059 蜂蜜メニュー
おはようございます。
海外出張を終えてから、怒涛の仕事で毎日クタクタです。
正月休み早く来てほしい反面、その前に大掃除・・・^^;
ガバリアマルス王国が消滅して一年以上が経過した。
その間、各国は国力を上げるために奮闘し、魔族や魔物襲撃に備える。兵士の増強や防壁の強化、有事の際の支援体制など様々な事に取り組み出す。
小国は、大国であるアバルトリア帝国やアルデレール王国等、周辺国と協定を結んで、自国だけでなく他国との連携も密に動き始めていた。
レオンハルトたちは、行商人としてアルデレール王国内の街や村に立ち寄り、商売や情報収集を行いつつ、冒険者として魔物や盗賊を倒して回っていた。この一年近くの間に当然、レオンハルトが優勝した武術大会も行われたが、彼らは今回誰一人として参加する事は無かった。それどころか大会期間中は王都にすら居なかった。
レオンハルトたちは、十二歳になり冒険者として活動が二年を経過していた。ヨハンやクルトは十三歳に、ユリアーヌは十四歳になった。来年、成人を迎える。そして、エッダは今年十五歳になったので、成人し、一人の大人として生活し始める。成人したからと言って何か特別容姿や強さが変わるわけではない。今まで通りだが、大人扱いを周囲からされると言うだけの事。
因みにダーヴィトは、ガバリアマルス王国が消滅した二月後ぐらいに十五歳になり成人を果たしていた。今では、立派に交渉の席で、レオンハルトの隣に座り、大人としての対応をしている。言うなれば、保護者みたいなものだろう。それまでは、奴隷であるローレが奴隷だと気づかれない様に保護者役を担っていた。最初の頃は抵抗があったり、緊張して相手から心配されたりもした。
どうしても主人と奴隷が逆転した立ち位置にいるのは、無理がある。
レオンハルトたちは、商業都市オルキデオで大量の火薬もどきを入手し、街を出てからその素材を加工しながら、次の街へ向かった。南にあるアルデレール王国最大の湖、クルファース湖の外周にある宿場町を数ヶ所回って、ちょっとした砂漠を抜けた先にある。その砂漠を東に沿う様に進めば商業都市プリモーロが見えてくる。
今回砂漠を攻略しなかったのは、ただ単純に砂漠用の馬車にしていないからだ。砂漠を馬車で進む場合、その重量で車輪が砂に沈み身動きが出来なくなる。専用の車輪に換装させなければならないが、それを用意するのは手間なので、砂漠の淵に沿って進んだのだ。
プリモーロで、いつもの様に服を仕立て直してもらったり、レオンハルトたちが身に付けるレザーコート類を修繕してもらい。ついでにサイズも少し変更してもらう。元々成長する事が分かっていたため、それが行えるようにサイズ補正の魔法を掛けていた。
まあ、この魔法は、服のサイズを変更させるためだけの魔法のため、習得している人は思いの外少ない。実際、ハンナは使用できず、彼の父親がそれを習得していたので、彼に頼んで掛けてもらっている。その分布地も増えるが予め、大きいサイズで作り魔法を掛けて小さくすれば、然程問題はない。逆の場合は、布の余力面積に寄るので、ぴったりサイズだと大きくは出来ず小さくするぐらいだ。
折角、持ち込みの修繕で日数もあると言う事で、装飾品を変更したりもした。
レオンハルトのブラックワイバーン革のレザーコートは、金色の装飾を幾らか淵に添わせる様に縫い合わされ、格好良くそれでいて、高級感な仕上がりに。
シャルロットたちの物も群青色や朱色等で美しさや鮮やかさを増し、今までよりも大人っぽく仕上がった。
ユリアーヌたちやティアナたちの物は、材料不足だったので、急遽レオンハルトがマウント山脈に転移魔法で飛んで、ワイバーンを数体倒して持ち帰った。
デザインがどうしても似てしまう事もあり、後から作成されたレザーコート類には、オリハルコンなどのプレートも仕込む。
と言うか、リーゼロッテたちにもオリハルコン製の外装を追加発注していた。
完全に、布地だけの防具はレオンハルトとシャルロット。それにアニータとヨハンだ。それ以外は前の物とは言え、心機一転したデザインになっている。
プリモーロには約一月から二月滞在しており、その間に店の増改築やローレたちに商売のノウハウ、裁縫技術などを教え込んだ。プリモーロを出発し、交易都市イリード、海隣都市ナルキーソへと移動した。途中立ち寄った事のない村や町にも立ち寄ったりしたが、レカンテート村は寄らなかった。
そっち方面は、武術大会優勝のお願いで、現在村から町に急激に発展しているとの事。孤児院の院長であり育ての親でもあるアンネローゼからの手紙でその事を知り、そこまで力を入れなくても良いだろうと当初は思ったが、孤児院にも人が派遣された様で、かなり助かっているらしい。
「それで?一年以上も戻ってこなかったと言う事かね?」
海隣都市ナルキーソの領主、ヴェロニカ・イーグリット・フォン・ヴァイデンライヒ子爵。青色の長髪は、この一年で更に磨きがかかったのか。後ろで結って女性らしさをより際立たせていた。
「ヴェロニカ様。誤解があるようですが、我々はナルキーソを拠点にしていますが、それは冒険者としてですよ?一領民にはなっていません」
レオンハルトの申し分は最もだ。だが、レオンハルトの未知の知識と彼らの戦闘技術は、手放すのが惜しいとさえ感じているヴェロニカにとって、如何にかこの街で生活をしてほしいと考えていた。しかし、一年近く戻ってこず、戻ってきたと思ったら、貴族になっており更に冒険者稼業に加えて行商人と言う活動まで始めていた。
ただの商人であれば、何処かの街に店を構えたりするだろうが、行商人を選んだと言う事は色々な地を巡るつもりでいると言う事だ。
昨今、あの魔族襲撃事件以来、街は活気あるものの何処か不安的な要素を忍ばせている感じで、生誕祭が近いと言うのに何処と言うわけではないが、全体的に空気が重い。
「うっ・・・確かに、君たちはこの街で冒険者登録をして活動をしていたにすぎないが、それでもその間に色々な革命的な物を作って来たではないか?」
何故これ程までにヴェロニカがレオンハルトをこの街に留めようとしているかと言うと、それは彼らがこの街で取り組んだ内容が、今かなりの人気を得ているからなのだ。
二年前の生誕祭で生まれたドネルケバブの屋台を開いた時、これがきっかけで色々な屋台が一気に活気づいた。その後、レオンハルトは商業ギルドに幾つかのレシピを売り、それで得た収益の幾らかを受け取っている。
全額現金支給にしようかと考えたが、売ったレシピの中にはマヨネーズ等もあり、これを自分で作るのは手間と考え、現金と現物の半々で受け取っている。
(革命的って・・・まあ、食文化は何処の世界でも発展させたい事の一つだよな)
油で揚げるランドバードの唐揚げやフェザーラビットのもも肉の揚げ物も人気メニューの一つとなっている。
「革命と言うよりも発展と言って欲しいですね」
どうでも良い表現ではあるが、革命と言う言葉はレオンハルトにとってあまり良い印象を受けなかったのだ。それから暫く領主と話をし、結局お互い平行線となり収拾がつかないタイミングで領主へ来客が来たと言う事で話を終えた。
ヴェロニカ邸を出た一行は、その足でローレたちに合流すべく市場に向かった。此方には現在ローレたちを始め、リーゼロッテやクルト、アニータたちが屋台を出して商売をしている。
売ってる物は、薬などの薬草や水薬、古着に各街を巡った時に購入した地域ごとの特産物、魔物や獣の加工した肉。これは主に干し肉や燻製肉である。後は、その地域で不足していると思われる物をメインに扱っている何でも屋。
屋台の隣にももう一つ屋台を設置しており、此方は軽食が食べられる屋台となっていた。
売っている物は、甘味の食べ物で、エルフィーは良く知っているメニュー。
初めて、会った時に口にした。甘い食べ物。
口の中に入れるとふわふわと泡の様に、それでいて優しい甘さが口いっぱいに広がる魔法の料理。
作っているのは、狐の獣人ルナーリアと人族のエリーゼである。二人ともレオンハルトたちと共に行動して早一年、その間に料理の技術を高め、シャルロットには及ばないながらもメンバーの中ではかなりの上位に位置するぐらい料理が上手くなった。
そんな彼女たちが作っていたのは、ふわふわのパンケーキ。エルフィーたちを助けた時にも作ったが、今はその時よりも数倍美味しくなっていた。生地もふわふわになる程軽く、塗っているバターや蜂蜜も普通のものより少し良いものにしている。
「すみませーん。パンケーキ二つ。それとお持ち帰りで四つ出来るかな?」
「こっちもパンケーキ二つー。あと・・モモ水?って言うのも二つくださーい」
「店員さん。お持ち帰りで三つ包んでもらえるかな?」
若い女性や初々しいカップル。嫁と子供へのお土産を買うおじさんと様々な客が足を延ばしていた。此処まで繁盛するのには、先程ヴェロニカが話していたようにレオンハルトが、色々な料理を提供し、今回はその提供者がオーナーをしている行商の商隊と言う事で、いきなり人気の屋台になってしまった。
しかも、売っている品が良く安いだけに、更にお客が寄ってきていたのだ。
「すごい行列だな・・・」
「あっ!!お帰りなさいませ」
レオンハルトたちが戻るとそこには長蛇の列で待っているお客に注文に追われて調理するエリーゼたち。人手不足のため、ラウラたちが手伝いに来て列の整理をしたり、会計をしたりしていた。ただ、行商の方もそこそこ忙しいようだったので、レオンハルトたちは腕まくりをして、手伝いを始めた。
「ラウラ。列を二列にして前から十番目まで注文聞いてきて。ラン、悪いけど最後尾の案内を。エルは、会計を任せて良いか?」
「大丈夫です」
手早く指示を出すと皆はそれに従って動き始める。シャルロットは、生地が少なくなっていたので、裏へ作りに行った。ダーヴィトたちは、ローレのお手伝いに入ってもらい。ユリアーヌとヨハン、ティアナ、リリーに蜂蜜やバターの買い付けに行ってもらった。
一番人気は、ふわふわのパンケーキで、次に人気なのが本家のドネルケバブ。割と注文が出ているのが、唐揚げを棒に刺して販売している唐揚げ棒や桃の様な果物の果汁を混ぜたモモ水に蜜柑の様な物で作ったミカン水などであった。
他にもパンを蜂蜜に浸して焼いたこんがり蜂蜜パンや蜂蜜を使ったマドレーヌなどをお持ち帰りで作っていたが、早々に完売していたようだ。
この調子で売り続けると買いに来る客も生誕祭や新年祭までに飽きてしまうかもしれないし、何よりローレたちが体力的に厳しい。
「追加の生地出来たよ」
屋台の奥で生地作りをしていたシャルロットが大きな鍋にいっぱいにパンケーキの元となる生地を入れて持ってきた。生地を受け取ったエリーゼたちは、直ぐにその生地を使って新しいパンケーキを焼き始める。
新しい生地が届く直前で、準備していた生地が無くなったようで、ある意味ナイスファインプレーと叫びたくなるところだ。
「お疲れ、少し休む?」
大量の生地を作るのは、シャルロットとは言えかなり重労働。絶妙な分量の違いで、生地は水っぽくも粉っぽくもなるし、混ぜるのが下手だと生地の中で玉になる事もある。
生誕祭や新年祭は、あまり時間のかからない食べ物を用意した方が良いかもしれないと考える。現在、どれも思いのほか調理に手間がかかる上、大変と言えば大変な作業が多い。
前世の屋台で何を作っていたかなと振り返るも、何故かどれも大変な物ばかり思い出す。お好み焼きやリング焼き、焼きそばにイカ焼き、たこ焼き等、上げればきりがない。
一日中屋台を出す事も考えると、単調なメニューばかりでも客足は減る可能性がある。それに皆にずっと働いてもらう為、疲労も大きいはずと考え、やめようとしたところ。急に後ろから声を掛けられた。
「あのーレオンさんですよね?」
如何にも駆け出しと言った感じの冒険者風の少年たちが声を掛けてきた。
見た事もない子たちに「君たちは・・・?」と尋ねると、少年たちは姿勢を正して挨拶を始めた。
「は、はじめましてっ・・・お、おれ・・・じゃなかった僕の名前は、ハイモって言います。冒険者登録をしてまだ一月程の新人です」
四人の少年少女の構成の新人冒険者。その中のリーダーっぽい少年が、はきはきと話始めた。何でも冒険者ギルドに行って強くなるための方法を尋ねた所、近くに居合わせた新人から抜け出せたばかりのレベルの冒険者に俺たちの事を聞いたらしい。
その新人たちも過去にレオンハルトに少しの期間共に過ごし、戦い方のコツと言うか戦う時の癖を指導されて、直したらとても戦いやすくなった冒険者たちだった。
レオンハルトがこの街に来ている事は知っていたので、折を見てお礼を言いに行こうとしたら、彼ら新人の声が聞こえて、アドバイスがてら教えてあげたらしい。
こっちからしたら良い迷惑。
ハイモ以外に木の盾と短剣を持った少年ウド。杖を持った魔法使い風の少女エルマとハイモ同様に剣を持った少女マイケ。皆、Iランク冒険者の様で、ランク上げもまだの新人たち。
「それで、俺に何か用?」
此方は既にBランク冒険者。Aランク冒険者の試験も打診されているが、まだその試験を受ける時期ではないと考え辞退し続けている身。だが、そんな彼らと俺たちとでは、実力の差がありすぎて普通は、見かけても話しかけてこない。
「ぼ、僕たちにも・・・戦い方を教えてくれませんか?何でもしますからッ!!」
一瞬、言うのを躊躇ったようだが、それよりも強くなりたいと言う思いから、指導を願い出た。
今は、見ての通り商売で忙しい時に現れるあたり、周りの事を余り考えていないのかなって思ったが、よくよく考えると先程まで、生誕祭や新年祭の出店内容を考えていただけだったので、自分自身は特に何もしていなかった事に気が付いた。
「え?・・・あ、えぇっと・・」
返事に困っていると後ろからやって来たシャルロットがそっと俺の耳元で囁く。それを聞き、彼らの言葉をオウム返しで訪ねた。
「何でもするのか?」
ごくりと生唾を飲む彼ら。今の彼らは無茶難題を言われても従うか諦めるしかない。だが、此処で諦めてしまえば彼らにとって、またとないチャンスを捨てる事になってしまう。よく考えた末彼らは頷き答えた。
因みにシャルロットから囁かれた事は・・・・生誕祭や新年祭にお店のお手伝いをさせてはどうか?と言う内容だった。見ず知らずの者にレシピを公開するつもりはないが、接客の方をさせるのは問題ないし、食器類の洗い物にも使える。それに接客業は周囲の動きを観察する上で視野を広く持つ必要があり、自然に身に付けるにはもってこいのアルバイトだろう。
「だったら、このお店の手伝いを無償でしてもらう。期間は新年祭が終わるまでだ」
それはどうなのかとツッコミが入りそうだが、この世界には最低賃金なんてものはない。働いた分を給金としてもらったり、住み込みなどの生活の基盤の安定で相殺されたりするのだ。
今回の彼らは、戦い方を教える代わりに店の手伝いをさせると言う対価で進めた。
「毎日、早朝の一刻の稽古と朝昼の賄い付きだ・・・どうする?」
金銭的な事は一切触れていない。条件としてはこれでもかなり良い方ではあるが、レオンハルトは最終日にこれまでの労働に見合った給金も渡すつもりでいる。最終日は新年祭なのだから、ある程度まとまったお金があると最後、夜の屋台で豪華に食事がとれるかもしれないし。
何処まで行ってもお人好しで面倒見が良いのだろう。
この問いに迷う余地はなく、四人は大きく頷いた。
「では早速明日からだ。屋台は毎日出すわけではないが、あと四日間は出すつもりでいる。今日はもういいから明日の朝から手伝えるか?勿論、稽古は明日の朝からで構わない」
結局、新人冒険者たちに指導すると言っても型稽古や基礎体力などの向上をメインに、模擬戦で慣れてもらうぐらいだろう。彼らがどういう戦いをするのか分からないが、詰まる所同じ基礎をしっかりぐらいだろうと考えていた。
これが、アニータの持つ魔法銃やシャルロットの弓矢と言った飛び道具系だと、練習メニューが変わってくる。ただ、一人魔法使い風の少女エルマに関しては、練習メニューが異なるが、全体的な模擬戦は仲間の動きなども把握しなければならないので、半分ぐらいは同じメニューになるだろう。
「分かりました。明日の朝から伺います。よろしくお願いします先生」
一時的に教えるだけなので流石に先生と呼ばれると背中が痒くなる。
「先生は出来ればやめてほしいかな?まあ取りあえず、明日・・・日が昇る頃に冒険者ギルド裏にある訓練所に集合」
それだけ伝えると、嬉しそうにしながら踵を返して、人混みの中に消えていった。
まあ、屋台の人手不足は如何にかしなければならなかったので、これで多少ましになるだろう。それに今日は雑貨系と飲食系を同時に開いたがために人で溢れかえったが、交互にやるか数日毎に変えて出しても良いと、今後の事を考え直す。
「人手が増えたし、屋台メニュー増やしてみる?」
今は作れる人間が、レオンハルトとシャルロット、エリーゼ、ルナーリアの四人。ローレとソフィア、ラウラが少し劣る程度で問題はない。彼女たちのレベルになるとリーゼロッテなどの主要メンバーもほぼ同じぐらい出来る。逆に全くできないのが黒猫の獣人で兄妹の兄ランと妹のリンだ。それにクルトが絶妙に美味しくない料理を作る。ユリアーヌやティアナ、リリーは正直言って普通レベル。
飲食の屋台に専念する時、簡単に作れる品はローレたちにさせて、一定の技術を有する者は四人が行うのであれば、十分やって行けるはずである。
後は、何を出すかである。
(そう言えば、この地域は海が近いから海鮮系もありか・・・それに、やはりハニービーの蜂蜜だな。甘味類は高くてもこの時期は贅沢をしようと買う人が増えるし)
この街で冒険者登録を済ませ、始めて依頼を受けたハニービーの蜂蜜採取、そしてその時に知り合った蜂蜜職人のゲロルト。今でも彼の所で蜂蜜は仕入れさせてもらっている。あの件以降、格安で蜂蜜を売ってくれるので、此方も買いに行くときに何らかの手土産を渡している。
前回は、商業ギルドからもらった大量のマヨネーズを少しお裾分けしたら、非常に喜ばれていたのを思い出した。
「野菜のグラッセを蜂蜜で作ってみるかな?」
メイン料理ではないが、付け合わせとしては良いだろう。前世の頃に砂糖で作った人参のグラッセと蜂蜜で作った人参のグラッセを食べ比べてみた事があるが、これ程味に変化があるとは知らず衝撃を受けた事を思い出す。
ただ、野菜のグラッセを出すとなると軽食ではなく、しっかりした料理になってしまう。パンケーキが食べれる用の数が少ないテーブルに更にテーブルや椅子が不足してしまうのではないだろうか。
それにメインとなる料理も何にするか決めていない。
「メインはどうするの?」
野菜のグラッセを作る事には反対ではないらしいシャルロットが、レオンハルトが現在検討している内容を尋ねてくる。こういう部分は、彼女の方が優れているので、彼女の意見を聞いてみる事にした。
「んー。対象者をどう絞るかだけど・・・レストラン・・・・・生誕祭の当日に屋外レストランをするって言うのはどうかしら?」
「それだと、料理人が圧倒的に不足する」
場所は、今抑えている場所から別の広場に変更すればいいだけの事なので、今ならまだ問題ないだろうが、料理人はそう簡単に育成できる物ではない。予め大量に作って、レオンハルトたちが持つ魔法の袋に仕舞っておくのも一つの手ではあるが、それは出来れば最終手段にしておきたい。普通に使用している人たちに比べて、膨大な魔力で拡張されている彼らの魔法の袋の存在を余り知られたくないのだ。
「だったら、複数の飲食店と協力してはどうかしら?」
口を挟んできたのは、金色の髪を靡かせながらやって来たティアナ。その後ろにはリリーとエルフィーも同行していた。
「そうよっ!!合同でフェスを開けばいいのよ・・・レストランフェスとか」
フェスが何なのか分からない三人だが、そこを掻い摘んで説明を始めるシャルロット。
その説明によると、大広場を丸々フェス会場として中央部分にテーブルや椅子を設置。大広場を囲うように各店が簡易厨房を構えて料理を作ると言う事だ。
これでは、ただのお祭りの屋台と変わらないが、その一角に入れるのは入場券を購入した人のみに絞り、幻想的で且つちょっとした高級感を味わえる場所を作る。また厨房の裏側にテイクアウトできるカウンターを設けて、それぞれ客層を絞ると言う事らしい。
幻想的で高級感あふれる場所ってどんな場所だよってツッコミしたいが、それよりも協力してくれるレストランが無いと成立しないし、場所も考えていた場所より遥かに規模が大きい。
屋台も簡易厨房を兼ね備えるとなると一から作り直さなければならない。
入場券をどうするのか、テーブル確保など様々な準備が必要となるため、我々だけでの判断は難しい。
ただ単純に新メニューの開発などすればよいだけの話が、思いのほか話が脱線して規模が拡大化してしまった事に、少しだけ後悔した。
女性が複数人揃うと男性は発言権を失うのは、何処の世界も共通なのかもしれない。
しかし、規模が大きくなると大変にはなるが、厨房付き屋台やテーブル、椅子などの機材を商業ギルドが負担して作成。厨房付き屋台は、飲食店側にレンタルさせて、毎年作成費を徴収。テーブルなども毎年使うので、投資額は最初の年に負担するが、これも入場券で毎年徴収する方向で、結果的にそこまで負担しなくても良くなる。
王都でもこの様な取り組みはない事から来年以降は、物珍しさに各主要都市や王都から人が見に来るのではないか。すると街全体が活気づくため、ナルキーソにとっても全体的に収益が増えると考えられる。しかも、ナルキーソは海に隣接する地域、国外との貿易も盛んな上、魚介類も豊富に捕れる。鮮度の良い肉や魚料理が振舞えると言う事だ。
加えて、テーブルや椅子、厨房付き屋台等の制作で、大工職人や家具職人、鍛冶師たちにも仕事が増えて、漁師たちも魚介類の収穫量を増やさなくてはならないが、その分給金も増える。
成功し、継続できればかなり良い政策と言えるだろう。成功と継続が必須ではあるが・・・。
それを成功させるためにも、関係者たちの協力は絶対条件なので、彼女たちだけで話をしていては、空想論や夢物語で終わってしまう。
時間的猶予は、生誕祭まで後二月程。生誕祭に、これだけの規模をして、新年祭をどうするのかも考えなくてはならないので、時間的猶予はかなり厳しいと言わざる負えない。
取り敢えず、商業ギルドに赴き先の話を具体的に話し合わなければならない。
超多忙のスケジュール予感がしてきたレオンハルトは、苦笑いをしながら、新メニューの開発どうしようかと悩む一日だった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今年の投稿も残すところ4回~5回となりました。
精一杯頑張りますので、是非お付き合いください。