容の事は付け足す部分は殆どなかった。
「殿下の報告に間違いはありません」
三番隊隊長のジークフリートが答えると今度はレオンハルトの方に視線を向けた。
「自分もジークフリート隊長と同じです・・・・ただ、・・・」
「ただ、なんじゃ?」
レオンハルトは、今回魔族の襲撃が自分たちを狙ったものではなく。偶々その場所で活動していた所に偶然自分たちが足を踏み込んでしまった。これは殿下も説明していたが、これを深く考えると他国でも同じように魔族の襲撃があるのではないだろうか。
それも、襲撃の度に危険性が高まっている。
隣に居るセドリック王子の国、ガバリアマルス王国の事を考えると、各国の連携はこれ以上ないと言う位、強固なものにしなければいけない様な気がした。
個々の国での対処には限界があると言う事だ。
その考えを伝えると、国王陛下は暫し考え込まれ、何か宰相と話をした後に口を開く。
「アヴァロン卿・・・其方に王命を与える。各国の絆を高めるための懸け橋になってもらいたい。その為には立場や実績が必要になってくる・・・よって其方にある場所の領地を与える。それと、爵位を伯爵へとする」
現在が男爵位でその上が子爵位になる。更にその上が伯爵位となり言うなれば二階級特進を果たす。伯爵ともなれば貴族社会では上級貴族の仲間入りをする事になり、下級貴族や中級貴族の当主たちはこの地位に上り詰めるために、日々努力をしていると言っても過言ではない。
謁見の間に集まる貴族たちも驚きの声が漏れる。
「加えて、アルデレール王国の外交大使に任命する。異論はないな?」
「・・・はっ!!謹んでお受けいたします」
一瞬ついて行けていなかったレオンハルトは、自分が返答をしないといけないと思い返し直に姿勢を正して返答する。
その後、宰相の説明により俺が受け取る領地は、現在王国が力を入れて開発している俺たちの故郷、レカンテート村だ。もう村と呼べる規模ではなく町と化しており、もう少し開発が進めば街の規模に変わるだろうとの事。
アルデレール王国の南部を統括するアーベライン辺境伯、その辺境伯の元でそれぞれの貴族が各々の領地を管理しており、レカンテートの周辺はヴァイデンライヒ子爵が管理する子爵領で、その一部を今回レオンハルトがもらい受けると言う事になった。
簡単に言ってしまえば、アーベライン辺境伯が所有する辺境伯領が最南端に位置し、これが前世で言う所の大企業・・・それも本部や本社と呼ばれるもの。そして南部を幾つも区枠されて、それぞれに貴族が割り当てられるこれが、○○領と呼ばれるもので、ヴァイデンライヒ子爵領も子の一つだ。現世でいう所の支部や支社と言う者になる。レカンテート村はその中でも○○領とついては居ても領主は領地をすべて把握できないので、町や村に町長や村長と言う人物をたてて、何かあれば領主に報告したり、税を収めたりするのだ。現世でいう所の子会社の様なものだろう。
ヴァイデンライヒ子爵が治める主となる街は、海隣都市ナルキーソで、ヴァイデンライヒ子爵とは、ヴェロニカ・イーグリット・フォン・ヴァイデンライヒの事だ。
彼女とは今でも懇意なお付き合いをさせてもらっており、色々助けてもらったりもしている。
「ヴァイデンライヒ子爵へは、此方から既に話を通している」
宰相が少しにやつきながら話してくるあたり、陞爵や領地の件は前々から進んでいたのだろう。
「それと、後で会議室の方に足を運んでくれるかな。打ち合わせたい事もあるし・・・」
その言葉を聞いて、先の件についてだろうと言う事が分かり了承した後、謁見の間での話に幕を閉じた。
セドリック王子とシルヴィア王女の事はどうなったかって、暫く俺たちで預かってほしいとの事で、この後の打ち合わせにも同行してもらうつもりだ。
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来週は、お休みをさせていただき再来週の四連休の間に2話投稿させていただきます。
お休みの間に出来るだけ、誤字脱字の訂正と矛盾点などの修正を行って参ります。