084 魔族VS円卓の騎士
おはようございます。
最近PCの調子が悪くて、そろそろ買い替える時なのかなと悩む今日この頃。
前回投稿できなかったので、今日明日と投稿できるように頑張ります。
上空から殲滅攻撃を開始したシャルロットとアニータ。
シャルロットの放った攻撃『メルトバースト』。魔族を攻撃した時の『魔法の矢・四連追尾掃射』とは異なり、単発の攻撃になる。だが、射抜く瞬間は単発でも、途中で花火の様に散り無数の攻撃となって敵を襲う。
それこそ、先の様に花火みたいな感じだ。撃ちあがる瞬間は一発なのに、空中で炸裂すると無数の火の粉になって大きな大輪を咲かせる。それが攻撃になった感じのもの。
それに『メルトバースト』のメルトとは熱で溶けると言う意味を持つ、火属性魔法の中には『灼熱』とか『灼雨』と言う魔法も存在している。どちらも中級クラスの魔法だ。
そのメルトと言う言葉が付いている通り、『メルトバースト』は高熱の魔法の矢を放っている事になり。火属性と言うよりも光属性に近い分類だ。熱線とでも言えばいいのか。
着弾すると爆発とかはしないが、地面が熱で融解しているし、高威力の為土煙も上がる。
同じく、アニータの使用した『バーストショット』は高密度の魔力を圧縮させて拡散させる攻撃で、言うなれば拡散レーザーみたいな感じだ。高威力な上に異常な速さのそれは、喰らえば一溜りもない。しかし、この攻撃には弱点もある。消費する魔力量が多すぎるのだ。
狙撃型魔導銃専用の弾倉用魔石があるのだが、従来の魔導銃の弾倉用魔石より質の良い物で作っている。普通に使用すれば二百発は打てる代物なのに、『バーストショット』を打つ際は四発しか撃てないのだ。
単純に五十発分を一度に消費してしまう。
だったら、拡散レーザーみたいなものも五十発出るのかと言われれば、答えは否。二十発前後の拡散レーザーが出るぐらいだ。但し、威力と貫通力があるため、射線上に並んでいるような状況であれば、効果覿面だろう。
「なッ!?なんだこりゃ?」
騎士の一人がそんな声を漏らす。目の前のスクリームが上空から降り注ぐ攻撃を受けて手足が吹き飛んだり、胴体に穴が空いたりしていたのだ。
死屍累々。そんな言葉しか出てこない様な惨状。
続け様に二発目、三発目と放たれると、動く敵はほぼ駆逐されていた。オーバーキル気味の二人の攻撃にその場にいた仲間以外は、この状況について行けていなかった。
「此方、シャルロット。上空から見える敵は――――」
『念話』で状況を報告してくれる。彼女の報告通り、残る敵は魔族のみ。
シャルロットとアニータが掃討作戦を行っている時。リーゼロッテやユリアーヌたちはと言うと。
元下級魔族だったそれを女性陣と男性陣に分かれる様に激しい戦闘を繰り広げていた。どちらにも後方からヨハンの支援魔法が飛んでいるので、女性陣の方は実質女性陣のみと言う表現は間違っているだろうが、前線で戦っているのは彼女たちなので気にする事は無い。
リーゼロッテの斬撃を魔族が変異した腕で防ぐ。後方からティアナの剣技、アカツキ流大剣術『宵斬り』が魔族を襲う。
「グギャ?」
大剣が魔族の背中を捕えるよりも前に気が付き、もう一方の腕で大剣の側面を殴って軌道を逸らせた。荒々しい対応に僅かに反応が遅れるティアナ。
その一瞬の隙をつく様に魔族から蹴り技が襲う。
しかし、そのタイミングを見計らっていたかのようにリリーの斬撃が魔族の攻撃の軌道を逸らせた。
「硬いっ」
脚を切り飛ばすつもりでいたリリーだったが、予想以上の強度に叩き伏せる事しかできなかった。そのまま攻撃の勢いを殺さず、魔族の胴体に五連続の突きを放った。
スクリーム化した魔族の肉体は脚のみではなく全身が硬化する強化が施されており、五連撃の突きも数センチ程度しか刺さらなかった。
けれど、その数センチでも傷を付けられたと言う事実は変わらない。
刺突後は直ぐにバックステップで距離をとる。元下級魔族は、リリーへと意識を向け、大きく口を開けた。
ッ!!
圧縮された魔力がリリー目掛けて飛んでくる。技でも無ければ魔法と呼べるのかすら怪しい攻撃。近いものだと収束系の魔法が該当する。
リリーは咄嗟に『魔法障壁』で防ごうとすると、リーゼロッテが横から彼女に突撃して、相手の攻撃を避けた。
リーゼロッテの判断は正しく。この攻撃をまともに受けると身体が吹き飛んでいた所だ。
そして、三者は元下級魔族と激しい戦闘を再度繰り広げる。そのあまりに連携の取れた戦闘にブリジットを始め他の騎士や冒険者たち数名は、その戦闘を静かに見守っていた。
何せ、女性陣だけではなく男性陣の方の戦闘もこれに匹敵する戦闘を繰り広げていた。男性陣の要ユリアーヌの槍術と体術。クルトの双剣術と俊敏力。ダーヴィトの攻防両立の盾術に格闘術。女性陣に負けない連携は、レオンハルトとの訓練の賜物であると言える。
いやむしろ、レオンハルト相手に全員で挑む訓練をこれまで続けてきたのだ。互いの思考は良く把握している。
「後ろがガラ空きだ『バックスタブ』」
クルトは、ヨハンの付与魔法や支援魔法で強化され、一瞬で背後に回ると双剣で斬り付ける。
だが、リーゼロッテたち同様に此方も下級魔族の防御力の高さに攻撃が大して入らなかった。斬撃が駄目ならとユリアーヌは、持ち前の戦闘センスで攻撃を躱し、足払いを行う。バランスを崩した所をダーヴィトが盾で渾身の一撃を叩き込む。
彼女たち剣を武器にするメンバーでは行えない戦い方。それにお互い同程度の魔法を掛けて強化されていると結局は基礎的な部分で差が出てくる。一部例外を除き、一般的には女性よりも男性の方が力強い。
打撃を顔面に受け、吹き飛ぶ元下級魔族。ユリアーヌがそこに追撃で連続の突きを繰り出す。防御力が高くても全く攻撃が通っていない訳ではない。多少なりとダメージを受けているのであれば、蓄積させて倒せば良いのだから。
「はあああ――ッ!!」
連続突きを受け続けていたが、突然の爆音で其方に意識を向ける。
ユリアーヌが見た光景は、リリーに向かって放たれる何かをリーゼロッテがギリギリで救出した所だった。
一瞬の出来事だったが、その一瞬の隙を今度はユリアーヌが突かれる。
腹部にめり込む異質に変化した魔族の腕。魔法により防御力が向上しているユリアーヌだったが、その衝撃までは留める事が出来ずに飛ばされる。
槍を地面に突き刺し、吹き飛ばされていた身体を如何にか無事に着地させる。普通であればこのタイミングでの追撃は避けられないはずだが、そこはダーヴィトとクルトがフォローに入って、戦闘を続けていた。
「これでもくらえッ『シールドストライク』」
「舐めるなッ『アサルトブレイド』」
盾の淵で相手に攻撃するダーヴィトと八連撃の斬撃を繰り出すクルト。更に連撃を繰り出し終えるとヨハンの方へ顔を向け無言で頷く。ヨハンもそれに対して無言で頷き返し、別の魔法を展開させた。
「<高く翔る疾風よ。かの者を――――>『跳翔』」
空気の足場を作り出し、そこを踏み込むと高く跳躍させてくれる風属性魔法。その魔法を無数で展開させた。空気の足場は何も地面に並行する向きだけでもなく。水平に足場を作り出せる。すると、高く飛ぶではなく突進する様な速度で移動できるのだ。
それを操る技術は必要になるが。
クルトは何の迷いも見せず、その足場を使って空中での高速移動を行った。
「『フライングアサルト』」
以前ブラックオーガとの戦闘の時にブラックオーガが使おうとした技。短剣を使った暗殺技だが、クルトは双剣・・・ではあるが、通常の剣よりも短く使えなくはない。
高速移動にものを言わせて相手を斬り付ける攻撃だが、これが中々に厄介であった。何せ俊敏なクルトが身体強化に加えて『跳翔』が加わっている。並みの速さではついて行けない。
相手に手も足も出させない状況だったが、何事にも欠点はある。クルトが使った『フライングアサルト』は、極度に体力を消耗するため、長い時間使用できない。短期決戦向き手段とも言える。
そもそも暗殺技の段階で長期戦は考えていないのだから当然と言えば当然である。
ッ!!
元下級魔族が通り過ぎるクルトの足を掴むとそのまま地面に向かって叩きつけた。
ガハッ!!
地面に衝突した時に肺の中の空気が一気に体外へ放出される。勢いがあった分ダメージも相当のもので、内臓部を出血したのか吐血も見られた。
地面に横たわり動けないクルトに留めの一撃を入れようとする元下級魔族。
「『パリィ』」
ダーヴィトがクルトを庇う様に盾で防御態勢を取りながら間に割り込んだ。盾から伝わる衝撃に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
防御の上から衝撃波が貫通してきたのだ。その拍子に腕にひびが入ってしまう。
ユリアーヌは、慌てて二人の援護に駆けつけてその場から引かせる。
男性陣の方はクルトが意識消失に加え内臓損傷の恐れがあり、ダーヴィトは右腕の骨折、ユリアーヌも戦闘が行えない様な目立った外傷は無いが、満身創痍な状態に変わりはない。
女性陣の方も別の個体の相手をしている時に口から放たれた攻撃を回避して以降、激しい戦闘を繰り広げていたが、その戦闘も徐々に防戦一方の状態になっている。
リリーは足をやられたのか、お得意の連技が繰り出せなくなっているし、ティアナも腕を負傷したようで、大剣を片腕で如何にか振るっている状態。リーゼロッテだけが、ユリアーヌ同様目立った外傷はないが、相当疲労しているのが伺えた。
ユリアーヌやリーゼロッテが激しい戦闘を繰り広げている中、レオンハルトは一人元中級魔族だったそれと目にも止まらない速さの攻防が繰り広げられていた。
しかも、場所は最初の時に居た場所ではなく。崖の中腹にあるちょっとした広さのある足場だ。
このような場所で戦っているのはレオンハルトが皆に指示を出して直ぐ、彼もまた中級魔族の魔女の様な人物に向かって速攻を仕掛けた。
ブリジットたちも参戦しようと考えていたのだが、他とは別次元の戦闘を繰り広げるレオンハルトの姿を見て、噂での情報は誤情報だったと理解させられた。
速いッ!!それにお互いの手数が見切れないっ!?
レオンハルトの斬撃を背中から生えた四本の尾で防ぎ、攻撃を行う。それぞれに役割分担があるわけでもなく防御や攻撃、挟撃と色々仕掛けてくるため、レオンハルトも斬撃の速度を緩める事はしなかった。
ここで言う挟撃は、左右両方から攻撃してきた事を指す。本来のみとは違うが、攻撃を繰り出す人物が多方面から一気に攻撃してくる点で似た様なものなので、そうとらえる事にしている。
(尾が・・・かなり邪魔だな?それに・・・・ッ!!)
元魔女の攻撃は尾だけではない。腕二本から放たれる魔法も中々に厄介であった。今も四本の尾を捌ききっている時に、此方に向かって黒い炎を飛ばしてくる。
通常の火属性魔法『火球』に似ているが、発せられる熱量と込める魔力量が段違いだった。
無詠唱且つ即座に作り出すそれを躱すだけでは、周りに被害が出ると判断し、被害が最小限の場所に移動する事にする。
「上級魔族以上の強さになっているのか。それにあの尾は厄介だ・・・なッ!!」
場所を移す事にしてもそう簡単にはいかない。ただでさえ厄介な魔族が人をスクリームに変える薬を飲み暴走化している。力は数倍に膨れ上がり、おまけに魔法の威力や前にはなかった肉体の変化。それらを初見で相手にしているのだから、簡単ではない事は一目瞭然。
尾に関しては、某アニメの喰種系だったり、某映画の蜘蛛男の敵に出てきた科学者の様なそんな感じの物。映画の敵の様な機械的な感じではないので、アニメの方に近い気もするが・・・。
身体強化だけではどうする事も出来ないと考えたレオンハルトは、再びあの力を使う事にした。王都に魔族が襲撃してきた時に使用した神明紅焔流口伝『心武統一』精神を集中させて反応速度を飛躍的に向上させる。しかも、肉体もそれに合わせて動かせるレオンハルトの切り札。
以前はその力で限界まで駆使した事により、当分動けなかったがそれから何度も練習を重ねて、以前よりも消耗を押さえられるようになっている。
「『心武統一』ッ!!」
決まった手順の構えから一気に雰囲気を変えるレオンハルト。周囲の者たちは何が起こったのか理解できない反面、王国騎士団三番隊隊長や副隊長たちはそれが何か知っている様子。あの時彼らも戦闘に加わっていたため、一度目にした事があるし、していなくても耳に挟んだことはある。
そして、今まで以上の速さで魔族を圧倒し、斬撃からの蹴りで崖の方に追いやる。
「『轟雷』・・・『螺旋掌』」
まだ崖まで距離があり、尾で如何にか吹き飛ばされるのを食い止めた魔族の元に一気に間合いを詰め、超近距離から放つ神明紅焔流体術の技二連続で放った。
内部破壊の『轟雷』に内外への強い衝撃を食らわせる『螺旋掌』。防御力が高かろうとそれは表面上の話で、内部に関してはそうではない。確かに筋肉などで強度を増す事は出来るが、この魔族は女性。それも肉弾戦の得意なタイプではなく、魔女の外見をしている様に魔法戦を支流にした魔族。
そういう意味でもこの二連続技は効果絶大。
今度こそ崖へと吹き飛ばす事に成功する。
「よしっ。そのまま―――ッ!!」
冒険者の一人が、これで一体倒したと勘違いをした時、尾の四本のうち二本が地面に突き刺して崖から放り出されない様にしていた。本体である身体は崖の外に出ていても、これでは直に復帰できる。
「弓隊まぇ・・え?」
騎士が慌てて弓を装備している者たちに攻撃の指示を飛ばそうとした瞬間。その光景に目を奪われる。
「さっさと落ちろッ!!」
いつの間にかレオンハルトが崖の外にいる魔族の近くに移動し、右足を高く上げて振り下ろした。俗に言うかかと落としである。
元中級魔族は、ダイレクトにその攻撃を受けて崖の下へと叩き落された。
「レオンハルトど―――の―――」
レオンハルトもその身体を崖の外に投じている。即ち彼もまた崖の下へと落下していったのだ。
数人の騎士や冒険者が慌てて崖の方に移動すると、崖から落ちながら尚も戦闘を続けるレオンハルトと魔族の姿を見て、驚きの表情を見せる。
彼らには重力と言う概念が無いのかッ!!と言いたげな勢いだが、そもそもこの世界に重力と言う認識は乏しい。ものが上から下へ落下するのは当たり前だが、浮遊する板や空を飛ぶ生物が要るため、大体のものは下に落ちる程度だ。
何が悲しくて下に物が落下する原理を追求するものがいるのだろうか。それよりも有用性のある魔法や魔道具について調べるものの方がかなり居るのだから。
レオンハルトは落下しながら、崖を足場に風属性魔法や土属性魔法の上位属性、重力属性魔法を併用させて巧みに戦闘を行うのに対し、魔族は二本の尾を崖に突き刺して戦闘を継続していた。
(隙があればすぐに上に戻ろうとする・・・上に人がたくさんいるからか?それとも単に有利な足場を求めてか?試してみるか)
前者の場合は、結局上る事自体を阻止した動きになるが、後者であれば適当な足場で戦闘を行えばよいだけの事。それに崖から突き落として分かった事は、この魔族は空を飛べないと言う事だ。もしかしたら飛べたのかもしれないが、今は飛べないのはこの状況を見て判断できる。
適当な足場を探すと丁度、落下場所と地面との中間あたりにそこそこ広めの足場を見つける。
一度距離をとるために『双鎚連』で体勢を崩し、風属性魔法『空気砲』で魔族を足場まで吹き飛ばす。無論、途中で尾が何とか崖に突き刺さり阻止しようとするが、問答無用で数弾叩き込んで誘導した。
同じ足場に降り立ち、周囲に被害が出ないと判断するや否や、レオンハルトは斬撃で尾の攻撃を捌き魔法を躱しながら技を叩きこんだ。
場所は山道で戦っている皆の場所に戻り、今かなり状況はよろしくなかった。
片腕が使えないダーヴィトに未だ意識を取り戻さないクルト。満身創痍で尚戦闘を続けるユリアーヌ。
もう一方もリリーが足を負傷して速さを活かせず、ティアナも腕を負傷し、斬撃の威力が半減。何とかリーゼロッテが攻撃を捌いて相手にしている。
ヨハンの方は、両陣営に支援魔法と援護を行っており手が回らない。
「ダヴィ。十秒で構わない時間を稼げるか?」
「どうするつもりだ?」
「このままではジリ貧だ。此処でとっておきを食らわせる」
「分かった十秒でも二十秒でも時間を稼いでやるッ!!だからきちんと倒せよッ!!」
「ああ」
ユリアーヌは一度下がって、集中力を高め始めた。
その間ダーヴィトは、動かせない方の腕に付けた盾を外す。痛みで顔を顰めるが、それもそのはずでひびが入っていただけの腕は数度の攻撃を受けてしまい完全に折れてしまっている。その痛みはかなりのものであっても此処で引き下がるわけにも行かず、如何にか戦闘しているのだ。
外した盾を元下級魔族に向かって投げつけた。
「『シールドブーメラン』、はあああああ」
投げた直後に全力で魔族に接近するダーヴィト。投げた盾は地面に叩きつける様に落とされるが、真正面から投げれば避けるか叩き落とすかが普通だ、だからこの状況も簡単に想定で来ていた。
「遅いんだよッ!!『シールドタックル』」
身体全体で相手に体当たりをするだけのものだが、接触面に盾を噛ませることで相手へ与えるダメージを増幅させた。
幾ら防御力が高くても体当たりを食らえば大抵の者は後ろに倒れる。けれど、相手は変異した魔族・・・スクリーム化した魔族。
後ろへ仰け反らせることはできたが、倒れさせることはできず、反撃を許す。
「―――ッ!!うりゃ」
攻撃を今度は正面から受け止めない。何せ俺は・・・。
盾を武器にしているんだったら、相手の攻撃は極力躱さないとな?盾で攻撃を受けていたら何時まで経っても攻撃のチャンス来ないしね。だから、今日から回避の猛特訓だッ!!
盾は通常敵の攻撃を受けるもの、それを主にする盾職はパーティーメンバーを守る要として重要。けれど俺の盾は守りではなく攻撃を主にする攻撃型盾職。つまりは盾で攻撃を防ぐ事は最小限に、原則は回避と受け流しを教えられてきた。この数年そればかり身体に叩きこんでいる。
だから・・・・。
「体当たりから拳を繰り出すのかッ!!」
「けど、相手も反撃してきている」
身体を限界まで屈めて紙一重で敵の攻撃を躱した。本当に紙一重だったため、髪の毛が十数本斬られるが、そんな事はどうでもいい。
今はこれをお前に叩き込めれば・・・良いのだッ!!
レオンハルトから教わった技・・・神明紅焔流体術『螺旋掌』。回転するように打ち出す掌打。利き腕が折れているため、利き手ではない方から放つ技と言う事もあり威力は従来のものよりも劣ってしまうが、それでも今の状況では少しでもダメージを与える方が良い。
「ぐっ」
無理な姿勢から放った為、相当体に負担がかかる。
「うりゃああ『螺旋掌』」
『シールドタックル』でも吹き飛ばせなかった魔族を遂に吹き飛ばす事に成功する。ダーヴィトはそのまま倒れる込むが、最後の気力で彼に全てを託した。
「十秒稼いだ・・・ぞっ」
ユリアーヌはダーヴィトから託された思いを受け継ぎ、槍を強く握りしめる。
「ああ。後は任せろッ!!いくぞ」
今までで最も集中力を高め、維持する。酸素が脳に行っていないのか、油断すればあっと言う間に意識を手放してしまいそうなほどの集中力。
そんな状態で、一気に間合いを詰めるため、全力で駆ける。実力者たちにはその光景を見て目を見開く。ユリアーヌの全身から漏れ出る闘気が、まるで意思を持っているかのように形状を変え、巨大な龍の頭の様に見えたからだ。
極稀にこの様な闘気が変異する事はあるが、大体は蛇の頭や鳥の頭、獅子などであるが、生物の頂点に君臨する龍は過去の偉人たちを見てもほとんど顕現した事が無いほどだ。
「ギヒッ!!」
その姿は、スクリーム化した元下級魔族にも視る事が出来たようで、怯えた様子で後ずさりしていた。
「はあああああああ『ドラゴンバスター』ッ!!」
三連続の突き技。しかも、一撃毎に龍の頭も一緒に襲ってくる感じで、実際にくらう一撃もこれまで以上の強力な突きとなって、魔族の身体を食い破る様に穿っていた。
ユリアーヌの攻撃が止むと、そこには・・・・。右顔半分と右の肩を失い、腹部に大穴を開け、左大腿部が吹き飛ばされた魔族が、残された肉体を痙攣させながら絶命した。
ユリアーヌたちの方の魔族は無事・・・とは言い難いが、如何にか迎撃に成功した。
残る魔族は二体。崖の下でレオンハルトと戦闘を行っている魔女風の魔族の化物とリーゼロッテたちが相手にしている。今倒した同種の魔族だけだ。
槍を杖の様にして体重を支えながら、リーゼロッテたちの方を見ると、彼女たち・・・いやリーゼロッテがその元魔族を追い込んでおり、ティアナとリリーも自身の得意とする雷属性魔法と氷属性魔法でそれぞれ援護攻撃をしていた。
雷属性魔法『稲妻』や『雷球』、『雷槍』などの魔法を打ち込む。『稲妻』は雷属性の中でも初歩の分類だが、発動が早く魔法の速度も随一のため、かなり譲歩される。太い一本の電流を撃ち出すのだが、当たれば身体を一時的に動けなくする事も出来る上、魔力量が高ければ感電死させる事も出来るのだ。
『雷球』は『火球』の雷版で、黄色っぽい球の周辺を電撃が走っているのが肉眼で把握できる。
『雷槍』は、雷で出来た槍を敵に投げつける技。同格の魔法では火属性魔法の『火槍』や氷属性魔法の『氷槍』がある。
リリーも氷属性魔法『氷槍』や『凍魔弾』などを打ち込んだ。範囲攻撃が多い氷属性魔法の中で『雷槍』同様、氷の槍を作り相手に投擲する『氷槍』。『氷球』の球体状の物とは異なり、やや大きめの尖った石礫の様に不規則な形状をしている。
魔法攻撃を煩わしそうに避け、リーゼロッテの剣撃も如何にか防ぐ元魔族。だが、此処に来てリーゼロッテが更に切り込んだ。
「はああああ『ブレイブスラッシュ』」
もはやリーゼロッテの十八番と呼んで差し支えない技が、元魔族の腕を斬り落とす。
右腕が斬り飛ばされ、苦痛を感じているのかかなり苦しそうな表情を表していた。これ以上追撃させない為にも残された左腕で対処しようと振り上げると、何かが左腕を貫通し直後に吹き飛んだ。
左腕も吹き飛ばされて、両手を失った元魔族はそのまま地面に転がる。
急に腕が吹き飛んだ事で、リーゼロッテたちを見守っていた騎士や冒険者は顔を何かが飛来してきた方へと向けた。
「シャルちゃん。ナイスショットッ!!」
元魔族の腕を吹き飛ばした攻撃を仕掛けたのは、はるか上空から魔導弓でスクリームの残党を殲滅していたシャルロットが、全てのスクリームを無力化し、リーゼロッテたちの援護にやって来たのだった。
火属性魔法『烈火闘気』を使用し、リーゼロッテの周囲の温度が急激に上昇し始める。合わせて『劫炎装填』も使用してミスリス混合剣が赤く燃え上がった。
「これで止めッ!!『紅蓮剣』」
炎を纏うリーゼロッテの剣は、斬撃技を繰り出し元魔族の首に直撃させた。纏った炎がジワジワと元魔族の皮膚の焼き、剣先に触れている場所は熱で溶けるかのように剣が少しずつ深く食い込んでいった。
「ギャアアアアアアアアアア」
最後の悪足搔きとばかりに暴れまわる元魔族だったが、両腕とも失っている状態では特に何もできない。起き上がっている姿勢であれば、噛みついたり足技などをしたりして反撃できただろうが、地面に横たわっている状態では流石に何もできない。
結局、リーゼロッテの斬撃を拒む事が出来ずに元魔族はそのまま首を跳ね飛ばされて絶命する。
地面の一部まで纏っていた炎で溶かす程の高熱。リーゼロッテの額からも汗が噴き出る様に大量に出ていた。
二体目の変異化した元魔族も討伐し、スクリームも掃討済みの彼らは、此処で漸く安心した表情を見せ始めた。
けれど、忘れてはならないのは、崖の中腹で激しい戦闘を繰り広げている元魔女の上級並みの力を持つ中級魔族と魔族殺しの二つ名を持つレオンハルト。お互いに一歩も譲らない戦闘に最初から見ていた騎士や冒険者は、自分たちの処理速度を超えた戦闘に魅入られていた。
神明紅焔流口伝『心武統一』を使用して、超が付く反応速度で魔族の身体から生える四本の尾からの攻撃を捌き、反撃を行う。
「くそっ」
彼らしくない言葉を吐き捨てる。
四本の尾の攻撃に加えて、元魔女と言う事で魔法まで使用してくるのだ。中々倒しけれない事に苛立ちを感じるのも仕方がない事。それに、『心武統一』を以前よりは使いこなせていると言っても、タイムリミットは存在する。
止めの一撃を加えるには強力な斬撃で首を落とすか、心臓を破壊するしかない。出来れば心臓は残しておきたいと言うのが彼の思い出もある。スクリームが他国とは言えこれだけ出没してきているのに、状態の良い検体がほとんどなく調べられていない。普通のスクリームでも貴重なのに魔族を素材にしているので、どうしても確保したいところだ。
そうなると、心臓部分は余り傷つけたくない。それが余計に戦闘を長引かせていたのだ。
「やむを得ない。多少荒っぽくても仕留めなければ、此方が不味い」
意を決したレオンハルトは、愛刀を鞘に納める。
レオンハルトの得意な斬撃の一つ・・・抜刀術。
居合の構えをして、敵の攻撃を誘う。初見でこの技を凌ぐのは至難の技でもあるし、仮に防がれたとしても次に繋げれば良いのだから。
神明紅焔流抜刀術奥義壱ノ型『伐折羅』。使用者の周囲に見えない絶対的領域を張り巡らせて、その領域に入ってきた全てを斬り捨てる。原点にして最速の斬撃。
襲って来る四本の尾は、領域に進入居た瞬間に悉く斬り落とされる事になる。
四本全てが斬り落とされ地面にそれぞれが落ちる瞬間、再び居合の構えを行うレオンハルト。神明紅焔流抜刀術奥義弐ノ型『真達羅』身軽な瞬発力を活かした突進系の抜刀術。ほんの瞬き程度の僅かの時を一瞬で間合いに入り込む。
一閃・・・・そう一閃振るおうとした時。
ッ!!
とてつもない悪寒を感じ取り、刀を振るう事なくバックステップでその場を退く。
その判断が正しかったようで、退いた瞬間に元魔女の胸元から一本の手が出てきた。正確には腕が胸を貫きその手には魔女の心臓が握られている。
「フフフッ。中々良い結果を見出してくれましたねー」
心臓をくりぬかれた魔女はそのまま骸となり力なくだらりと崩れ落ちる。
「お、お前はッ!!」
崩れ落ちた事で背後に立つ人物を目撃するレオンハルト。常時周囲を警戒していたのにも拘らず、間合いに入られた事に焦りの表情と共にその者を目撃した事に二重の意味で驚きを隠せなかった。
読んで頂きありがとうございます。
次回、少し短めですが明日投稿を予定しております。
楽しんで頂けた方は是非ブクマや評価をお願いします。




