085 帝都到着
おはようございます。
今回は短い内容ですが、良かったら読んで下さい。
「フフフッ。中々良い結果を見出してくれましたねー」
心臓をくりぬかれた魔女はそのまま骸となり力なくだらりと崩れ落ちる。
「お、お前はッ!!」
その後ろから姿を見せたのは、元魔女に胴体を真っ二つにされたはずの魔族ヴァロフが立っていた。上半身と下半身に分けられた胴体は、切られたはずなのに何事もなかったの様にくっついている。
「我々が使用するにはまだまだ改良が必要そうですが、良い結果は得られましたね」
心臓を持つ手を一気に引き抜き、元魔女の死体はそのまま地面に倒れた。
「おや?どうかしましたか?」
ヴァロフは、驚くレオンハルトに対して不思議な顔で問いかける。
「折角倒してあげたのですから、喜んで下さいよ?」
こいつは何を言っているのだ?そもそも、最初に仕掛けてきたのもお前だろッ!!それにこの魔族に何かしたのもお前ではないか?何が折角倒しただッ!!と内心でツッコミを入れる。
それに、死んでいたと思っていたヴァロフが生きていた事、レオンハルトの領域に一瞬で入り込んできた事。加えて言うならば、変異化した魔族を一撃で屠った事だろう。
彼の言葉から感じるのは、戦闘系ではなく研究系の分類が犇々(ひしひし)と感じていたのだが・・・。
「あまり喜んでいないようですね?ああ、上の事が心配ですか?安心してくださいこれ何か分かりますか?」
今しがた魔女の胸を貫いた腕とは逆の手を此方に見せてくる。その手には心臓らしきものが二つあった。一つは心臓と分かるが、もう一つは裂傷が激しく心臓には少し見えなかった。
上にいる誰かのか?と思ったが、魔法で確認した限りは全員無事だった。その事から考えて持っていた二つは、魔女と同じように変異化した魔族の心臓だと分かった。一体いつの間に回収したのだろうと言う疑問はあったが、それよりも皆の方が心配だった。
魔法で確認しただけなので無事なのは確認しても、詳細は分からず会話が出来るレベルなのかどうかまでは把握できていない。
「それは、変異した奴らのか?」
「ええ。良い結果が得られましたからね。それに強化された薬の実験も行えた・・・ッ!!」
ヴァロフの発言の途中で、レオンハルトは無数の魔法を魔族に打ち込む。火力は高めの無属性の魔弾を撃ち続けるが、ヴァロフはそれら全てを魔法で打ち消し合っていた。
相殺されている事に気が付くレオンハルトは、魔法を止める。
斬撃を行う事も考えるが、勝てる気が全くしない。『心武統一』を使って尚この差だ。恐らく、変異した魔女の攻撃を食らっていたのもわざとだろう。
「・・・もう終わりか?出来れば目撃者を殺しておきたかったが、実験の続きをしないといけないからね。ここらへんで引き上げるとしますか」
「――――ッ!!ま、待てッ!!お前は一体ッ!?」
「ん?名前はヴァロフ。ヴァンパイアロードの一人、ヴァロフ・ヘイグスレイ。また何処かであったら次は実験体にしてあげるよ」
逃がすつもりはなかったレオンハルトだったが、ヴァロフは転移魔法の一種と思われる魔法でその場から姿を消した。
それはまるで手品師が煙で姿を眩ませるように、ヴァロフもまた一人分ほどの霧を発生させてその中に消えてしまったのだった。
暫くは警戒を続けるもその後何も起こりそうにないと判断する否や、魔女の死体を回収して皆の元に戻った。かなりの負傷者が居たのだが、殆どの者は治療済みで重傷者には地面に横にさせて、点滴などの処置もされていた。
「エル。他に負傷者は居るか?」
「レオンハルト様ッ!!あ、あのお怪我はしていませんか?」
一番に彼を心配するエルフィー。動けない程の負傷を追っていないし、既に魔法で治した事を伝えると彼女は安心した様に地面にへたり込む。
それから、エルフィーの手伝いをして負傷者の手当てをして回った。何人かの騎士は、俺ではなくエルフィーに治療してもらいたかった様で露骨な態度に少しだけイラっとしてしまった。
仲間たちも最後かなりの激戦を繰り広げて皆、疲労で動けなくなっていたので今は馬車の中で休んでいる。
コンラーディン王太子殿下たちと相談し、下山する事が決まった。当然、スクリームや魔族の死体もすべて回収した。激戦を繰り広げたと言う事で、前の村まで戻る際中の魔物や獣との戦闘は免除され、ゆっくり休む事にした。
馬車を牽かなかった馬たちの騎乗は、どうしようかと考えていると、魔法の袋に仕舞っていた荷馬車を思い出し、それを牽かせる様に準備をした。
魔法の袋の存在はバレていたので、もう今更な気がする。
操車の担当はエリーゼとラウラの二人がそれぞれの馬車の御者を務める事になる。
「おや?またお客かね?」
数日前に立ち寄った村に二日掛けて戻ってきた王太子殿下一行。先に進んでも良かったのだが、思いのほか魔族の攻撃で装備品は愚か、騎士や冒険者たちの疲労が高かった。
各冒険者チームのリーダー、騎士団の隊長や副隊長などの有力者、王太子殿下にアルメリア辺境伯から護衛兼案内人として同行している守護八剣の一人ブリジット。その面々で相談した結果、あのまま帝都に向かうのは危険だと言う判断になったためだ。
その場で数日野宿すると言う話もあったのだが、何時魔物に襲われるか分からない環境よりは、下山して道中に立ち寄った村に引き返す方が良いとの意見が多かった。
まあ、普通に襲われるか分からず、警戒をしておかなければならない状況よりも心身共に休める所の方が良い。
「すまない。村長と話がしたいのだが・・・」
「守護八剣様ッ!!」
村の外で作物を栽培しその手入れをしていた男性が驚き、その場で直ぐに膝をついた。
数日前にこの村を出発した方々が戻ってきた事に疑問を感じつつも、彼女の要請を聞き入れるため直ぐに村の中へ一行を招き入れる。
村の中心から少し北に行った所に村長の家があり、その中へ先日の中心核となる面々が訪れた。他の冒険者や騎士たちは、先程の村の男や女たちに頼んで、空き家や馬小屋を貸してもらっていた。
ブリジットが、村長に話をして補足説明をするかのようにレオンハルトや三番隊の隊長ジークフリートたちが話の途中途中で加わる。
「そんな事が・・・皆様方がご無事で何よりです・・・それでは、その前にお越しになられた商人の方々は、やはり・・・」
帝都アバルトロースまでの道のりの山々で失踪が相次いで起こっているのは、村長たちも噂程度で聞いていた。
「ええ。その考えで間違いないでしょうね。魔族は人族たちを化物に変えて我々に襲い掛かっていましたから」
ここ最近寄った者たちは皆生きてはいないだろう。そう説明すると村長は悲痛な面持ちで話を聞いていた。失踪の件が村に届いていた理由の中に、山の中腹辺りまで案内を出したりする事があり、実際失踪騒動が起こり始めてからこの村の数人が戻って来ていないのだ。
一人、二人ならこれまでも失踪する事はあったが、それは商人について行き村を出たいと考えていた若者や帰りの道中に運悪く魔物に出くわして、喰い殺される場合だが、今回はその可能性がかなり低い人物たちだ。
最近、娘が生まれたばかりの若い父親だったり、村でもかなりの実力者で婚約者が村に居る元冒険者の男性たちだ。
ある程度覚悟はしていたが、現実を知るとどうしてもやりきれない。この後その家族や関わりのあった者たちへ説明も必要になる。
「宜しければ、同行された方々の顔が分かる人物がいれば遺体を引き渡しますが?」
レオンハルトの申し出に村長は、再び驚く。
こういった場合、死体はそのままにしておくか、燃やすか土に埋めるかなどの対処をするのが一般的。一人、二人なら持ち帰って家族に引き渡す事もあるが、何十人もとなるとそんな事はしない。
けれど、死体となれば人ではなく物と言う扱いになるため、魔法の袋などの魔道具に収納が出来る。レオンハルトが魔法の袋から今回の犠牲者たちの遺体のうちの一体を取り出す。村長の家で死体を出すなどと思わなくもなかったが、今回は自身の言葉を証明するためだ我慢してもらおう。
「―――ッ!!ま、まさか・・・ダンッ!!」
取り敢えず身なりから考えて村人らしいスクリームとなった死体を出したのだが、村長の反応から見て村人で間違いなさそうだった。
「レオンハルト様、申し訳ありませんがそこのデビットを連れて裏でその死体を見せてもらえませんか?」
「分かりました。あと何人ぐらい村から失踪しているのですか?」
村長の話では、全部で六人だそうだ。今一人分かったので、残り五人と言う事になる。レオンハルトは、その場にいた騎士二人と共に裏へ移動し、死体を出し調べてもらった。
「村長此度の件、心中お察しします」
ブリジットは悲しげに村長に声をかける。他の者たちもそれに合わせて頭を下げた。
デビットが確認した結果、失踪した全員が命を落としている事が判明。その日のうちに家族を呼んで事情を説明。村で大々的に供養する事になった。
最愛の夫を亡くした妻や恋人を失った彼女。息子を失った両親やその兄弟たち。皆泣き崩れる様に悲しみ。一通り泣いた後で、此方にやって来て感謝の言葉を述べられる。
引きずるつもりはないが、もう少し早くこの事件に対処していれば、こんな悲しそうな表情を見なくて済んだのではと思ってしまうが、たらればの話をしても意味はない。
その村に三日滞在させてもらい、その間に皆休養をとって英気を養ってもらった。その後再び帝都に向けて出発する。
今回は、魔物に五回襲われたぐらいで、道中は穏やかな物だった。出発してから五日かけて漸く目的地である帝都アバルトロースに到着した。
「うわーでっけー」
クルトが隣で大きな声を出して驚いているが、その気持ちは分からなくもない。
目前に見えるのはアルドレール王国の王都アルドレートにある防壁よりも高い防壁に驚きを隠せなかったからだ。
俺たちはそのまま帝都内に入るための審査を列に並び、順番を待つ事にした。
いつも読んで頂きありがとうございます。
次回からは遂に帝都内でのお話になりますね。