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066 レーアの気持ち

おはようございます。

いよいよ。正月休みも今日で終わりの方が多いかと思います。


自分も明日から早速、仕事開始です。

今週も何かと忙しくなる予定ですが頑張ります。

 新年を迎えた夜。


 約束通り、アウグスト陛下とアマーリエ第一王妃、コンラーディン王太子、レーア第二王女は、陛下の自室に集まった。


 陛下たち三人を除き、約一名が完全に上の空状態になっている。


「ーァ、ーア、レーア?聞いていますの?」


 自分が呼ばれた事に驚き、姿勢を正す。皆が何を話していたのか分からず、困っていると隣に居たコンラーディンが、声をかけてくれる。


「レーア?上の空だったみたいだけど、そんなに彼に会えた事が嬉しかったかい?」


 彼とは、レオンハルトの事で、それを理解したレーアは、耳まで真っ赤になるぐらい頬を染め照れる。レオンハルトと直接、顔を合わせるのは一年半弱ぐらいなので、どうしても会えたことが嬉しくて、その時の気持ちが全面に出てしまう。


「レーアよ。そこまでアヴァロン卿を思っているとはな。お前は結局の所、彼とどうなりたいのだ?」


 アウグストの問いに、真剣な眼差しで、答える。アマーリエとコンラーディンも静かにその言葉を傾聴するような姿勢で聞いた。


「で、出来れば、彼と結婚・・できれば、と思っています」


 その言葉を聞いてアウグストは、やはりかと言う表情で頷いた。


 他人から見ていても分かるぐらい、今のレーアは彼の事を想っているのが良く分かる。コンラーディンが今日話を切り出そうとこの場を設けたのもこの件についてだった。


「父上。レーアがこれ程までに誰かを想った事は無いと思います。出来れば可愛い妹に望む相手と幸せになってほしい。自分はそう考えています」


「あなた?私もディンと同じ気持ちです。確かに王族として生まれたからには、その使命と言う物があります。ですが、私はそれでも・・・娘たちには幸せになってほしいのです」


 先程のちょっとした冗談を話していた兄とは違い、真剣に父親と向き合っている。母親も同様の気持ちでいる事にアウグストも暫し無言で考え込んだ。


 王族とは、国を守るだけでなく発展するためその責務を果たさなければならない。それが主に政略結婚と呼ばれる同国内の上級貴族との婚姻で、貴族との絆をより強固にしたり、他国の王族や皇族などお互いの国の発展のための結婚をしたりする。


 王族の結婚は上級貴族以上に大きな意味合いを持つのだ。


 因みにアマーリエ第一王妃の言うディンとは、コンラーディン王太子の事だ。彼の愛称をディンと家族の者は呼んでいる。レーアたちも公の場では、兄様と呼んだり、コンラーディン兄様と呼んだりしているが、プライベートの場合だと兄様以外にディン兄様と呼んだりする事もある。これは第二王子のテオドール殿下と一緒に居る時などで呼んだりしたり、どちらの人物に対しての話かどうかの時に使う。但し、あくまでも身内のみの状況に限る。


「それに彼は非常に優秀です。そこを踏まえてもレーアの婚約者の相手は、彼でも良いと私は考えています」


 そう、今回一番困っているのはレオンハルトと言う人物が優秀過ぎる才能を有していたからだ。それでいて、平民出身と言う身分がそれをかなりややこしくしている。


 彼は放っておいても勝手に上り詰めてくるだろうが、その頃には既にどこぞの誰かに権利を取られているかもしれない。だから出来るだけ早い段階で陞爵させる必要がある。しかし理由もなしに陞爵するのは不味い。加えてそれだけ早いスピード出世をしたら周りの貴族からも反感を買ってしまう。非常にデリケートな問題でもあった。


 今回の騎士爵から準男爵への陞爵も強引と言えば強引な手段ではある。何しろ陞爵するにあたっての理由が少し弱いのと、それを単独ではなくチームで行っているからだ。


 ただ準男爵程度の爵位では反感してくる者も少ないのもまた事実。


「有用なのはわかっておる。それに彼の事を好いているのはレーアだけではない。エトヴィン宰相の愛娘のティアナ嬢やラインフェルト侯爵家のリリー嬢。そして、エクスナー枢機卿の孫のエルフィー嬢もいるのだぞ?」


 皆、娘なので何処かの家に嫁ぐ事は前提に入れているが、王族に加えて我が国の重鎮と呼べる数か所の貴族とも縁談が既にある状況。


 彼方もまだその話はしていないだろうが、娘たちを彼に預けている段階でカウントダウンに入っていてもおかしくないのだ。


 何となくは察していたコンラーディン、アマーリエはそのあたりは特に気にしていない様子だった。それよりも三人の婚約者候補がいると聞いてレーアが少し沈んでしまっていた。


 三人とレーアは既に立っているポジションが違い過ぎるのだ。


「そ、それは確定しているのですか?彼が婚約者を決めていると言う話は聞いていないのですが・・・」


 コンラーディンも時間が許す時にレオンハルトについて色々調べていたりする。その調べている中で、仲の良い少女が数人いる事は掴んでいるが、婚約者がいると言う情報は一切入っていない。


「確定しているわけではない。実は年末に宰相たちと話をして、そう言う方向性になるだろうと話をしたまでの事だ。まあ結局は当の本人たち次第と言う形で終わっているがな」


 ティアナたちの親は既にそのような動きを検討している。


「なるほど。だからレーアに覚悟を尋ねたのですね?」


 レーアが好いていると結婚したいかどうかは、別の可能性もあった。レーア自身、王族としての責務から別の人との結婚も、もしかしたらと考えている。叶わぬ恋に憧れている可能性もゼロではなかった。


 しかし実際にはそんな事はなかった。また、彼をどれ程想っているのかも分かった。


「あなた?国のためなのは分かります。でも、一人の母として娘たちには出来れば・・・」


「ああ、アマーリエ。その気持ちは皆同じだぞ?レーア、彼と結ばれると言う事は、降嫁の意思もあると言う事で良いな?」


「はいっ。構いません」


 降嫁する事よりも彼と結ばれる方を選ぶレーア。そして、娘の意思を確認したアウグストは、明日、その事について彼を呼び出し話をしなければならない。


 問題は、彼の婚約者の順位だろう。普通に考えれば、前にも述べたようにレーアが正妻に収まる。しかし、それがどうにも胸騒ぎがしてならない。下手をすればドラゴンの尾を踏むのではないかと考えてしまうのだ。


 不測の事態に備えて、ある程度準備をしておく必要があると判断し、皆が解散した後に一人、机の上で上質な紙に一筆したためて、かの国へ送る手はずを整えた。












 王城にて新年祭の挨拶を行った翌日、つまり国王陛下に呼び出された日。レオンハルトたちは夜のうちに一度、宿屋から転移魔法でナルキーソに飛び、仲間たちと相談していた。翌朝、ナルキーソの宿屋を引き払って出発した。レオンハルトたち昨日王都に行ったグループは冒険者ギルドへ、行っていないグループは、商業ギルドに分かれた。


 冒険者ギルドには、先日まで手伝ってくれた者たちに対して報酬を、商業ギルドには売り上げの一部の献上に向かった。


 それが終われば、レオンハルトたちは転移で王都の宿屋に飛び、集合場所に決めた銅像広場に行く。シャルロットたちはレオンハルトたちが飛んだ森の中に転移し、そこから同じように街道を進み、王都の入口で手続きを済ませて中に入る。向かう先はレオンハルトたちがいる銅像広場。


 レオンハルトたちも銅像広場で待っている間に今後の方向性を話し合う。現在はナルキーソを拠点に冒険者として活動をしていたが、行商も行うとなると一箇所にずっと滞在するわけにはいかない。


 ナルキーソは、領主との関係や商業ギルドなどのトップとも話が出来ていたし、生誕祭や新年祭などもあり長期滞在していたと言うだけだし、魚介類の仕入れもかなりできた。


「北へ向かってはどうですか?」


 北は、これまで殆ど向かった事が無い。北方面であるとすれば、ナルキーソの北部にあるマウント山脈に行った事とその近辺の森の中、川沿いを上流の方へ向かって進んだ先にある場所でスクリームとの戦闘をした場所ぐらい。


「北は殆ど言った事が無いんだけれど、何があるの?」


 王都の真北に進んだ場合、主にゲオルギー侯爵領、ベックマン伯爵領、ヴァイグル辺境伯領等がある事は、知っているがそれだけの事。噂で北にある街が魔物に襲われる事が多いと聞き、魔物が多い場所なのかもしれないと考えていたのだが、如何やら違うらしい。


 エルフィーの話では、北の地方は他の地方に比べて特殊な場所が幾つもあるとの事。特に多いのが遺跡らしく、未発見の遺跡も多く存在しているとか、全容を把握できていない遺跡も幾つもあるとか。


 遺跡で見つけた武器などは古代の技術で作られた物、近代的な物等様々。エッダの持つ氷の槍の魔装武器も遺跡産と聞いた事があった。後で確かめてみよう。


 その未知な遺跡から魔物が溢れ出てくる時があるそうで、熟練冒険者は北に行く事が多い。遺跡で魔装武器等のお宝を見つければ一攫千金間違いないのだろう。


 その為、特にゲオルギー侯爵領はかなり治安が良くないと教えてもらった。エルフィーが此処まで知っているのは、各街の教会へ足を運んだりしたからだそうで、その時からあまりゲオルギー侯爵の当主、クサーヴァ・トード・フォン・ゲオルギーの事を苦手としており、極力関わり合いを持ちたくないのだそうだ。


「昔、縁談を求められた事がありまして、その時は御爺様が相当怒っておられました」


「私の所にも縁談の書状が届きました。御父様が、縁談を破棄されていましたが・・・」


 エルフィーとリリーに縁談の話を持ち込むとか、どんなロリコンだよって心の中で盛大なツッコミを入れる。


 ゲオルギー侯爵と言えば、昨日レオンハルトに絡んできた小太り体型の中年のおっさんだ。アレが、二人に縁談を申し込んだとか・・・心のどこかで排除したくなってしまった。


(あれ?俺・・・もロリコン・・・・じゃないよな?きっと違う)


 中身がおっさんなのは、レオンハルトも同じだ。だが、前世の姿であれば縁談の話は絶対にしない。前世の世界では犯罪行為になってしまうと分かっているからだ。年齢差ではない。何せ四十を超えたおっさんが、小学生を卒業したぐらいの子に求婚するとか相当世間から叩かれる事案だ。


「そうか・・・あれ?そう言えば、ティアナには縁談は来なかったの?」


 二人に来たと言う事は、当然ティアナにも来たと思ったのだが。格上のお家との繋がりだ。ゲオルギー侯爵の様な人物なら必ずと言って良い程、何かしらのアプローチをかけても良そうだが。


「私の御父様がゲオルギー侯爵様を目の敵の様に扱っていますので、縁談は来ないかと思います」


 まあ、あの性格なら彼方此方でトラブルを起こしていても不思議ではない。その尻拭いをするのは、別の人物だが事態を見定めて指示を出すのはティアナの父親であり、宰相のエトヴィン。だから彼を警戒しており、宰相に睨まれているゲオルギー侯爵も彼との接点を持とうとはしないのだろう。


 と言うか、それでも接点を持ってこようとする奴は本物の馬鹿だと思う。


 三人は苦笑いをして、このどうしたら良いか分からない空気を過ごす。するとラウラが、そっと現れて、シャルロットたちが来たことを伝えてくれた。


(縁談か・・・準男爵になったのだから、相手を見つけないといけないんだろうな)


 貴族は、領地があれば領地を守ったりすることは重要ではあるが、最も大事なのは後継者を作る事である。一代のみの貴族の身分であれば問題ないが、世襲する身分は、後継者を残し受け継いでいかなくてはならないと言う暗黙の了解の様な掟がある。


「お待たせ・・・って、どうかした?」


「ん?ああ、さっき縁談・・・じゃなかった。陛下の呼び出しについて考えていた」


 縁談の話から自分も誰かと結婚をしなければならないと考えていた事をうっかり話しそうになる。レオンハルトは前世の頃シャルロットの前世の窪塚(くぼつか)琴莉(ことり)の事が好きだった。今も好きと言えば好きなのだが、死なせてしまった後悔から今度は守ってみせると言う使命感の方が勝ってしまっている。


 でも、やはり彼女にロリコンと思われたくない事から、今の話を強引に切り替えたのだ。


 好きな人にロリコンって言われて喜ぶ人は、かなり特殊な性癖を持っている人でないと嬉しくないだろう。そして俺はそんな性癖を持ってはいない。


「そう言えば、そろそろお迎えが来るのよね?」


「ああ、その予定になっているはずだよ」


 新年祭で盛り上がる王都。何処に行っても人で溢れかえっている。昨日、改めて王城に向かう様に手はずを整えていると、王城から馬車を出してくれる話になった。何でも、俺の持つ馬車は貴族用の馬車ではなく行商用の馬車になるので、そこを気遣っての事らしい。


 まあ、行商用の馬車が正門から出入りしていたら、周囲から何言われるか分かったものではないからな。配慮が足らなかったことを今更ながらに後悔した。


 馬車は此処、銅像広場に十時頃来る手はずになっているが、今の所それらしい馬車は見つけられない。


「お待たせしましたレオンハルト様」


 不意に後ろから、イケメン風の私服を着た青年が声をかけてきた。よく見れば昨日案内してくれた騎士団の人で、如何やら彼が今回も案内してくれるようだ。


「あ、お世話になります。今日は騎士の恰好ではないのですね」


「はい。皆さんを目立たずにご案内するには、この格好の方が良いかと思いまして。彼方の路地裏に馬車を待機させています。お手数おかけしますが、彼方までご足労頂けますか?」


 騎士に言われる方に顔を向けると、他にも私服を着た騎士らしき人が数名立っていた。


「シャル、悪いけど後頼むね」


 そう言って、皆を任せようとすると、


「すみませんが、レオンハルト様以外にティアナ様、リリー様、エルフィー様に加えて、シャルロット様とリーゼロッテ様も一緒に同行して頂けますか?」


 ティアナたちは分かるが、シャルロットとリーゼロッテが呼ばれるのは予想しておらず、皆何を言われたのか分からないって反応を示した。


「シャルちゃん。私たちも行くの?服どうしよう?」


 一番に復活したのはリーゼロッテだった。彼女は今、完全な私服である。白のフリルの付いたブラウスに白のロングコート、膝上ぐらいの長さの赤いスカートの姿。シャルロットも私服の恰好をしており、薄紫色のシンプルなブラウスに黒のカーディガン、白のフレアスカートを着ていた。これらはデザイン的にまだ普及はしていないが、プリモーロにあるハンナのお店でシャルロットがデザインし、作ってもらった服。ハンナのお店でも販売していて、その為か、ハンナのお店はプリモーロでは、かなり有名なお店に成長しつつあった。


 ティアナたちは行く可能性もあり、そう言う恰好をしているので問題はない。なのでシャルロットとリーゼロッテの服装を如何にかすればよいのだ。


「王城で、着替えをなされれば大丈夫です。もし着替える服が無ければ、ご用意させますが」


「魔法の袋の中に入っていますので、大丈夫です。王城内で使用しても大丈夫でしょうか?」


 一応、確認を取っておく。これについては魔法の袋の使用は問題ないらしいが、その場合は使用人・・・給仕係(メイド)が近くに待機するらしい。それと、王城側も今回の様に急遽衣類が必要になった方用の服を用意しているそうだ。


「シャルが同行するなら、ヨハン、後任せるぞ。これで皆で好きな物を食べてくれ」


 そう言って、懐から大銀貨や銀貨、大銅貨等が入った袋を三つ渡す。金額にして約金貨三枚相当はある。普通はこんなに必要ないのだが、これでローレたちの分も買う様にと言うのと馬たちの分まで入っている。それに好きな物があれば自由に買って良いとも伝えておいた。


 皆もお金はかなり持っているが、そこからローレたちの分を出すのは少し違う気がした。それにこの中で最も稼いでいるのはレオンハルトだ。この程度のお金は大した出費にはならない。


 それから、俺たちは騎士の人に連れられて、裏路地にある馬車に乗り込んだ。表現からすると誘拐のように見えるが、馬車は王国の紋様が入った高級な馬車。もし仮に誘拐だとしても誰も止める事が出来ない。しかし、誘拐ではなくただ人目を避けて止めていただけの事。


 馬車に揺られて数分。王城に入り、使用人たちに案内されて控室に移動した。今日はラウラたちを同行させていないので王家に雇われた使用人が室内に待機していた。お茶などを準備してもらっている間に、シャルロットとリーゼロッテは、別室に移動して着替えを済ませる。彼女たちも冒険者として活動する時の服装に着替えた。


 それから、玉座の間ではなく、完全なプライベートの部屋に案内される。此処の部屋を使うのは初めてで、改めて王城の中の広さに圧倒される。まあ、こんな大きなお城で部屋が数個しかなかったらそっちの方が驚く。


 使用人がドアをノックし、中にいる別の使用人が開けると、既に数人の貴族が待機していた。


 入室時に挨拶をして中に入る。椅子に座るアウグスト国王陛下にアマーリエ第一王妃、コンラーディン王太子殿下、レーア王女殿下、宰相のフォルマー公、ラインフェルト候、エクスナー枢機卿、シュヴァイガート伯。王都の重鎮たちが僅か二十畳程の部屋にいる。


(今ここで、自爆テロなんてあったら、国が終わるのでは?)


 どうでも良い事を思いつく。実際にできる様な場ではないし、出来たとしてもその後大陸中からお尋ね者として生きて行かなくてはならない為、自爆テロなんて起こす気にもなれない。この場には仲間もいるし、守りたい人も居る。


「いらっしゃい。レオンハルト君、リリーたちも遠慮なく座って」


 優しく声をかけてくれるリーンハルトに従い、用意された席に座った。


「二日続けてすまないね。それと、陞爵おめでとう」


 申し訳なさそうに話すエトヴィン。陞爵の事を言うと、他の者たちからも祝福の声をかけてもらう。


「昨日は碌に話が出来なかったのじゃが。それにしても、ティアナにリリー、エルフィーは少し見ない間に綺麗になったではないか?」


 嬉しそうな反応を見せる貴族令嬢の三人。頬を少し染めているのは、恐らく褒められただけではないのだろうが、そこはレオンハルトが座る位置からは確認が出来ない為、分からなかった。


 そして、アウグスト陛下の視線はシャルロットとリーゼロッテの方に向ける。二人も魔族撃退の折に王城で陛下と顔を合わせている。その事は陛下自身も良く覚えているため、二人の事も同じように褒めた。


 キョトンとするリーゼロッテを他所に、シャルロットは丁寧にお礼の言葉を伝えた。この対応でまだ未成年なのだから、この場にいる大人たちは心の中で感心する。国のトップである国王陛下や国の重鎮たちを前にしても冷静な対応と孤児とは思えない言葉使い。


 そして、一つの疑問がうまれる。


 彼女は本当に孤児だったのか?・・・・・これは、以前も同じように感じ取ったが、前回以上にその疑問が強く感じ取れた。レオンハルトと言いこの少女と言い、何か変な感じ・・・異質な感じを思わせる。実年齢と精神年齢が合っていない・・・そう思えてならなくなった。


 それに、リーゼロッテについても同じことが言える。何処かで見た事がある。そんな面影を感じる。一年ちょっと経過しただけで、ますます誰かに似ているのだ。


 ・・・・・そう、彼女に似ている様な気がする。


 貴族令嬢でありながら、剣と魔法の才能に秀でており、冒険者として生計を立てると言ってとある家を出たあの子に・・・。丁度、今の彼女ぐらいの年齢の時に家を飛び出したはずだ。


 物は試しにとアウグスト陛下は、ある質問を投げかけた。


「そう言えば、アヴァロン卿の要望で援助をしている、えぇっと・・・レ、レカンテート村だったか?そこは今どうなっている?」


 予定にない質問を投げかけられた宰相は、一瞬戸惑ったが、直ぐにその場で報告を始めた。


「レカンテート村ですが、現在規模は前の三倍近く大きくなっています。村と言うよりも町と呼んでよい規模でしょう。アシュテル孤児院については、エクスナー枢機卿の尽力もあり、複数の修道女(シスター)が派遣されております」


 なる程、知らない修道女(シスター)が孤児院で子供たちの面倒を見ていたので、教会が手配してくれたのかと思ったら、エクスナー枢機卿自ら対応してくれたそうだ。その事にお礼を述べると、表情を変えず「気にするな」と言う。


「そう言えば、アシュテル孤児院の院長は・・・エーデルシュタイン卿の娘と同じ名前だったな・・・確か・・・」


「アンネローゼ嬢か?」


 エトヴィンの言葉に今度はリーゼロッテが反応する。


「お母さんを知っているの?」


 リーゼロッテは驚き、そして陛下の前だと言うのを忘れて大声で尋ねた。気持ちは理解できる、此処に来てアンネローゼの名前を聞くとは露程も思わなかった。


 アウグスト陛下に至っては「やっぱりか」と言った表情をしていた。何処か確信に至れなかったが、予想はしていたと言う反応。


「言われてみれば、アンネローゼの面影はあるな」


 何故か、この場にいる全員が頷いていた。まあ、髪の色が少し違うぐらいで、顔立ちは母親似だろう。父親を知らないから一方的な解釈になるが、それでも母親のアンネローゼに瓜二つとまではいかないにしても、かなり似ているのは事実。


 それにしても、先程名前が挙がったエーデルシュタイン卿と言う事は、王都の北地区を統括するテオ・トーマス・フォン・エーデルシュタイン伯爵の事だろう。その娘に似ていると言って名前が出たのがアンネローゼ先生と同じアンネローゼ。その名前を聞いてからリーゼロッテと当時のアンネローゼを比べて納得している所を見ると、アンネローゼ先生は、実は伯爵家の娘で貴族令嬢だったと言う事。その娘でもあるリーゼロッテも貴族の血が流れている事になった。


 新年早々から次々に新しい情報に翻弄されるレオンハルトたち。彼ら以上に翻弄されているのは間違いなくアウグスト陛下たちであろう。


 アウグスト陛下とエトヴィン宰相は、小声で話をして、外に待機している騎士に命令を出した。


「直ぐにエーデルシュタイン伯爵をこの場にお連れしろ。急ぎ案件があると伝えてくれ」


 騎士は、速やかに退出して、廊下を走っていく音が聞こえた。陛下の指示通り急ぎと言われたため走ったのだろう。走る音が小さくなってから、今度は使用人に新しいお茶の用意をお願いして、準備が出来るまで暫し、先程の事を聞く事にした。


「陛下、アンネローゼ先生をご存じなのでしょうか?」


 陛下に尋ねたのだが、陛下の代わりに宰相がその問いに答えた。


「アンネローゼ先生と我々が知っているアンネローゼ嬢が、同一人物と決まったわけではない。ただ、現状考えると恐らく同一人物ではないかと我々は睨んでいる」


 確かに、その可能性はかなり高いと俺も思う。そもそも今にして思えば、彼女は年齢の割に博識だ。剣技も魔法も何方も優れているし、字の読み書きも難なくこなせる。普通の孤児院の院長がどういう経歴で成れるかは知らないが、剣に魔法に、知識。それでいて冒険者稼業でかなり有名な所にまで名前を轟かせたと考えると、英才教育を受けていなければ難しい。


 自分の母親が貴族だったと聞き、どう反応してよいのか分からないリーゼロッテは、シャルロットの手を握りしめて、宰相の説明に耳を傾けていた。聞く事しか今の自分にできる事は無いと考えたからだ。


 新しいお茶が用意され、一口すすり、エトヴィン宰相の話・・・アンネローゼについて教えてもらった。

毎回読んで頂き、誠にありがとうございます。


引き続き、頑張ってまいりますので、応援よろしくお願いします。

それと、毎回誤字脱字を報告してくださる皆さま。

毎度毎度、ご迷惑をおかけします。出来るだけ誤字脱字を無い様には努めていきたいと思いますが、

もしありましたら、ご報告よろしくお願いします。


以前いただいておりました。誤字脱字も順に修正を行っていますので、終わりましたら改めてご連絡いたします。


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