070 魔改造?いえ改築です
王都アルドレート、その一等地にある屋敷を貰ったレオンハルト一行は、改装と言う名前の魔改造を屋敷に施していた。厳密に言えば一行ではなく、レオンハルト単独で行っているのだが・・・。
屋敷を壊して二日目の今日は、昨日の続きを始めるため、早速皆で準備に取り掛かる。昨日参加できなかったリーゼロッテやティアナ、リリー、エルフィーは参加し、アンネローゼも魔力制御の練習と称して手伝ってくれるらしい。とは言ってもリーゼロッテとアンネローゼは、夕刻にはエーデルシュタイン伯爵家の屋敷を訪れる予定なので、手伝えても昼過ぎまでになる。
火属性魔法を得意とするリーゼロッテには、煉瓦作りの続きをヨハンから引き継いで行ってもらい、ヨハンにはシャルロットが昨日していた煉瓦を乾かす作業に入ってもらう。シャルロットは昨日、土属性魔法『粘土乾燥』と言うオリジナルの魔法を作って作業していたが、ヨハンは生活魔法『乾燥』を使用して粘土の水分をなくしていた。
『粘土乾燥』に比べて『乾燥』は、効率は落ちるが割と使える者が多い汎用魔法なので、魔力制御には良い。正確には『乾燥』ではなく『乾燥』を沢山熟すと言う意味で良い。何事も反復する事で、実力が付くと言うもの。
シャルロットは、魔道具作りをしており、主に一階厨房部分の水回り用とIHコンロの制作をしていた。作り方はレオンハルトが以前、マウント山脈の麓にある隠れ家で使用していたIHコンロの魔道具を分解して、シャルロットがそれを基に新しい物を作っていた。
IHの熱の威力を事細かく設定し、調整を行えるのは彼女が料理を作れるからだろう。作れない者がそう言った魔道具を作ると弱火、中火、強火の三種類で終わっていただろう。死ぬ間際の日本では、ダイヤル形式やボタン形式の十段階の調整が行えることは珍しくなかった。ただ再現しようと思えば、その分作成に手間がかかるが、それを黙々と作る辺り、彼女の細かさが表れている。
ダーヴィトとユリアーヌ、クルトの三人には数少ない男手と言う事で、昨日完成した煉瓦で外壁作りをお願いしている。煉瓦にモルタルを付けて次の煉瓦を置いて行くのだが、これがまた大変。本当なら、薄く伸ばしたオリハルコンの板をつける作業からなのだが、これは夜中の間にレオンハルトが一人で作業をして終わらせているため、大幅な短縮となっている。
エッダやアニータ、それにローレたちは引き続き煉瓦作りを行う。ティアナは、得意の雷属性魔法ではなく下位属性魔法である風属性魔法で、木材を真っ平らに切る作業を行い、リリーは得意の氷属性魔法で、焼き終えた煉瓦を冷やす作業に入っている。アンネローゼも氷属性魔法が得意なので一緒に行ってもらっているが、熱された煉瓦を一気に冷やすと耐久力が損なわれ、脆い煉瓦が出来てしまう。絶妙な加減で荒熱をとり、そこから徐々に冷やすため、荒熱を取る作業をアンネローゼが、そこから触れるぐらいにまで冷やす作業をリリーが行った。
エルフィーは、昨日ユリアーヌたちが取ってきたクラウドシープの羊毛の加工された物を断熱材代わりにどんどん内壁の柱と柱の間に詰め込んでいく。レオンハルトは、エルフィーの作業が終わった箇所に新しい内壁を作成していった。
二刻を過ぎる事には、リーゼロッテは、シャルロットと代わって休んでおり、シャルロットが現在煉瓦の制作の火の担当をしていた。昨日よりも煉瓦を作る速度が速くなり、焼く回数が増えたのだ。粘土を乾かす作業には、木材を担当していたティアナが手伝いに来てクルトと共に作業に入っている。
もうあと半刻もすれば、お昼の時間になるので、皆それまで頑張ろうと懸命に働いた。リーゼロッテも少し休んだら作業に戻っている所を見ると、魔力不足というより、どちらかと言うと熱気にあてられた感じだったのだろう。
「さて、こっちも大詰めだから頑張ろうか!」
レオンハルトたちもあれだけあった四階建ての三階部分までの壁全てを作り終えている。壁紙はまだ貼っていないが、応接室の一角や大食堂や大広間などの一部に岩壁を使い、完成させている。床部分も大理石の様な石やティアナが切り揃えた板を使って見事な木目調のフローリングを作り終えている。
普通ではありえない速さで作業を進めるレオンハルトたちだが、これは魔法と言う前世では考えられない力があってこそ成しえる事が出来る。しかし幾ら魔法が使えたとしても、彼らの様にはスムーズに進まなかったのも事実。それだけ彼らの持つ能力が高いと証明されたのだが、この事は誰も今の段階では知る良しもない。
「はいっ!!私、お昼も頑張ります!」
元気に発言するエルフィーを見て少しばかりほっこりするが、今は他にする事が山のようにあるので「よろしく頼むね」と言葉を掛けて作業に戻る。
四階部分の内壁にクラウドシープの羊毛を敷き詰め、オリハルコン、ミスリル等の薄い板も付け終え、現在は天井の作業に取り掛かっていた。
(あっ!!此処に隠し部屋を作っておこう。それと、こっちには・・・・)
強いて言おう。何故、男と言う者は自分自身で家を魔改造できるようになったら、こういった隠し要素を取り入れたくなるのだろう。
実は、地下室にも色々なギミックを盛り込んでいる上、地下五階まで作っている。公には二階までとしているが、此方も隠しギミックで地下三階へ降りる階段を隠している。
他にも地上の階にも実は、色々な部分に細工をしているのだが、全部を話していると、それだけで一日が終わりそうになるため、今日はその幾つかを紹介しておく。
一階の玄関口には、ある場所にあるスイッチを押せば、落とし穴が現れる。侵入者をこれで鹵獲出来るようにしていた。もう一つは、それに連動して窓の内側に鉄格子が下りてきて、他からの侵入を阻害できるようにもしている。
二階部分は、一階のような仕掛けはなく、代わりに各客室に避難用の隠し通路を設けていた。行先は一階の厨房に出るように作られ、そこから勝手口にある扉で逃げられる。
三階部分にも作っているが、此方はまだ非公開と言う事で知らせられないが一階とは比較にならない隠し要素を用意している。当然、今手をつけている四階部分にも言える事だ。
せっせと作る中、煉瓦作りをしていたシャルロットから声がかかる。如何やらお昼の時間になった様だ。レオンハルトは、すぐ下の階の外壁を手掛けていたユリアーヌたちに声をかけて一緒に降りる。
煉瓦の外壁も三階部分まで出来上がると、立派な屋敷に見えてくる。所々大きな隙間があるのは、後で窓を嵌め込むための物。窓枠はこの後既存の物を嵌め込むつもりだ。これも一から作ろうと考えたのだが、劣化しているわけでもないしついでにガラス作りにまで手を出せる状況ではなかった。食器の様にシャルロットに魔法で製作してもらっても良いのだが、そこに力を入れるよりもやってもらいたい作業があるので、今回は前回の物をそのまま使う。
後から取り外して新しい窓ガラスを付ける事も出来るので急ぐ必要もなかった。
「今日はお店予約していないんだよ。何か食べたい物とかある?」
すると、リーゼロッテが珍しく食べたい物を真っ先に答えた。
「私、一度行ってみたいお店があるの?そこはどうかな?」
彼女の話では、昨日アンネローゼと買い物をしている時に見つけた飲食店の様でメイン通りやサブ通りの通りではなく、完全に離れた場所にある老舗のお店だそうで、アンネローゼも過去に二度ほど行った事があるそうだ。
趣がある分、常連客が少なからずいるが、すごく流行っているお店ではないらしい。アンネローゼが食べた頃も今と然程変わらない感じだったらしいが、料理自体はとても美味しかったのだそうだ。
特に絶品なのが、白いスープだが完全な液体系ではなくドロッとした感じのとろみがかかっているそうだ。聞いた時の想像はシチューに近いのかと思ったが、中に小麦粉で作ったペンネの様な物が入っているらしいので、グラタンの焼く前の状態なのかと考えこむ結果となった。
何は兎も角、皆でそのお店に行く事にした。レオンハルトの中ではシチューなのかグラタンなのかで頭の中を支配されかけていたが、他の者たちはシチューなどを知らないので、興味津々の様子で向かう。
一行は、馬車でメイン通りまで行き、そこから馬車を預けてメイン通りの外れから暫く歩くと古い感じの建物に食べ物の絵が描かれた看板がぶら下がっているお店を見つけた。
「これは・・・古い・・いや、趣があるな。よくこんな場所を探したもんだ」
「うん。隠れた名店だって、お店の人に教えてもらったんだ」
確かに隠れた名店・・・いや、迷店だろうか。外見は兎も角、問題は美味しいかどうかと言う事だろう。そして何よりシチューなのかそれともグラタンなのか非常に気になるところだ。
ドアを開けて店内に入る。路地が薄暗いのもあってか、店内は優しい光に包まれた落ち着いた雰囲気を出していた。
「いらっしゃい。空いている席にどうぞ」
「すみません。人数が多いのですが大丈夫ですか?」
すると、案内をしてくれた年配の女性が、此方の人数を確かめると、奥の部屋に案内された。中にはもう一つ部屋があり、此方が大人数の場合の部屋なのだろう。ただ、最近使われたような感じはしないので、お店の人からしたら久しぶりの団体さんなのだろう。
「壁に貼っているメニューが今日やっているものです」
上質な紙でもなく羊皮紙でもない。木札。それを釘の様な物で引っかけている。壁に貼っていると言うよりかは、壁に掛けていると表現した方が正しいように思えるが、きっとこんな事を考えるのは少数なのだろう。
「では、キャセロールとゲフィルテ・フィッシュを頂けるかしら?」
「私もキャセロール下さい。・・・・それと、このコバト豆とフェザーラビットの焼き物」
皆それぞれ注文をする。キャセロールが件のシチューなのかグラタンなのか判断が付かない料理で、その正体は煮込み料理だった。近からず遠からずではあった。強いて言うならば、二つの間ぐらいの料理と言う事。おすすめ料理と言う事で、皆注文していた。他にも皆で食べれるようにサテと言う串焼きを注文した。
前世では東南アジアの料理の一つで、インドネシア料理にもサテ○○○と言う料理があり、○○の串焼きと言う意味がある。会社の帰りに何度か同僚と食事を食べにインドネシア料理店に入った事があり、そこで食べた感じに似ていた。甘みの強いタレとその時は山羊肉だったので、独特の山羊肉の旨味が口の中いっぱいに広がったのを思い出した。
此方のサテは、少しあっさりした肉を使用していたので、兎肉か鶏肉を使用していたのだろう。タレも味は薄いが甘めのタレに色々工夫している様な味付けがした。
甘いだけでなく、野菜の旨味や他の肉の旨味みたいなものを感じる。
団欒とも呼べる昼食を終え、一同は再び作業に戻るべく屋敷へ向かった。帰り際にサテを五十本ほど持ち帰りで購入した。今日の夜食にでもしよう。
その後、リーゼロッテとアンネローゼは、エーデルシュタイン伯爵家に行く為の準備のため、宿屋に戻った。
午後は、シャルロットたち女性陣には、内装の塗装や壁紙を張ってもらう。男性陣には、引き続き外壁を当たってもらい。俺は、四階部分を仕上げる事にした。
最上階のギミックは、防衛系のギミックを搭載させるために様々な仕掛けを施し、造り終えると、一階に降りて窓枠や扉を付けていく。既存の物を使用しているので、はめ込み固定させるだけの作業。二階部分まで終わらすと、再び一階へ戻りトイレの設置やかなり大きめの洗面台、厨房の仕上げを行う。とはいえ、厨房に関しては、トルベンに一部発注しているのため、明日の朝取りに行く事になっている。
ダーヴィトたちが外壁の作業を終える頃には、女性陣の内装作業及びレオンハルトの各所の魔道具の設置も無事に終わった。まだ夕方になるまで一刻ほどあるが、シャルロットたちにはハンナの所で注文していた品を受け取りに行ってもらい、ローレたちには市場で購入できる花たちを大量に購入に行ってもらった。ついでに石の板も多種多様に注文を頼み、配達を明日の朝受け取れるようにした。
石の板は、庭を歩く為の足場だったり、外でお茶が出来るようにしたりする。一部、黒っぽい石の板があれば、それも数十枚購入するように指示した。これは、浴室の壁面に付けるための物で、届き次第防水加工を行うつもりだ。まあ加工と言うよりも付与なのだが・・・。
男性陣には、外壁のモルタル部分の塗装と大工に頼んでいる棚やテーブル以外の棚などを作ってもらう。図面通りに木を切って塗装し、金具を付けるだけなので然程難しくないだろう。
明日にはこの屋敷へ引っ越しの予定なので、今日中にある程度住めるようにしておかなければならず、レオンハルトは屋敷の床下に潜り込んで、配管や配線を行う。此処で最も時間を有したのは配管の中の下水関係だ。排出先まで魔法で道を作り、その後排出された汚水をどう処理するかと言う部分。結局、排水槽を地下に設け、液体と物体に区分されるようにし、液体は生活魔法『清潔』を改良した『浄水』で汚水を浄化し、飲めるぐらい綺麗にした。まあその水は飲水として使用せず、地面に染み込むようにしている。その近くにある木の根などが吸収する構造だ。物体の方は、圧縮され養分になる用に手を加えてから地面に送り込まれる。
この工程を作るのが一苦労だった。
配線の設置はミスリル鉱を銅線の様にしてから部屋のスイッチと天井などに這わせた魔道具とが繋がる様に付け、スイッチを押せば魔道具が起動したり切ったりできるようにした。更に、魔道具の魔力を自分たちで補充しなくても済む様に自然に魔力充電されるよう装置を屋上に付けた。
前世で言う所のソーラーパネルみたいな物だ。これで、メンテナンスは必要になるが一年に一回程度で良く、ほぼ半永久的に使用できるので非常に貴重な魔道具である。売りに出せばこれだけで一攫千金を得られるが、それを生業にしている人たちの仕事を奪う可能性もあるので売るつもりは今のところない。
そして、日も暮れ始めた頃に作業を終える。宿屋に戻って休む中レオンハルトは一人、屋敷へと転移して、朝方まで作業を続けた。昨日に引き続き、二日続けての徹夜作業だが休憩や昼間に購入したサテを食べながら黙々と作業を進める。
「やっぱり!!レオンくん一人で作業していた」
人の気配を感じ取ったのと同時に声を掛けられる。姿を見せたのは、ネグリジェ姿のシャルロットだった。彼女もまた転移魔法でこの場所まで飛んで来た様だ。流石にネグリジェ姿で王都の夜の街中を歩く者はいない。
「どうして此処にいるってわかった?」
今作業をしていたのは、浴室・・・それも岩風呂を作っている所だ。夕方から、其方の作業に追われており、客室の簡易浴室とトイレは作り終えている。トイレも最初は客室に設置するつもりはなかったが、浴室を設置するならば在っても良いかと言う考えで増設した。その分少しだけ部屋が小さくなったが、元々十分すぎる広さだったので大丈夫だろうと判断した結果だ。
メインのお風呂場は、かなり拘って作っており、露天風呂と噴流式泡風呂は作り終えている。露天風呂の覗き対策もばっちり済ませた。その他にサウナも作りサウナの近くには水風呂も作っておいた。
岩風呂の岩の形を怪我しない様に少し削ったりしたぐらいだが、この作業が地味に難しい。削りすぎると味が無くなるし、そのままにすると肌を傷つける可能性がある上、重ねるのが難しいのだ。既に何個かの岩を駄目にしてしまっている。
そもそも材料費としては岩山で拾った岩なのでタダではあるので、問題が無いと言えば問題は無いが・・・。
「それ、魔法で形整えられないの?」
シャルロットの問いにできなくはないが、魔力は他に使いたい事があると伝えようとした時、ふと今の状況を考え直した。
これから行おうと思っていた作業は、一人では魔力量が高いレオンハルトでも難しく、手作業で行える部分は手作業でしていた。しかし、シャルロットが加われば可能かもしれないと言う事。彼女の魔力量もレオンハルト同様に桁外れに多い。
二人でなら出来るかもと考えたレオンハルトは、直ぐにシャルロットにお願いする。
「シャル。力を貸してくれないか?」
優しいシャルロットがレオンハルトのお願いを断る事は少ない。それが、皆のためなら尚更だ。何の疑いもせずに頷き何をするのか尋ねる。
「屋敷全体・・・柱や壁、ドアなどの造形を魔法で行う。この岩風呂の岩や外の露天風呂などの造形も一緒にしたいんだけど・・・」
レオンハルト一人の場合は、直ぐに使用しない部屋や露天風呂などは後日、行うつもりでいた。岩風呂の岩も後回しにしたら良いのではと考えたが、実はこの岩風呂がメインのお風呂となる。と言うのも大浴場として作っていて、岩風呂と噴流式泡風呂では、岩風呂の方が倍近く大きい。噴流式泡風呂は十人ぐらいなら入れるし、寝たまま作りも一緒に作っているが、ゆっくり寛ぐなら岩風呂の方が良いだろう。
レオンハルトのやりたい事を理解したシャルロットは、どういう手順で魔法を使うのか説明を聞く。
これまで使用してこなかった連結魔法。属性魔法や系統魔法、特殊魔法などとは違い、連結魔法とは魔法を使う者が複数人で連携して行う魔法の事。儀式魔法に近いが、儀式魔法の様に大々的に行わないのがメリットだが、デメリットとしては息を合わせなければ不発に終わってしまう。
互いの息がどれだけ合わせられるかによって、発動する効果と結果が変わる。
連結魔法はお互いの手を繋がなくても魔力を重ねれば発動できるが、レオンハルトとシャルロットはお互い手を握り合い静かに目を閉じる。敢えて普通の握り方ではなく恋人つなぎをしたのは、お互いが好きだったと打ち明けた結果だろう。
恋人つなぎをした為か、上手く集中できない二人。緊張して心臓の鼓動が早くなるのが分かる。その音が更に集中力を欠いた。
(どうしよっ!!優雨君と手をつないじゃったッ!!しかも、恋人つなぎッ!?)
自分の置かれている状況を改めて理解したシャルロットは、嬉しさと恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。これが、日が照る時間であれば真っ赤にしている顔を見る事が出来たが、今は割と薄暗い上にレオンハルトの方も似た様な物だったので、見られることはなかった。
(何だこれッ!!ヤバイ・・・マジでヤバイ。めっちゃ良い香りがするっ。俺の鼓動伝わってないよな?ううっ・・・指先まで自分の鼓動を感じるッ)
恋愛初心者の様な反応をする二人。暫く集中できず、だが今の時間をもう少し堪能したかった二人は、何も言わずにそのまま手を握り続けた。
流石に四半刻も経過すればお互い落ち着き始めたので、此処から漸く連結魔法を発動させる為の集中を行う事が出来た。
発動させる魔法の繊細さと規模。これを完璧にするためには、二人の魔力量の九割近くの消費とそれを制御するための魔力制御、そして・・・・針に糸を通す様な精密さが求められる。
お互いを意識しつつもこれまで培ってきた絆で、僅か二十分足らずで魔法が発動出来る状態にまでに至る。
「良いか?行くぞっ」
「うん。何時でも良いよ」
二人は、集中し保持しておいた魔法を発動させる。オリジナルで作った生活魔法『家創造』。似た様な魔法は多く存在しているが、屋敷全体に及ぶ魔法は殆どない。また、家の創造と称する魔法だが、一から作るわけではない。生活魔法の中にある幾つかの魔法を基にして作られており、その中でも強く影響を与えているのが『造形』『清潔』『表面処理』『再構築』の四つである。他にも様々な魔法を複合して構築している。
瞬く間に屋敷の至る部分の造形が行われ、傷つかない様に表面加工が行われた。大理石の様な石は光り輝く様にキラキラし、フローリング部分はワックスが掛けられた感じになる。窓枠の一部は既存の物が嵌め込まれていたが、まるで新品の様に綺麗になった上『再構築』で表面上を強化した。
シャルロットが来る前に行っていた岩風呂の岩の部分も『再構築』と『表面処理』で綺麗になり、岩の配列も魔法で再配置されていた。
苦戦していたのは何だったのだろうと思いたくもなるが『家創造』の消費魔力量が尋常ではなかったため、ほぼ空の状態になるレオンハルト。シャルロットも同様に消費するが、いざと言う時の為に彼女には少し残してもらっていた。
「ぅ・・・ま、りょくの・・・すごぃ。あ、と・・・頼む――――」
魔力欠乏症でその場に倒れるレオンハルト。シャルロットも額から汗を流しながら荒い息をしており、レオンハルトの背中に手を置くと転移魔法で宿屋のレオンハルトの部屋に移動した。
ベッドの上に転移し、魔力欠乏症で今にも倒れそうな身体を起こす。ネグリジェが汗で素肌に張り付いていたので『清潔』で汗を瞬時に乾燥させた。ネグリジェも汗を染み込んでいたのだが、魔法で洗濯した後の様な状態になり、最後の魔法を使った事で、シャルロットもその場で倒れ込んだ。
翌朝、エリーゼが起こしに来るまでの間、二人は仲良くシングルベッドの上で寝ていたのだった。
レオンハルトたちは、エリーゼに起こされ誰よりも遅く一階に降りてきた。朝食は皆既に済ませていると言う事でそのまま宿屋に鍵を返して、外へ出た。今日から皆屋敷の方で住む事になる。
「昨夜はどうでしたか?」
「実家に帰れてよかったわ。皆元気そうにしているみたいだったし、連れてきてくれてありがとね」
アンネローゼは、この後シャルロットに連れられてアシュテル孤児院に戻る事になっている。本当であれば一緒に朝食を一緒に食べてから別れたかったが、死んだように寝ていたため起きる事が出来なかった。
「それは良かったです。また、孤児院の方にも顔を出しに行きますので、実家に行かれるなら何時でも言って下さい」
「その時はよろしく頼むわね。それと、貴方は立派な貴族になったのだから、孤児院の事ばかりに気をかけては駄目よ?貴族としての務めを果たさなくてはね?」
貴族になったとしても準男爵位で役職もまだない為、務めと言ってもこれと言ってする事はない。今現状できるとすれば、屋敷をきちんと管理する事ぐらいだろう。
「きっちり務めも果たしますよ?」
「あー。えぇっと・・・ね?レオン君は新設された貴族家の当主でしょ?貴族はね、後を継ぐ事が出来るのは長男だけなのよ?三男や四男と言った貴族の子供は自分たちで将来を見つけなくてはならないの?それに・・・」
アンネローゼの説明では、後を継げない子供たちがどうなるのか?それは、単純に剣の腕や少年期の教育で兵士や士官として生きるか、貴族当主に雇われて家臣として生きるか。または、アンネローゼの様に冒険者として生きて行くかだそうだ。他にも商会を立ち上げて商人として生きる者も居るそうだが、結局の所貴族としてではなく、元貴族として生きて行く事になる。
流石に三番目、四番目に生まれたと言う理由で、親たちも我が子を、不憫な生活をおくらせたくないと言う理由で、持てるコネを使って家臣や嫁に送り込もうとする。
出来れば優秀な当主や接点を持ちたいと考える当主が相手であればある程、貴族から色々な方法でアプローチされるのだ。
レオンハルトはこれまで騎士爵としての爵位だったから、そんなに激しいアプローチはされてこなかった。・・・・と言うよりも、四大貴族の内の三大貴族が後ろ盾をしている事もあり、手を出しにくかったと言うのが本音だろう。
騎士爵家は、平民とさほど変わらないくらいで、嫁いでくるのも同程度の爵位の娘や準男爵家など少し上の爵位の三女や四女などである。あとは、平民でも親が何らかの権力を有している者などの娘ぐらいだ。
わずか十二歳と言う若さで陞爵したとは言え、手を出しにくかったのも事実。それが今度は準男爵位となった。貴族としても約束された地位になった事で、これから一気に何らかのアプローチが押し寄せてくるのだそうだ。
特に、新規の貴族家はうまく行けばかなり好条件の位置に送り込めると言う部分も強みであろう。従士長や第一夫人も予約されていないと言う事になる。
まあ、状況を良く見ずに新規貴族家として見ている者には、そう映るらしいが。
それにあの規模の屋敷を持っておきながら、家臣や従士たちがいないと言うのは問題になるから、アンネローゼはレオンハルトに家臣をきちんと見つける様に言いたかったわけだ。
「あははは・・・貴族って本当に面倒ですね」
全く笑っておらず何処か諦めた感じの雰囲気を出すレオンハルト。取り敢えずこぞって押し寄せてくるのは、年が明けて平常運転が行われてからであろうと考え、それまでに対策を練る事にしたのであった。