067 アンネローゼの秘密
おはようございます。
早速の三連休ですが、仕事疲れからか昨日は、殆ど寝て過ごしてしまった。
皆さんは三連休どの様に過ごされているのでしょうね。
私は今日と明日、頑張って執筆と誤字脱字の対応をがんばりまーす。
何時も報告してくれる皆さま、ありがとうございます。
では、続きをどうぞ。
王城に呼ばれた俺たちは、現在エトヴィン宰相からアンネローゼの事について話を聞いていた。
テオ・トーマス・フォン・エーデルシュタイン伯爵。王都の北地区を統括している貴族の中でも中心にいる貴族の一つだ。爵位は伯爵なのだが、同位の伯爵家よりも権限を持っている、そんな貴族の四女として生まれてきたのが、アンネローゼだそうだ。
アンネローゼの貴族としての名前は、アンネローゼ・ニーナ・フォン・エーデルシュタイン。剣と魔法の才能が秀でていて、昔からかなりのやんちゃだったそうだ。
エトヴィン宰相やリーンハルトたちとは同年代と言う事もあり、良く外で遊んでいたらしいが、王都にある王立学院に通い始めた頃から時折、冒険者の真似事で森の入口にいるフェザーラビットなどを捕まえてきたそうだ。
十二歳のころ、たまたま王都に来ていたある少年と意気投合し、冒険者として生きて行くと言い残して家を出たそうだ。その少年が後にリーゼロッテの父親になったのかは分からないらしいが。
冒険者として活動を始め、才能があった分直ぐにその頭角を見せ始めたらしい。拠点にしていたのは、今の俺たちと同じナルキーソでだったらしい。ただ、護衛などの依頼であっちこっち移動していたようだ。
また、父親のテオが何度か探しに行ったらしいが、一度も会えた事が無いらしい。
そして仲間たちに恵まれ、数年でBランクと言う快挙を成し遂げた。今でこそレオンハルトがその記録を塗り替えてしまったが、当時はかなり噂になり、その噂は王都にまで聞こえていたぐらいだから、相当に有名だったのだろう。
そう言えば、引退した理由がナルキーソの海域で海賊の討伐中に下級の竜種に襲われてチームが半壊したんだったっけか?
その時の魔物の名前は思い出せないが、命を落とした仲間たちの子供たちを引き取ったのが孤児院の始まりって言っていたのを思い出す。
「名のある冒険者として有名になったアンネローゼたちだったが、そのすぐ後ぐらいにある事件が起きた。ナルキーソでアンネローゼがいるチームの半数以上が命を落としたと行商人から聞いたのだ」
当時は詳細な事は分からず、冒険者ギルド経由で情報を集め、どうにか何が起こったのかを知りえたそうだ。生き残った冒険者たちもチームを解散し散り散りになり、エーデルシュタイン伯爵が探しに行った時は、誰が生存して、誰が亡くなったのか分からなかったそうだ。
実際に生き残った人も、仲間と合流せずに故郷に帰った者もいるため、把握できなかったそうだ。アンネローゼが生きていると言う情報は、如何にか得られたらしいが、負傷し何処かへ消えたと聞いて、エーデルシュタイン伯爵もアンネローゼは、亡くなったのだと覚悟を決めたと言う事だった。
(実際に負傷していたのかもしれないけど、もしかしたらリーゼロッテの父親の血がべっとりついていたのかもしれないな)
真相はそうなのかは、本人に聞かなければ分からないが。そうこうしているうちにドアの向こう側に人の気配を感じた。
その直後ドアをノックする音が聞こえ、使用人がドアを開ける。入室してきたのは北地区の統括を任されているエーデルシュタイン伯爵だ。それに加えて奥方と思われる人物も入室してきた。
「急な用件との事で、家内共々馳せ参じました」
簡単な挨拶を行うエーデルシュタイン伯爵。この中でエクスナー枢機卿の次に高齢な為、貴族の雰囲気が誰よりも感じられる。
「急な呼び出しに応えてくれて感謝する」
「いえ、陛下の御命令とあらば、直ぐに馳せ参じますぞ」
渋い声と発言の硬さから、長年王家に忠誠心を捧げてきたのだと分かる。奥方も発言は一切ないが、伯爵同様に年季の入った・・・と言うのは女性に失礼だろうが、若手にはない品を感じさせられる。
「アヴァロン卿。何度かお目にかかっているだろうが、彼はテオ・トーマス・フォン・エーデルシュタイン伯爵とその奥方であられるヘルミーネ・アズリラ・フォン・エーデルシュタイン殿だ」
エトヴィン宰相に紹介されたので、此方も挨拶を行った。ティアナたち公爵令嬢は面識があるため自己紹介は無かったが、シャルロットとリーゼロッテはレオンハルトに続いて自己紹介を行う。
リーゼロッテの紹介の時、テオの奥方のヘルミーネが、瞳に涙を浮かべる。娘の面影をリーゼロッテから感じ取ったのだろう。
「今回、急ぎ呼んだのは、彼女の事についてだ。彼女の母親の名はアンネローゼ、即ちエーデルシュタイン伯爵の孫にあたる可能性が出てきたのだ」
エーデルシュタイン伯爵と奥方は、今まで見せた事が無いほど驚きの表情を顔に浮かべ、まじまじとリーゼロッテの顔を見る。そして、アンネローゼの幼少の頃に似ていると分かると涙を流す。
「お主は、本当に儂らの孫なのか?」
初めて会った時は怖い印象しかなかったが、今はその印象を全く感じさせない。優しいお爺さんの様な感じで接してくる。
とはいえ、これをどうやって証明するべきなのか悩んでいると、エーデルシュタイン伯爵は直ぐに、アンネローゼのいる場所に案内してほしいと話し出した。
確かに直接会って話をするのが一番だろうが、その間釘付けになるのは此方としても困る。
「まあ、それはこの後、兵士に使いを出して、確認させる。場合によっては王城へ招待すればよいだろう」
アウグスト陛下が、待ったをかける。これには、流石のエーデルシュタイン伯爵も従わない訳にはいかない。
「今回呼んだのは、アンネローゼの事もなんだが、もう一つ確認しなければならいことがあってな」
そう。俺やシャルロットが呼ばれた理由は未だに分からないままだ。リーゼロッテがエーデルシュタイン伯爵の娘アンネローゼの娘かどうかの確認で呼ばれたわけではない。もしそうなら、最初の席の段階でエーデルシュタイン伯爵が同席していただろうからだ。
アウグスト陛下の視線が、レオンハルトに向くと他の貴族たちも同じように彼を見る。
「アヴァロン準男爵・・・いや、レオンハルトよ。其方に問いたい。お主は、彼女たちをどう思っておるのだ?」
彼女たちとは、誰の事を示しているのか分からない。話の流れから、シャルロットとリーゼロッテの事だろうが、同席させているとなればレーア王女やティアナたちも含んでの話の可能性も十分にあった。
「アウグスト陛下の言われる彼女とは誰の事を指しているのか存じ上げませんが、皆、守るべき仲間だと私は考えております」
「・・・・では皆とは、結婚を考えてるわけではないと?」
そう尋ねられると、返答に困る。何せシャルロットは前世の頃から好きな相手であった。今は彼女を守りたいと言う気持ちの方が強いが、誰か見知らぬ男性に彼女を取られるところを想像したくない気持ちもある。
他の者たちも同様だ。リーゼロッテもこれまで共に過ごしてきている。今更、離れろと言われると言葉が出てこなくなる。
ティアナたちもこの一年で随分、俺たちに協力してくれた。だから、出来れば今後も共にチームを支えてほしいと思っている。
しかし、ティアナ、リリー、エルフィーそして、新たに発覚したリーゼロッテの出生について考えると、リーゼロッテは確定出ないにしてもティアナたちは貴族令嬢。行く行くは貴族としての役目を果たさなければならない。
貴族に嫁いで子を成し、血筋の存続と言う役目を・・・。
「返答がないと言う事は、少なからず考えているのだな?」
「・・・そうですね。ただ出来れば、少し待ってもらえないでしょうか?」
レオンハルトの言葉に誰もが黙り込んでしまう。彼の次の言葉を待っているのだろう。
「まだ、自分には、その資格があるのかと言う覚悟が定まっていません」
レオンハルトの恋愛の価値観・・・と言うよりも、想い人である窪塚琴莉への未練が残っているのだ。これを解決させなければ先に進めない。もし先に進んでもその事が、今後後悔と言う足枷となる可能性があるのだ。後悔はやがて彼自身の心を蝕み何時しか他の女性たちに当たる。そのため彼女たちの幸せに繋がるとは到底思えない。負が新たな負を生み、やがて負の連鎖となって人生を破滅させる。
そうなってほしくないからこそ、過去にけじめをつける必要があると決意した。
「そうか。では、其方の覚悟が決まるまでは答えを待つとするが、・・・・だが、先に伝えておくぞ。彼女たちにその気があるのであれば、我は全員を婚約者として考えておる。これは、フォルマー公、ラインフェルト候、ハイネス伯も同意している。シュヴァイガート伯は、今話をしたので、どうするか検討していないとは思うが・・・」
「いえ、陛下。我々は仮にその子が孫娘だとしても反対する事はありません。彼が人徳者だと言う事は周りの声を聴いて知っております。それに、決定するのは彼女の母親でしょう」
つまるところ、シュヴァイガート伯たちもリーゼロッテの親が反対しないのであれば、歓迎すると言う事らしい。娘が飛び出してしまったのも、貴族と言う柵もあったのだろうが、それよりも恐らく仲良くなった少年とやらに恋をしてしまったのだろう。
家を飛び出す程なのだから、その少年は平民。貴族令嬢と結婚するにはあまりにも高い壁があり、その壁を乗り越えられないからこそ、アンネローゼは壁を降りてしまったのだと考えている。
「・・・承知・・・しました」
此処に居る女性と言うのは、レーア王女も含まれているのだろうか?
(これはガッツリこの国の政府と関りを持たされるな・・・どうしよう)
それから、少し話をしてこの話し合いの場を解散した。広場まで送ってもらおうと思ったのだが、エーデルシュタイン伯爵から家に招待され、俺とシャルロット、リーゼロッテはエーデルシュタイン伯爵の屋敷に行く事になった。
ティアナたちは、今日は実家に帰ると言う事なので、解散の時に分かれた。一年以上戻っていないのだ。折角王都に来たのだから里帰りも必要だろう。
(そう言えば、正月はいつも実家に戻っていたっけか・・・懐かしいな)
正月に帰省する者は、かなり多く毎年高速道路が大渋滞していた。彼は実家からそれほど離れた場所ではなかったので、毎年電車で実家に戻っていたが、実家にいるのも大体元日から三日までぐらいであった。それ以外は、蓮たちと大晦日を共に過ごしたり、会社の者と飲みに行ったりしていた。
思い出に浸りながら、エーデルシュタイン伯爵の馬車に乗り、王都の北地区にある屋敷へと移動した。
馬車の中では、伯爵よりも奥方からの質問攻めが続く。それをシャルロットとリーゼロッテが丁寧に説明してくれたおかげで、少し今後の事について考える事が出来たのだった。
「はあー」
一際、大きな溜息を吐くレオンハルト。午前中に王城へ行き国王陛下たちと会談。その後エーデルシュタイン伯爵家の御屋敷に招待されて、アンネローゼについて話を行った。此方が説明した彼女の容姿が、娘であるアンネローゼとほぼ一致していた事で、本人に会うまでは確定しないらしいが、十中八九リーゼロッテは彼らの孫娘に当たると判断してよいだろう。
屋敷に案内された時、息子夫婦とその娘に出会ったが、リーゼロッテの従姉妹にあたる彼女は、何処となく顔立ちがリーゼロッテに似ていた。
アンネローゼの昔話を聞いたり、リーゼロッテの父親らしき人について聞いたりしていたら、気が付くと夕方になっていたので、話を切り上げて宿屋に戻った。
ヨハンたちと宿屋にある酒場で夕食を食べ、各自室に戻る。
戻ってからと言うもの、俺はずっとベッドに腰を掛けたまま灯りも付けずに今の今まで考え事をしては溜息を吐くという動作を繰り返していた。
国王陛下の前では、覚悟を決めるまで待ってほしいと話をしたが、いざ話を彼女にしようとしても何て伝えれば良いか分からず、ずっとこの調子でいる。
気が付けば、周りからも音が一切しなくなり、時刻は丁度夜の二時を過ぎた頃だった。
「シャルになんて話をしたらいいんだ」
単に自分自身に誓った誓いを破りたくない。と言う気持ちも少なからずあるが、一番の理由は嫌われたくないと言う事だろう。
前世で彼女から言われた言葉・・・・「好きと言うよりは気になっている人はいる」と恥ずかしそうに言っていた事を。だから、俺は彼女の恋人になれなくても彼女の傍で一生守っていくよう心に誓った。
しかし、告白をして万が一に嫌われたら、俺はこの世界で生きて行けるのだろうか?
守ると決めた誓いも果たせなくなるだけでなく、彼女の傍にもいる事が出来なくなる。
だから、想いを伝えるのは怖い。
そんな事を考えていた事もあり、ふと我に返ると廊下から気配を感じ取った。
コンコン。
小さく鳴り響くノックの音を聞いて、ドアを開ける。気配の段階で誰が来たのかはすでに分かっていた。
「夜遅くにごめんなさい。今、大丈夫ですか?」
「どうしたの?取り敢えず中に入って。廊下は寒いだろうから」
頭を下げてから、レオンハルトが借りている部屋に入るシャルロット。最近、少し大人び始めた彼女は薄ピンク色のレースがあしらわれたネグリジェに上から上着を一枚着た姿をしていた。
流石に年頃と言うには少しばかり年齢が低いが、それでも女性が男性の部屋を訪れる時の恰好ではなかった。取り敢えず、先程自分が座っていたベッドの上に案内し、自分は窓の近くに置いてある机と椅子のセットから、椅子だけをベッドの近くへ移動させて座った。
「少し眠れなくて・・・・」
「そっか・・・・」
お互いに沈黙が続く。レオンハルトは先程まで、シャルロットこと窪塚琴莉の事を考えており、そして急にシャルロットが自室を尋ねて来たので、かなり心の中では動揺していた。
普段は平気なのに、今日は何かと彼女の事を考えると落ち着かない。これもあの時に話した事が原因だろうと推測する。
「・・・・・あのね。気になる事があるんだけど・・・・聞いても良いかな?」
改まって話をしてくるシャルロットに、頷いて返答をした。
「今日の・・・・婚約の事、どうするのか・・・なって思って」
シャルロットもその部分が気になる様で、それが原因で寝ようとしても、脳裏にその言葉がよぎり全然眠れなかった。
「――――ああ、どうするのか考えないとな」
覚悟がどうとかと言う部分を思い出し、それが何を指しているの何となく理解しているシャルロット。伊達に前世から共に歩んできてはいない。
「私ね。レオンくん・・・ううん。伏見君に、言わなければいけない事があるの・・・何て言うのかな?不満とでも言えばいいのかな?」
レオンハルトではなく、伏見優雨に対しての不満。これまで互いに口論になった事が無い二人。その一方が、不満を持ち続けていたと言うのだ。今更かもしれないが、これほど怖い事があるのだろうか。次に発せられる言葉までの間がやけに長く感じる。
「伏見君、あのね。・・・あの事故で命を落とした事、自分のせいだと思っていない?」
あれは、神による不手際で、神からも謝罪の言葉は貰っている。そうあの事故は紛れもなく神のせいだ。だが、事故の原因は神であってもあの時もっとうまく車を操作出来れば、車から彼女だけでも外に出す事が出来ればと思うと・・・後悔が心の中から消える事はなかった。
誓いもその時に生まれた後悔からと言えるかも知れない。
「あれは、誰が運転していても防げなかったと思うわ。それを今も心の中で後悔しているのが私は不満なの」
シャルロットは悲しそうに伝えてくる。悟られない様にしていたのに、なぜ彼女にその事がばれてしまったのだろう?
「それに、私はこの世界に来れて良かったと思っている。確かに家族や友人に会えないのは寂しいよ。でも、あなたが居てくれたから・・・・私は・・・」
そうだ。この世界に飛ばされた時、共にこの世界で生きようと誓った。片方が後悔に囚われているようでは共に歩んでいる事にはならないだろう。
泣き始める彼女の傍に移動しそっと抱きしめる。
男性は、女性の涙に弱いとは言うが、これは恐らく事実なのだろう。
彼女の内に秘めた思いを漸くきちんと理解したレオンハルトは、抱きしめた状態からそっと彼女に話かける。
「聞いてほしい事がある・・・・確かに君の言う通り、俺はあの事を今でも後悔している。けど、本当に後悔しているのは、好きな人を死なせてしまった事だ。これが、ただの同僚の女性だったら後悔はしないだろう」
静かに聞くシャルロット。涙はまだ出ているが、冷静さは少し取り戻していた。既に覚悟を決めたレオンハルトは、更に言葉を続ける。
「けど、好きな人の命を守れない事が悔しくて、この世界に来て、魔物が居て、盗賊が居て、魔族が居て・・・・前世よりも遥かに命の軽いこの世界で、今度こそ君を守ると決めた・・・たぶんそれが、覚悟の奥に・・・心の奥底にある後悔と言う根源なのかもしれない」
強く抱きしめ返してくるシャルロットの行為に少しドキッとしてしまうが、話を続けた。
「けど、もう迷わない」
身体を離し、彼女の肩に手を置く。強い意志が籠った眼差しは、真剣そのものでシャルロットもまた涙を拭きとり覚悟を決めた。
月が夜空を明るく照らし、王都の街は静寂な時を迎えている。レオンハルトのベッドの上でレオンハルトとシャルロット・・・いや、今はこう言うべきであろう。伏見優雨と窪塚琴莉は、互いに想い見つめ合う。それぞれの瞳には、強い意志と覚悟が感じ取れ、宝石の様に輝いているようにも見えた。
意を決したレオンハルトが遂に口を開く。
「琴莉・・・俺は、君の事が――――――」
読んで頂きありがとうございます。
遂に優雨が、琴莉に何かを伝えようとしていますね。
この続きは、次回投稿します。お楽しみに!!