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058 実力の差と果たせぬ約束

おはようございます。

無事、海外から戻ってまいりました。


海外の国内線が遅れて、危うく国際線に乗れなくなるところでしたが・・・^^;

 ガバリアマルス王国が滅びる少し前。まだ勇者ナオヒトと勇者ショウタが全力で、戦闘を行っていた時の話になる。


 勇者の中でも限られた者しか使用できない『神衣(かむい)(まと)い』と言う極意の一つ。大幅な身体能力の強化だけでなく、感覚や魔力と言ったことまで全てを上昇させる。その極意を二人の勇者が使用していた。


 聖剣フロッティと聖魔剣ルインをそれぞれ右手と左手に持ち、怒涛の連続攻撃を繰り出す勇者ショウタ。ナオヒトは、先程魔龍帝ヴァルグドレッドの攻撃で吹き飛ばされ、地面に倒れている。


 上段から下段へ、右から左、右上から左下と・・・様々な角度からの連続斬りに魔龍帝ヴァルグドレッドは、全て受け流し、鋭利な竜爪で反撃を繰り出す。


 勇者ショウタも果敢に攻めたが、全てを防がれた事で、一瞬戸惑いを見せる。その瞬間を狙っていたかのように鋭い攻撃が勇者ショウタを襲った。


 胸が熱くなり始め、それと同時に激しい痛みが襲う。叫びたくなる気持ちを抑え、睨みつける様に顔を向ける。


 鎖骨から約十センチメートルの三本の斬り傷が出来ていた。滲み出てくる血を後に、勇者ショウタは、次の攻撃のモーションに移る。双剣による連続攻撃。勇者ショウタが連続斬りを開始したタイミングで、勇者ナオヒトも背後から攻撃に参戦。


「うおおおおおおお」


「せええええええええい」


 連続斬りからの溜めの一撃。両者とも一歩も引かずに果敢に攻める甲斐あってか、魔龍帝ヴァルグドレッドも幾つもの切り傷が竜鱗に付けられていた。


「小童ッ!!調子ニ乗ルナ」


 尻尾で今度はショウタを吹き飛ばす。薙ぎ払われた事で、数本の肋骨の骨が折れる感覚を体験しながら地面に身体を思いきり打ち付けながら転がる。


 体力や精神力、おまけに魔力も底を尽き掛けている。加えて『神衣(かむい)(まと)い』を初めて使用した勇者二人は既に肉体的、精神的な限界は当の昔に過ぎている。


「くっそッ!!舐めるな―『クロスセイバー』」


 勇者ナオヒトは、聖剣クリスタルライザーと聖剣シャインハートの二本の剣の効果を利用した二連撃を繰り出す。左右の上段から反対側の下段に掛けて斬る。攻撃が通ると錯覚する絶妙なタイミングで、横やりが入る。


 勇者ナオヒトの足を魔龍帝ヴァルグドレッドとの戦闘中に斬り伏せたリザードマンが、最後の悪足搔きにと足首を掴んできたのだ。


 ッ!!


 驚くのも無理はない。完全に死骸だと判断していた者が、急に足首を掴んできたのだ。何が起こったのか認識するまでの時間とタイミングをずらす時間にしては御の字のタイミング。


 二連撃はそのまま空を切り裂く。


「フム。ゴ苦労・・・イイ加減目障リダ」


 手刀が、勇者ナオヒトの腹部を貫く。そのまま貫通して背中から竜の手が生えている様な異様な状態。ナオヒトは、腹部に激しい痛みを感じ、口から(おびただ)しい量の吐血をした。衝撃なのか痛みなのか分からないが、聖剣クリスタルライザーを落としてしまう。


「―――――――ッ!!!」


 何が起こったのか理解していなかったナオヒトだったが、自分の腹部に目を向けると、魔龍帝ヴァルグドレッドの右腕が思いっ切り腹部にめり込んでいる・・・と言うより貫通している。ナオヒトは、その直後意識を手放しそうな程の痛みに襲われ、身に付けていた極意『神衣(かむい)(まと)い』を強制解除させられた。


 激痛で表情が歪むナオヒトの異変に気が付いたショウタは、聖剣フロッティの剣先を魔龍帝ヴァルグドレッドに向ける。


「全てを吹き飛ばせ『暴風旋』」


 風属性の力を宿す聖剣フロッティ。剣先から竜巻の様に渦を巻いた風が、魔龍帝ヴァルグドレッドを襲う。


 もう片方に持つ光魔剣ルインに本来の力を宿らせる。光属性の真骨頂は風同様に高速の攻撃と遠距離の攻撃に多彩さを持っている。


 光り輝く魔剣を突きの構えで、待つ。先に使用した『暴風旋』で出来た風のトンネルを、魔龍帝ヴァルグドレッドに直撃した瞬間。超加速をして一点突破の刺突を繰り出す。


 肉体にかかる負担が大きく、身体の節々からギシギシを鳴り、痛みを伴っていた。


「セイッ」


 勇者ショウタが身に付けた突進系の刺突技『ノア・ラッシュ』。ガバリアマルス王国で最も有名なハインケル流の上級技。勇者ショウタは、元々このガバリアマルス王国へ転移させられた勇者で、前の世界で習得していた妙院(みょういん)流と言う流派を身に付けていた。


 転移者として呼ばれた時は、騎士団と渡り合えるだけの実力を持っていたが、戦闘を繰り返すうちに他の流派も取り入れていったのだ。既に習得した流派に別の流派を覚えるのは、前の流派の動きを阻害したり、同門から野次が飛ぶ事もあるが、この世界に同門は今の所いない。


 同じ様に転移者としてきた者が同門と言う可能性もあるが、彼が身に付け始めた頃は見た事も聞いた事もなかった。それに何故ハインケル流を身に付けたかと言うと、妙院流は柔の技に対し、ハインケル流は剛の技。大型の魔物相手に決定打が少なすぎたのが原因だ。


 とは言っても、魔龍帝ヴァルグドレッド戦においては、妙院流の技は殆ど使用していない。そこら辺にいるリザードマン相手になら問題なく通じるが、魔龍帝ヴァルグドレッド相手では突破されかねないからだ。まあ相性の問題とも言える。これが別の相性の良い十二魔将の誰かであれば、妙院流の技を惜しみなく使い、半分近くの技はそのままダメージを与えれていた可能性もある。


 『ノア・ラッシュ』は、そのまま魔龍帝ヴァルグドレッドの左腹部を背部から貫く事に成功する。その一撃は、彼らにとって初めと言えるダメージらしいダメージだ。


 勇者ナオヒトを貫いた手刀を引き抜くと、彼はそのまま地面に倒れ、再び吐血する。身体をねじり背部にいるもう一人の勇者を払う。


 聖魔剣ルインを掴んでいた勇者ショウタは、その急な振り返りに身体を持って行かれ、途中で光魔剣ルインから手を放してしまった。


 地面を転がるショウタを追うヴァルグドレッド。転がり途中で姿勢を起こし立て直そうとすると目の前に詰め寄られており、その手には何処には何処に隠し持っていたのか分からない歪な竜の顔を模して造られた蛇矛の様な物を手にしていた。


 次の瞬間、視界がグルグルと宙を回転する。時折、見える自分の身体を見て、漸く自分の首が跳ね飛ばされたのだと理解する。それと同時に、この世界に転移した時、神ヴァーリと神テュールに約束した内容・・・「必ず、この世界を守って見せます」と誓った言葉。それを守れなかった事に対する謝罪を胸に秘め、やがてその意識や思いも何処か彼方へと消えていった。


 首が無くなったショウタの肉体は、そのまま地面に倒れる。握られた聖剣は、意思を持っている様にショウタの手からすり抜け、宙を舞い。そして、輝く光となって何処かへ飛び去ってしまった。勇者ショウタと勇者ナオヒトは、戦いの前に自分自身が敗れて命を失った場合、聖剣にある事をしていた。次の所有者を見つけると言う物で、聖剣クラスになると武器自体が持ち主を選ぶ事がある。


 勇者タスクの持っていた聖剣クリスタルライザーは、それをする前に命を落としてしまったので、その場に残されたままになったのだ。聖剣は強力な武器故、魔族が力の源として奪うことも十分あり得るし、聖剣があるとないでは、国の沽券にもかかわる。元々ない国は良いが、保有していた国が奪われる事があれば、かなり他国にきつく言われるのだ。


 まあ、一種のブランドみたいなものだろう。


「―――し、しょー・・ぅた・・」


 辛うじてまだ生きていた勇者ナオヒトは、共に戦い、共に笑った友の一人が、またしてもこの世を去ってしまった事に悲しみ、涙を流す。自分自身も腹部に穴を開けられ、激痛に襲われているのにも拘らず、その痛みを感じていない風に左手を前に伸ばす。


 伸ばす手の先には、勇者ショウタの亡骸がある。悲しみだけではなく後悔も合わせて彼を襲い、伸ばした手で握り拳を作り地面を叩く。


 勇者タスクの時もそうだ。自分に力が足りなかったから、友人となった彼を救えなかった。そして、今回も己の命を使って戦っても尚、大切な友人を守れなかった。


「ゆ、許さないッ」


 喪失していた戦意が再び業火の様に燃え上がる。地面に転がる二本の聖剣を拾い無理やり立ち上がる。流し過ぎた血や『神衣(かむい)(まと)い』で、殆ど力が出せない状態だが、それでも戦わずして負けるのだけは許されない。先に逝った友人たちに合わせる顔が無いからだ。


「マダ立チ上ガレルノカ?ウム、賞賛ニ値スルナ」


 異質な雰囲気を纏わせる蛇矛を構える魔龍帝ヴァルグドレッド。対する勇者ナオヒトも二本の聖剣を構えるが・・・構えが時々覚束ない。


 刹那の時・・・周囲には残された兵士や騎士の悲鳴と言う名前の断末魔が聞こえるが、すでに勇者ナオヒトの耳には入っていない。


 合図も何もなく。二人はその瞬間が来た時、一気に詰め寄り互いの武器を振るった。


 技でも何でもない単調な突進による斬撃二連。


 しかし、切り裂く事が出来たのは魔龍帝ヴァルグドレッドの頬に傷を入れるだけだった。対する自分は、心臓部分を貫かれており、その場で膝をついて倒れた。


 その後は、ガバリアマルス王国が崩壊した時の通り、首を跳ね飛ばされてしまうが、彼の場合は首を跳ね飛ばされる前に既に息を引き取っていた。


(シャインハート・・クリスタルライザー、今までありがとう―――。ヴァーリ様、テュール様・・・それと、教皇様―――すみません)


 消えゆく意識となったナオヒトは、飛び去る二本の聖剣を見送り、そして転移させてくれて神と鍛えてくれた神、支えてくれた者たちに謝罪する。


 勇者ナオヒトは、ガバリアマルス王国ではない、別の国に転移した勇者だ。勇者と言う責務上、他の勇者とも親交があり、この魔族との戦争にも国の代表として参加していた。


 因みに亡くなった勇者タスクもまた、皆とは違う国に転移させられた一人だ。











 別次元にあるその空間では、慌ただしく働く者たちで溢れかえっていた。


「ヴァ、ヴァーリ様ッ!!TH74,FLLS-2A-SGS003の勇者三名が、戦死しましたッ!!」


TH74,FLLS-2A-SGS003とは、レオンハルトたちのいるアルゴリオト星の事だ。報告した女性、前回アルゴリオト星の魔王復活の知らせをしたレリエムだった。彼女は、毎回アルゴリオト星を監視しているかと言うとそう言うわけではない。


 それぞれ与えられた星、数千近く管理しなければならないのだが、今回は前回魔王が復活したと言う事もあり念入りに監視対象としていた。


「何だとッ!!あそこは確か・・・魔王が復活してそう時が経っていないはず?」


 実際に魔王が復活したタイミングよりも前に勇者たちを召喚させたので、魔王よりも実戦経験はあったはずだ。魔王復活の兆候が、あると知らされ準備をして討伐に向かわせた。しかし、それが既に遅かったのかと頭を悩ませる。


「それに彼らが行った世界ではないか?」


 そして、もう一つ最近の出来事を思い出した。実際に魔王が復活していた報告を受けて追加の勇者召喚を行おうとした際に些細なミスがきっかけで、罪もない人を死なせてしまった件だ。


「・・・はい。伏見(ふしみ)優雨(ゆう)窪塚(くぼづか)琴莉(ことり)、――――が行った先です」


 勇者候補者の増援を送る必要も検討に入れる神ヴァーリ。亡くなった勇者三名を見て悲しみの表情を浮かべた。


(たすく)祥太(しょうた)直人(なおひと)皆、これまでよく戦ってくれた。後はゆっくり休んでくれ)


 送り出した時に少しばかり会話をした事がある三人の勇者。その三人が命を落としたのだ。後の一人は、それからしばらくたって追加で送った勇者なので、実力は三人の方が上であり、追加の一人は実は面識がない。直接、テュールに頼んで説明してもらい、そのまま転移させた。


 当時の事を思い出すが、今はあまり感傷に浸っている場合ではない。現在あの星に勇者は一人。勇者の血筋は多くいるが、実戦が出来る程のものはそう多くはないのだ。新しい候補者を選抜して送り出す必要があると判断し候補者リストを眺め、目ぼしい者たちに印をつけた。その時、彼の座っていた席のモニターが開く。


「此方アレス・・・ヴァーリ殿、聞こえるか?」


 モニターの画面には神話世界が違うが、軍神と名高い神アレスの姿が映る。彼もまたテュール同様に勇者候補生を育成している。少し違うとすれば、テュールは純粋な人間の魂を再構築して新しい生命体として育てるのに対し、アレスは神と人との間に生まれた半神の育成を主としているのだ。


 アレスはギリシャ神話に登場する神で、ヴァーリは北欧神話に登場する。同じ神でそれぞれ別の名前がある神も中には居るが、この世界ではそれぞれに存在している。


「此方ヴァーリじゃ。どうかしたのか?」


「おお。通信は問題ないようだな。此方は現在、邪神に手の者たちに襲われていてな。如何にか持ちこたえてはいるが、援軍を回してくれぬか?」


 向こうの映像は此方には入っているようだが、向こうには映像が届いていない様子。緊迫した声で話しかけてくると言う事は、かなりの所まで攻め込まれていると言う事だろう。


 同神話の全知全能の天空神ゼウスや海の守護神ポセイドン、太陽神アポロンたちに助けを求めた方が良いはずが、それをしないと言う事は、出来ない理由があるのか。若しくは通信障害か何かで連絡が取れない。最悪の場合だと各神々が、邪神たちの襲撃を受けている。


 此方も回せる人員があまり居ない現状で、人員を割くのはかなり危険。しかし、このままでは、神アレスを失い。邪神たちの勢いは増すばかり。


「・・・・・わかった。直ぐに手配しよう」


 暫く考えた末、援軍を出す事にした。


「ッ!!ヴァーリ様それでは、あの星はどうするのですか?」


 そう。アルゴリオト星に回そうと思っていた勇者候補者を神アレスの援軍に向かわせる。それはつまり、アルゴリオト星への増援は暫くできないと言う事だ。


「あの星には、彼らがいる。あまり負担を掛けたくはなかったが、此処は致し方あるまい」


 神の恩恵を受け、勇者たちとは異なる力を保有する彼らの働きに期待する事にした。それに彼らには、アレが付いている事でもある。いざと言う時はアレが力を貸すと踏んでの決断だ。


「・・・じゃが、あの星に住んでいる者が力を貸してくれるよう神託でもしておくか」


 今日も慌ただしく動き回るヴァーリたち神であった。


今回は、普段の半分程度の執筆量で申し訳ありません。

来週からは、今まで通り一万文字程度で投稿します。


これからも暇な時に読んでやってください。

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