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068 告白

 静寂に包まれた王都の夜に、二人をそっと照らす月明かりが、微かに二人の顔を認識できる。その二人の瞳は、まるで宝石のように、素晴らしい輝きを放っていた。覚悟を決めた瞳とは、こういう事を言うのかもしれない。覇気がない人の瞳は、良く比喩表現で魚の死んだような目と言うが、生き生きとした人の瞳は、宝石の様な輝きを宿している。


 当然、原石ではなく磨き抜かれた宝石の方だ。


 二人の距離は顔一つ分空いている。意を決したレオンハルトは・・・・。


琴莉(ことり)・・・俺は、君の事が・・・・好きだ」


 遂に前世で叶わなかった想いを今ここで口にする。彼女には気になる人がいると前世で教えてもらい。それが誰なのか分からないが、それでも今この想いを伝えなくてはならないと判断し、口にした。


 その前にも散々、恥ずかしい台詞を口にしていたのだが、好きだと言う言葉を彼女自身に向けたのはこれが初めてだ。


 月明かりの光のみなので、互いの顔を薄っすらとしか確認できないが、今灯りを付ければお互いの顔が夕日の様に真っ赤になっているのを確認できただろう。だが、灯りをつけるなんて事はしない。


 顔が真っ赤になっているのを理解しているからだ。顔が火照(ほて)り、想いを伝えるのがこれほど恥ずかしいとは思いもよらなかった。


 暫く、その静寂な時間が続くが、今度はシャルロットが、小さな声で話始める。


「あ、あり、ありがとう・・・・」


 覚悟を決めていたのにも拘らず、予想以上に恥ずかしかったようで、緊張して口が上手く動かない。


「あの、ね?私も・・・・伏見(ふしみ)君の、事が・・・・・・好き、です」


 あれ?なんか幻聴が聞こえる?


 静かな部屋にいるとキーンと言う音が、今回もそれに近い幻聴だろう。


「あ、あのー・・・出来れば、何か・・・言ってほしいな」


 ・・・・如何やら聞き間違えではない様だ。


(あの窪塚(くぼつか)琴莉(ことり)が、俺の事を好きっ!?つまり、それは・・・・どういう事だ?・・・・ってそう言う事に決まっていか・・・え?でも何で?何時から?)


 そう何時から彼女は俺の事を好きになったのだろう?確かに前世でも仲が良い方だとは思っていた。しかし、そんな素振りは見せなかったはずだ。


 この場合、単に彼が鈍感だったと言う事もあるし、彼女も彼と今日全く同じことを考えていた。お互いに良く知っている分、いつの間にか気持ちが恋愛感情になって、相手の事が見えていなかったのだ。


「あ・・・うん、ありがとう・・・って、あれ?これって両思いだったって事?」


 彼女もそれを理解していたから頷くだけで、言葉には出さなかった。良い年した大人が何を高校生の様な初心(うぶ)な反応を見せているのかと問い詰めたくはなる。


「そっか・・・・そうだったんだ」


 それから、その日一晩中彼らは寝ることなく、そのまま話に夢中になった。


 何時頃から好きになったのか。どういった事がきっかけなのか。はたまた過去の思い出話もこの場で花を咲かせる。初めて関わりを持った日の事、その時に起こった事件。他にも(れん)たちと遊園地や水族館などに遊びに行った時の話。ストーカー事件の事も思い出してしまった。


 ベッドに横並びに座り、窓からは日の光が差し込み始める。


「夜更かししちゃったね」


 シャルロットの物言いに、恐らく嬉しさがまだ全然引いていないのだろう。まるで音符が付くのでは?と思うぐらい嬉しそうに話す。


「そう言えば、婚約の事どうするの?」


 忘れていた。とまでは言わないが、完全にそっちのけで話し込んでしまって、何も考えていない。とは言っても今となっては、シャルロットが彼女となったのだから、婚約をする必要がないとは思う。


 けど、それは果たして大丈夫なのだろうか?


 貴族当主が、言うなれば孤児から婚約者を選んだ事になる。第二王女に公爵令嬢、侯爵令嬢、伯爵令嬢、伯爵の孫娘の可能性が高い幼馴染。


 そんな、好条件の中で彼女を選んだのだ。この先茨の道にしか思えない人生が待ち受けて良そうだった。


「私は、あの子たちなら構わないわよ?皆、可愛いし」


 前世で二股や三股は、犯罪行為とまではいかないが、女の敵とみなされる事があるし、浮気や不倫は、場合によってはかなり揉め事となる。一夫一妻制の世界の記憶を持つ二人からは、一夫多妻制はどうしても罪悪感があるが、それでも彼女はそれを許すと言ってくれている。


 ただこの場合、彼女が一番地位の低い第六夫人とか呼ばれかねない。まだ夫人の位置に入れればよいが、側室や妾等の扱いになる様だったら、彼女の幸せを思いこの国を出るであろう。


「それだったら、あの人たちだけに、真実を伝える?」


んー伝えたら伝えたで、大変な事が起きそうな気がする・・・・が、此処は何かを犠牲にしなくてはいけない。それが最も皆の望む方向に進む様にする為であれば、止むを得ないと考えた。


 後は、それに付随する設定の必要がでる。此処で、丸々真実を話すのではなく、真実の中に少し設定を加えるだけの事。偽りの情報は、後に大変な事になるだろうから、どの様な設定で進めるかは、国王陛下たちに会うまでに考える事にした。


 そして、朝を迎えた二人は、即座に着替えを済ませると、一階にある待合せ場所で仲間と合流し、王都新年祭最終日の屋台に向けて出発した。今回は、自分たちが出すのではなく朝ごはんを食べに出たのだ。そもそも王都で、屋台を出す申請はしていないので、勝手にした場合はかなりの罰金を支払わなければならない。


 適当に鳥の串焼きと芋を擦って練り固めて焼いたノベイモ焼きと言う物を食べながら、新年祭最終日を楽しむ。途中、朝方に書いた蝋封付きの書状を、王城を警備する騎士に渡し、城下を散策した。


 記述内容は、上の者へ対して行う挨拶文の後に、「先刻の件、己自身の決意を改めた為、三日後改めて、会談の席を設けていただきたい。またその折に、エーデルシュタイン伯爵の娘と思われる我がアシュテル孤児院の院長アンネローゼと共に馳せ参じます」と記している。


 手紙には、余計な事は書けないので、我々が転生者だと言う事は伏せているが、当日はそこの説明をするつもりでいる。そもそもアンネローゼがレカンテート村・・・いや、今は憩いの町レカンテートと呼ばれるようになった場所から王都アルドレートまでどう頑張っても三日では辿り着けない。


 恐らくそのあたりの事から質問され、シャルロットと考えた設定を話す必要になると思っている。


 何処まで話すかは、まだ決めていないので、今晩辺りにもう一度シャルロットと話し合う予定にしている。


 別に(やま)しい事をするわけではない。両想いだったことが分かり、彼氏彼女という関係になったとしても、直ぐにそう言う関係には発展しないだろう。二人に関しては、そう言った部分をしっかりわきまえている。


「ご主人様、あれは何でしょうか?」


 給仕係(メイド)のソフィアの質問に答えるレオンハルト。


現在、彼らは二手に分かれている。レオンハルト率いる昨日王城に行った組にアニータを加え、エリーゼ、ラウラ、ルナーリア、ソフィアとユリアーヌ率いる組に分かれた。ユリアーヌの方は、クルトにヨハン、ダーヴィト、エッダ、ローレ、ラン、リン、リタ、ナディヤだ。


「あれはねー肉を(いぶ)して作った燻製肉だよ。燻した材木の香りが程よく肉に移り、食べる際に匂いも楽しめるものだ。保存食としても優秀だよ」


「その様な調理法もあるのですね」


 ソフィアは最近よく調理に関して聞いて来るようになった。知らない技術を目にすると子供の様に目を輝かせている。


 そんな賑やかでもあり穏やかな一日を過ごした。











 国王陛下との会談当日。


 早朝からレオンハルトは転移魔法でアシュテル孤児院に移動し、アンネローゼを連れて戻ってきた。前々日に一度訪れており、その時はレオンハルトとシャルロット、リーゼロッテの三人だけで来て、王都での出来事・・・特にエーデルシュタイン伯爵の件を聞いた所、アンネローゼは「遂にバレたかー」と言った表情を見せた。そして、伯爵家の者だと分かる紋章入りの短剣を見せてくれた。


 それで何故このような経緯になったのか説明し、明後日王城に同行してほしいと願う。婚約の件も含めてその時に話をすると説明したら、少しだけ驚いていた。未成年の子が貴族に成れた事自体稀な事なのに、加えて陞爵し、婚約者の件で国王陛下から話が来ていると言うのだから驚かない訳がない。


 アンネローゼがリーゼロッテも貰ってくれるのか聞いてきたが、それも含めて話すので来てほしいと言うと、真剣な表情で頷いた。当日の朝に迎えに来る事は伝えていて、予定通り準備を終えて待っていた。


 アンネローゼを連れて、再び宿屋の一角に飛び、そこから馬車に乗り込んで王城に移動した。今回、馬車を操作するのはローレとエリーゼ、ラウラの三人だ。馬車も、一昨日貴族用に新しい物を購入した。それを昨日丸一日かけて魔改造してある。


 馬も追加で購入しようかと考えたのだが、馬以外も購入してはどうかと言う事で、後日その手の専門のお店に行く予定にしている。


「ずいぶん立派な・・・いえ、レオン君ぐらいになれば、持っていても不思議ではないか」


 実際、この馬車は十五人乗りの馬車とほぼ同額の金額がしており、そこに更に魔改造に掛けた金額を合わせると金貨八、九枚は消費した。我ながらに高い買い物をしたと思っている。


 そう言えばティアナの父親エトヴィンより、渡したいものがあると聞いていたが、それを受け取らずに今日まで来ていたのだが、如何やら先日ティアナ経由で、その渡したいものを今日渡すと言っていたようだ。これは何を渡されるのか、少し心配だ。


 今回はラウラが王城での立ち回りを覚えているので、入口の所で我々は降り、ローレとラウラに馬車を停めに行ってもらった。エリーゼは我々の付き添いもあり、一緒に降りて同行してもらっている。


 何時もの控室に案内され、中でくつろいでいると、ローレたちも無事部屋にやって来た。お茶とお菓子を食べていると、騎士団の人が入室してきた。今回は女性の騎士の人の様だと思ったら何処かで見覚えのある人物だった。


 青髪のボブカットをした女性・・・・初めて王城へ行く事になった時に迎えに来たユリアと言う騎士が立っていた。


「ユ、ユリアさんでしたか。お久しぶりです」


「お久しぶりでございます。レオンハルト様」


 再会の挨拶を行うが、此方は当時平民だった身分から今は準男爵になっている。その為もあり少々堅苦しい挨拶の様に感じた。


「早速ではございますが、国王陛下がお待ちです。どうぞこちらへ」


 案内されるまま、以前使用した部屋に向かう。そう言えば、騎士が案内をしてくれたり、使用人が案内をしてくれたりするが、どうして案内する者が分かれているのだろうかと疑問に思ったら、あまり意味はないとの事。


 強いて言うなら、その時にいた人間との事らしいが、それはそれでどうなのだろうか。


 ノックをして、中に待機していた使用人がドアを開ける。そのまま中に入り一礼する。此方も前回同様の面々が来られており、アンネローゼが入室するとエーデルシュタイン伯爵夫妻は席を立ちあがって、涙を流す。


 国王陛下が自由に会話してもよいように便宜を図ると、早速アンネローゼが国王陛下に挨拶をして、その足でエーデルシュタイン伯爵夫妻の元に行く。


「お父様、お母様、ご心配おかけして申し訳ございませんでした」


 深く頭を下げて謝罪をする。十数年振りかの再会に二人は、大きくなった娘を見て涙で返事が出来ずにいた。まあ、噂で娘の活躍を聞き、依頼中に竜種と遭遇、戦闘を行いチームがほぼ壊滅に近い半壊状態に。その後生死不明と言う事で、これまで死亡扱いとしていた娘との再会だ。感動しないはずがない。


「まさか、本当にアンネローゼ嬢だったとはな」


 リーンハルトの発言に、アンネローゼは振り向き頭を下げた。


「ご無沙汰をしております。ラインフェルト侯爵様、私もまさかこの様な場に来る事になるとは夢にも思いませんでした」


 確かに、一介の孤児院の院長が来るような場所ではない。アンネローゼ自身、貴族に復帰するつもりがあったのかはさておき、漸く話せるようになったエーデルシュタイン伯。


「これまで、良く生きていてくれた。ありがとう。ありがとう」


 気が付けばアンネローゼからも涙が流れており、この再会の場を設けて良かったと思う。聞けば、アンネローゼとアウグスト陛下、エトヴィン宰相、リーンハルトにハイネス、それにアマーリエ第一王妃たちとは、幼い時からの知り合いでもあった。


 貴族は、同等の貴族たちとはよく面識があり、特にこの王都に暮らす子供は、親同士の関係で知り合う機会が多いのだそうだ。つまり、陛下たちからしてもアンネローゼは幼馴染でもあるらしい。


 暫く、その様な時が流れたが、時間は有限。三人が落ち着いた所で早速本題に入る事になった。その際に、部屋にいた使用人には外へ退出してもらう。


「国王陛下。先日の件お受けいたします」


 先日の件は、彼女たちが望めば結婚を前提としたお付き合いを行う。即ち婚約者として共に歩み成人をしたら即、結婚と言う流れの事だ。実際は、婚約者としてどうかと言う事だったが、貴族からしたら婚約は即ち結婚を表している。


 どちらかが、合理的な理由がない限り破棄できず、仮に破られた場合は相手の家から多額の請求が要求される。


 レーア王女を含め誰一人として婚約者を作らないのは、意中の人物がいたからと言える。


 レオンハルトの言葉に嬉しい表情を見せる親たち。


「ですが、条件が一つだけあります」


 まさか、格上の家から嫁を貰うのに条件を付けてくるとは思ってもみず、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしていた。本来であれば、条件を付けれる側が、条件を提示される。前代未聞の出来事だった。流石のアンネローゼもこれは想定外の事で驚いていた。


「なんだ、その条件と言うのは?」


「俺は、シャルロットを正妻に考えております」


 流石にこれには、反対の声が上がる。しかもかなりきつめに貴族の仕来りがどうだとか、貴族としての責務がどうだとか、貴族が、貴族が・・・と攻め立てられる。


「お父様、やめてください。レオンハルト様の言い分を」


 必死でそれぞれの父親を止めるレーアやティアナたち。


 このままでは埒が明かないので、予定通りある方法を取る事にした。


 腕から手にかけて魔力を集めて、半球体状に拡張して部屋を覆い尽くす。聖魔法の一つ『聖域(サンクチュアリ)』を使用した。効果は結界と治癒、状態異常回復など様々な効果を齎してくれる。何よりこの魔法はかなり派手だ。周囲を静かにさせると共にリラックス効果も得られるので都合が良い。


 普通、ホイホイと使える様な魔法でないが、彼の魔力操作と魔力保有量を持ってすれば容易い事。


 ッ!!!!


「落ち着かれましたか?ただ、彼女を正妻にする理由もきちんとあります。普通は高貴な血筋を正妻にされます。今回であればレーア王女でしょう。ですが、彼女は特別な力を持っています・・・私同様に」


 そして漸く二人で考えた設定を話す。


「我々は、皆さまから見て異質に感じた事はありませんか?」


 この質問に真っ先に応えたのが、アンネローゼだった。


「ええ、確かに二人は優秀・・・いえ、大人を超える知識や見た事もない物を次々に生み出していましたね」


 それに対して他の者も頷く。エトヴィン宰相からは、未成年で上級魔族と渡り合える技術と度胸。リーンハルトからは、魔法の多彩さと魔力量や威力など様々な声があげられる。


「それが何か関係あるのかね?」


 アウグスト陛下は、まだ話が見えていない様で、不思議な顔をしている。


「それもそのはずです。私とシャルロットは、前世の記憶を持っています。それもこの世界とは別の世界の記憶です」


 静まり返る部屋。誰もがその発言を信じられないと言った顔をしていた。


「前世で私は彼女と共に仕事をしていましたが、ある出来事をきっかけに命を落としました。神様より新たな生命をもらい受けると共に、特例ですが前世の記憶や知識などをそのままにしてくれました。だから、アンネ先生の言ったように、知らない事も知っていたり、新しい物を次から次へと生み出せたのです」


「すると、君たちは勇者か何かなのか?」


 エクスナー枢機卿の発言に、他の者たちは食い入る様に見てくる。


「残念ながら、勇者ではありません。神様から聞いたのですが勇者は神に選ばれた者が召喚されると言う物です。しかし我々は知識と神の加護と言うべきものを受けているだけです」


「か、神の加護、だと・・・・」


「そんな事が、・・・ありえるのか?」


 他の者たちも騒めき始めるが、アウグスト陛下の一声で再び静寂に戻る。


「血筋では確かに、此処の誰よりも我々の血は貴族とは程遠いでしょう。私はアウグスト陛下から陞爵され、晴れて貴族の仲間入りが出来ましたが、女性はそう言うわけにはいきません。なので、彼女を正妻に考えております。前世からのパートナーを無碍にする事は出来ませんから・・・」


 そこまで言われると誰も反論する事が出来ない。


 だが、この説明にも当然、指摘されるところは幾つもある。


「神の加護を受けていると言っていたが、それはどういうことなのか?」


「それと、その話がそもそも本当かどうか。どう証明するのだ?」


 エクスナー枢機卿とエトヴィン宰相の質問は、レオンハルトが話をした中で、最も指摘される二箇所だ。神の加護を見せる事は出来ないし、そもそもこの話をどう証明するかは分からない。


「私は二人の事を信じます。それに、二人の力は本物です」


 そうかっ!!まだこの手があると思い。『聖域(サンクチュアリ)』を解いた。シャルロットに『念話(テレパシー)』で思いついた事を伝え、準備をする。


「証明になるかどうかわかりませんが、皆さんは転移魔法についてどのくらい知識をお持ちですか?」


 転移魔法は、使える者が限られている魔法で、莫大な魔力を消費して一瞬で遠くの場所に移動出来る魔法だと認識していた。


 レーアを除く仲間たちもレオンハルトが何をしようとしているのかが分かったようだったので、手で話さない様に伝える。


「転移魔法は高度な魔法だ。この王都でも使える者は十人もいない」


「ええ、そうですね。それに、距離に応じて魔力量も跳ね上がります」


 すると、レオンハルトは一瞬にしてその場から消える。すると部屋の外から兵士たちが驚く音が聞こえ、慌てたようにノックをして部屋を開ける。


「と、まあこんな感じですね」


 現れたのは、レオンハルトだった。無詠唱で、短距離とはいえ転移魔法をやってのけた。


「アンネ先生も今日孤児院に迎えに行き連れてきました」


 それに頷くアンネローゼ。また、捕捉するようにティアナたちは二人が転移魔法を使えることを話す。しかも、長距離を大人数で何度も移動できるとも。それを聞いたら、逆に驚きを通り越して呆れそうになっていた。


「勇者・・・様ではないのですね?でも勇者様に近い存在・・・」


 まあ、勇者として召喚されてもその活動はしたくないなと思うレオンハルト。勇者とは、何も成し遂げようとしない者は、勇者と呼ばれなくなるし、世界を守るために活動を続ける者は絶大な支援を受ける事が出来る。


 それに、よくよく考えれば、今この世界にいる勇者は一人だけ。後の三人は、一年半ぐらい前に魔族との戦闘で命を落としている。勇者だけでなく優秀な冒険者たちも含めて大国一つが滅びた。


 だから、この世界を守れる勇者は貴重な戦力。それに等しい者もまた同じように扱われるかもしれないと思い。此処に来て、この作戦は失敗したかもしれないと後悔する。


「他に神様から何か聞いてはおらぬのか?」


「え?・・・そ、そうですねー。確か邪神復活の阻止がどうとか・・・」


 すると、シャルロットを除いた全員が頭を下げる。アウグスト陛下たちは、レオンハルトたちは邪神復活を阻止するために神に選ばれた神の使いだと認識した。


「神の使いッ!!」


「それは流石にやめていただきたい。それと頭を上げてください」


 何とか説得して、普通に対応してもらうようになり、神の使いと言う名前は、取り敢えず別の物に変えてもらえたが、前とさほど変わらないと愚痴をこぼしたくなった。


 レオンハルトは、武術と魔法に優れている事から英雄として。シャルロットは知識と魔法から賢者と呼ばれるようになった。そんな中二病っぽい二つ名はいらないのに、周りが勝手に盛り上がる。


「では、アヴァロン卿。其方の希望を叶える事にする」


 変な二つ名がついてしまったが、これでシャルロットを正妻にする事が出来た。なぜ彼女を正妻にするのか。それは、たぶん婚約者の中で一番好きだからだ。他の者たちも好きではあるが、これが恋愛の好きかどうか判断しづらい。


「婚約発表は、もう少し時期をずらして発表するから、皆くれぐれも公開しないようにしてくれ」


 近々に決めなくても良いじゃんっ!?


 内心ツッコミを入れるレオンハルト。


 婚約発表を遅らせたのには理由がある。現在、レオンハルトの爵位は準男爵。降嫁させるにしても、二つしたぐらいの位で無ければ難しい。なので、レオンハルトには最低でも伯爵になってもらう必要があったからだ。


 こういう仕来りは本当に面倒だとつくづく思ってしまう。加えて、発表をすぐしないのであれば、急ぐ必要はないと思ってしまうが、これにもきちんとした理由が存在した。ただ婚約者がいないのと婚約者はいるが未発表とでは大きく違ってくるのだそうだ。


まあ、レオンハルトがその事に対して理解できるようになるのは当分先になるだろう。


 因みに、参加した全員がレオンハルトとの婚姻を拒否するどころか、直ぐにでもといって行動しようとしていたぐらいだった。


「レオン君?出来れば私には、相談してほしかったな?」


 アンネローゼから少し、悲しい声で話してくるが、彼女の場合こういう時のこの表現は、実は嘘だったりする。そもそも、先程の感動の後でこの表情をされても嘘だと分かってしまう。


「そうだ。君に渡す物があった。これを渡しておくよ」


 エトヴィン宰相から二本の鍵を預かる。鍵の形式上からして、一つはスペアキーの様な感じだが、そもそも何の鍵なのか見当がつかない。


「これは、君へのプレゼントさ。準男爵が何時までも家が無いと言うのは流石にまずいからね」


 まあ確かに、公には家を持っていない。非公式であればマウント山脈の麓に隠蔽している隠れ家はあるが、あれを果たして居住地と呼んで良いかは不明だ。


 そろそろ、小さい屋敷でも購入しようかと思い始めていた時のこの対応。監視されているのかと疑問に思ったが、それはあり得ない。常時とはいかないまでも、かなり警戒しているがそれらしいのは、中途半端な実力を備えた冒険者たちだ。


 良い鴨を見つけたと言う感じで、襲って来る冒険者(バカ)も居るが、そう言った連中は何も出来ずに返り討ちにあう。そのまま冒険者ギルドに突き出し、罰則金を支払わせ、我々には慰謝料をもらう。


「屋敷自体はかなり広いし、庭も周辺の屋敷に比べてもかなり上の方の物件だよ。帰りに寄ってみると良いよ」


「お父様?それはひょっとして、中央区の元侯爵様の御屋敷ですか?」


 ティアナのカミングアウトに、驚きを隠せないエトヴィン宰相。まさか、一発で特定されるとは考えもしなかった。確かに色々あり、買い手がつかない屋敷ではあるが、物が良いのは確かだ。


 非公式ではあるが、これだけの婚約者を作っているのだ。そこそこ広い屋敷でないと今後が大変になる。まあそういった意味で選んだわけではないのだが。


「元侯爵家の屋敷?ティアナ、それは何処にある屋敷なんだ?」


 王都に詳しくないレオンハルトは(おもむろ)に尋ねた。そもそも準男爵の身分で元侯爵家の屋敷に住むと言うのはどういう了見なんだろう?


「王都の中央区にあります屋敷なのですが・・・・」


「少しばかり・・・いわくつきの屋敷だとお伺いしています」


 言葉に言い淀むティアナに、リリーが代わりに答えた。


 いわくつき・・・お化けでも出るのだろうか?


「私も聞き及んだだけで、調べたわけではないのですが、十年以上前に犯罪に手を染めた侯爵家を取りつぶし、その際に王家が没収した屋敷だったと思います」


 エルフィーもその屋敷については多少知識があるみたいで、知っている事を教えてくれた。まずは、元所有者の事について、ルーマン・ガスト・フォン・ヴァルザーと言う名前の、かなり太った人物だったらしい。エルフィーは優しいから相手を傷付けるような言葉は言わないが、俺が彼女から聞いて思いついたのが豚野郎(クズヤロウ)だった。何でも別の場所にある自分の領地の領民から不当と言える程の税を課し、私腹を肥やしていたらしい。それだけではなく、王都の孤児を誘拐して人身売買に手を貸していたのだ。豚野郎の豚でさえ可哀そうに思う人物。


 今も生きて生活していたら、魔法で屋敷ごと吹き飛ばしていたかもしれない。


 逆に、そんな人物が使っていた屋敷を貰うとか、正直嫌でしかないが。公爵家の当主であり宰相のエトヴィンからの贈り物を拒絶も出来ない。


(屋敷を見てから、考えるか・・・)


「大丈夫だ。その屋敷は既に司教の手によって、お清めもしておる。ゴーストなど出てこぬわ」


 エクスナー枢機卿は、レオンハルトがこの屋敷を貰う事が決まった時に、教会にいる司教に指示を出して、屋敷中のお清めと浄化を施してもらっている。


 その前には、フォルマー公爵がお抱えの魔法使いに見てもらい、屋敷全体に『屋内清掃(ハウスクリーン)』と言う少し珍しい生活魔法で綺麗にもしている。ただ、屋敷全体が広いので、全てを綺麗にできない為、全体的にほどほどに綺麗にした後、給仕係(メイド)たちに生活に支障がないレベルで綺麗にさせてもいた。


 実に労力と魔力とお金を消費した屋敷でもある。


「ありがとうございます。フォルマー公爵様、それにエクスナー枢機卿も」


 深々と頭を下げる。エトヴィン宰相は笑顔で手を振っていたが、エクスナー枢機卿はいつもと同じ硬い表情をしていた。口角が少し動いているのを見ると、心の中では喜んでいるのだろうと思う。


 それにしても、今回は告白と言うか、驚きの発言ばかりあった気がするレオンハルトたちだった。実際にはアウグスト陛下・・・この場にいた皆が同じように驚きっぱなしの一日となり、それだけで精神的な疲れが溜まってしまったのだった。


いつも読んで頂きありがとうございます。

誤字脱字の報告大変助かっております。また、数の多さに大変申し訳ありません。


今後も頑張りますので、応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔王と邪神が別ならともかく、魔王討伐の延長なら復活阻止とか言いながら何もしてないのだから意味なさないと思うけどね。
2021/03/06 00:10 退会済み
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