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082 濃霧の中での戦闘

GWが終わりましたね。

私も早速先週末からお仕事開始しました。


自粛などで仕事が溜まっているかと思ったのですが、通常通りだったので一安心です。

皆さんもどうか気を付けてくださいね。

「方向感覚を狂わされている!?全員、移動は最小限に。この霧は視界や妨害(ジャミング)だけでなく方向感覚も狂わしてくるぞっ!!」


 霧の中で視界を奪われ、方向感覚も狂わされる。更に敵の規模や正体、索敵や探索系の魔法まで封じられたレオンハルトたち。


 チッ!!


 転移魔法で一時撤退を試みるもそれも防がれてしまった。転移魔法の利点は一瞬で別の場所に移動できる事だが、欠点はその消費する魔力量と現在いる地点から目的地点までの経路を把握する必要がある。方向感覚を狂わされているこの霧の中では、その経路がうまく機能しなかったのだ。


 神経を尖らせて周囲の変化を探ろうとする。


「何か聞こえるぞっ。皆警戒を怠るなっ」


 騎士の一人が、周りの者たちに注意を促す。彼の言う通り音が聞こえる。足音が無数に・・・しかも四方八方から。


 そして・・・。


 僅か数メートル先の見える視界の中に突然姿を見せる無数のそれが姿を現した。それは人の姿をしているが、死人の様な肌に目は完全に人のそれではない。眼球は黒く瞳はドス黒い赤色。アンデット系の分類に分けられそうだが、それを俺たちは知っている。いや、正確には遭遇した事がある者から聞いた情報に類似していた。


 流石に眼球などは普通の色ではあったが・・・。それと赤い血管の様なまるで木の根が身体中を走らせている様な模様まであった。情報とは少し異なってもいたが、その存在は間違いなく・・・。


「スクリームだッ!!」


 霧の中から聞こえる声に騎士や冒険者たちは持つ武器を強く握りしめる。ほとんどの者はスクリームと対面した事は無いが、一時期冒険者ギルドで騒ぎになる程の出来事があったため、その存在を周知していたのだ。


 王国民を改造して魔物化させた(おぞ)ましい実験。


 しかも、戦闘を行った者たちの多くは返り討ちに合っている、かなり手強い相手だ。此処にスクリームが出現したとなると必ず裏で糸を引いている・・・先導している魔族もいるはずだ。


 最初の接触から直ぐに彼方此方で戦闘が開始した様で、鉄同士をぶつけた時に起こる様な火花や音、盾で防いだような鈍い音まで聞こえる。苦戦を強いられているのか、汚い言葉や叫び声も聞こえる。恐らく騎士か冒険者が負傷したのだろう。その後すぐに「しっかりしろッ!!」等とフォローに入る声や急ごしらえの治療をしている声も聞こえた。


「ティアッ!!絶対にスクリームを馬車に近づけるなッ!!」


 この中で一番命を落としてはならないのが、アルデレール王国のコンラーディン王太子殿下で、周囲を騎士たちが守っているが移動中は常にエルフィーとティアナ若しくはリリーをコンラーディン王太子殿下の馬車に同行させてもらっている。


 本来ならばあり得ない事ではあるが、エルフィーは聖魔法の使い手にして魔法障壁や結界系の魔法も使える防御面に置いてチームでもトップクラスの実力がある。


 彼女の護衛に二人のどちらかを付けているが、この二人も上級貴族の御令嬢と言う事で作法的な事や戦闘技術の面から考えると妥当ではあった。


 有事の際には、エルフィーが全方位型の結界を展開。レオンハルトたちと初めて出会ったときに使用していた魔法の強化版。展開している結界の障壁枚数は四枚構造となり、その更に外側には騎士団の中で障壁が使える魔法使いが強固な魔法障壁を展開する。


 騎士と一緒にティアナは、王太子殿下やエルフィーを守るため剣を取り、襲って来るスクリームと交戦を始める。


 ティアナがレオンハルトたちと共に行動するようになったからと言って、跳びぬけた力を手に入れたわけではない。この場に居る精鋭中の精鋭である騎士団員には劣ってしまう部分もあるが、それでも騎士団員と同等の戦力を持っているのは、レオンハルトから指南を受け基礎的な身のこなしや反射神経、戦術などを教えられた身に付けた結果だからである。当然、レオンハルトと合流するまでの稽古や彼女自身の才能もあるのだが・・・。


 彼女の持つ大剣は、間合いに入られた場合かなり苦戦する。今回の様に視界が失われ、認識できるようになった時は既に間合いに入られている時、突然目の前に現れるから普通の剣でも対処は難しい。


「―――ッ!!せいっ!やああっ!!」


現れたスクリームの一体を教え込まれた体術で捌き地面に倒した所で、大剣を大きく振りかぶり敵の頸椎部分を狙って斬撃を入れる。


 ッ!!


 硬い何かにぶつかる様な音と共に腕に伝わる衝撃でティアナの顔が僅かに強張る。


 斬撃の刃がスクリームに通らなかったのだ。


 周りでも同じように精鋭の騎士たちが盾を使って攻撃を防ぎ、他の団員が横から斬撃を入れるが多少傷つける事が出来ても致命傷にはならなかったり、ティアナと同じように頸椎を狙った場合は刃が通らず弾き飛ばされたりしていた。


 聞いていた情報と違う―――。


 直ぐにその事を皆に分かる様に大声で伝えた。


「こっちも同じ状況だッ!!どうしたらいい―――くっ」


「このままだと不味いわよッ!!」


 森人の集いリーダーのアーヴィンと(ムーン・)(ドロップ)リーダーのエミーリエが霧の中から大声で返答してくる。


「また来るぞっ!!」


 騎士たちは、身に付けている盾を構えて攻撃に備える。三体から四体ぐらいが一列になって攻撃を仕掛けてくるため、防衛するのにも一苦労だ。一体目と二体目を如何にか盾などで凌いでも二体目か三体目あたりで姿勢を崩されてそれに続く敵に攻撃を貰い深手を負う。


 統制が取れない様な・・・・ましてや元人族や獣人族が改造されて魔物にされる。そんなあやふやな存在が連携を取れるとは、考えつかない。


(方向感覚を狂わされているが、これなら――――ッ!!)


 地面に手を置き意識を集中させる。何らかの魔法を使っているように見えるが、実際は地面から伝わる微細な振動を捕えようとしていたのだ。


 普通なら分からないが、この場所は地面がどうも脆いのか集中すれば僅かに感じ取れる。脆いと言っても数十台の馬車が通過して崩れ落ちる様な事は無い。その程度で崩れ落ちる場所を山道としては使えない。


 予想通り隊列を組んで攻める集団を捕える。この状況で隊列を組んで自由に動けるのは敵の集団だけだ。此方は、奇襲を受け周囲の情報を遮断され、個々に対処させられている。


 王太子殿下の乗る馬車の周辺は密集しているが、他は精々二人から三人ぐらいでの集団が作れているぐらいだ。


 それに先程、霧の中から聞こえた隊列で襲って来ると言う情報が出回っているし、レオンハルト自身二度ほどスクリームの攻撃を受けた。一度目は、防ぐ事で精一杯だったが、二度目は反撃を入れた。予想以上の硬さで頸椎部分は浅く斬り付けるだけに終わったが、手足は今までとそれ程強化されているようには感じられなかった。


 その証拠にレオンハルトの見える範囲にスクリームの身体の一部が散らばっている。腕や足などである。


 斬られたスクリームはそのまま霧の中に消えてしまった為、追撃は出来なかったが暫くは動けないだろうし、動けたとしても他のスクリームの足を引っ張るだけだろう。


 っと・・・そんな事より、今は近くで襲われそうになっている人を見つけた為、其方へ移動した。


「し、しまったっ!!」


 騎士と(ムーン・)(ドロップ)の数少ない前衛の一人マーリオンがいた。マーリオンが足を負傷しており地面に座り込んでいる所を騎士が盾で庇う様に前に出ていたのだが、先頭に居たスクリームの攻撃で大勢を崩している。


 そこに・・・。


「セイッ!!」


 煙の中からレオンハルトが愛刀を構えた状態で現れ、剣術と体術を駆使して電光石火の様に一瞬で四体のスクリームに攻撃した。


「グギャ!?」


 二番目に居たスクリームのそのまま斬撃で腕を落とし、先頭の個体は背後を回し蹴りで吹き飛ばす。三体目は此方に攻撃をしてきたので、躱して腹部から左肩にかけて切り上げる。深く切り込んだのだが心臓部分も頸椎同様に硬く、心臓にダメージが入った様な感触は無かったため、そのままボディーブローを入れる。四体目も同じように攻撃してきたので、今度は硬くてきれなかった頸椎部分を正面から斬り付けた。


 ただ刀を振るうのではなく、体重移動を入れて斬撃の威力を高めた一撃だ。刃は皮膚にめり込み裂け、骨の部分で進まなくなるが力を入れて押し込む事で漸く骨を切断。そのまま首を跳ね飛ばした。


 首を落とされたスクリームは、僅かに残る力で四つん這いに倒れ込んでいたので、背中から刀を突き立てて、一気に心臓を貫いた。此方も心臓部分で一度止まったが、先程と同じように強く押し込むと硬い心臓を貫いた。


 息の根を止めたスクリームの身体から刀を抜き、刃についた血を拭う。


「大丈夫か?これを彼女に」


 魔法の袋から水薬(ポーション)を取り出して騎士に渡す。騎士はお礼を言いながら受け取り水薬をマーリオンの足に掛けた。


 マーリオンも同じようにお礼を伝えてくる。レオンハルトはそのまま倒したスクリームの心臓を素手で採りだした。


「うげっ・・・」


 あまりにもグロテスクな光景に眉を顰めるマーリオンと騎士の二人。取り出した心臓は通常の人造とは異なり何か硬い膜の様な物で覆われていた。


「それは・・・」


「心の臓の部分だ・・・だが、この膜は・・・」


 硬い膜は、まるで癒着の塊みたいな感じになり色は黒・・・どす黒い感じにこれまた紫色の血管の様な物が張り巡らされていた。


「この膜が、攻撃を防いでいるのだろう」


 確かに硬いが、攻撃を完全に防ぐものではなかった。攻撃が通るのであれば、この現状を打破できる。斬り落とした首も確認すると其方も首の部分が同じように硬い膜で覆われていた。皮膚自体も他より少し硬くなっているようだ。


 スクリームの死骸を魔法の袋の中に入れて、皆に体重を乗せて攻撃すれば斬り落とせることを伝えた。防戦一方だった彼らもその言葉で士気が高まる。


「二人はそのまま後退しろ。少し下がった所に他の仲間が居るから」


「居場所が分かるのか?殿下は。殿下は無事か?」


 レオンハルトは次の場所を見つけるため再び地面に手をつける。


「王太子殿下は確認できないが、恐らく大丈夫だ。俺たちの仲間が同行して守りに徹しているはずだから」


 すると、後方にいるはずの人物の声が聞こえた。


「ケリー大丈夫か?」


 この声は・・・ノーマンかっ!?


 だが、正確な位置がわからない。地面から伝わる振動では誰が何処にいるのかではなく、誰かがいると言う事しか分からない。


 霧の中から聞こえる声も近いと言う事は分かるが方向が分からないのだ。すると・・。


「ノーマン殿。今、其方に向かう」


 ブリジットの声も近くから聞こえてきて、彼女もまた近くに居るのだと分かった。霧が発生してから彼女が真っ先に飛び込んで、敵の罠に嵌まりレオンハルトを攻撃して以降姿を見せていなかった・・・霧で分からなかっただけだが、どうなったか不明だった。


 彼女自身もスクリームと遭遇して既に三度接触し、うち四体を撃破していた。流石は(エー)ランク冒険者と行った所だろう。


 俺は彼女にノーマンの事を託して、近くのスクリームを探す。振動から伝わってくる中で、高速で移動している者がいる。恐らくこれがブリジットなのだと判断した。彼女がどうやって仲間を見つけているのか分からないが、今は一刻も早くスクリームを見つけなくては。


 それから、二度スクリームを見つけて同じように倒す。


 一方、ユリアーヌたちの方は。


 自分たちの馬車の近くでスクリームとの戦闘を何度も行っていた。ユリアーヌが二体、リリーが一体、ダーヴィトとクルトが連携して一体倒していた。


「エッダッ!!今よっ!!」


 リーゼロッテが剣でスクリームの攻撃を受け止めている間に、彼女の背後から槍でスクリームの心臓目掛けて突く。


 だが、威力が乗っていなかったのか皮膚に阻まれる。スクリームはそのまま力押しでリーゼロッテの剣を押し返そうとする。


「っく。何て力なのっ!?」


 身体強化の魔法に魔道具も使っているが、それでも力負けしていた。


「はああっ!!」


 疾風の様に現れて、スクリーム背後から頸椎を狙って斬り付けるエミーリエ。その姿を見て咄嗟にリーゼロッテは腹部に強烈な蹴りを入れる。敵の攻撃の威力が弱まった所を今度は身体を捻って躱し、剣を喉元目掛けて切り込んだ。


「やあああああっ!!」


 前後から剣の刃が食い込み、互いが押す力で更に深く刃が入り、そのまま首を刎ねた。


「はあはあ、ありがとう・・・ございました」


 息を切らせながら助けてくれた人物にお礼を伝える。


「ええ。良いのよ?こっちも仲間が助けてもらったみたいだからね」


 そう言うとエミーリエの後を追う様に騎士数名とマーリオンが姿を見せる。


 マーリオンと騎士は、レオンハルトに助けられた後彼の指示に従い後方に下がった。するとそこに居たのはマーリオンの仲間が数名集まっていた。エミーリエもその中に居て、スクリームと戦闘をしていたのだ。


 二人は直ぐに援護に入り、スクリームを追い払いレオンハルトに助けられた事を説明した。それと、彼が大声で言っていたスクリームの倒し方についても話した。


 それから、他の騎士と合流して戦闘を繰り広げてきたのだ。


 リーゼロッテは、しりもちをついていたエッダに手を貸して立ちあがらせてエミーリエの所に行こうとした時。


「きゃああああああああああ」


 守っていた馬車から大きな音と共に悲鳴が聞こえたのだった。


読んで頂きありがとうございます。

今後もぜひよろしくお願いします。

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