078 自由都市アルメリア
おはようございます。先週も怒涛の仕事であまり執筆できませんでした。
従って文字数はちょっと何時もに比べて少ないですが、きりが良かったんで投稿します。
「いやー昼間のアレはやばかったな」
「ああ正直もうダメかと思ったぜ」
野営地で夕食を食べながら騎士や冒険者たちは、昼間のジャイアントセンチピードとの戦闘について話していた。死者は出なかったが、それなりの者が負傷して普通であれば負傷した者を国境の境目にある名も無き街に置いて来ていた所だが、此方には治癒魔法に長けた者が数名いた事により直ぐに治療し、事なきを得ていた。
コンラーディン王太子殿下もこの野営に慣れ始めてきており、騎士たちと共にその日に獲れた肉やあり合わせで作った食事を食べている。
先の場所で宿を取らなかったのは、この次に立ち寄るアバルトリア帝国の南部にある主要都市の一つ自由都市アルメリアに行く為だ。アルメリアから先の国境までは昼夜を問わずに進めば辿り着くが、普通に行く場合はその日にたどり着けない。
今日、あの場所で寝泊まりしたら明日の夜を野宿しなければなかった。道中にレカンテート村程度の小さな村があったりするが、此処は既に帝国領に位置するので、迷惑になってしまう。
金銭で宿の確保は可能かもしれないが、結局警戒しなければならない事を考えると、周囲に何もない方が護衛する側としてはありがたい。
空は日が完全に落ちて真っ暗になり、地上の明るさが少ない為、満天の星空が上空を支配していて、パチパチと鳴り響く焚火の音がまた雰囲気に味を出していた。
そんな環境でレオンハルトたちも持参していた椅子を取り出し、他の者たちと一緒に夕食を食べる。
「いやーレオン君の強さは目を見張る物があるねー。流石、妹が選んだ男だよねー」
レオンハルトの左隣に座るコンラーディン王太子殿下、この護衛の為に王都を離れ幾度となく戦闘を行ってきたが、今日の様な激しい戦闘は初めて見たのだ。魔族襲撃の時の戦闘をかなり遠目から確認はしているが、それと今回では迫力が違うのだろう。興奮が未だに収まらない感じだ。
苦笑いを浮かべるレオンハルトの右隣にはシャルロットがお皿に食べ物を取り分け載せてくれていた。こう言う時は率先してレオンハルトの身の回りを世話してくれるので、彼からしても少し申し訳なく思っている。でも、流石に王太子殿下を無碍にする事も出来ないので正直助かっていた。
王太子殿下の分は、彼の左隣に座っている三番隊の隊長ジークフリートが取り分けていた。隊長なのだからそう言う事をしなくてもよさそうな物なのだが、レオンハルトたちが居る席の配置には、レオンハルトとシャルロット、ティアナ、リリーの四人が座り、他にコンラーディン王太子殿下に三番隊ジークフリート・ヴィーゲルトと騎士団の精鋭が三人程、森人の集いのリーダー、アーヴィンにチェルシー、月の雫のリーダー、エミーリエとマーリオンが参加していたのだ。
夕食を作る時間から周囲の見張りを冒険者や騎士団と行っており、この時間は赤い一撃が周囲の警戒のための見張り番をしていた。因みにユリアーヌとクルトも見張りに出しているし、騎士団からも二人程見張りに出ていた。
・・・・と言うか、まだレーア王女との婚姻の件は極秘のはずだぞ?選んだ男なんて発言をしても良いのだろうか?
「殿下・・?ひょっとして酔っていますか?」
殿下が今呑んでいる飲み物は、プラムで作った果実酒だ。誰が持参したんだ?と言いたくなるが、如何やら持ってきたのはアーヴィンだった。エルフ族は果物を加工した果実酒を好んで飲むそうだ。お酒と言えばドワーフの想像があるが、エルフ族も実はお酒好きらしい。
ただ、異なるのがエルフ族はお洒落な果実酒を好む一方。ドワーフ族はアルコール度数の高いドワーフ殺しと言うお酒やお酒の定番であるエール等がメインらしい。互いに拘るポイントが違う為、言い争う事もあるようだ。
逆に獣人族はその種にもよるが、どちらも好んで飲むらしく。変わったお酒で言うと蜂蜜種、虫や爬虫類の入ったお酒等も飲むらしいが、俺からしたらお断りしたいお酒たちだ。
もし前世で普通に売られていたら「お酒に虫が入っていたわよっ!!」ってクレームの電話がひっきりなしにかかっていただろう。まあ、実際にあるのは知っているが、売っている所は見た事が無い。唯一あるとすればマムシ酒だろうか。
それはさておき、王太子殿下はアーヴィンの持参したプラムの果実酒を三杯ほど飲んで少し酔ってしまった様だ。
「ん?まだ大丈夫さー」
コンラーディン王太子殿下の言う通り、まだ余裕はありそうに見える。・・・そう、見た目だけなら少し酔っているのかな?って感じる程度だ。だが、彼の発言は少し出来上がっているとかではない。公の場でまだ発表されていない情報を開示しようとしているのだから、いやこっそり開示していたな。それらしい事を発言していたし。
「すみません。アーヴィンの飲むお酒は少しアルコール度数が高いのよ?私たちが飲む時は原酒ではなくお湯や水で薄めて飲むのだけれど・・・」
チェルシーがそっと此方に情報を教えてくれた。こっちにも水割りや湯割りがあるんだと思ったが、今はそれどころではない。殿下の酔いを少し鎮めるために治癒魔法『鎮静化』で対処する事にした。
「レオンハルト卿、申し訳ない」
「いえ、今日はそろそろ片付けた方が良いでしょうね」
皆お腹もそこそこ膨れた事もあり、夕食の片づけを行った。警戒に出ている者たちの分は別の場所に既に取り分けて置いているので、次の面々と交代した時にでも食べるだろう。
コンラーディン王太子殿下やアーヴィンたちと別れ、レオンハルトたちはとある場所に向かった。
この護衛依頼を出てから野営する時に使用しているレオンハルトが作った特別性のテント。以前は簡易テントのデザインで中をかなり快適に過ごせるようアレンジしていたが、ユリアーヌたちと合流してから暫く旅をしている間により快適に過ごせる道具を開発していたのだ。その一つがこのテントで、見た目は十人ぐらいが入れそうなドーム型のテントだが、中は五十人ぐらいが寛げれる大空間な仕様になっている。
個室は十室、四人程は居れる部屋を十室作っており、しかもどういう構造なのか二階があり、更に一階と二階の間に中二階を設けている。正確にはこの中二階が一階部分になる様で、台所を始め皆が寛げれる空間と会議が行える部屋があった。食卓も設置しているが、流石に五十人対応にはなっていない。精々二十人が限界だろう。
それでも十分規格外だが・・・・。
二階には各部屋があり、トイレと洗面所が合計で三箇所設置している。一階は大浴場が着けられていた。しかも浴槽は温泉宿顔負けの岩風呂。屋敷の岩風呂とは少し違う雰囲気の物だが、それでも浴室の凄い所は屋内なのに屋外にいる様な感覚を味わえるように設計されていた。
魔法があるからこそ、こういった無茶苦茶な仕様に魔改造できるのだ。
加えて言うならば、中だけではなく外側も実はかなり魔改造されていたりする。物理攻撃や魔法攻撃などの衝撃を九割強霧散させる魔力障壁を常時展開している上、布自体も・・・かなりの耐久力を持つトライホーンラプトスと言う中型の草食動物、見た感じは白亜紀に生息したトリケラトプスに類似しているが、異なるのは角が一回り小さく、尻尾の先にメイスの様な鈍器がある感じの動物の皮膚と特殊な糸を加工し織り交ぜて作った布を使用している。
トライホーンラプトスはレオンハルトたちが、直接倒したわけではなく他の冒険者が倒したそれを商業ギルド経由で偶々手に入った代物なので、もしそれが手に入らなかったらもう少し強度が落ちるものを使用していた所だ。実に運が良かったと言える。
「戻ったぞ?って、・・・あれ?リーゼたちは?」
先に戻っていたはずの他の仲間がテントの中にいない事を疑問に思いエリーゼとラウラに声をかけた。
「お帰りなさいませ。リーゼロッテ様でしたら、エルフィー様とアニータ様と一緒にお風呂に行かれました。ダーヴィト様は自室にお帰りになられて、他の皆様方はまだお戻りになられていません」
「お風呂かー私たちも行こっか?」
シャルロットはそのままティアナとリリーを連れて浴室に向かう。疲労回復はやっぱり風呂に入る事だよなと感じながら、エリーゼに入れてもらった食後のお茶をソファーに座って飲む。
自室に戻っても良いが、ヨハンと話したい事もあるため少しだけソファーで寛ぎ、その間にエリーゼとラウラの二人と会話を楽しんだ。
「あれ?レオくん一人?」
「おかえり、皆お風呂に行ってるよ。エッダも行って来たら?ダヴィは部屋で、ユーリたちは見張りだよ」
ヨハンとエッダの二人が打ち合わせから戻って来る。毎晩夕食の後に数名で翌日の行動の打ち合わせを簡単にしていた。今日は二人が参加しており、騎士団からは副隊長と隊長補佐が出席していたはず。それぞれのチームからも代理人を立てていたと記憶にある。その理由は、明日の夕方前に到着予定の自由都市アルメリアまでの経路なので、それ程問題になる様な事は無いからだ。
エッダは、レオンハルトの言葉通り浴室に急いで向かった。もしかしたらリーゼロッテたちと入れ違いになるかもしれないが、シャルロットたちがまだ居るだろうから、一人で入ると言う事はなさそうだ。
「今日の話で、明日の経路は昨日の夜に決めた通りだね。まあ今日の午前中に時間をとられたから、予定場所よりだいぶ南の地点に野営したから、アルメリアの到着時間は遅くなりそうだけどね」
今日のジャイアントセンチピードとの戦闘がなければ、明日の昼前頃には到着していたのだが、旅は何が起こるか分からない。まあ、これも致し方無い事だろう。
「明日の朝の見張りは誰が出るの?」
今の時間は赤い一撃と円卓の騎士から出ており、約一刻半毎に見張り役を交代するようになっている。この次は赤い一撃の別のメンバーと森人の集い、その次が森人の別のメンバーと月の雫、最後が月の雫の別のメンバーと円卓の騎士と言う形となっているのだ。騎士団は人数が多いので少人数を全てのシフトに組み込んでいる。夜間警備をした者はその日馬車の中で仮眠をとるそうだが、正直馬車の中で仮眠など取れず、疲労のみが蓄積される。
流石にユリアーヌとクルトを再び見張りに立たせるのはどうかと言う事もあり、明朝の見張りはダーヴィトとエッダ、ティアナと自分で行う様にしている。
選任する人数に差があるのはチームの人数が違うのもあるし、今回レオンハルトたちがジャイアントセンチピードとの戦闘を主に引き受けた事で優遇されただけである。
その前の野営時は、森人の集いが奮闘した為、見張り役を少人数で済まされたと言う事も発生している。
レオンハルトたちだから優遇されたわけでは決してない。
「お風呂お先に頂きました」
ヨハンと話していると風呂上がりのリーゼロッテたちが戻ってきたのだ。可愛らしい寝間着に着替えているエルフィーは、頬を少し染めながら声をかけてきたので、少しお話をしようかと誘う。
「エリーゼ、すまないけど三人の分の飲み物を用意してくれるか?」
「承知しました。温かい飲み物でよろしいでしょうか?」
「はい。あっ!!私手伝いますよ?」
こういう時は率先してお手伝いを申し出るエルフィー。貴族令嬢にも拘らず、こういう気の利き方はシャルロットと肩を並べる程うまい。教会で修道女見習いの経験が彼女をこの様な出来る女性にしたのか、それとも元々の素質からか分からないが、とても素晴らしい事だと思う。
「ありがとうございます。ですが、もうほとんど準備は済んでいますので、ごゆっくりされていてください」
エリーゼはラウラと共に台所に向かい。湯を温め直している。他の者たちも参加する事を考慮して多目にお湯の準備をしていた。
「お?戻って来ていたのか?」
二階から降りてくるダーヴィト。その手にはこれからお風呂に行く為の着替えなどが入った籠を持っていた。まだ女性たちが入っている事を知らせると、なら自分もお茶の場に混ざって待つ事にしようと着替えを自室に戻し、降り直してきた。
四半刻程雑談をした辺りで、シャルロットたちも戻ってきたので、入れ替わる様に男性陣が席を立ち着替えを取りに戻る。
「レオンくんたちと何を話していたの?」
「アルメリアに到着したら何しようかとか。美味しい物や特産品が何なのか話してだけだよ。あ、そうそうティアちゃん明日早朝の見張り当番らしいから早めに寝ておいたほうが良いよってレオンが言ってたよ?」
「エッダも当番よね?何だったら変わろうか?今日、会議参加して疲れているだろうし」
「リリーちゃん?本当はレオンと一緒に居たいだけだったりして?」
レオンハルトたちが風呂から出るまで皆、楽しそうにお話するのであった。
翌日、見張りの最中に魔物が襲ってきたが騎士団が素早く倒していたぐらいで特に変わった事もなく、野営地を後にした。
道中も目立った出来事は無かったが、進行方向から来る馬車と休憩場所が重なり、お互いに情報交換をした。相手はアルメリアにお店を構える商人で、自分たちが道中素通りした村落へ物資の配達に出かけている最中だったようだ。
何でも、その村落には特産の花蜜と言う蜜が売られているそうで、それを買いに行っているとも言っていた。商品名を聞いたコンラーディン王太子殿下は、その花蜜について知っていた様で「ああ、この近くで採れる蜜なのか」と驚いていた。出来れば帰りに買って帰りたいと言うので、商人に村落の場所を教えてもらう事にした。
情報料として銀貨一枚を支払うと、ついでに村落の人に話を通してくれる事になったのでレオンハルトの名前を伝えておいた。
「メリアネアってアルメリアのメリアから名前を取っていたのね。帰りがとても楽しみだわ」
メリアネアと言うのが花蜜の商品名だそうで、自分たちの馬車の中でもティアナとリリー、エルフィーの三人が盛り上がって話をしていた。それを食べた事が無い他のメンバーは、そんなに興奮する事なのかと疑問を浮かべる程だが、実際に王太子殿下もレーア第二王女へのお土産が出来ると喜んでいたので、上級貴族の女性陣には有名な代物なのだろう。
「おーい。街が見えてきたぞー」
騎士の一人が、後方を護衛する自分たちにも前の様子が分かる様に伝えてくれた。時間的にも昼と夕方の間ぐらいの時間帯なので、思ったよりも早く到着できそうだった。
この自由都市アルメリアは別名、花の都と称される程花で街を彩られている場所なのだ。自由都市の自由は独立した都市と言う意味合いの自由ではなく。自然溢れる街から自由と言う表現をされているのだ。
人口は約二十二万人で、アルデレール王国の海隣都市ナルキーソとほぼ同じ大きさの街である。
アバルトリア帝国の中でも上位に住みたいとされる街でもあった。特に女性からの支持率が高いが、扱う物が花と言う事もあり割と普通の虫や街の周辺から襲って来る虫系の魔物を倒し女性を守りたいと騒ぐ男性陣からも高い評価を受けていた。
四季折々の花が咲く為に訪問する気候によっても街の様子が一変するので、何度来ても楽しめる場所になっている。
女性が多いと言う点からもう一つの商売も盛んらしく。俗に言う夜の花も多くあるそうだ。まあ、そういうお店が彼方此方あるのではなく、一箇所に集中している様で、街の者からは歓楽通りと呼ばれていた。
流石に婚約者を複数人連れている状態でそんな場所に行くわけもないので彼らからしたら余りどうでもよい。ただし、この街で二泊する予定なので、男連中の冒険者や騎士たちはもしかしたら歓楽通りに繰り出すかもしれないが・・・。
「この調子だと、あと四半刻もすれば辿り着けそうだな」
「ねー皆外見てごらん?すごく綺麗よッ!!」
その言葉に女性陣が一斉に馬車から顔を出す。街の周囲に広がる花畑。街の仲もそうだが、外もかなりの数の花が咲き乱れている。色々な花の香りがとても甘く感じ取れる。シャルロットたちもまんざらでもない表情を顔に出してはしゃいでいた。
「ご主人様。私たちを同行させてくださり、ありがとうございましたッ」
御者をしていたエリーゼとラウラの二人からも感謝される。レオンハルトは特に何もしていないのだが、それでもお礼が言いたい二人の気持ちを汲み取る事にした。
それから、門の所まで行き一応、一般用の列と貴族用の列があり、他国であっても貴族用の列に並んで入る事が出来るため、審査自体は素早く終わり街の中に入った。
「兵士さん。この辺りで大人数が泊まれる宿を知らない?」
「ん?ああ。それだったら馬の尾亭だ。安全性もしっかりしていて、飯もうまいッ!!サイコーだろ?」
「馬の尾亭?どこにあるの?」
兵士曰く、馬の尾亭はアルメリアの中でも最上級の宿屋らしい。上級貴族の者でも満足が行くと言う事なので、その場所を聞きだし向かう事にした。
この場所で宿を取るのは王太子殿下と騎士団のメンバーのみだ。隊長と副隊長は王太子殿下の両サイドの部屋を確保し、他の団員は四人部屋と二人部屋を借りる事となった。俺たち冒険者組は、王太子殿下たちが宿代を出してくれるが、全額出してくれるわけではないので、馬の尾亭の近くの宿屋を確保した。
レオンハルトたちと月の雫は、黒の鶏亭に宿を取り、赤い一撃と森人の集いは雲の山と言う宿屋にした。どちらも同じぐらいの宿だが、流石にこの規模だと二つのグループに分ける必要があった。
レオンハルトは、男性陣のみの四人部屋を借り、部屋に荷物を置くとそのままベッドにダイブした。いっその事このまま眠りにつきたいところだったが、ヨハンたちに急かされて冒険者時の服装から普段着へと着替えた。
明後日の朝出発なので、食料などの消耗品の買い出しや武器の手入れなどを行う必要がある。彼らはどちらも問題ないため、散策に出ようと話をした為、着替えてロビーがある一階へ移動したのだった。
此処まで読んで頂きありがとうございました。
あと三日もしたら4月ですね。
速くコロナが収束してくれることを願っています。