061 レストランフェス前日
皆さんおはようございます。
約束通り、クリスマスイブに一話投稿しました。
間に合って良かった(汗)
文字数は少ないですが、是非読んでください。
寒さが身に沁みる中、若者たちが切磋琢磨に木剣を振るう。
「腕で振るうなッ!!身体全体で剣を振れッ!!」
明日は、レオンハルトがこの世界に来て八回目の生誕祭を迎えようとしていた。今日はその前日、二十月二十四日。前世で言う所の十二月二十四日のクリスマスイブにあたり、クリスマスよりもクリスマスイブが盛り上がると言うちょっと変わった風習。しかも、多くの人は宗教的に違うのだが、別の宗教の事でも関係なしに楽しもうとする上、本来のクリスマスとは異なる楽しみ方をする。
此方の世界では、生誕祭の前日はいつも通りで、本番は二十五日に行われる。特別何かをするわけではないが、皆で楽しく騒ぐと言うただただシンプルな物。その為多くの商会に属するお店は店先に屋台を出したり、飲食店も広場に屋台を出したりして盛り上げている。
「やあッ!!」
「振りが大きい。それだと『避けてください』と言っている様な物だ」
先日からナルキーソを拠点として活動をしている新人冒険者に頼まれて、技術指導を行っていた。新年祭まで稽古をつける代わりにレオンハルトたちが屋台や露店などを行ったらそれの手伝いをすると言う事で契約をしており、こうして毎朝半刻から一刻程みっちり訓練を行っている。
初日に比べればかなり良くはなっただろうが、元々日数が少ないので、基礎中の基礎と実戦練習ぐらいしかできない。
今日は、実戦練習を兼ねて模擬戦を行っており、覚えた事を身体に染み込んでいるか、染み込んでいなければ再度覚えさせるために剣を交えている。
「よし、今日は此処までにしよう。クールダウンを忘れるなよ?」
稽古と言う名の訓練の始まりと終わりには必ず、準備運動と興奮状態低下運動を行わせていた。
「「「「ありがとうございました」」」」
「今日も会場設営の手伝いを頼むから、着替えたら中央にある広場に集合だ」
先日から本格的な設置準備が始まり、各屋台や中央で行われるレストランフェスの会場も概ね準備を終えていた。厨房付き屋台も設置が終わっていて、それぞれの飲食店の料理人が道具や食材を用意して、仕込みを始めていた。
この厨房付き屋台は、専用の鍵がなければ動かせない上に防犯対策もしているので、安心して色々な物を置いておく事が出来るのだ。
レオンハルトは、いつもの様に宿屋に戻り、着替えを済ませてから広場に向かう。動きやすくそれでいて温かい服。
「レオンくん、これ明日出すうちのメニュー。味はどうかしら?」
広場で調理をしていたシャルロットたち。今もローレやエリーゼたちに作り方を練習させている。
うちが出す料理は、前菜がアボカドに似た食材と海老のサラダか、黄色い野菜のムースサラダ、イモ類と挽肉を包んだオムレツから選ぶようにしており、スープは豆と山菜のトマトスープかホワイトアスパラガスのポタージュ、ほうれん草の様な葉で作ったグリーンスープから選べれる。
魚料理では、ソードフィッシュと言う魚の炙り焼きかダンダラと言う赤身魚のワイン煮込み、シェフのおまかせ料理から選べるようにしている。お口直し用のソルベは、お酒が苦手な人には氷果汁を、お酒がいける人には氷酒を用意している。肉料理もグランドパイソンと言う猛牛の魔物の肉で作ったフィレステーキかフォレストベアの煮込み料理、最後はシェフのおまかせ料理の三つから選べられるようにしている。
デザートは、前に出した時と同じくケーキ系を数種類用意している。あとは変わり種としてクリームブリュレに似たものやパウンドケーキなどを用意した。食後の飲み物には打ち合わせの時に手に入れた珈琲・・・コピか紅茶を出すようにしている。
他のお店も昨日見せてもらったが中々美味しそうに感じた。中にはうちと同じような本格的なフルコースを用意できるようにしていたり、それ以上の料理を出そうとしたりしていた。
それで、採算がとれるのかは別としても、かなりの本気度が伺える。
「オムレツは、もう少し火入れの時間を減らした方が良いかな。今の状態だと少し硬すぎる気がする。後は・・・ポタージュ系は、薄すぎるからもう少し味を足したほうが良いかな?食材は足りる?」
「えぇ足りているわ。ポタージュだけど、旨味とまろやかさだとどっちが良いかな?」
ポタージュ作りはシャルロットがしたようだが、単品で食べる分には、十分すぎる程美味しいのだが、食べ合わせの問題なのか、前菜の後だと少し薄味に感じた事も合わせて説明した。
「となると、少しパンチが効いたほうが良いかな?」
「フェスのメニューは、これで大丈夫だけど?屋台メニューはあれで決まり?」
コース料理は単品でも注文できるようにしているが、屋台側から注文は出来ないのだ。その為、屋台側はまた別メニューを用意している。
パンケーキなどはテイクアウトしにくいので、今回はメイン二品とデザート二品のみにしている。
メインは、新しいメニューとして海鮮焼きそばを採用している。もう一つは、たこ焼きだ。たこ焼き用の蛸を先日、海で大量に倒してきた。全長一メートルの蛸の魔物オクトン。海中で倒すのはかなり難しいが、蛸の習性を利用して巨大蛸壺を作り、海に入れて捕まえた。
パステルカラーの青色をしていた時は、気持ち悪いと感じたが、茹でると真っ赤に染まったので、前世に似ていると思ったが、色の変化が極端すぎてみんな驚いた。
食べてみると歯ごたえがあり、とても美味しい。全員で丸々一匹食べ尽くした時は、皆満足げな顔をしていたのを今でも鮮明に覚えている。
焼きそばの麺は、小麦粉と水、重曹、塩で作った手作りの物。混ぜて捏ねる作業を新人冒険者の四人にさせたら、かなり疲れていたようだった。
デザートは、シャルロットの希望で一つは、クレープを採用。専用の焼き器を作るのにかなり手間取ったが、そこそこ良い物が作れた。厨房付き屋台の備え付けではなく。此方で用意した道具と言うわけだ。魔力を注ぐ事で熱を発し、クレープの生地を焼く事が出来る。しかも、一度魔力を注げば、半日近くは持つため魔力が無い人でも事前に誰かに注いでもらえば作れるようにしている。
クレープの中は、卵の卵白の部分に砂糖を加えて作ったメレンゲに、採れたての果物を使っている。カカオの実やそれの代用品が見つかっていないので、今の所チョコレートソースは掛かっていない。
これを焼く担当は、リーゼロッテとユリアーヌの二人だ。交代で焼き、盛り付けはラウラとエッダが行う。もう一つのデザートは、ただ売るだけの工程の物にした。その場で作らなければならない物ばかりだとそれだけ人数が必要になるからだ。今回は、比較的簡単なフルーツ飴を採用した。こちらは鍋に砂糖と水を弱火で煮て、程よく色が変わったら串に刺したフルーツを鍋に入れ、取り出した後に冷やしたら完成だ。
今回フルーツは三種類用意した。苺に似た果物と林檎に似た果物、そして蜜柑に似た果物。これらは、冬に良く採れる果物だとかでわりと皆、食しているらしい。
何故全部似た果物と表現しているかと言うと、形と味は苺なのに色が緑色だったり、味は林檎なのに大きさが一回り小さく色が白かったり、蜜柑の味と色なのに形が瓢箪みたいな形をしている不思議な果物たち。
同じ果物でも種類がたくさんあるため、今回はフルーツ飴に適した品種を選んだらそうなった。因みに苺モドキは、グリンベリーと言うらしく。林檎モドキは、アプル。蜜柑モドキはギギと言うらしい。最後の一つだけ名前の連想が難しいのはたまたまか?と疑ってしまった程だ。
売り子は、冒険者ギルドで募集をかけて集まってくれた者たちで、意外な事に顔なじみが参加していた。
この街に来て最初の頃に出会った。当初新人冒険者だったティモたち。今も冒険者として活動しているらしいが、まだGランクの冒険者だとか。
そのティモたちが手伝ってくれるので、売り子をティモの妹のエルナとオティーリエの二人に頼んだ。
ティモとアルミンの二人は、列の整理に回ってもらう。
「ええ。フルーツ飴は昨日全部作り終えたから、後はクレープ生地を用意するだけね」
因みにコース料理で使う料理の殆ども調理済みで魚介類だけは、当日の早朝にシャルロットとユリアーヌ、ヨハン、ローレ、エリーゼの五人が買いに行く予定だ。
レオンハルトは、自分たちのお店が準備完了だと分かると、次に会場となる場所を巡る。中央広場で行われるレストランフェスには、約八十近くのテーブルと各テーブルに椅子を設置。夜のライトアップ用に作った魔法石のイルミネーション。レストランフェス会場外に設置された各屋台やその照明。東西南北の大通りには他の屋台に加えて、各催し物が行える会場も作られていた。領主邸にはダンスパーティー会場が、冒険者ギルドが主催する広場には、腕相撲大会が。複数の商会が主催する市場が開かれる予定だ。此方は、朝から夕方までしか使わない予定なので、夜は少し寂しくなるが、恋人たちが雰囲気を出せる様に仕掛けをしていたりする。
この仕掛けを言い始めたのは、事もあろうにこの街の領主であるヴェロニカだ。
最後の一つは、子供たちが遊べるように遊具を作っておいている。小さい子供様なので子ずれの家族には持ってこいの場所だろう。
腕相撲は、企画してすぐに冒険者ギルドが広めたおかげで、かなり盛り上がりそうな様子だった。と言うか、いまもすでにあちらこちらで腕相撲勝負をしている熟練の冒険者たちがいる。
レオンハルトは、一度冒険者ギルドに向かった。これと言って用があるわけではないが、冒険者としての習慣か、取り敢えず新しい情報がないかチェックしておかなければならない。
扉を開けると此処でも腕相撲が行われていた。
「やれ、ガンドッ!!」
「たたみかけろ、ローバッ!!」
白熱した戦いが繰り広げられている中、依頼書が張っている掲示板の所に向かう。魔物討伐から薬草採取、馬車の護衛等様々で、自分たちが出した新年祭時のお手伝いの依頼書もあった。
生誕祭のお手伝いの依頼書を出す時に一緒に出しておいたのだが、此方にはまだ誰も手をつけていない。
そうして眺めていると、一人の受付職員が此方にやってくる。
「レオンハルト様ですね?お手紙が届いております」
そう言って四通の手紙を受け取る。
裏面には、封蝋がされており、使用されている紙質も高級な代物だった。まだ、一部の家紋の紋章しか覚えていないが、四通とも知っている紋章が封蝋にされていた。
「げっ!!王城から・・・・何だろう?それに後三つは、・・・・」
ティアナの父親のフォルマー公爵の紋章、リリーの父親のラインフェルト侯爵の紋章、そして最後が、エルフィーの祖父エクスナー枢機卿の紋章だ。フォルマー公爵、ラインフェルト侯爵と来たため、次はシュヴァイガート伯爵かと思ったが、まさかの枢機卿からの手紙。
しかも宛名が全て自分宛てになっているので、それはそれで驚く。娘たちに対しての手紙を預かったのであれば良かったのだが、自分宛てとなると嫌な予感しかしない。
受付職員に頼んで、個室を少し借りてその中で読む事にした。更に念には念を入れて、魔法で外から見えないようにし、此方の声も聞こえない様に厳重に対策した。
「えぇっと・・・何々?」
最初に王家からの手紙を読む。書かれていたのは、堅苦しい挨拶が記述されており、それが終わると本題が明記されていた。それによると次の新年祭の挨拶には顔を出すのだろうなと言う若干脅しにも取れそうな事が書いてあった。
上級貴族や中級貴族は新年を迎えた時に国王陛下に挨拶をするのが決まりとなっている。ただし、余程の事があれば代理人でも可能となっており、遠方の貴族は王都にいる代理人を使わせたりする。
レオンハルトは、騎士爵・・・言うなれば貴族の中でも最下位の爵位だ。下級貴族は挨拶の場に出席しなくても良いとなっているため、前回は訪れなかった。
だが、手紙には来るよな?来いよっ!?的なニュアンスを感じさせられる。それとレーア王女殿下が、寂しがっているとも書いている。ただ、どうしてそこでレーア王女殿下の名前が挙がったのかレオンハルトは不思議そうな顔で手紙を読んでいた。
この男は、見た目は十代前半なのに対して、中身は完全におっさんだ。中身が四十代の中年が、十代前半の女の子に恋愛感情を持つわけがない為、好意を寄せられても気が付かないのだ。
恋愛感情ではなく、親戚の娘感覚な部分があるのだろう。
それと、幾つか話もあるそうなので、手紙を読んでしまった以上、新年に挨拶に向かわなければいけないようだった。
憂鬱な気分になりながら、次の手紙の封を切る。
「フォルマー公爵様は何て・・・・え?」
出だしからぶっ飛んだ内容が書かれており、そこには、俺たちの住居を用意したとあった。それも一等地にある屋敷と言う事で、何故そんな事になっているのか見当もつかない。それと、ティアナ宛ての内容も記載されていた。そこには、至って普通の親が子の心配をする内容が書いてあり、それだけでも良い親だなと思わせてくれる。
ラインフェルト侯爵の手紙も似た様な物だった。ただし、屋敷の話は一切なく、普通に世間話程度の内容が記載されていた。読み続けていると、何処で話を聞いたのか、生誕祭の祭りの事が書いてあった。しかも呆れ気味な内容に彼の真意を感じさせてくれる。それと同時にまた大変な事になるねとあり、読み終えた頃には乾いた笑い声が漏れていた。
最後のエクスナー枢機卿からは、更にたんぱくな内容が書いてあり、生誕祭、新年祭の時は、教会の全面協力をしてくれると書いてあった。後、孫を泣かせる出ないぞとあり、泣かせた場合はこの人が一番おっかない様に感じた。
すべての手紙を読み終えると疲れがどっと出た。
上級貴族から一度に手紙が来るとか、どんな罰ゲームだよと文句を言いたくなったが、止めておいた、言ったところで何も変わらないからだ。
「・・・・新年祭・・・どうしよう」
一人悩むレオンハルトであった。
明日のクリスマスにも同じように文字数は少ないですが、投稿予定です。
では、私はこれで一人寂しい国内出張に行ってきます。
四国出張の後に近畿へ移動しなければ・・・。