077 入国
最近、温かくなってきましたね。
世間では、コロナウイルスや各地で起こる地震など心配事が多いですね。
皆さんも十分気を付けてくださいね。
アルデレール王国の王都アルデレートを出発してそろそろ二週間が経過する。コンラーディン王太子殿下を護衛しながら目的地であるアバルトリア帝国の帝都アバルトロースまで凡そ半分移動した地点。明日の昼前ぐらいにアルデレール王国とアバルトリア帝国との境目である国境を通過できるそうだ。
これは、レオンハルトたちや護衛する近衛騎士団からの情報ではなく。レオンハルトたちと共に依頼を受ける形となった月の雫からの情報である。
この移動中に魔物の襲撃は十数回程度あり全て問題なく対処した。主に冒険者であるレオンハルトたち円卓の騎士や月の雫、森人の集い、赤い一撃の面々が魔物を狩っていた。
何度か騎士団も加わって討伐していたが、彼らはコンラーディン王太子殿下の護衛を任務としているため、余り離れる事は出来なかったのだ。
それと、この百近い規模の集団に盗賊が二回程襲撃をしてきたので、さっくり討伐して、最寄りの街に寄った際に捕まえた者はそのまま駐屯兵に引き渡し、遺体となった者はその証拠を渡してそれぞれ報奨金を受け取っていた。また、レオンハルトは盗賊に襲われた夜中こっそりと抜け出して、襲われた地点まで転移魔法で移動し、残存する盗賊を潰したり、盗賊たちの拠点を突き止めて全て没収したりした。捕まっている人も居た為、彼女たちを魔法で眠らせた後、引き渡した街の入り口付近にそっと横にして、朝方に消える様に魔法障壁を張って野営地に戻り何食わぬ顔で翌朝を迎えた。
ただ、仲間たちには抜け出した事がばれていて、その日の護衛から外されたりもした。主に馬車の中で仮眠を取らされたのだ。
「おーいっ!!国境が見えてきたぞっ!!」
現在先頭を進むのは赤い一撃の面々が乗る馬車。その次に森人の集いの馬車、騎士団の馬車と続き、最後は俺たちの馬車となっている。ただ、その馬車の中にいるのは、ヨハンにリリー、アニータ、エッダの四人に御者をしているエリーゼとラウラだけ。他の者たちは馬に乗って外を警戒しているか偵察に出ているかしている。但し、レオンハルトとシャルロット、エルフィーの三人はコンラーディン王太子殿下が乗る馬車に招待されて其方に乗っているのだ。
本当は貴族令嬢でもあるリーゼロッテやティアナ、リリーの三人も呼びたかったようだが、流石に王太子殿下が乗る馬車でもその人数が入れば狭く感じさせられる。
「おや?国境が見えてきたようですね?おしゃべりはこの辺にしておきましょうか?」
殆ど王太子殿下である彼が話を振って来て、それに我々が返答すると言う形をとっていたのだが、兎に角話が長い。半分近くが自分の妹や弟の話だったのだが、その中でも第二王女のレーアの話が一番長かった。
結婚相手は自分で見つけるとか、政略結婚は絶対にしない等の言葉が非常に多くて困ったなど苦労話も多々あったが、それでも楽しそうに話すあたり妹たちの事をとても大切に思っているのだと理解できた。
妹についてはシャルロットもアニータと言う実の妹が居るのでよく理解できるし、俺たちからしても孤児院で育った年下は皆、弟や妹の様に思っている。年上は兄や姉と言った感じだろうが、俺たちの場合は精神年齢が高い為、背伸びをした弟や妹とかすごく仲がいい年の離れた年下の友達と言う感じが抜けきれなかったが。
「森を抜けた先の草原で一度休憩を取りましょうか?」
騎士の一人が馬に乗った状態で、此方に声をかけてきた。
連日馬たちに無理をさせているので、見晴らしの良い草原で少し休ませる事には賛成だが・・・。
ん?
如何やらそれはもう少し先になりそうだ。
「後方より敵数体・・・・距離約五百。この速度は・・・っ!!」
王族の馬車から身を乗り出し近くにいた騎士に声を掛ける。そうすることで、他の騎士や冒険者に状況を伝えてくれるからだ。だが、反応が一歩遅かったようで、気が付けばすぐ後ろにまでソレはやって来ていた。
魔法で確認しなくても直に分かってしまう程真後ろから、木々をなぎ倒し、枝をバキバキと折っていく音が聞こえる。地面を這う様な無数の足音の主は、森で遭遇する魔物の中でも出会いたくない魔物のトップクラスに入る魔物。
アーミーアント討伐の折にも出てきた魔物・・・・ジャイアントセンチピードだ。
「巨大百足、数は六匹ッ」
「なッ!!全員急いで森を抜けろッ!!」
レオンハルトの言葉を聞いた騎士は、大声で周囲に指示を出す近衛騎士団三番隊の隊長補佐を行う大柄な男。彼はそのまま先頭まで馬を走らせながら指示を出していた。
先頭が動かなければ後続は、後に続くことが出来ない。そうなれば最後尾から徐々に魔物に襲われてしまう。
そして、今回は逃げの選択を選んだのは地形の問題と相手が悪いからだ。ゴブリン程度の魔物であれば、地形が仮に悪い状態でもそこまで被害は出ないと予測されるが、この地形でジャイアントセンチピードを相手にするのはかなり危険である。
この森の奥は大木が広い間隔を空けで生えており、その間に大小なりの木々があるが、この森の入口付近は、木々が密集しているため戦闘向きではない。近距離なら対応できるだろうが、遠距離、中距離系統は足を引っ張りかねないのだ。しかも、一匹や二匹なら如何にかできたにしても今回は六匹もいる。流石に分が悪いと言わざるを得ないのだ。
「直ぐ後ろまで来ているな?シャル、指揮を頼む。エルは殿下と一緒にいて守ってくれ」
後方の護衛馬車は、月の雫に円卓の騎士と続いており、月の雫はBランクのチームではあるが、遠距離主体のチームの為、この場では殆ど役に立てない。となると必然的に月の雫の前を走る三番隊の騎士たちか、最後尾にいる円卓の騎士のメンバーしかいない。
円卓の騎士もヨハンにリリー、アニータ、エッダが馬車にいるだけで、馬車の周囲にダーヴィトとユリアーヌの二人だけしかいない。クルトは身体強化の魔法を掛けてもらい森の中を偵察していていない上、リーゼロッテとティアナは今乗っている王族の馬車の少し前を馬に乗って進んでいるのだ。
馬車に残してきたメンバーだけでは、対処できないと判断し人選をミスってしまった事を後悔する。
更に周囲の音が騒がしくなった。後方の騎士がジャイアントセンチピードの頭部を一瞬目視できた事により仲間たちが魔法で応戦した様だ。六匹の内、三匹は後方から横並びで一直線に此方に向かって来ていて、残りの三匹は左右から挟撃を仕掛けて来ようとしている。
「後ろを片付けてくる」
一言だけ言い残し、レオンハルトは馬車の扉を開けた。近くに居た騎士は何事かと近寄って来るがそれよりも先に馬車から飛び降りる。すぐ横を掠める様に次々騎乗した騎士たちが通り過ぎていく中で、レオンハルトは跳躍して一旦空中へ逃げた。あのままそこに立っていたら逃げる者たちの進路妨害にしかならないからだ。
ッ!!
そして、この跳躍はもう一つの意味を成していた。
「捕まれッ!!」
騎士たちの後ろに進んでいた月の雫と仲間たち。跳躍したレオンハルトの姿を見つけた彼は、尽かさず自身の武器を手に取り矛先を自身の方に柄をレオンハルトがいる方に向かって突き出したのだ。
「頼むッ!!」
出された柄を掴むと彼に一言伝えた。彼はその意味を理解していた。幼少の頃から幾度となく模擬戦をした仲である彼・・・ユリアーヌは、多少なりと親友の考えている事を読み取れる。
「うおぉぉおおーーりゃあ」
片腕だけで槍を振り上げ、レオンハルトを後方に投げ飛ばした。さながら投石機の様に・・・まだ成長期とは言え決して軽くはないレオンハルトを片手で投げ飛ばしたユリアーヌの腕力が凄いのか。それ自体を実際に行おうとしたレオンハルトが凄いのか分からないが、周りにいた者たちからは驚愕の出来事でしかなかった。
それはそうだろう。見た感じは魔物に人間を与え囮に使ったようにしか見えない。だが、その予想は当然裏切られる形となる。
勢いよくジャイアントセンチピードに向かって行き、空中で身体を捻って後ろ向きの状態で思いっきり着地した。
鋼鉄に何かが思いっきり衝突したような鈍い音と共に着地した・・・正しくは両足で踏みつけたのだが、踏みつけられた場所は大きく凹み固い鎧の様な外殻には無数のひび割れが生じていた。それと同時に地面を抉っている様に土煙が舞った。レオンハルトが踏みつけたのは、三匹の内、中央で先頭を進んでいたジャイアントセンチピードの頭部で、急に強い衝撃を受けた真ん中のジャイアントセンチピードは地面に顔を付けながら・・・まるでヘッドスライディングしているかのように生々しい音を立てて速度を落とした。その隙に両サイドのジャイアントセンチピードがレオンハルトを抜いて前に進もうとしたが、両手に持つ物を下段から上段へと振り上げる。
右手に愛刀、左手に愛刀を収めるための鞘があった。狙いは両サイドにいるジャイアントセンチピードの腹部。リーチ的には全く届かないが、高速で振り抜く事で発生する風圧を使ってダメージを与えたのだ。
蛇の様に左右に身体を動かしながら進むジャイアントセンチピードだが、レオンハルトの攻撃で芋虫が動くときの様な山なりが出来た。
「「「「ッ!!!!」」」」
余りの出来事に、後方を確認していた月の雫のメンバーと近衛騎士団三番隊の騎士隊員たちは、その出来事に驚愕する。
ジャイアントセンチピードの強さは熟練された騎士やベテランと呼ばれる冒険者でも十数人単位で対処する強力な魔物。確かに、単独で倒せる者も居ない事は無いが、それは超強力な魔道具や魔装武器等を所持した者やAランク以上の実力者でなければ難しい。Aランク冒険者でも単独で倒せる者は六割程度だろう。
以前、二番隊がワイバーンに襲われたが、魔物の強さや厄介さはワイバーンの方が上ではある。しかし、ジャイアントセンチピードの厄介さは全身を覆う鎧の様なその強靭な外殻と変則的な動き、あと気持ち悪さだろう。三番隊の隊長や副隊長も単独で対処可能ではあるが、レオンハルトの様に一瞬で三匹を一時的でも行動不能に陥らせることはできないのだ。当然、共に同行する他の冒険者チームのメンバーに至っても同じだ。彼らはチームで一匹や二匹なら対処は可能だが、それでも時間をかなり有する。
三匹とも進行する速度が大幅に下がると、身体能力を高める強化魔法『身体強化』と併用して俊敏力を上げる強化魔法『俊敏力向上』と移動速度を倍以上にする強化魔法『加速』を使用した。
ダメージを受け動けないジャイアントセンチピードを放置し、残りの三匹の元に一気に移動するレオンハルト。
密集した木々の間を上手く躱しながら、風の様に自然でいて突風の様な勢いで瞬時に追いつき、一匹は斬撃で頭部よりを一撃入れ、残りの二匹は蹴りを入れた。
六匹のジャイアントセンチピードが動きを止めた所で、先頭を走っていた馬車が森を抜ける。直ぐに開けた場所へと進路変更を行い後続の馬車もそれに続いた。
草原にて、追いかけてくるジャイアントセンチピードを迎え撃つ準備をする為だ。その場を指揮する森人の集い・・・それに従う赤い一撃。騎士たちも馬車や馬から降りて槍や剣、大盾を準備した。
「あの一瞬で、全部沈黙させたのか?なんて強さだ…」
騎士の一人が呆気にとられ漏れ出る言葉。しかし、その意見はその場にいた誰もが同じ考えを持っていた。
「まだ、倒してはいません。急いで森を抜けてください」
王族の乗る馬車から身を乗り出して皆に注意を促すシャルロット。それから後ろでレオンハルトの一撃を受け動けなかった三匹のジャイアントセンチピードの方に視線を向けた。魔法で確認したところ、三匹はゆっくりと動き始め、此方を目指している。速度が遅いのは、まだ完全にダメージが抜けていないのだろうが、それも時間の問題だった。
「シャルちゃん乗ってッ!!」
馬に乗るリーゼロッテから声がかかりその馬に乗る。馬の操作をリーゼロッテに任せて、
自分は魔法の袋に入れていた武器を取り出す。通常の矢では外殻に阻まれて弾かれてしまう為、魔法で矢を作り出し、射抜く。
牽制程度の攻撃だが無いよりはまし。連続で魔法の矢を射抜いていると、右側面からジャイアントセンチピードが襲い掛かってきた。レオンハルトが蹴りを入れた二匹の内の一匹で、そのレオンハルトはと言うと残りの二匹の相手をしていた。直ぐに戻って来れると思った彼もこの場所では、流石に分が悪かったようだ。
シャルロットたちがピンチの状態だと分かっていても戻っては来ない。いやピンチではないから戻らなかったと言うべきだろう。
「どりゃあああ」
頭上から二本の剣を交差させる様に構え流星の様に落下してくる人物が、そのまま右側面から襲ってきた個体と衝突した。
「クルトッ!?」
偵察に出ていた仲間が戻ってきたのだ。馬車が襲われていると分かった彼は、直ぐに戻ってきたのだ。すると丁度シャルロットたちがジャイアントセンチピードに襲われそうになっていた為、身体強化用の魔道具で強化し突撃した。
「ッ!!ダヴィ、ユーリ、クルト。三人で殿をお願い。エッダはダヴィの馬に乗って、私はユーリの馬に移るから・・・ヨハンは」
「分かってる。三人の付与でしょ?任せて」
ヨハンは、三人に身体や武器の精度を上げる強化魔法と防御魔法を施す。付与を受けた三人は、地上に降りて迎撃態勢を整える。馬から降りた二人の馬は、シャルロットの指示通りエッダと彼女自身が乗った。隊列的には王族の馬車に騎士団の馬車、馬に乗った騎士たち、月の雫の馬車、レオンハルトたちの馬車に続いて、馬に乗るシャルロット、リーゼロッテ、エッダたち三人、最後に地上に降り殿を務めるダーヴィト、ユリアーヌ、クルトであった。
このタイミングで降りたのは、もう今いる場所からでも森の出入り口が見えているからだ。少しでも馬車と距離を空けておけば、草原での戦闘の準備が整いやすくなる。
「セイッ」
電光石火の様に一瞬でジャイアントセンチピードに数撃の打撃を与えて戻って来るレオンハルト。
「魔物の注意を此方に引き付けるぞッ!!」
そこから四人の卓越した連携でジャイアントセンチピードを抑え込む。途中からレオンハルトが相手していた二匹のジャイアントセンチピードも加わる。
騎士たちは、その戦闘の一部始終を見る事が出来なかったが、それでも彼らの戦いは自分たちを超える戦闘に驚愕の表情をしていた。と言うか、レオンハルトたちと共に行動してから驚かされっぱなしであった。
シャルロットたちが森を抜ける瞬間、彼女は弓術と火属性魔法の応用で作った赤色の矢を二発、放物線を描く様に射る。赤色の矢はそのままジャイアントセンチピードとレオンハルトたちの間に落ちると爆発した。シャルロットのオリジナル魔法の一つ『爆弾矢』。火薬の銃をレオンハルトが作った時に銃の知識を探した時に見つけた迫撃砲をイメージした攻撃手段。
初見では、矢を避けるだけにとどまるが、その後の爆発に巻き込まれて戦闘不能に陥らせる。単純に厄介な攻撃手段だ。
赤色の矢でなくても、普通の魔法の矢同様にできるが、これは味方が認識できるようにしたためで、実際味方がいない状況であれば、色の認識をさせなければ・・・いや知っている場合でも混乱をさせる効果もある。
二回爆発が起こった事で、草原で待機している者たちに緊張が走る。
爆炎の中から勢いよく草原に飛び出してくるレオンハルトたち四人。見事なアクロバティックからの着地、そして直ぐに戦闘できる態勢を作っていた。
遅れて出てきたジャイアントセンチピード。強固な外殻に無数の打撃や斬撃の跡があり、百足の名の通りかなりの足があるが、その一部が斬られたりして無くなっていた。
「敵が来たぞッ!!各自、戦闘開始せよ」
騎士団隊長の号令と共に騎士や冒険者たちが一斉に動き出す。
「目覚めろッ!!そして轟かせろ雷電『電流暴走』」
身体強化魔法で強化した状態で、一気に跳躍しジャイアントセンチピードの一匹の頭部目掛ける赤い一撃のリーダー、ノーマン。その彼が所持する魔装武器、雷の戦鎚が電撃を帯びた状態で炸裂した。
「風よッ!!悪しきモノを切り裂け『音速飛翔斬』」
月の雫のリーダー、エミーリエ。疾風の二つ名を持つ彼女の持つ風の魔装武器。細めの剣に風を纏わせて風の刃を飛ばしたり、推進力に変換したりする高等技術を有する武器。そこから放たれた風の斬撃はジャイアントセンチピードの外殻に次々傷を付けていった。
三番隊の隊長ジークフリート・ヴィーゲルトも自身の愛用武器であり魔装武器の連結剣。属性は風であるが、エミーリエの物とは少し勝手が異なる。風を纏わせるところは一緒だが、直接的な切れ味や自由自在に操る方が主となっている。しかも驚くべきはその射程範囲だ、剣としての間合いは勿論、最大射程範囲は約二十メートルもある。通常の連結剣でもこれほど長くできないが、この連結剣は魔装武器・・・言わば剣と剣を繋げているのは風の糸みたいな何か。だから、射程も自由に調節できるし、操る事も出来ると言う仕組みなのだ。
「舞え『永遠の輪舞曲』」
変則自在の連結剣が、エミーリエが攻撃を与えたジャイアントセンチピードへ更に追撃を与えた。他の騎士たちも続々と槍や剣で牽制している。彼らは決定打となりえる武器を所持していない為、決定打を与えられるノーマンやエミーリエ、ジークフリートたちの注意を分散させるために動く。
「喰らえ『ゲイルスピア』」
ユリアーヌの十八番の回転突が別の個体を襲いそれに続く様に、ダーヴィトの『シールドブーメラン』、クルトの『アサルトブレード』もジャイアントセンチピードにダメージを与えて良く。
森人の集いもジャイアントセンチピードの一匹を引き受けている様で、其方は魔法でゴリ押ししていた。エルフ族だけあって強烈な魔法が再三にわたり打ち込まれていた。
現状、森人の集いが一匹、騎士団と月の雫が一匹、赤い一撃とティアナたちが一匹、シャルロットにエッダ、リーゼロッテの三人が一匹、ヨハン、クルト、ダーヴィト、ユリアーヌの四人で一匹、最後の一匹をレオンハルトが対処している。
と言ってもレオンハルトが相手にしていたジャイアントセンチピードは頭部を真っ二つにされ、身体は八分割位の間隔でバラバラにされて、絶命していた。
昆虫の厄介な強力な生命力なのだが、流石にこれだけされると生命活動をする事は出来ない。
レオンハルトは苦戦しているヨハンたちの援護に回り、暫くして・・・・。
「これで終わりだ『電流暴走』」
頭部側面に思いっきり強打を叩き込み、付随効果による電撃の攻撃を浴びせた。既にティアナやリリーたちによって満身創痍の状態にまで追い詰められており、電撃が止めとなって、焼け焦げた臭いを発しながら絶命していた。
騎士団や月の雫が相手にしていた一匹も同じタイミングで倒しており、その個体はレオンハルトが最初に倒した個体よりも無残にバラバラにされていた。此処までバラバラにされると素材として使える部分が少なくなってしまう。
「ふう・・・これで終わったな」
今討ち取った二匹が最後の個体であり、森人の集いやユリアーヌたちの方は彼らよりも先に倒して、素材の剥ぎ取りを行っていた。自分たちの所が終わったなら手伝ってほしいと思うが、それぞれかなりの人数で対処していたため、これ以上加わってもかえって邪魔になるだけだった事もあり、剥ぎ取りをしていたのだ。
因みに二番目に早く倒したのが、シャルロットたちで、三番目がまさかの森人の集いだった。四番目がユリアーヌたちで、最後は先の二組となる。森人の集いがこれほど早く討伐できたのは単純に森で生活する彼らからしたら、ジャイアントセンチピードとの戦いはそれほど脅威ではないらしい。どちらも森で暮らしている事もあり、村が襲われる。襲ってきた魔物を排除すると言う、やられては返り討ちにする行為を繰り返していたからだ。
予定外の出来事に時間を取られてしまったが、思いのほか良い収穫が出来たようで、森人の集いや、赤い一撃のチームは喜んでいたが、月の雫だけはあまり喜んでいなかった。何せ、予想通り素材となる部位が極端に少なかったため、旨味が一切なかったのだ。
逆に、レオンハルトたちは三匹倒して、素材もそこそこ採れていた。
休息を終えて、目前となっている国境に向かう。
「でっかいなー」
万里の長城かッ!!と思う様な国境は、此方側には王国の兵士が、向こう側には帝国の兵士が検問していた。巨大な壁の中に無法地帯の街があり、この街は両国の特産など売られているが値段もかなり高く感じた。実際の金額の四割増し位の金額にレオンハルトたちが驚く。逆にこんなもんだろうと普通にしていたのが、同行した他のチームたちだった。
この検問は出国する時は王都や他の街同様に身分証となる物を見せれば済むが、相手国に入国となると審査が厳しかったりする。
アルデレール王国とアバルトリア帝国の関係は良好であるため、それ程審査は厳しくないが、敵対国の場合は、入国自体させてもらえない・・・と言うか国境に近づいただけで殺し合いになりかねない。
「アバルトリア帝国にどの様な用件でしょうか?」
名も無き街に用は無い為、素通りしてそのままアバルトリア帝国の入国の列に並んでいたら、帝国兵に声をかけられた。
「我々は・・・」
隊長のジークフリートが、入国の目的を兵士に説明した。兵士は慌てて、上司に連絡しこの場所の責任者がやって来て、訪問の目的がかかれた手紙を渡した。手紙には国王陛下の押印がされており、上司はそれを確認するや否や膝をついて挨拶してた。馬車の中に王太子殿下が居る事を理解したのだ。
それから、俺たちが護衛であると知ると、冒険者カードを見せてそのまま入国許可が下りた。
「お気をつけてお進みください」
兵士たちに見送られて、レオンハルトたちは初めて他国の土地に足を踏み入れたのだった。
此処まで読んで頂きありがとうございました。
此処に来て初めて他国入りをしましたが、暫くは帝国の内容ばかりになるかと思います。
章を作った方が良いのだろうか?