074 王城からの指名依頼
今日から三月に入りましたね。
そう言えばコロナウイルスが猛威を振るっていますが、皆さんは大丈夫ですか?
無理しない様にしてくださいね。
冒険者ギルドで王城からの指名依頼の報告を受けたレオンハルトは、その夜仲間たちと話し合い、取り敢えず内容だけでも確認する事にした。王城に赴くのはチームのリーダーであるレオンハルトとサブリーダー的な存在のシャルロット、チームの頭脳と称される参謀役のヨハンの三人だ。王城までは馬車で向かう為レオンハルトの奴隷であるソフィアにも御者として同行を頼み、翌朝王城に向けて出発した。
門に居た兵士に冒険者ギルドの支部長から預かった書簡を渡すと中に入る様言い渡される。馬車はいつもの場所に停めてもらうようにし、ソフィアには悪いが馬車で待機するように言い渡した。奴隷としての彼女は身分が誰よりも低い為、なんども王城の中に入るのは精神的にもしんどいだろうと判断しての事。それを言うなら王城の敷地内も気が引けるだろうが、そこは我慢してもらうしかない。
レオンハルトたちは、入り口付近に居た騎士の者に誘導されて、また別の部屋に通された。
今まで使ってきた控室の部屋や国王陛下たちと話をした部屋の様な豪華さはなく、八畳ほどのこじんまりした部屋で、あるのはちょっとした本棚に事務机と高級っぽいソファーにソファーに合わせたテーブルがあるだけだ。有名な画家の絵か分からないが山の風景画に色とりどりの花も活けている。
「此方でお待ちください」
案内してもらった騎士は、そう言うとその場から退室してドアを閉める。如何やら部屋の入り口に立っている様なので出回らない様に見張っているのだろう。
まあ、普通に考えて当然と言えば当然の処置だろう。逆に誰も外で待機していなければそれこそ此処の警備はどうなっているのだろうかと疑いたくなってしまう。
暫くすると、ドアの向こうから話し声が聞こえ、その後すぐにノック音がする。ただ、室内に給仕係たち使用人がいないので、返事だけすると先程の騎士がドアを開けた。
「やあ、お待たせして申し訳ない」
やって来たのはやはりと言うべきか、行政等の舵取りを行う宰相フォルマー公爵がやって来た。
更にその後ろにはもう一人、この様な場所に似つかわしくない・・・いや、この場所に居るのは当然だが、我々の様な者の前に普通に姿を現す事を考えれば可笑しい方が姿を見せた。
「お久しぶりですね。レオンハルト卿・・・今日はレオンハルト殿かな?」
「どちらでも構いません王太子殿下」
宰相の後ろから姿を見せたのは、この国の次期国王として国政に関わるコンラーディン王太子殿下。この国の第一王子でレーア第二王女の実兄でもある人物だ。だからこそ、この城に住む人物であるがこの様な場所に訪れる人物ではない。
数回顔を合わせた事があるが、フォルマー公やラインフォルト候の様に気兼ねなく話をした事が無い。まあ本来公爵や侯爵の当主に気兼ねなく話せる人物となると同格の爵位かそれこそ王族ぐらいなのだが、二人の場合、ティアナとリリーの事もあるので、レオンハルトからしても話しやすいのだ。
そう言う点に於いて言えば、コンラーディン王太子もレーア王女を妹に持つので、話しやすい人になるのだろうが、接点が少なすぎた事で若干気後れする。
「では、レオンハルト殿と呼ばせてもらうよ」
表裏のない笑顔で話しかけてくるコンラーディン王太子。呆気に取られている俺を見兼ねてフォルマー公が言葉を発した。
「すまないな。殿下を御連れするとは伝えていなかったからな。まあちょっとした無礼なら殿下も許してくれる」
そもそも、それで侮辱罪とか言われると此方にも考えがあるが・・・。
「大丈夫、大丈夫。今日は王太子としてではなく、依頼主として顔を出してるのだから、無礼とか気にしなくて良いよ」
(依頼主ッ!?と言う事は彼が俺たちを指名依頼したのか?)
こればかりは驚きを隠せない三人。王族である王太子殿下が一介の冒険者を指名依頼する事など普通はあり得ない。極稀にAランク以上の冒険者数組に依頼を出してかなり危険度の高い依頼を指名する事はあると聞いた事はあるが、Bランク程度の冒険者の・・・それも未成年が多いチーム一組に依頼をする事は聞いた事が無かった。
額から流れる冷汗を感じながらレオンハルトに同行したヨハンが徐に尋ねる。
「依頼主と言う事ですが、自分たちにどの様な依頼をされるのでしょうか?」
流石と言うべきだろう。こんな場面でもしっかり自分の役割と言うものを理解していた。
チームの参謀的なポジションにいる彼、魔法使いとして後方から前衛の支援や援護、指示等出来るように孤児院にいた頃レオンハルトと共に学んできただけの事はあった。
「君たちに依頼をしたいのは、王太子殿下の護衛依頼だ」
「護衛依頼・・・ですか?騎士団や兵士たちが居るのでは・・・」
より具体的な話を聞くと、今回コンラーディン王太子殿下は隣国アバルトリア帝国の帝都アバルトロースに向かう必要があるそうだ。その用件が、以前レーア第二王女が現皇帝の甥と婚約の話が上がり、婚約をする前にお互いの顔合わせと言う事で帝都アバルトロースに向かった事についてだそうだ。
その話自体は、帝都アバルトロースに向かう途中マウント山脈でワイバーンの襲撃でレーア第二王女は連れ去られる事態になり、一緒に連れ去られた宮廷魔法士が命がけでレーア第二王女を逃がし、その後レオンハルトと出会い無事救出されたのだが、その時から彼女の気持ちは彼に向いてしまったようで、結局、アバルトリア帝国との縁談の話は白紙となった。
先方へ連絡をし、ワイバーンに襲われた事もあり相手から非難される事は無く、此方からも謝罪も含めて幾ばくかの謝罪の品など送り事なきを得た。
その時の縁談の相手がこの度、別の女性と婚姻が決まりパーティーが開催される事となったようで、それにこのアルデレール王国の王族にも招待状が届いたのだ。
あの件を直接謝罪していない事もあり、この度国王陛下の代役として王太子殿下が足を運びお祝いと謝罪をしに行く事になったのだ。
「そう言う事ですか・・・」
そのレーア第二王女と婚約をしてしまっているレオンハルトは、面倒事を王太子殿下自らが動いてくれることに申し訳なく思ってしまう。
ただ、彼自身に責任があるわけでもない事は皆が理解しているので何も言わないし、王族である王太子殿下は自分の仕事だとさえ思っているのだ。
「殿下が行かれるのでしたら、それこそ騎士団の方々も一緒に行かれるのではないですか?」
シャルロットの質問に宰相が返答する。
「当然、騎士団も同行する。だが、前回の事も踏まえて冒険者にも協力を仰ぐ事にしたのだ。流石に同行する騎士団の数を増やすと王城を守る者が少なくなってしまうからな」
実際は、騎士団の人数は十分いるが、何か有事の際には騎士団や兵士が動く為、立て続けに出払ってしまえば、宰相の言う様に王城の守備が薄くなってしまうからだ。
それに、騎士団よりも冒険者たちの方が魔物との戦闘に慣れていると言うのも事実であるため、優秀な冒険者であればある程、状況に合わせた臨機応変な対処が出来ると言う事も言えるためである。
では、本当に冒険者を連れて行くとすれば、誰に頼むのが良いのかと言う話になるが、一同に出た答えがレオンハルト率いる円卓の騎士だった。
「分かりました。護衛依頼を引き受けます。それで我々以外のチームは何て名前でしょうか?」
流石にアバルトリア帝国の帝都アバルトロースまでの道のりの護衛を一つのチームで賄う事は考えられないからだ。となれば既に同じような話が持ち上がったに違ないない。
だが、答えは予想を裏切るものとなった。
「君たちしか指名依頼はしていない。出来れば君たちの知るチームを入れたいのだが・・・」
複数のチームで動く依頼は、それぞれのチームの連携が不可欠になる。レオンハルトが冒険者として活動を始めた頃にアーミーアントの討伐で複数のチームや個人で活動する冒険者たちと連携して対処した事があった。あの時は、緊急依頼でもあった為、その場に居た冒険者たちや町に居た冒険者の殆どが駆り出され相性がどうだとか言っていられない環境でもあった。
今回に至っては、連携は当然の事ながら信頼できるチームが必要になる。実力があっても信頼できない者を王太子殿下の護衛を任せるわけにはいかないのだ。
「・・・・分かりました。この後ギルドに寄ってから、王都にいる冒険者チームを見てきます。それに伴って報酬はどうされますか?」
この辺りになるとコンラーディン王太子殿下との話と言うよりもエルヴィン宰相との話し合いになる。
暫く考える宰相。今回の訪問に割り当てられた予算から帝都アバルトロースまでの移動時に使用するであろう出費や滞在中、また戻って来る事も考えざっくりだが彼の頭の中で算出し終えた。
そして、王太子殿下に耳打ちをすると殿下からも「それで良いんじゃない?」との返答を貰い改めて姿勢を正した。それに合わせて此方も姿勢を正し、耳を傾ける。
「チーム単位で一日、大銀貨一枚はどうだろうか。当然、帝都やそれに至る道中の宿代も此方で負担する。流石に高級宿屋は用意できないが・・・。後は無事に王都に戻ってこられたら報酬として別にチーム毎に金貨五枚を出す」
一日の報酬が大銀貨一枚。日本円で言うと十万円相当の額になる上、依頼達成で追加の金貨五枚は破格の報酬と言える。此処から帝都アバルトロースまでの道のりは約一月程度かかる事を考えれば往復だけで金貨六枚にはなる。滞在期間が十日前後と見積もって、達成報酬を合わせれば金貨十枚前後と言う事になるのだ。日本円で一千万円相当をそれぞれのチーム毎に支払うという意味になる。
「・・・思ったよりも高額な報酬ですね」
「・・・・これは、選ぶチームを考えなければいけないかな」
シャルロットとヨハンはその高額の報酬に一瞬言葉が出なかったが、レオンハルトは予想通りと言った感じだった。
何せ王太子殿下の護衛依頼だ。相場は分からないなりにも前回のレーア王女の事を考えれば、同じ失敗をするわけにも行かないだろう。
「では、選んだチームにはその報酬額をお伝えしておきます。それと騎士団は何名ぐらい参加されるのでしょうか?」
騎士団の人数が多いようなら冒険者のチームはそれほど多くなくても良いが、逆に少ないようであれば冒険者の頭数を増やす必要もあった・・・けれど、宰相から出た言葉は近衛騎士団三番隊が護衛に就く様で、その人数は約五十人だそうだ。隊毎に約五百人いるらしくその中の精鋭を今回集めるそうだ。
当然、三番隊隊長と副隊長は同行する様で、出発前に出来れば打ち合わせがしたいとの事。
精鋭の騎士団が五十人・・・・此方は十二人に御者に二人ぐらい同行させる。そうなると後チームか一つか二つあれば大丈夫だろう。
その後も条件などを打ち合わせて、騎士団との打ち合わせを明日行う事になった。明後日は必要な物の買い出しに一日使うだろうと言う事で、出発は三日後となった。
連れてきてもらった騎士が王城の馬車の所まで誘導してくれて、外で待機していたソフィアに次の行き先を指示した。
「すまないが、このまま冒険者ギルドに向かってくれ」
「分かりました。昼食はどうされますか?」
王城で軽くお茶した後なのでそこまでお腹はすいていないのだが、時間的には昼の時間に差し掛かっていた。
ソフィアは恐らく何も飲まず食わずで待機していた事を考えると何処かで食事をした方が良いだろうかと悩んでいると、冒険者ギルドの中に食事をするスペースがある事を思い出した。
普通の冒険者であればすぐに気が付くのだが、レオンハルトたちは冒険者ギルドに併設している飲食店と言う名の酒場で食事をあまり摂ってこなかったのだ。
「冒険者ギルドで食べる事にしよう。もしかしたら調べるのに時間がかかるかもしれないから」
シャルロットとヨハンもそれに賛成する。
そうこうしているうちに目的の冒険者ギルドに到着した。ソフィアには再び馬車を停めに行ってもらうが、今度は揃って中に入る。
冒険者ギルドの中はいつも通り賑わいを見せていた。そして、これも当たり前の光景だが中に居た冒険者は一斉に此方に視線を向ける。
レオンハルトたち三人はかなり昔に慣れてしまっているので気にしないが、ソフィアはまだこの空気に慣れておらず、屈強な戦士風情の冒険者たちに睨まれるとレオンハルトの後ろに姿を隠してしまう。
レオンハルトの奴隷とは言え主人を盾にする様な格好はどうなのだろうと思うが、こればかりは仕方がない。何せアニータも時々レオンハルトやシャルロットの後ろに隠れてしまう時があるのだから。
「さて、何処が空いてるかな?」
人が少ない受付を探す。時間的な事もあるためか、そもそも空いている受付が少なくそこに集中して並んでいた。少し時間がかかりそうだと判断した時、依頼掲示板に新しい掲示物を貼っているギルド職員が此方の姿を見つけて声をかけてきた。
昨日、支部長に声を掛けに行った職員だった。
「こんにちは。今日はどうされましたか?」
「すみません。昨日の指名依頼の件で早速依頼主と話をしてきました。支部長は今何方に?」
「支部長室にいると思います。ご案内しましょうか?」
受付だと時間がかかるし、昨日の指名依頼の事を考えると直接支部長に話を通した方が早いと判断し、彼女に支部長の所まで案内してもらった。
此処まで読んで頂きありがとうございます。
今週は少し忙しくて余り執筆できず申し訳ございません。
キリが良い場所で〆させていただきましたが、出来るだけ頑張って執筆しようと思います。
皆さんも良ければお付き合いお願いします。