091 侵入者?いや珍入者!!
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
「―――――お前がそうかっ!!」
皇帝陛下との謁見中、急に現れた侵入者。しかも扉ではなく、両サイドにあるステンドグラスの窓を突き破ってからの侵入だ。謁見の間の構造は、右側は別の部屋があるようだが、小窓がある天井近くは外の光が入る設計の様だ。逆に左側は部屋などない完全な外になっているらしい。正確には下の階の部屋の屋根があるが、隙間もあるし人が侵入するのは中々難しいとの事。
その左側の小窓から突然、襲撃して来たのだ。
侵入者は、かなり大きな篭手を身に付けており、近接格闘を得意とする人物の様で、我々に襲い掛かってきた。
俺は素早く王太子殿下の前に移動し、その攻撃を防ぐため構える。謁見の間なので武器は魔法の袋に入れているため、素手での戦闘になるのだが。
襲って来る侵入者の動きを観察すると、僅かに空中を蹴って移動している・・・いや加速していた。
渾身の右ストレートが目の前まで来ると同時に、レオンハルトはそれを左手で突き上げる様に拳を振るった。狙う場所は目の前の右拳だ。
「ッ!!」
そのまま侵入者の右ストレートの軌道を逸らせた。更にレオンハルトは間合いを詰めて今度は右手を侵入者の腹部に添える様に打ち込む。掌から勁を放ち強い衝撃を与える『発勁』。神明紅焔流の技ではないが、基本にして万能の技。
侵入者は『発勁』を左腕でガードしようとするが、そもそも右ストレートを全力で打ち込んできた人物。ガードをすると言う姿勢ではない為、レオンハルトの攻撃をまともに左腕の上から受ける結果となった。
後方に吹き飛ばされる侵入者。謁見の間の床の上を数度転がりながら、体勢を立て直す。
「やろー。やってくれるぜっ」
侵入者はレオンハルトを睨みながら構える。近接格闘のそれも突きの構え。侵入者の雰囲気がより鋭くなるのを感じ取り、レオンハルトも警戒を強める。
「いくぜッ!!『加速』」
侵入者が使用する四大系統魔法の付与魔法、その中の一つ強化魔法。自身を強化する事しかできないが、代わりに移動速度を爆発的に早くする強化魔法でもある。同様の魔法に『俊敏力向上』があるが、此方は自身だけでなく他者にも掛ける事が出来る魔法で、効果も似ているが違っていたりする。
一番の違いは、自分自身か、自分自身や他の者たちの違いだろうが、次にあげるとしたらその魔法効果の違いだ。『俊敏力向上』は『加速』と違って少ない魔力で持続時間が長いと言う点があげられる。逆に『加速』は移動速度を爆発的に早くするため、魔力消費量が高く持続時間が短いのだ。ただ、魔力制御やその魔法との相性もあるので、使い手は少ない魔力で使用できる。それでも『俊敏力向上』よりは、消費はするのだが・・・。
それと、速度の速さにも違いがあり、『俊敏力向上』に関しては通常の二倍速前後ぐらいに対して、『加速』は四倍から五倍ぐらいの速度を出せるのだ。当然、個人差はある。
一気に加速して間合いを詰めてくる侵入者。レオンハルトも『身体強化』と『俊敏力向上』で対処に当たる。
激しくぶつかり合う拳と拳。レオンハルトの方は拳だけではなく蹴り技も混ぜている。謁見の間で、それも国のトップであるジギスバルト陛下や国を支える宰相や大臣たちを蚊帳の外に戦闘していた。
左ストレート、右ストレート、左アッパー等連続で攻撃してくる侵入者。『加速』を併用しての速度の緩急に安全に無力化できずにいたレオンハルトは、右ストレートを躱し、至近距離から後ろ回し蹴りをくらわせる。
後ろ回し蹴りを防御し損ねた侵入者は、勢いのまま床に転倒。直ぐに立ちあがって構え直すも・・・その直後、腹部に強い衝撃波を受ける。
神明紅焔流体術『螺旋掌』。至近距離から相手を押すように衝撃を与える技で、回転するように掌を打ち込む為、高い威力を発揮する。
「グハッ!!」
後方に吹き飛ばされ、腹部を押さえる侵入者。此処で終わらせるそう判断した俺は、右手の指先を真っすぐ伸ばす。瓦割をする時の手の形。
「クソがっ!!―――ッ!!」
侵入者も俺が一気に終わらせようとしている事を感じ取ったのか、何やら小言で呟いていた。恐らく詠唱だろう小言を言い終えると侵入者の周辺の空気が震え始める。
何か仕掛けてくる!?
レオンハルトも右手に風を纏わせ、互いに攻撃のチャンスを伺う。タイミングを逃せば一気に畳みかけられるのが分かっているから、こう言う時は慎重にその時を見定める。
―――ッ!!
そして、その瞬間は直ぐに来た。お互いが今と思った時・・・それは、その域に到達した者にのみ分かる瞬間。
「『二重加速』。うりゃあああ、行くぜっ『バーニング・フィスト』」
「神明紅焔流体術『無刀・地割り』」
両者の技が激しくぶつかりあう・・・・その時、横から第三者が攻撃に介入してきた。
侵入者とレオンハルトの攻撃は第三者の介入で衝突する事は無かったが、代わりに第三者が両者の攻撃を受け止めたため、衝撃波と爆音の様な音が謁見の間の内部に響き渡った。
「ッ!!」
「ちっ!!騎士団長が何しゃしゃり出て来てやがるっ?」
侵入者の『バーニング・フィスト』は純白が眩しく煌き、豪華な金色の装飾や帝国を主張する紅色の模様が入った魔装武器、魔光盾ギャリオンによって阻まれ、レオンハルトの手刀『無刀・地割り』は、煌光の二つ名の由来となるもう一つの片割れである魔装武器、魔光剣レイフォーシアの刃をたてた状態で受け止めていた。
煌光のアルフレッドと呼ばれる帝国騎士団の団長であり、帝国最強の称号である守護八剣の第一席の地位にいるアルフレッド・ディル・フォン・アストレア子爵だった。
「二人とも陛下の御前です。矛を収めなさい」
如何やら侵入者の事も知っている様子だった。そうでなければ、有無を言わさず騎士団が彼を連行していただろうから。
「分かりました」
俺は直ぐに手を引っ込め、その場で膝をついた。
「貴方もです。ザイール殿下?」
ザイール殿下?初めて聞く名前だ・・・・殿下って、まさか皇族っ!?想定していない人物に帝国側の者たちとコンラーディン王太子殿下以外は驚きの表情を示す。ジギスバルト陛下にと宰相に至っては、困った表情を前面に出していた。
「・・・・ジギスバルト陛下。この度は我が国の者がご迷惑をおかけしました」
レオンハルトの代わりに謝罪をするコンラーディン王太子殿下。侵入者があったとはいえ、発言できる立ち位置に居るのは、アルデレール王国側はコンラーディン王太子殿下だけなのだ。
「構わない。此方こそ愚息が騒がせたようですまない。アルフレッドも良く止めてくれた」
「いえ、それよりもアヴァロン卿。手の傷は大丈夫ですか?」
騎士団長は、先程の攻撃に対して刃をたてて受け止めた事で、レオンハルトの手に切傷を入れてしまった。ただ、そうしなければ魔装武器へ深刻なダメージが入っていたので、騎士団長の咄嗟の判断は正しかった言える。
侵入者もといザイール殿下の拳は盾によって完全に阻まれただけで済んだ様だ。
そのザイール殿下なのだが、彼はジギスバルト陛下の正妻の子で第三皇子との事だ。守護八剣の第三席にいるれっきとした実力者らしいが、素行が悪くかなり血の気が多いそうだ。
コンラーディン王太子殿下と年齢が近い様で、二人とも顔なじみなのだと言う事もあとで教えてもらった。
そして、最大の疑問が・・・・謁見の間へわざわざ窓を突き破って侵入し、此方を襲ってきた理由について。魔族殺しの英雄と呼ばれる人物と拳を交えてみたかったと言う、酷くどうでも良い理由だった。
「あまり度が過ぎるのではないですか?」
末席に待機していたはずのブリジットが愛剣フランベルジュを片手に、何時の間にかザイール殿下の首元に刃を突きつけていた。流石、閃影のブリジットと呼ばれるだけの素早さを持っている。
しかし、仮にも帝国民が自国の皇族に刃を突きつける行為は、反逆罪や不敬罪にならないのだろうか?
「アァン?お前こそ何のつもりだ?」
ザイール殿下は如何やら怒りの沸点が他の者よりも低い様だ。売られた喧嘩は直ぐに買うタイプだった。
誰も止めない所を見ると、割といつもの事なのだろう。
「第五席・・・それもハーフエルフの分際で俺に刃を向けるとはなっ」
「あら?第三席でその程度の実力なら、守護八剣の席を誰かに明け渡した方が良くてよ?」
割と忠実な感じのブリジットが、かなりきつめに話している。相当頭に来ているようだ。特にハーフエルフの件から言葉に殺意が乗っている様に感じる程だ。
「だからいい加減にしろ?ブリジットもそこまでだ」
守護八剣第一席と言うのも大変なようだ。すると、謁見の間の扉が開き、皆一同に其方へ視線を向ける。縦髪ロールの如何にもお嬢様っていう子が姿を見せた。そんな髪型本当にいるんだと思う程のかなりロールされている金色の髪。
「ブリジットの言う通り、負けるようなら退席して貰った方がよろしくてよ?」
そこにまた別の人物が姿を見せに来たのだ。
何時もありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。




