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083 長距離攻撃の恐怖

 帝都へ向かう途中に遭遇したスクリームとの戦闘。以前のスクリームと違ってかなり強化されており、悪戦苦闘する高ランクの冒険者たちに騎士たち。


 加えて、戦闘が行われている場所には、視界がほぼ無いほどの濃霧が発生しており、追い打ちをかけるかのように索敵や探索系の魔法封じ、方向感覚を狂わすなどの策を練られていた。


 スクリーム自体、元々実力のない冒険者では手も足も出なかったのに、それが強化されこの悪条件での戦闘でかなりの負傷者が出ていた。


「きゃああああああああああ」


 レオンハルトたちが奮闘する中、彼の所有する馬車から悲鳴が発せられる。馬車周辺で戦闘をしていたリーゼロッテ、エッダ、ダーヴィト、クルト、ヨハンのメンバーに、(ムーン・)(ドロップ)のリーダー、エミーリエと剣士マーリオン、数名の騎士たちは馬車に向かって走り出す。


「シャルちゃんッ!!」


 馬車にはシャルロットの他にアニータとエリーゼ、ラウラの姉妹も乗っていた。エリーゼとラウラは護身程度に武術を教えているが今回の敵では焼け石に水だろう。遠距離型のシャルロットとアニータを二人の護衛に残してはいるが、馬車の中では成すすべもなかった。


 叫んだ声はラウラのものだが、エリーゼの声も聞こえた。


「―――中の者たちは戦えないの?」


 誰が残っているのか知らないエミーリエとマーリオン。リーゼロッテに続く様に走り出した。エッダは騎士たちと共に襲撃に備える。


 リーゼロッテが返答をしようとした時、向かっている馬車の中から吹き飛ばされるスクリームの姿が目に映った。


 エミーリエがスクリームに止めを刺しに行くと・・・そこには、既に息絶えておりその身体には無数の魔法の矢が突き刺さっていた。


 シャルロットが放った至近距離からの攻撃。


 リーゼロッテが馬車の中に入ると、気を失っているエリーゼとラウラを抱える様にアニータが床に座っており、その近くでシャルロットが弓を持たずに構えていた。


 何が起こったのか分からないリーゼロッテ。駆けつけたマーリオンに至っては驚いた顔をしていた。


 それもそのはずだ。何せシャルロットが三人もいるのだから。しかも、アニータたちが座り込んでいる近くには四人の横たわった死体まである。


「えっ!?なにこれ?」


 遅れてきたエミーリエもその光景を見て絶句。


「ふう。如何にか出来たみたいね」


 三人いるシャルロットの一人が、警戒を解き額から流れる汗をぬぐった。すると、横たわっている四人と弓を射抜く構えをしていたシャルロット二人が、煙の様に霧散した。


「あれ?リーゼちゃんどうしたの?それにエミーリエさんとマーリオンさんも」


「い、今のは・・・何?」


 これはブリジットがもし敵だった時、外からの攻撃には強い馬車の中での対策の一つだ。シャルロットとレオンハルトが作ったオリジナルで、幻影魔法『影分身(ファントムシャドー)』と密偵などが良く使用する隠蔽魔法『隠蔽(ハイディング)』の同時使用。これで本体を隠し、(デコイ)を幻影魔法で作り相手を騙す。


 幻影魔法『影分身(ファントムシャドー)』は他にも使用方法があり、本体と同じ攻撃を行う事が出来るのだ。但し消費する魔力量は倍以上必要になるため、乱発するのが難しく余り実用的ではなかった。


 異常な魔力量を持つ者以外は・・・。


 説明を終えた頃、レオンハルトから『念話(テレパシー)』が届いた。


「シャル無事か?」


「ええ。荷台に進入してきたからアレを使ってしまったけれど」


「構わない。ブリジットは此方の味方の様だ。ティアを庇って敵の攻撃を受けた。俺も確認はしていないが、かなりの重傷らしい」


 レオンハルトの報告はかなり簡素化されているが実際は、ノーマンとその仲間がスクリームの攻撃を受け仲間が負傷。レオンハルトが駆けつけようとするも居場所が分からず、近くに居た騎士たちの元に向かう事になった。そこにブリジットがどういう方法を用いたのか分からないが、ノーマンたちの位置を特定し駆けつけ、その窮地を救った。


 問題はここからで、その後二人を連れて王太子殿下が要る馬車の元へ誘導した。するとそこにもスクリームの集団が騎士たちを襲っており、此方は人数が居たから凌ぎ切っていた。唯一その中でティアナが負傷した騎士を引き摺って安全地帯へ連れ込もうとした時、他の騎士によって吹き飛ばされたスクリームが運悪くティアナとぶつかってしまった。その衝撃でティアナは武器を落とし、スクリームはティアナがクッション代わりになったため、ダメージが軽減。直ぐに態勢を整えてティアナを襲ったのだ。


 間髪入れずにブリジットは、剣で斬り付けるも首を落とす事が出来ず、自身をティアナとスクリームとの間に入り、スクリームの攻撃を生身で受け止めた。


 一応、魔法障壁を掛けていたのだが、強引に突破されて左肩を素手で貫かれた。


 僅かな時を稼いだことで、今度はティアナが手元に落ちていた大剣を手に取りブリジットの死角からスクリームの背後を取り、足払いをして地面に転がすとその心臓部分目掛けて大剣を突き刺したのだ。


 ティアナは持っていた水薬(ポーション)でブリジットの傷にかけるも、予想以上の深手の為塞ぎきれなかった。


 これが、ブリジットが負傷した時の状況である。


 今は、王太子殿下の元にいるエルフィーの治癒魔法で傷はふさがったが、流れた血の量が多く直ぐに復帰できないとの事。水薬(ポーション)も治癒魔法も万能ではないのだ。けれど、エルフィーには医術を教えている。流れた血を補う為の輸血を行えば問題はないはずだ。


「今エルが処置している。それよりもこのままではジリ貧になる。シャルはアニータを連れて上空へ上がってくれ」


 濃霧の外に出れれば、この面倒な状況を打破できるかもしれない。全方位は方向を狂わされているので恐らく濃霧から逃れられないだろうが、上空は重力がある。重力に逆らう様に飛べばいずれ、この濃霧から脱出できると考えたのだ。


 その役目は俺でも構わないのだが、どれ程上空に上らなければならないのか分からないし、この乱戦で抜けるのはかえって仲間を危険に晒してしまう。そこでシャルロットとアニータに上空から遠距離攻撃で対処してもらおうと考えた。


 アニータには空中移動用の飛行(フライト)する(ボード)を持たせているし、秘策も渡している。実戦で使用するのは初めてだが、あの子の腕なら問題ないと自負している。


「――――以上だ。任せて良いか?」


「ええ。此処の守りはどうするの?」


 ダーヴィトとリーゼロッテに任せる様、指示を出す。此方から一方的に『念話(テレパシー)』で指示を出しただけなので相手はそれに返答できない。チームの中で使用できるのは僅か三人だけなのだ。


(これは今後どうするか検討する必要があるな)


 今まではそれ程不便に思わなかったが、こうも仲間たちを分断された挙句、連絡手段が無いと言うのは些か困った事態である。他の冒険者チームや騎士たちも連絡手段が無い為、大声で伝えてきているが、戦闘音や悲鳴などの雑音も多く伝達がしづらい。


 そう言えば、誰か偉い人が言っていた言葉に、情報戦を制す者は戦いを制すとあったな。何だったかな・・・確か孫氏曰く名君賢将の働きて人に勝ち、成功、衆に出づる所似のものは、先知なり・・・だったかな。


 聡明な君主と賢い将軍が行動を起こして、常に敵に勝ち、並外れた成功を収めることが出来る秘密は、まず敵に先んじて情報を収集するからである。確かにその通りではあるが、実際に戦闘が始まっても情報を如何に素早く伝達できるかで、勝敗が大きく揺らぐのもまた事実だ。


 まあ、それよりも今は彼女(シャルロット)たちにこの状況を打破してもらう他ない。


「リーゼちゃん、ダーヴィトさんと一緒に此処お願い。私はアニータと上へ」


「分かった。気を付けてね」


 シャルロットは、風属性魔法『飛行(フライ)』でアニータと一緒に上空へ飛び立つ。外での戦闘をしてこなかった二人は、予想以上の視界の悪さに表情を曇らせる。方向感覚も狂わされている実感があるので、定期的にシャルロットは『飛行(フライ)』の魔法を解除し、重力の落下でどちらが上なのか調べながら進んだ。


 アニータが使う飛行(フライト)する(ボード)は、解除して落下による重力を確認するのには不向き、一度や二度ならまだしも何度もとなると落下する可能性もありえる。まあ安全のために、(ボード)から離れても追尾してくる機能は付いてはいるが、この濃霧でしかも妨害されている中だとうまく機能するか分からない。


 かなりの距離を進んだように思った頃、二人は漸く濃霧から脱出する事が出来た。


 凡そ地上から三百メートル上空からみた光景。濃霧はまるで半球状に構成された・・そうではない、きっちり半球体の展開された霧。自然に発生したとは考えられない形状をしていた。


 霧の外に数名の存在を確認する。


 濃霧の中では使用できなかった探索系の魔法や索敵系の魔法も問題なく行使出来たおかげで、すぐに居場所を捕える事が出来たのだ。


「アニータ、あそこにこの霧を発生させている集団が居るのが分かる?」


 四体の魔族が霧に向かって両手を突き出し、魔法を発動させていた。更に四体とは別の三体の魔族のうち二体が別の魔法を展開している様で一体はそれを指揮していた。


 指揮と言うか偉そうな態度をしていたので、この襲撃の主犯格なのだろう。


 濃霧を発生させていると思われる四体の魔族は背中に蝙蝠の様な翼を生やし、皮膚は青白くそれでいて瞳は血の様に赤い。鋭い牙と側頭部には捻じれた角が生えており、吸血鬼と悪魔が混ざった様な容姿をしていた。


 別の場所にいる二体は、外見は人間に近いが、顔や身体に蛇の様な刺青(いれずみ)が入っている。胸もある事から女だと言う事はわかるし、一言で言うと魔女みたいな服装をしていた。


 主犯格の魔族は理系?って尋ねたくなるような容姿をしていた。別に白衣を着ていた訳でもないし、フラスコなどの試験官を持っていた訳でもない。でも、そう感じさせる雰囲気(オーラ)を身に付けていたのだ。耳がエルフ族の様に長いが、エルフとは形状が異なる形をしていた。何かで見た事があるソレ。魅了される銀色の髪に白い肌、狂気じみた黄金色の瞳・・・そう、吸血鬼に似ているのだ。


 鳥肌が立ちそうなシャルロット。『(ホーク)(アイ)』で確認した後、魔法の袋から武器を取り出す。アニータも同様に汎用型の魔法の袋からある物を取り出した。


 狙撃銃(スナイパーライフル)・・・魔導銃と実銃を基にアレンジした狙撃銃(スナイパーライフル)。いや、魔導銃同様に魔法も使えるので、狙撃型魔導銃(スナイパーライフル)と言う方が正しいかもしれない。


 照準器(スコープ)も完備しているが、これも魔道具の一種で、今は遠くを見る事と弾道予測線を見せてくれる。本当はもう少し手を加えるつもりだったが、素材や技術不足のためこれが限界だった。


 飛行(フライト)する(ボード)から器用に狙撃型魔導銃(スナイパーライフル)を構えるアニータ。シャルロットもこれまで一度も使った事が無い超長距離用の弓を取り出した。しかも矢は通常のものではなく、魔法の矢専用・・・言うなれば魔導銃ならぬ魔導弓。(フォルム)は長弓の為、扱いが難しいが距離と威力は一押し。魔導弓を構え、狙いをつける。


「準備はいい?」


 二人で話し合って、誰が何処を狙うか決め、狙いを定める。同時に攻撃をしなければ不意を突いた事にはならない。仕損じれば必ず此方からの攻撃に対して対策を立ててくるはず。その事が分かっているからこそ失敗は出来ない。


 二人のタイミングを合わせて、攻撃を開始した。


 四本の魔法の矢を(つる)にかけて弓宛がって(つる)を引き、そして目標を見据えて射る。魔法の矢を四本同時に放つ技『魔法(マジック)(アロー)四連追尾掃射(クアッドホーミングストライク)』。


 四か所を一度に定めることは不可能だが、目標として認識すれば自動的に目標に目掛けて矢が飛んでいく使用である。


「私は皆と違って取り柄らしい取り柄はない、だから・・・ここで外すわけにはいかない『トライデント・バースト』」


 狙撃型魔導銃(スナイパーライフル)の引き金に指をかけ、姉のシャルロットの攻撃のタイミングに合わせて引いた。先端から迸る電流の様なエネルギーが強い光を放つと、三又に分かれた光線が敵目掛けて真っ直ぐに突き進む。


 シャルロットの放った魔法の矢は濃霧を発生させていた吸血鬼と悪魔の混ざった様な魔族に、アニータの魔弾は魔女らしき魔族とこの集団の主犯っぽい吸血鬼の様な魔族に向かって進む。


「「「「ッ!!!!!!!」」」」


 流石魔族と行った所だろう。百発百中のシャルロットの腕でも四体の魔族を仕留めきれなかったようで、二体は額に突き刺さり絶命するが、残りの二体は危機を察したのか、身体を逸らして急所を免れた。それでも鎖骨辺りを射抜かれた者と左太腿部を射抜かれた者は、顔を歪めながら上空を見上げる。


 アニータも魔女の方の一体は心臓部を見事に貫いたが、もう一体は命中率の問題なのか、心臓部を少し逸れた位置を貫く結果となった。主犯の人物に対しては、バックステップで見事に躱す。


 奇襲、それも切り札と呼べる武器で攻撃したのにも拘らず避けられてしまったのは、恐らく攻撃の初動を相手に感づかれ、長距離と言う部分で若干の余裕を相手に与えてしまったのだろう。かなりの危機管理能力を有した魔族であると証明された。


 その証明は、レオンハルトたちにとっては余りうれしい事では何のだが・・・。


 だが、この厄介な状況を作り出していた魔族を倒せたり、一時的にでも注意を逸らせたりする事が出来た事で、濃霧は次第に晴れていった。


「霧が晴れてきたぞッ!?」


「これなら戦えるッ!!」


 霧の中にいた騎士たちや冒険者たちはここぞと言わんばかりに戦闘態勢を整え出した。強化されたスクリームからの奇襲も防げるようになった事で、此方への勝機が見え始めたのだ。


 騎士たちはまず、第一に守らねばならない王太子殿下の乗る馬車に集結し、防御態勢を敷く。冒険者たちは傷付き動けなくなっている重症者の救護をする者と襲って来る敵の迎撃に回る者に分かれた。


 軽症者は、手持ちの水薬(ポーション)で素早く治療をし、そのフォローに回る。


 すると、深手を負っていたブリジットは、エルフィーが手当てし右腕に付けられていた導管チューブを引き抜いた。輸血用パックから中間チューブ、滴下筒、導管チューブを経由してその先にある針を通って血管へ血液を送る。導管チューブを引き抜くと言う事は、その先の針も一緒に抜けてしまう。普通は外れにくいようにサージカルテープやネット包帯などで固定するが、この世界には存在していない物なので、此方では包帯を優しく巻いているだけ、固定するには少し緩い部分もあり強く引っ張ると外れてしまう。


 針の先端から輸血用パックに入っていた血液が滴り、地面を赤く染める。元々戦闘で色々な人の血がそこら中に飛び散っているので、その程度の血が地面についた程度で悲惨さはほとんど変わらない。


 けれど、問題は地面が汚れる事ではなく、輸血が必要なぐらい血を失った人物が治療を中断した事だ。


 治癒魔法で傷は既に治っているが、血の量は失われたまま。失血死はしないが、本来の力を十分に出せない事には変わりない。


 それでも、動けるし霧が消え敵の場所も分かる。方向感覚も元に戻ったとなれば、必然的に彼女が動くのも理解できた。


 狙うは最も近くに居たスクリームの集団。その数四体。ブリジットは、自身に身体強化の魔法を掛けて更に速度を上昇させる魔法も同時に使う。


「ソニックブレイド」


 瞬く間に強化されたスクリームの首を全て跳ね飛ばす。けれど、腕に伝わる衝撃の重さから最後のスクリームを切った後武器を落としてしまう。


 くっ!?


 血の量が減少した事が原因だ。


 しかし、目の前にはかなり厄介な魔族の一団がいる。どうやってか分からないけれど、一流の冒険者が対処しなければならない様な存在。それを三体も倒し、残りの魔族にも深手を負わせていた。ただ、そんな状況でも焦らされるのは、無傷の魔族の存在だ。


 感覚だけでもわかる。アレは間違いなく上級魔族の位にいる個体だと・・・。そしてもう一体は中級魔族程で残りの二体は中級より少し劣る程度ではあるが、下級の中でも強い部類に入る個体たちだろう。


 落とした武器を拾い上げて構える・・・のだが、拾った瞬間に屈んでいた姿勢を起こす。するとどうなるのか。血液が十分でない為、軽い眩暈が起こったのだ。


「それ以上無理はするな。此処は俺たちが対処する」


 ブリジットの前を塞ぐように立つレオンハルト。すでに上空にいる仲間以外で動ける面々を呼び寄せていた。


「幾らあなたが魔族殺しの英雄と呼ばれていても、それは―――――」


 噂とは、いつも正しいと言う事はあり得ない。寧ろ正しく伝わっている方が少ない位だ。そして、ブリジットの言う魔族殺しの英雄。これはレオンハルトが、アルデレール王国の王都に魔族が襲撃してきた時に魔族を倒した事で得た二つ名である。二つ名と一緒にその経緯も国内外に伝わるのだが、ブリジットの聞いた噂はレオンハルトが単独で上級魔族を倒したのではなく、王都に魔族が襲撃してきてその場に居合わせた勇者と王国最強の騎士である騎士団長、そしてレオンハルトの三人が撃破したと言うもの。


 即ち、勇者や騎士団長の手柄を貰ったようなニュアンスに捉えられる伝わり方をしていたのだ。


「此処には、勇者や王国最強の騎士は居ません。あなた方を守りながらでは、勝てません。コンラーディン王太子殿下を連れて離脱してください。せめて逃げるだけの時間は稼いで見せます」


 他国の重要人物を自国内で殺されるのは、帝国側としては不味い。


自身が帝国内でも指折りの実力者で、国の財産の様な立ち位置であっても、それは変わらない。寧ろ命を落としてでも守らなければならないのだ。


「心配して頂きありがとうございます。ですが、大丈夫ですよ。俺の仲間はそんなにやわではありません」


 振り返り笑顔を見せるレオンハルト。


 こんな会話をしている暇があるのかと言いたいが、敵の方も現在動きを止めている。いや正確には、重傷を負った魔女風の魔族と二体の下級魔族は、上級魔族の元に集まろうと移動していたのだ。


 スクリームの方は、騎士や冒険者たちが奮闘しているため、状況にそれほど変化はない。あるとすれば、強化されたスクリームに対して、出し惜しみをせずに全力で対処しているぐらいだ。


「ククククっ。アレは何ですかねー?見た事が無い武器だ。上の二人を捕まえて実験してみたいですねー。ククククっ」


 独り言をつぶやく様に話す上級魔族の吸血鬼。攻撃された事に怒りを覚えるよりも興味がそそられる玩具を見つけた子供の様な反応。


「ヴァロフ様、お助け下さい」


 魔女風の魔族と下級魔族の二体が上級魔族に助けを求める。


「助け・・・ね。そうだっ。これを飲むと良いよ?」


 謎の液体の入った小瓶をそれぞれに渡す上級魔族の吸血鬼。渡された魔族はそれが、何なのかよくわからなかったが、恐らく回復させてくれるだけではなく強化もしてくれると思い一気に飲み干す。


 謎の液体とは、実は人間に飲ませる事で肉体を変異させて、異様な存在にしてしまうもの。言わばスクリームにする為の液体だ。


 これを、魔族が飲む。研究職である吸血鬼ヴァロフは、この液体の開発者である魔族から、時期が来れば魔族にも試したいと言っていたのを思い出し、咄嗟に飲ませてみたのだ。


 ヴァロフの専門は、魔法についてなので人体実験の様なこの液体に興味はないのだが、先の魔法と呼んでよいのか分からない・・・特にアニータの持つ武器に興味がそそられ、それに張り合う様に動いたと言える。


「ア・・・ガッ・・・ギッギ!!グハッ!?」


 三体の魔族の身体に異変が起こり始める。魔女風の魔族は背中からとげとげしい尾の様な物が四本生えてきて、それぞれが意思を持っているかのようにウネウネと動き始める。肌の色は灰色となり、生気は全く感じられず、肉体は脱力した感じになっていた。眼も光が消えた・・・と言うか白目みたいに気色悪くなっている。眼の周辺がどす黒くなり血管の様な物が浮かび上がっていた。


 下級魔族も背中から悪魔の様な羽が生えてきて、肌の色や眼は魔女と同じ感じになる。此方も驚異的な変化としては腕が生えてきた事だろうか。最初は二本だったが、腕が分裂し片方ずつに二本生えている。合計で四本となっていた。


「わーぉ。これは凄いですねー。単純に人族と同じ様になると思っていたのですけれど、全く作用が違いますねー」


 飲ませた液体は同じ物らしいが、人族や獣人族と魔族では全く別の変化をもたらしたのだ。

 すると、ヴァロフの横を何かが通過。早すぎて反応できなかったが、何が起こったかはその後すぐに理解できた。魔女の背中から生えてきた四本の尾の一本が、ヴァロフ目掛けて攻撃してきたのだ。


 鞭の様なしなやかな動きに名剣の様な鋭い切れ味。あっと言う間にヴァロフの右腕を切断していた。


 だがそれだけに終わらず、三本残っているうちの一本も同様に攻撃してきた。


「――――ゴブッ!?実に・・・素晴らしい、これほど・・・強くなるのか」


 ヴァロフはそのまま胴体を真っ二つに切断されて上半身と下半身に分断され地面に横たわる。地面に転がっても尚、話が出来るのは彼が吸血鬼だからであろう。普通の魔族であれば絶命していてもおかしくはない。けど、彼は負傷しただけの事。


 その異様な光景にレオンハルトたちの会話が止まる。


 先程、ブリジットに仲間はやわではないと言ったばかりだが、これは想定外すぎる。


「シャルッ!!アニータッ!!上空からスクリームを掃討。その後魔族討伐の援護。ユーリとダヴィ、クルトは右の個体、リーゼ、ティア、リリーは左だ。エルはそのまま結界を維持。ヨハンは皆のフォローに回ってくれ、エッダすまないがエリーゼたちを頼む。俺は中央のアレを如何にかする」


 レオンハルトの指示でそれぞれが頷く。


「良いか、絶対に死ぬなッ!!これまで身に付けた実力を全て出し尽くせ。最悪、あの魔法で離脱する。だから、生き残れッ!!」


 攻める合図は不要だろう。掛け声と共に全員が動き始めた。


 シャルロットとアニータは、上空から一気に攻撃を仕掛ける。


「『メルトバースト』」


「『バーストショット』」


 シャルロットとアニータの技が地上にいるスクリームに対して、大量の魔法の矢や魔弾を浴びせた。


いつも読んで頂きありがとうございます。

引き続き、よろしくお願します。

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